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音楽供給媒体の技術規格(一般的な音楽CD) ウィキペディアから
CD-DA(Compact Disc Digital Audio)は、コンパクトディスク(CD)に、音楽などの音声データ(デジタルデータ)を記録する規格である。
CD開発に伴って、1980年にフィリップスとソニーによって規格化され、1982年10月1日に世界初の商用ソフトとしてビリー・ジョエルのアルバム『ニューヨーク52番街』が発売された[1]。これは一般消費者向けの音楽供給媒体として実用化されたデジタルオーディオとしても世界初である。なお、単に「CD」と言う場合、その殆どはこの項目で説明するCD-DAの規格に沿った光ディスク、またその光ディスクを媒体とする音楽ソフトそのものを指す[2]。
従来のアナログオーディオと比較して、CD-DAはほとんどメンテナンスフリーかつ媒体をプレーヤーに配置するだけで再生でき、ワウフラッターとノイズが無く、人間の可聴帯域(大体20Hz~20000Hzの帯域)の音声の記録と再生に対応したオーディオ規格となっている。ディスクの大きさが最大12cmで、プレーヤーに複雑な機構を設ける必要もないため、プレーヤーの小型化も容易になっている。このような利便性の高さから、アナログレコードに代わって急速に普及し、世界標準の音楽供給媒体になり、後のデジタルオーディオシステムにも影響を与えた。
CD-DA規格制定当時は、ディスクに記録されたデジタルデータをコピー(リッピング)する手段がなかった。しかし1990年代のWindowsパソコン普及後にバックアップツールが登場したうえ、CD-DAにはSCMSフラグ以外の著作権保護機能が存在しないことから、コピーを無制限に行えることが問題視された[3]。
この対策として、2000年代からコピーコントロールCD(CCCD)と呼ばれるコピーガードを搭載したディスクなどが登場するが、エラーが多発[注釈 1]して音質が低下したり、一部のプレーヤーでは再生自体ができないか故障の原因になるなどの弊害が発生したとされる。またコピーガードを搭載したことで、CD-DAの仕様から逸脱したため、ディスクにはCD-DAのロゴマークを付与することができなかった。これらの問題から、CCCDは登場から2年半ほどで市場から撤退し始めた[4]。
一方で音質向上の観点から、CD-DAの仕様範囲内の「高音質CD」と呼ばれる製品が登場したり、ハイレゾなどの音質向上技術が採用された音楽CDも開発されている。高音質化処理が施されていない旧来のCDであっても、高タップ数有限インパルス応答フィルタ適用や倍音復元などの高度な計算処理を伴うアップサンプリングを行い、対応機器[5]を使用することで、再生時のDACにおける情報欠損を最小化、高音質化を実現することができる。
こうしてCD-DAは登場以来、40年以上にわたり音声コンテンツを供給する規格として利用され続けている。しかし、生産量は12cmCDアルバムに関しては、1998年の3億291万3千枚をピーク[6]に減少している。そしてインターネットを介して利用する音楽配信サービス[注釈 2]が普及するに伴い、CDの市場は縮小し続けている[8]。
規格書「レッドブック」によりライセンスされているが、これは表紙の色が赤であったことに由来する[9]。レッドブックは機密文書のため契約者以外には公開されないが、IEC-60908 Audio recording - Compact disc digital audio systemで標準化されている。
コピーガードが掛けられていたり、DTS-CD等のサラウンドデータが収録されている場合を除いて、CD-DAの本体およびパッケージには、「compact disc digital audio」ロゴが付いている。
主な仕様は下記である。他にも詳細な規定がある。
CD-DAは最大99のトラックを納めることが可能であり、各トラックには最大99のインデックスを付与することが可能となっている。
各セクターには2352バイト(24×98)のオーディオ・データ、及び96バイトのサブチャンネル・データが配される。
各セクターの96バイトのサブチャンネル情報には各24バイトのパケットが4つ配される。内容は1バイトのコマンド、1バイトのインストラクション、2バイトのパリティQ、16バイトのデータ、4バイトのパリティPである。
96のサブチャンネル・データの各バイトは8ビットにわけて考えられる。その各ビットは、それぞれ別個のデータ・ストリームに対応している。これらのストリームは“チャンネル”と呼ばれ、Pから始まるラベルを付されている。
Channel | P | Q | R | S | T | U | V | W |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Bit | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 |
チャンネルP及びQは通常のオーディオCDではタイミング情報の為に用いられる。これらはCDプレーヤがディスク内での現在位置を追跡するのを補助し、同時にCDプレーヤの時間表示の為の情報にも供される。
