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ハンス・クリスチャン・アンデルセン作の童話 ウィキペディアから
人魚姫(にんぎょひめ、Den lille Havfrue)は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンによる1837年のデンマークのおとぎ話である。
人魚姫 Den lille Havfrue | ||
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Vilhelm Pedersen 画「人魚姫」 | ||
著者 | ハンス・クリスチャン・アンデルセン | |
発行日 | 1837年 | |
ジャンル | 小説 | |
国 | デンマーク | |
ウィキポータル 文学 | ||
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王妃を失って久しい男やもめの人魚の王は母君に6人の娘の教育をして貰っていた。人魚姫の姉妹は1歳ずつ年齢が異なり、毎年1人ずつ海の上に行った。末の姫は15歳の誕生日にのぼった海の上で船の上にいる美しい人間の王子を目のあたりにして恋心を抱くが、その夜の嵐で彼の乗船した船は難破し、王子は意識を失って海に放り出される。人魚姫はすぐそばまで流れて来た彼が水中にいると死んでしまうことに気が付き、一晩中海面に持ち上げ続けた。朝日が出ても彼が意識を取り戻さないので温かい浜辺の方がよいだろうと考え、岸辺に王子を横たえ、自分は遠巻きにして様子を見ていたところ、近くの修道院から出てきた女性が王子に気が付き連れて行ったのでそのまま人魚姫は海の底に戻っていった。
このことをきっかけに人間に強い興味を持った彼女は祖母に人間についていろいろ質問したところ、300年生きられる自分たちとは違い人間は短命だが、死ねば泡となって消える自分たちとは違い人間は魂というものを持っていて天国に行くと言った。それを手に入れるにはどうしたらいいのかと尋ねると「人間が自分たちを愛して結婚してくれれば可能」だが「全く異形の人間が人魚たちを愛することはないだろう」とほぼ不可能だと告げられる。
そこで人魚姫は海の魔女の家を訪れ、美しい声と引き換えに尻尾を人間の足に変える飲み薬を貰う。魔女から「王子に愛を貰うことが出来なければ、姫は海の泡となって消えてしまう」と警告を受ける。更に人間の足だと歩く度にナイフで抉られるような痛みを感じるとも言われたが、それでも人魚姫の意思は変わらず薬を飲んだ。陸にあがり、人間の姿で倒れている人魚姫を見つけた王子は声をかけるが、人魚姫は声が出ない。その後、王子と一緒に宮殿で暮らすようになった人魚姫であったが、魔女に言われたとおりに歩くたびに足は激痛が走るうえ、声を失った人魚姫は王子を救った出来事を話せず、王子は人魚姫が命の恩人だとは気づかなかった。
それでも王子は彼女を可愛がり、歩くのが不自由な彼女のために馬に乗せてあちこちを連れて回り、また彼女と「おぼれていたところを助けてくれた人」が似ているともいうが、それは浜辺で彼を発見・保護してくれた修道院の女性の事で「彼女は修道院の人(修道女)だから結婚なんてできないだろう」とややあきらめ気味で「僕を助けてくれた女性は修道院から出て来ないだろうし、どうしても結婚しなければならないとしたら彼女に瓜二つのお前と結婚するよ」と人魚姫に告げた。
ところがやがて隣国の姫君との縁談が持ち上がるが、その姫君こそ王子が想い続けていた女性だった。修道院へは修道女としてではなく教養をつけるために入っていたのだという。見も知らぬ姫君を好きにはなれないと思っていたし、心に抱く想い人とは二度と会えないだろうと諦めていた王子は、予想だにしなかった想い人が縁談の相手の姫君だと知り、喜んで婚姻を受け入れて姫君をお妃に迎えるのだった。
悲嘆に暮れる人魚姫の前に現れた姫の姉たちが髪と引き換えに海の魔女に貰ったナイフを差し出し、王子の流した返り血を浴びることで人魚の姿に戻れるという魔女の伝言を伝える。眠っている王子にナイフを構えるが、隣で眠る姫君の名前を呟く王子の寝言を聞く。手を震わせた後ナイフを遠くの波間へ投げ捨てると、海はみるみる真っ赤に染まった。人魚姫は愛する王子を殺すことと彼の幸福を壊すことができずに死を選び、海に身を投げて泡に姿を変えた。結局は王子の愛を得られずに泡になってしまった人魚姫だったが、彼女はそのまま消えてしまったわけではなく風の精(空気の精霊)に生まれ変わり、泡の中からどんどん空に浮かび上がっていった。
