オートメイテッドマニュアルトランスミッション

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オートメイテッドマニュアルトランスミッション

オートメイテッドマニュアルトランスミッション[1]英語: automated manual transmission、略称: AMT)は、モータービークル用のトランスミッションの一種である。自動化マニュアルトランスミッション[2]機械式AT[3]自動MT[4]、(デュアルクラッチトランスミッションとの対比で)シングルクラッチ式AT[5]とも呼ばれる。本質的には従来型のマニュアルトランスミッションであるが[6][7][8][9][10]クラッチあるいはクラッチとギアのシフトの両方の操作が自動化されている。クラッチ操作のみが自動化されている場合はセミオートマチックトランスミッション(半自動変速機)に、両方が自動化されている場合はフルオートマチックトランスミッション(全自動変速機)に分類される。

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2000年代中頃のBMW・SMG-IIIシフター。シフターの下にシフト速度を選択するためのボタンが配置されている。

多くの初期のAMT(クラッチのみが自動的に制御されていたオートスティック英語版など)は動作がセミオートマチックであった。クラッチの動作は電気機械式英語版、油圧式、空気圧式、負圧式など様々な形式があった[11][12]。いずれも、ギア変更を開始するためには運転手が手動で入力する必要があった。手動変速操作を必要とするこれらのシステムはクラッチレスマニュアルシステムとも呼ばれた[13]。「セレスピード」や「イージートロニック」といった動作がフルオートマチックである現代的なAMTはECUを用いてクラッチ操作とギアシフトの両方を自動的に制御できる。したがって、手動での介入あるいは運転手の入力を必要としない[14][15]

従来型の油圧制御式オートマチックトランスミッションのよりスポーツ風の代替機構として、1990年代中頃に乗用車における現代的なコンピュータ制御式AMTの使用が増加した。2010年代には、乗用車では次第にデュアルクラッチトランスミッション(DCT)にその役割を譲っていったが、ヨーロッパや一部の途上国市場、特にインド[16]での小型車ではまだ人気がある。

設計と動作

要約
視点

AMTには動作がセミオートマチック(半自動)のものとフルオートマチック(全自動)のものがある。クラッチやギアシフト制御は、油圧あるいは電気油圧英語版[17][18]電気機械[19]空気圧[11][20][21]電磁[22][23][24]電動機を使った純粋に電気的なものがある。

フルオートマチックでは、ギアシフト、クラッチ動作、シフトタイミング、回転数マッチングが全て、電子センサ、コンピュータ、およびアクチュエータを介した自動化制御下に置かれている[19][25]。ギアを自分で選択したい時は、運転手はシフトレバーを使って望むギアを選択するが、TCUあるいはマイクロプロセッサに接続した電子センサおよびアクチュエータが自動的にクラッチとスロットルを操作し、回転数を合わせてクラッチを再締結する。駆動輪へのトルクをパワーの伝達も電子的に制御される。ほとんどの現代的なAMTはシーケンシャルモード(ギアを1段ずつしか移動できない)で機能する。しかしながら、全てがこれに当てはまるわけではない。例えばBMWの「SMG」およびフェラーリの「F1」トランスミッションはステアリングホイールに取り付けられたパドルシフターを介して手動でギアを選択すると、ギアの段をとばすことができる。旧式(ほとんどは1990年代以前)のクラッチレスマニュアルトランスミッションはHパターンのシフターとシフトゲートを引き継いでおり、運転手が手動で必要なギア比を選択する必要がある。しかしながら、クラッチはサーボ制御装置であり、クラッチを自動的に制御する様々なアクチュエータ、セレノイド、およびセンサに接続されている[26]

クラッチを自動化する別の手段として「クラッチ・バイ・ワイヤ」システムがある。このシステムは一般的に(機械式クラッチ連結あるいは油圧クラッチ結合の代わりに)電動アクチュエータと電子センサを使用してクラッチの位置を監視ならびに制御する[27][28][29]。機械式クラッチとペダル間の油圧連結は単一の電気機械アクチュエータによって完全に置き換えられる。

一部(ほとんどの現代的な)AMTは適切な時点で(オートマチックトランスミッションのように)自動的にギアをシフトするのに対して、伝統的なセミオートマチックおよびクラッチレスマニュアルはクラッチ動作のみが自動化されているため、運転手が手動でギアを選択する必要がある[30]。表面的な類似性にもかかわらず、AMTはいわゆるマニュマチック(マニュアルモード付オートマチックトランスミッション)とは内部動作と運転手の「感覚」に大きな違いがある。後者は基本的にAMTにおけるクラッチの代わりにトルクコンバータを使用する通常のオートマチックトランスミッションであり、オートマチックトランスミッションのコンピュータ制御に優先して、手動でシフトを作動する機能を持っている[31]