チャンネルQは、より高性能なプレーヤの制御目的で使われる。MCNやISRCを含む。ISRCはメディア産業で用いられ、他に含まれる情報として、オリジナル盤の国、発売年、権利者、そしてシリアル・ナンバー、及び以下の様ないくつかの追加タグがある。
トラックのプリエンファシス有無を示す為に使用される。フラグはTOCと各トラックのサブコードで立てられる。再生機はプリエンファシスフラグを読み取ることでディエンファシス処理を施すかどうかを決定する。TOCかサブコードのどちらか片方のみにプリエンファシスフラグが立っているCDも存在するが、パソコン等の再生環境に依っては正しく判定できない問題が発生し得る。CD黎明期に多く用いられたが、段々と利用されなくなった。
チャンネルRからWはユーザーデータを格納する為の領域としている。曲名などを書き込むCD-TEXTや、画像を格納するCD+G、MIDIを格納するCD-MIDIなどの規格が存在する。
それまでのレコードでは一定回転(角速度一定)により外周から内周に向けて記録信号を読み出していたのに対し、CD-DAでは逆に内周から外周に向け回転速度は落ちて行き、線速度一定で読み出される(CLV)。線速度は規格により1.2から1.4 m/sと定められている。これにはデータの先頭位置である最内周で最低459 rpm、最外周で最低198 rpmの回転数が必要となる。
音楽CD(CD-DA形式)のデータの転送速度は等倍速で1倍速(1.2 Mbps=150 kiB/s)であり、この1倍を基準として、転送速度を表すのに「○倍速」という言い方をする。最大記録時間は640 MBのディスクで約72分、650 MBのディスクで約74分、700 MBのディスクで約80分となる。ただし規格上は97分まで可能。
規格策定当時に業務用途のデジタル録音で使われていたPCMプロセッサーと同等の記録性能を持つ。
16 bitというビット深度は計算上96 dBのダイナミックレンジを持つ。規格策定時、フィリップスが実現の容易な14 bit(計算上84 dBのダイナミックレンジ)を提示したが、ソニー(特に土井利忠)が21世紀においても通用するシステムとするべく少々無理をする必要がある16 bitを強く主張し続けて採用された経緯がある[10]。ただし、16 bitというビット深度が持つ96 dBのダイナミックレンジは、マイクが持つダイナミックレンジである100~130 dB程度と比較するとやや不足している[11][12]。
概ね20 kHz前後の周波数まで記録出来る。これは標本化定理によるものである。リニアPCMは理論上サンプリング周波数の2分の1までの周波数の音を標本化可能であるため、CD-DAのサンプリング周波数44,100 Hzの半分の値である22,050 Hzが記録可能な周波数の上限値となる。この値を超える周波数帯は折り返し雑音となるため、通常は録音から音楽CDが作られるまでの間にフィルターが掛けられる。そのため22,050 Hzより高い周波数、フィルターのカットオフ周波数の領域はカット・減衰され記録されていない。ちなみにサンプリング周波数が44.1 kHzという一見中途半端な値であるのは初期のデジタル録音にVTRを流用していたことに起因する。CDの開発当時はリニアスキャン方式の音声用テープにデジタル記録することが記録密度の不足により不可能であったため、PCMプロセッサーで映像信号に変換してヘリカルスキャン方式のビデオテープに記録する事が多かった。
音楽CDとして流通するディスクの大部分はCD-DAであるが、一部例外もある。CD EXTRA (CD-DA+) はCD-DAに後方互換性があり、CD-DA用のプレーヤー(CDプレーヤー)やPCのCDドライブで再生可能である。また、リッピングを防ぐため独自規格としたコピーコントロールCD (CCCD) やセキュアCD(ライセンスを逸脱した製品のため、厳密には「CD」とは呼べない)は、オーディオメーカーやPCメーカーでは動作保証外としており、一部のCD-DA用プレーヤーやPCのCDドライブでは再生不可能である(最悪の場合は機器が破損することもある)。詳細はコピーコントロールCD#問題点を参照。
また、時代が進むにつれて、CD-DAの枠を超えた高音質がCD-DAの仕様を逸脱しない範囲で実現できるように、様々な量子化ノイズ整形技術やデータ圧縮技術が投入されている。最先端では、MQA-CDのハイレゾデータの隠しコード化技術[注釈 3]がある。ただし、隠しコードのハイレゾデータを利用するためには専用デコーダーを通す必要がある。
かつてパソコン用や家庭用ゲーム機用ゲームソフトの媒体がCD-ROMであった時代には、BGMをCD-DAで収録している作品(ミックスモードCD)もあった。BGM演奏にCD-DAが採用された理由としては、当時のパソコンや家庭用ゲーム機に搭載されていた内蔵音源よりも高音質だったためである[注釈 5]。
こうした作品は1980年代末期以降から登場するようになり、一時は広く用いられたものの、以下の理由などにより次第に少なくなった。
家庭用ゲーム機のソフト供給媒体がDVD-ROMに移行したこと、内蔵音源性能やプロテクト技術の向上、音楽データ圧縮規格の普及などにより、2000年代以降はゲームソフトのBGM演奏にCD-DAが使用されることは少なくなった。
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