Loading AI tools
ウィキペディアから
株式会社桃源社(とうげんしゃ)は、1951年(昭和26年)から1981年(昭和56年)まで活動した日本の出版社。
時代小説・探偵小説などの大衆小説や、澁澤龍彦などのいわゆる「異端文学」の出版を広く手がけた。特に、1968年(昭和43年)より戦前の大衆小説のシリーズ「大ロマンの復活」を刊行し、国枝史郎、小栗虫太郎、橘外男、海野十三らの探偵小説・怪奇幻想小説のリバイバル・ブームを引き起こしたことで知られる。他にも多くの特色ある全集・選集を出版している。
住専事件への関与で知られる不動産会社の「桃源社」(佐佐木吉之助社長)は、同名異業種の別企業で、無関係である(社名はどちらも桃源郷にちなむ)。
創業者は矢貴東司(やぎ とうじ、1907年3月20日 - 1988年8月19日)[1]。矢貴は、1923年(大正12年)12月に書籍販売業として「矢貴書店」を創業し、1940年(昭和15年)頃[注釈 1]に出版部を設け出版事業に参入。その後、1951年(昭和26年)9月に矢貴書店出版部を解散、同年12月6日、株式会社桃源社を創業した[2]。社名は桃源郷に由来する[3]。
創業以来、主に時代小説・探偵小説などの大衆小説の出版を手がけており、柴田錬三郎、吉川英治、山手樹一郎、山岡荘八、川口松太郎など人気作家の作品を刊行してきた[1]。
1959年(昭和34年)、東司の子の矢貴昇司(やぎ しょうじ、1934年生)が入社した[4]。昇司は八木昇(やぎ のぼる)の筆名で、編集者、大衆文学研究者として知られている[注釈 2]。のち、父の後を受け継ぎ二代目社長となった[5]。
八木昇は江戸川乱歩の『探偵小説四十年』(1961年)の出版を担当し[4][注釈 3]、さらに、乱歩生前最後の全集となった桃源社版『江戸川乱歩全集』(全18巻、1961年 - 1963年)を出版した。また、『宝石』に連載されていた澁澤龍彦の『黒魔術の手帖』に着目し、同書(1961年刊)の刊行を手がけたのをきっかけに、澁澤の著書・訳書の出版を多く手掛けることになる[6][7]。同社から刊行された澁澤の著書には、他に『犬狼都市』(1962年)、『エロスの解剖』(1965年)、『異端の肖像』(1967年)、『澁澤龍彦集成』全7巻(1970年、最初の著作集)、『妖人奇人館』(1971年)、『女のエピソード』(1972年)、『悪魔の中世』(1979年)など、また、澁澤の訳書には、ユイスマン『さかしま』(1962年)、『マルキ・ド・サド選集』全6巻(1962-64年)、『新・マルキ・ド・サド選集』全8巻(1965-66年)、A・ビアズレー『美神の館』(1968年)などがある。
1968年(昭和43年)8月、国枝史郎の『神州纐纈城』を刊行した。同作は1925年から1926年にかけて『苦楽』に連載されたが未完に終わっており、そのため、春陽堂書店の日本小説文庫から『神州纐纈城 前篇』として部分的に刊行されただけで、国枝史郎の代表作とされながら、それまで完全な形で刊行されたことはなかった。同書は小田富弥による初出時の挿絵を再録した上、真鍋元之の解説、尾崎秀樹の前宣伝を得て発売され、三島由紀夫から激賞を受けるなど好評を博した[8]。
この『神州纐纈城』がきっかけで「怪奇幻想ブーム」が始まったとされているが、八木昇は「結果としてたまたまそうなっただけで、意識的にそういうことを狙って出したわけではありません」[9]と語っている。
続いて同年12月、小栗虫太郎の『人外魔境』を、都筑道夫による解説をつけて刊行した。1939年から1941年にかけて『新青年』に掲載されたシリーズで、小栗の生前に単行本に再録されたことはあるが、一冊にまとめられたのはこれが初めてであった[10]。八木昇によれば、小栗虫太郎作品の復刻は澁澤龍彦から薦められたもので、『神州纐纈城』の成績が良かったら出版するつもりでいたという[11]。
翌1969年3月、三冊目となる国枝史郎『
シリーズ編集の基本理念は、「できるかぎりきちんとした形で出して、昔の探偵小説・大衆小説はこういうものだったんだよということを、いまの読者に分かってもらえたらいいだろう」というものだった[14]。シリーズでは小栗虫太郎のほぼ全作品を刊行した(のちに再編集されて『小栗虫太郎全作品』となる)[注釈 4]ほか、海野十三『深夜の市長』『地球要塞』『火星兵団』、久生十蘭『真説・鉄仮面』(初単行本化)、牧逸馬『世界怪奇実話』(初めてシリーズ全作品を収録)、野村胡堂『奇談クラブ』、蘭郁二郎『地底大陸』、香山滋『海鰻荘奇談』などを刊行した[15]。上述のように「大ロマンの復活」は広告上の謳い文句にすぎないため、どこまでがシリーズに含まれるかは曖昧であるが、八木自身は、『神州纐纈城』から小栗虫太郎『成層圏魔城』(1971年7月刊)までの「函入りの二十何冊か」としている[16]。また、並行して三六判カバー装の「日本ロマンシリーズ」も刊行されており、このシリーズからは白井喬二『怪建築十二段返し』(1970年)、野村胡堂『二万年前』(1970年)、押川春浪『海底軍艦』(1970年)、黒岩涙香『暗黒星』(1972年)、押川春浪『怪人鉄塔』(1972年)などが刊行された[17][16]。
同時期に講談社から『江戸川乱歩全集』(第1次、1969年4月 - 1970年6月)、三一書房から『夢野久作全集』(1969年6月 - 1970年1月)・『久生十蘭全集』(1969年11月 - 1970年6月)などが立て続けに出版されたことも手伝い、それまで半ば忘れられた状況にあった、戦前の探偵小説・怪奇幻想小説の再評価を促すことになった[13]。
1981年(昭和56年)11月刊行の栗本薫『神変まだら蜘蛛』を最後に出版活動を停止した[18]。八木昇によれば「もう新しいことをやるプランもだんだんなくなってきた」ので「少しずつ撤退して」いき、会社はしばらく残していたが「株式会社の資本金が改正されたころに社を閉じ」たという[18]。『文藝年鑑』では2002年版を最後に社名が消えている[18]。
以下のリストは新保博久『ミステリ編集道』所収「〈大復活時代〉年表」[19]に基づく。新保は、1975年刊のカバー装3冊も、広告に「大ロマンの復活」と謳われていることからシリーズに含めている[16]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.