機能拡張型のAMTは(シフトレバー付きの)正規のマニュアルトランスミッションとしても機能できるが、統合型のAMTは「通常」のシフトレイアウトを必要としないため、AMTに最適化されたシフトレイアウトで設計することができる。統合型AMTにはシフトドラムを持つものと、複数の単一アクチュエータを使用するものがある。シフトドラムでは1段ずつしかシフトできないが、1つのアクチュエータしか必要としないため、システムがかなり安価である。対して、後者はシフティングスリーブ1つにつき1つのアクチュエータを必要とする。そのため、システムはより高価であるが、シフトはより速い。アクチュエータには電気油圧式(より高価だが、より速く、より高いトルクに耐えられ、後者の単一アクチュエータシステムに適している)もあれば、電気機械式(より安価だが、入力トルクは大抵最大250 N·mに制限される)もある。電気機械式のトルク制限の理由は、トルクがより高く、シフト時間が短くなるにつれて、クラッチ動作力が増大するためである。電気機械式アクチュエータは単なる電気モーターである。より大型のモーターは自身の質量慣性モーメントがより高いため動的性能が落ち(速いシフトには良くない)、自動車の12ボルト電気系にもより負荷を掛けてしまう。結果として、シフトが遅くて非常に大きな鉛バッテリーを積む(自動車には適さない)か、シフトが遅くてより小型のバッテリーを積む(許容トルクは250 N·m)かのいずれかとなる。

スズキの「AGS(オートギヤシフト)」やダンチア/ルノーの「Easy-R英語版」のような現代的AMTは大抵、特定のエンジン回転数とスロットル位置の両方またはいずれか一方に基づいてギアシフトを開始するために電子スロットル制御英語版と連動して動作する。

乗用車での使用

要約
視点
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2000-2006 BMW SMG-IIシフター

AMTの起源は、1940年代と1950年代に量産車に登場し始めた初期のクラッチレスマニュアルトランスミッションにある。クラッチレスマニュアルの初期の例は1942年にハドソン・コモドア英語版と共に導入され、「Drive-Master」と呼ばれた。この装置は初期のセミオートマチックトランスミッションであり、サーボ制御負圧作動式クラッチシステムを使用する従来型のマニュアルトランスミッションの設計に基づている。手動シフトおよび手動クラッチ操作(全手動)、自動化クラッチ操作付き手動シフト(半自動)、自動クラッチ操作付き自動変速(全自動)の3つの異なるギアシフトモードを備えており、ボタンで切り替えることができた[32][12][33]

また、1955年式シトロエン・DSは、セミオートマチックの4速BVHトランスミッションを使用した。このセミオートマチックトランスミッションは油圧を使って作動する自動化クラッチを使用した。ギア選択も油圧を使ったが、ギア比は運転手が手動で選択する必要があった。1956年式ルノー・ドーフィンの3速マニュアルトランスミッションはオプションで自動化電磁クラッチ「Ferlec」を選択可能であった[34][35]。その他のクラッチレスマニュアルトランスミッションとしては、1967年式NSU・Ro 80(3速Fichtel & Sachs)[26]や1967年式ポルシェ・911(4速Sportomatic)がある。どちらも負圧作動式クラッチと油圧トルクコンバータを使用していた。1968年式フォルクスワーゲン・タイプ1およびフォルクスワーゲン・カルマンギアは3速オートスティックトランスミッションが選択可能であった。オートスティックは電気-空気圧式負圧クラッチサーボを作動するため、ソレノイドと接続されたギアシフター上の電気スイッチを使用する[36][37]

1963年、ルノーは自動化クラッチから全自動の3速Jagerトランスミッションに切り替えた。Jagerトランスミッションはクラッチと変速の両方を操作する電気機械制御ユニットから構成された[38][39][40]。Jagerトランスミッションはダッシュボードに取り付けられた電子押しボタンを介して制御された[41]

いすゞ自動車の5速オートマチックトランスミッション「NAVi5」は1984年に中型セダンのいすゞ・アスカ(日本市場でのみ販売)に導入された。このトランスミッションは、元々トラック向けに設計されたものであり、マニュアルトランスミッションを基にして、ギアシフターとクラッチのために油圧アクチュエータを追加したものであった。初期のNAVi5はギア比の直接的な選択はできず、高段ギアの排除のみが可能であった。後の改良版ではマニュアルモードが追加され、運転手がギア選択を制御することが可能になった。

