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日本の法律 ウィキペディアから
特定秘密の保護に関する法律(とくていひみつのほごにかんするほうりつ、平成25年12月13日法律第108号)は、日本の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものを「特定秘密」として指定し、取扱者の適性評価の実施や漏えいした場合の罰則に関する法律[1]で、刑法[2]に対する特別法である。通称は特定秘密保護法、秘密保護法[3]、特定秘密法[4]、秘密法などとも呼ばれる[5]。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
英語:Specially Designated Secrets Act 略称SDS Act[注釈 1]。
2013年(平成25年)10月25日、第96代内閣総理大臣安倍晋三率いる第2次安倍内閣が閣議決定をして第185臨時国会に提出し[7][8][9]、同年12月6日に成立し[10][11]、同年12月13日に公布され[12]、2014年(平成26年)12月10日に施行した[13]。
この法律は、日本の安全保障に関する事項のうち特に秘匿を要するものについての行政機関における「特定秘密の指定」、特定秘密の取扱いの業務を行う者に対する「適性評価の実施」、「特定秘密の提供」が可能な場合の規定、「特定秘密の漏えい等に対する罰則」等について定め、それによりその漏えいの防止を図り、「国及び国民の安全の確保に資する」趣旨であるとされる[1][14]。
「特定秘密として指定できる情報」および「特定秘密の有効期間(上限5年で更新可能)」を規定する。
特定秘密の取扱いの業務を行うことができる者は、「適性評価により特定秘密を漏らすおそれがないと認められた職員等」に限定される。
どのような場合に特定秘密を提供できるかを規定。
上記のほか、行政機関の長は、次の場合に特定秘密を提供することができる。
(漏えい行為への処罰)
(取得行為への処罰)
(共謀、教唆、煽動)
(減軽)
(国外犯)
パブリックコメントでは「その他」として「本法を拡張解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならない」と規定していた。
国会提出された案では「取材の自由に十分に配慮しなければならない」という文言が追加されている[15]。
この法律の適用解釈として第22条1項を規定し、また報道の自由との関係から第22条2項を規定し、取材行為は原則として違法性が阻却されることとした。
施行後5年までに特定秘密を保有したことのない行政機関は、請求により政令で定められた場合を除いて、特定秘密を指定できなくする規定(附則第3条)が設けられた。また、これまで自衛隊法に基づいて指定されていた防衛秘密は特定秘密とみなされ(附則6条)、防衛秘密に関する規定は削除された(附則5条)。
2024年(令和6年)2月27日、改正案が提出、同日閣議決定された。[16]5月10日参院本会議(岸田内閣、第213回国会)にて可決成立。
公益通報者保護法との関係について、主に3つの観点からの議論がある[17]。
第一に、政府による違法行為などに関する事実について通報する者が、保護されるのかという点。森まさこ国務大臣の答弁によると、政府による違法行為などは特定秘密にならない[注釈 4]。
第二に、通報対象事実に当たる情報が特定秘密に指定されることがあるのか、その場合、当該事実を通報する者は保護されるのかという点。政府参考人の答弁によると、通報対象事実に当たる情報が特定秘密に指定される可能性がある。その場合でも、当該事実の通報者は、公益通報者保護法の適用を受ける。
第三に、特定秘密保護法に規定する特定秘密漏えい罪等の犯罪行為の事実について、当該事実を通報する者は保護されるのかという点。保護されるための前提として、公益通報者保護法に基づく通報対象事実の対象に、特定秘密保護法を加える必要があり、公益通報者保護法の別表の規定に基づく政令を改正する必要がある。
2010年(平成22年)9月に尖閣諸島沖で起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件において、海上保安官(当時)の一色正春が船上で撮影した映像を、民主党・菅政権の了承を得ないまま同年11月4日にインターネットで公開した。この映像公開を琉球新報・読売新聞・産経新聞・日本経済新聞などは肯定的に評したものの[19]、朝日新聞・毎日新聞・北海道新聞・東京新聞・中日新聞・沖縄タイムス・北國新聞など様々な報道機関からこの映像公開に対し『仮に非公開の方針に批判的な捜査機関の何者かが流出させたのだとしたら、政府や国会の意思に反する行為であり、許されない』(朝日新聞)、『流出の裏に、日中関係の修復に水を差そうとする意図があったのだろうか。ゆゆしき問題である』(北海道新聞)、『国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた「倒閣運動」でもある』(毎日新聞)、など否定的な声が上がり、日本政府の外交機密・情報・危機などの管理体制や法整備の甘さが指摘された[19]。