フィアットS.p.A.英語版傘下の複数の企業はAMTの発展に影響を与えた。AMTへのフェラーリの関与は1989年に始まり、F1カーのフェラーリ・640では7速セミオートマチック「パドル-シフト」トランスミッションが使われた。1992年、フェラーリ・モンディアルtはオプションとして5速「Valeo」セミオートマチックトランスミッションを導入した[42]。このトランスミッションはクラッチを自動的に操作するために電気機械式アクチュエータを使用し[43]、ギアシフト機構は通常のトランスミッションのように操作される標準的なHパターンシフターであった[44]。1997年、フェラーリ・F355で6速「F1」トランスミッションが利用可能になった。これはステアリングホイールの後ろに位置するパドルシフターを使うか、あるいはフルオートマチックモードで走行できた[45]。F355の後継車種でも、2009年にフェラーリ・458でデュアルクラッチトランスミッションに切り替わるまで、同様のトランスミッションが提供された[46]

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フェラーリ・F430のパドルシフター付きF1ステアリングホイール

姉妹会社のアルファロメオは1999年に、関連する5速「セレスピード」オートマチックトランスミッションをアルファロメオ・156で導入した[47][48]。その後、マセラティが2001年に関連する6速「Combiocorsa」オートマチックトランスミッションをマセラティ・クーペで導入した[49]。セレスピードはフィアット・プントスティーロでも使われた。

BMWのAMTへの関与は1993年に始まり、(E31 850Csiを基にした)アルピナ・B12クーペで6速「Shift-tronic」セミオートマチックトランスミッションが提供された[50][51]。自動化クラッチと標準的なHパターンシフターを使用するこのトランスミッションはLuK社ドイツ語版が供給し、40種類弱のモデルに搭載された[52]。1997年にBMW・E36 M3クーペに6速「SMG」オートマチックトランスミッションが導入され、BMWのためのAMTの量産は始まった[53]。「SMG」という名称は「シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス(英語: Sequential Manual Gearboxドイツ語: Sequentielles manuelles Getriebe)」の略称であったものの、トランスミッション内部は典型的な(シンクロメッシュを搭載した)マニュアルトランスミッションと同様であり、本当のシーケンシャルマニュアルトランスミッションではなかった。SMGは2000年にE46 M3でSMG-IIに置き換えられた[54]。BMWの(デュアルクラッチトランスミッションに置き換えられる前の)最後のAMTは2004-2010 BMW・E60 M5BMW・E63 M6で使われた7速SMG-IIIであった。SMG-IIIは最も積極的なモードでシフト時間65ミリ秒を達成した[55]

2002年から2007年、トヨタ・MR-Sでは6速「SMT」オートメイテッドマニュアルトランスミッションが利用可能であった。SMTシステムはクラッチと変速の両方に電気油圧作動システムを利用していたが、Hパターンシフターは使わなかった。代わりに、シフトレバーを前や後ろに動かすことで変速でき、またステアリングホイール上にシフトボタンを追加できた。

フォルクスワーゲングループ内のブランドはAMTではなくデュアルクラッチトランスミッションを典型的に使用してきたが、2004年式ランボルギーニ・ムルシエラゴ[56]ランボルギーニ・ガヤルド[57][58]では6速「E-gear」オートメイテッドマニュアルトランスミッションが導入された。E-gearはムルシエラゴとガヤルドの後継車種でも使われ、2007-2012年式アウディ・R8 (Type 42)英語版でも「R-tronic」トランスミッションという商標で利用可能であった[59][60][61]