菅直人内閣総理大臣は公開翌日の2010年(平成22年)11月5日午前の閣僚懇談会で、馬淵澄夫国土交通大臣に「情報管理の徹底と、事実関係の確認をするように」と述べ、流出の経緯などについて調査し、原因究明を図るよう指示した[20]。また、同日夜には首相官邸で記者団に対し、「国の情報管理がしっかりとした形になっていないことに危機感を強く覚えた」と述べた[21]。この映像公開事件を受け、内閣官房長官・仙谷由人は同年11月8日の衆議院予算委員会で「国家公務員法の守秘義務違反の罰則は軽く、抑止力が十分ではない。秘密保全に関する法制の在り方について早急に検討したい」と述べ、秘密保護法の制定に前向きな姿勢を示し、検討委員会を早期に立ち上げる考えを示した[22][23]。その後、2011年(平成23年)8月に有識者会議が「秘密保全法制を早急に整備すべきである」とする報告書をまとめ、民主党政権が国会提出を目指していた[22]。
第2次安倍内閣は、2013年(平成25年)8月27日に、同法案の概要を自民党「インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチーム」(座長町村信孝[24])に提示し、パブリックコメントについて了承を得た[25][26][27][28]。
内閣官房では、2013年(平成25年)9月3日から9月17日までの15日間、パブリックコメント「特定秘密の保護に関する法律案の概要」を受け付けた。これは内閣官房内閣情報調査室による任意の意見募集であった[29]。パブリックコメントは誰でも何回でもコメントを提出可能。募集の結果は同年10月4日に公開された。意見件数90,480件。内訳は、意見提出フォーム・電子メール88,603件、郵送484件、FAX1,393件。意見内容は、賛成側の意見が11,632件、反対側の意見が69,579件、その他の意見が9,269件[30]。
自民党は特定秘密保護法案の閣議決定に先立ち、国家安全保障会議(日本版NSC)創設の為の法案を第185回国会に提出、2013年(平成25年)10月25日に衆議院本会議で審議入りした[31]。10月25日、政府は「特定秘密保護法案」を閣議決定[32][33]。同日夜の記者会見で、内閣官房長官の菅義偉は、今国会で成立を目指すと述べた[34]。
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2013年(平成25年)11月7日から衆議院で審議に入った。民主党が11月19日に対案を提出[35]。与党は日本維新の会、みんなの党と修正協議し、最終的に合意[36][37]。11月26日に自民・公明・みんなの賛成多数で可決し(4名が造反[38]、維新は採決欠席)、衆議院で可決。翌27日に参議院で審議入り。12月5日、参院国家安全保障に関する特別委員会において、与党が質疑を打ち切って採決。与党の賛成多数で可決された。なお、可決されたのかどうかを疑問視する記事も存在する[39]。民主党は同日、「厚生労働委員長の解任決議案」「厚生労働大臣の問責決議案」「特別委員長の問責決議案」を提出[40]、翌6日に内閣不信任決議案を提出して法案の成立を遅らせようと対抗したが、6日夜、参議院本会議で与党の賛成多数で可決され、成立した[41]。なお、秘密保護法案を審議中の参院本会議議場に靴が投げ込まれる事件が発生している[42]。審議時間は衆院で約46時間、参院で22時間の合計約68時間であり、過去の重要法案の審議時間と比較して短かった[43]。
2015年(平成27年)11月18日に東京地裁で、フリージャーナリストや編集者ら42人が国を相手に法律の無効確認と損害賠償を求めた訴訟が行われた[44]。 原告は「特定秘密保護法は表現や報道の自由を侵害し憲法違反」「秘密指定で行政機関への取材が難しくなり、取材や報道自体が萎縮する」と主張したが、谷口豊裁判長は「取材活動が制約されたとは認められない」「原告らの利益を侵害していない」として原告敗訴の判決を言い渡した。 さらに無効確認を求める訴えは「具体的な被害がなく抽象的だ」として審理せずに却下した。
1954年(昭和29年)の日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(通称「MSA秘密保護法」)では、「特別防衛秘密」について保護上必要な措置を講じることに加えて「特別防衛秘密を探知や収集をした者」および「特別防衛秘密を他人に漏らした者」に対しての刑事罰が規定されている。