使用

さらに見る 導入年, 製造会社 ...
導入年製造会社名称モデル
1996 アルファロメオ セレスピード 156147GT159ブレラスパイダー
2007 Q-Select 8Cコンペティツィオーネ/8Cスパイダー
2001 アストンマーチン SSM ヴァンキッシュ
2005 Sportshift ヴァンテージ(2005年)
2009 - One-77[62]
2020 - ヴァルキリー
1999 アウディ - A2
2006 アウディ R-Tronic R8 (Type 42)[63][64]
1997 BMW SMG E36 M3[65]
2000 SMG-II E46 M3E46 3シリーズE85 Z4E60 5シリーズE63 6シリーズ
2004 SMG-III E60 M5E63 M6[66]
2003 チェリー - QQ3
2009 - M1英語版
1955 シトロエン BVH DS[67]
1976 C-Matic CXGS[68]
2004 EGS C1C4
2003 Sensodrive C2C3
2011 - DS5
2016 - C6 (China)
2015 ダチア ダチア・Easy-R英語版 ロガンサンデロダスター
2017 ダラーラ - ストラダーレ
1993 フィアット セレスピード プントスティーログランデプント
1995 デュアロジック ブラーボイデアパリオプントシエナウーノパンダ500Lドブロリネア
1997 Citymatic セイチェント
2007 Comfort-Matic フィオリーノ
2018 GSR アルゴクロノスモビ
1988 フェラーリ Valeo モンディアルT
1994 F1 355 F1360575Mマラネロエンツォ612スカリエッティF430FXX599
2004 フォード・オブ・ヨーロッパ英語版 Durashift EST英語版 フュージョンフィエスタトランジット
2010 本田技研工業 i-SHIFT シビックジャズ
1942 ハドソン Drive-Master コモドア
1950 Supermatic コモドア[69][70]
2018 ヒョンデ Smart Auto AMT[71] i10オーラ英語版サントロ英語版
2020 iMT ヴェニュー[72]i20
1984 いすゞ NAVi5 アスカジェミニ
2020 キア iMT ソネット
2007 ラーダ (アフトヴァース) - プリオラ
2015 - エックスレイヴェスタ
2004 ランボルギーニ e-gear ムルシエラゴガヤルドレヴェントンセストエレメント
2011 ISR アヴェンタドールヴェネーノチェンテナリオシアンカウンタック LPI 800-4
2004 ランチア DFN ムーザイプシロン
2004 マクサス英語版 (LDV英語版) - マクサス・V80英語版マクサス・V90英語版
2010 レクサス ASG LFA
2015 マヒンドラ Autoshift TUV300
2019 - XUV300
2001 マセラティ Cambiocorsa クーペおよびスパイダーMC12
2003 DuoSelect マセラティ・クアトロポルテV
2007 MC-Shift グラントゥーリズモ
1997 メルセデス・ベンツ - Aクラス
2021 メルセデスAMG - One
2004 三菱 AllShift コルト
1967 NSU - Ro80
1999 パガーニ - ゾンダ
2011 - ウアイラ
2005 プジョー 2-Tronic 1071007
2014 ポラリス AutoDrive スリングショット
1967 ポルシェ Sportomatic 911[73][74]
2005 プロトン AMT サヴィ
1956 ルノー - ドーフィン
2001 Quickshift モデュストゥインゴ
2015 Easy-R クウィッドシンボルIIIトライバー英語版
1994 サーブ Sensonic 900 NG[75][76][77][78][9]
2012 セアト ASG Mii
2011 シュコダ ASG シティゴ
1998 スマート Softouch フォーツーフォーフォーロードスター
2013 スパニア英語版 - GTA・スパーノ
2004 SSCノースアメリカ - アルティメットエアロ
2020 - トゥアタラ
2014 スズキ AGS セレリオ
2017 AGS スイフトディザイアイグニス
2004 - スイフト
2014 - アルト
2008 タタ・モーターズ Easy Shift ナノ
2017 Hyprdrive SSG ネクソンティアゴティゴール
1999 トヨタ自動車 SMT MR-S
2005 MMT アイゴウアリスカローラカローラヴァーソマークXオーリス[79]
1965 VEBザクセンリンク Hycomat トラバント・601英語版
2004 オペル/ボクスホール イージートロニック コルサティグラメリーバアストラザフィーラベクトラアダム
1968 フォルクスワーゲン オートスティック タイプ1カルマンギア[80][81]
1998 - ルポ
2009 I-Motion ゴルヴォヤージュ
2011 ASG Upフォックス
2009 ゼンヴォ - ゼンヴォ・ST1
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セミトレーラートラック/トラクターでの使用

セミトレーラートラック英語版/トラクター:

ボルボ・I-Shift英語版
オートメイテッド・マニュアルトランスミッション。2001年に導入され、トラックとバスで使用。このシステムは従来型のノンシンクロメッシュマニュアルトランスミッション向けの拡張機能である[82]
ZF・ASトロニック英語版
オートメイテッドマニュアルトランスミッション。2003年に導入され、トラック、バス、長距離バスで使用。
イートン・オートシフト(AutoShift)
2000年代初めに大型トラック向けの従来型のノンシンクロメッシュマニュアルトランスミッションへの拡張機能として導入された[83]
マック・mDRIVEおよびmDRIVE HD
シンクロナイザー付きオートメイテッドマニュアルトランスミッション。2010年に導入され、マックのセミトラックで使用。
ルノー・Optidriver
オートメイテッドマニュアルトランスミッション。2004年に導入され、ルノーの重量級商用セミトラックで使用。
ダイムラー・トラックス・DT12
オートメイテッドマニュアルトランスミッション。2012年に導入され、セミトラックのフレイトライナー・カスカディア英語版や、商用セミトラック・クレーントラック・ダンプトラックのウェスタン・スター49Xラインで使用。
メルセデス・ベンツ・PowerShift
ノンシンクロオートメイテッドマニュアルトランスミッション。メルセデス・ベンツの大型セミトレーラートラックで使用。
UDトラックスESCOT
ノンシンクロおよびシンクロマニュアルトランスミッション向けの拡張機能。1995年に導入された。ESCOT-I、ESCOT-II、ESCOT-III、ESCOT-IV、ESCOT-V、ESCOT-VIの6つのバリエーションが作られた。UDトラックスの商用車で使用される[84][85]

出典

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