その後も、浸透工作や世論誘導をはじめ外国による諜報活動・間接侵略(シャープパワー)が明らかとなったレフチェンコ事件などもあり、1985年(昭和60年)には、国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案 (通称「スパイ防止法」[45])が第102回国会で議員立法として提出されたが、第103回国会で審議未了で廃案となった。冷戦終結後にはミトロヒン文書が公開され、そこには国際的な諜報活動とともに対日有害活動の詳細も記されていた。また、日経新聞記者北朝鮮拘束事件の際にも、日本の公的機関からの情報漏洩が明らかとなっている。
2011年(平成23年)にも、国家秘密の管理体制強化を目指す「秘密保全法」が検討されたが、この時は法案の国会提出は見送られており[46]、また内閣法制局から「法の必要性(立法事実)が弱い」と指摘されていた[47]。
2014年(平成26年)10月6日衆議院予算委員会で、首相の安倍晋三は、集団的自衛権に関し、行使の条件となる武力行使の新三要件に達したとの判断に至った根拠となる情報が、特定秘密保護法に基づく特定秘密に指定され、政府の監視機関に提供されない可能性があるとの考えを示した。内閣府に設置予定の特定秘密の監視機関「独立公文書管理監」に対して「十分な検証に必要な権限を付与することを検討している」と述べたが、各行政機関の長が管理監に、特定秘密に指定されていることを理由に情報提供を拒むことも可能と説明した。その場合「管理監に理由を説明しなければならないことを運用基準に明記することを検討している。管理監に提供されない場合は極めて限られる」と述べた[48]。
2013年(平成25年)9月、会計検査院は本法が成立すれば秘密指定書類が会計検査に提出されないおそれがあるとし、憲法の規定上の問題を内閣官房に指摘して条文の修正を求めたが、幹部同士の話し合いを経て条文の修正をしない代わりに内閣官房が各省庁に通達することで合意し本法は成立した[49]。日本国憲法第90条は会計検査院の憲法上の権限として「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し」と定めている。
その後、会計検査院が特定秘密保護法で秘密指定された書類を取り扱う可能性がある職員の身辺を調べる「適性確認」を2015年(平成27年)から独自に実施していることが報じられ、プライバシー侵害の懸念がある調査が法的根拠がないまま実施されるという法制定段階では想定していなかった制度の不備が指摘された[50]。
2015年(平成27年)12月25日、内閣官房は会計検査院から要請があった場合は、秘密指定を受けた書類を提供するよう求める通達を出した[51]。
2016年(平成28年)2月10日の衆議院予算委員会で衆議院議員の階猛は、特定秘密保護法10条1項(行政機関への特定秘密の提供の拒否を定める規定)が会計検査院にも適用されるのか質問したのに対し、首相の安倍晋三は「かからないことではない」と適用対象であり会計検査院に対しても法律上拒否可能であるとの考えを示した上で、実務上は提供を拒否することはないとの見解を示し、法務大臣の岩城光英も「第10条1項は検査院にも適用される」と説明し、内閣官房の通達を踏まえ「秘密事項の提供の取り扱いは何ら変更はない」と実務上では提供を拒まないものと説明した[52]。
情報監視審査会は、「行政における特定秘密の保護に関する制度の運用を常時監視するため特定秘密の指定・解除及び適性評価の実施状況について調査を行うとともに、委員会等が行った特定秘密の提出要求に行政機関の長が応じなかった場合に、その判断の適否等について審査を行う機関で」あり、施行日に衆議院及び参議院にそれぞれ設置され、2015年(平成27年)2月26日に委員が選任されて以降、行政機関から説明を聴取したり、内閣衛星情報センターに委員を派遣するなど活動を行った[53]。
情報監視審査会は、特定秘密や不開示情報の提供を受けることができる一方で、会議や会議録は原則非公開となっているが、2016年(平成28年)3月30日には各議院の議長に「平成27年年次報告書」[54][55] を提出した。同年4月1日には衆議院本会議で衆議院情報監視審査会会長が、同年4月6日には参議院本会議で参議院情報監視審査会会長が、それぞれ報告書の概要を説明した。
提出された「平成27年年次報告書」では、特定秘密の名称について内容を表す具体的な名称とするよう求めたほか、これまで及び今後1年以内に廃棄する特定秘密を報告するよう求めた[56][57]。
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