どこに行くのか戸惑う彼女に精霊が話しかけ、それによると「あなたは空の娘(風の精のこと)のところに行く」、「自分たちは暑さで苦しむところに涼しい風を送ったり、花の匂いを振りまき、物をさわやかにする仕事をしている」、「自分たちも人魚と同様に魂はないが、人魚と違い人間の助けを借りずとも300年勤め続けることで魂を自力で得られる。あなたも今までの苦労でこの世界に来られた」というような答えが返ってきた。
生まれ変わった彼女は(自分の最期を知っているはずがないのに)海の泡を悲しそうに見ている王子と花嫁を見つけ、王子のお妃となった姫君の額にそっと接吻し、王子に微笑みかけたあと新しい仲間たちとともに薔薇色の雲の中を飛びながら「あと300年で天国に行けるようになるのかな」とつぶやくと先輩の精霊から補足が入った。
魂を得られるまでの期間は厳密には固定ではなく「子供のいる家で親を喜ばせて愛しみを受ける子供を見つけて私たちも微笑むと試練は1年単位で短くなり、逆に悪い子を見て悲しみの涙を流すと1日ずつ長くなるのですよ」と。太陽にむけて両手を差し伸べたとき、人魚姫の頬に最初の涙がこぼれ落ちたのだった。[1]
1837年4月7日、コペンハーゲンのC.A. Reitzelより"Eventyr fortalte for Børn, 3"(『子どものための童話集・Ⅲ』)に収録されて出版されたのが初出。 "Eventyr"(『物語集』 1849年12月18日)、"Eventyr og Historier. Første Bind"(『童話と物語・Ⅰ』 1862年12月15日)にも収められる[2]。
本作は、アンデルセンの失恋(初出は1837年だが、これ以前に少なくとも2人に失恋している[3])が原因で生まれた、人魚はアンデルセン自身の投影というのが定説である[4][5]。その他、この物語の最大の悲劇は、言葉を失った人魚姫が自らの存在の痕跡を語ることなく消えなければならない点にある、とする研究もある[6]。
本作は、他の人魚文学と関連付けて考察されてきた(中丸禎子は、下半身の形状問わず、水と関連する異類が登場する作品を「人魚文学」と呼んでいる)。たとえばMonika Schmitz-Emans『Seetiefen und Seelentiefen.Literarische Spiegelungen innerer und äußerer Fremde.』、(Würzburg:Königshausen & Neumann,2003)、 小黒康正『水の女』(九州大学出版会, 2012)Andreas Kraß『Meerjungfrauen. Geschichten einer unmöglichen Liebe』(Frankfurt am Main:Fischer, 2010)などでは、本作を人魚文学の代表的作品として論じている[7]。
本作の直接の前身はアンデルセンが1834年に発表した戯曲『アウネーテと人魚(Agnete og Havmanden)』である。人間の女性と男性人魚の悲恋を扱った作品で、デンマーク民謡『アウネーテと人魚(Agnete og Havmanden, 1300年頃)』を源流とする[7]。
また、フリードリヒ・フーケ(1777年 - 1843年)の『ウンディーネ』からも影響を受けたと、アンデルセン自身証言を残している。ベルンハルト・セヴェリン・インゲマン(Bernhard Severin Ingemann)に宛てた1837年の書簡の中で言及している[8]。人魚には「不死の魂」がないが、人と結婚することによりそれを獲得できるというアイディアは『ウンディーネ』などから受け継いだ[9]。
ただし、本作に先行し、また影響を与えたデンマークやドイツの人魚文学には、人魚姫が空気の精霊その他に転生するという内容は存在しない[10]。
ジナイーダ・ギッピウス(1869 - 1945)の『聖なる血』(1901)は、幼いルサールカが人間のみに与えられた「不死の魂」を獲得するために受洗を希求する、という内容を持つ[11]。ギッピウスが本作を読んだという記録は残っていないが、19世紀末の時点でアンデルセンはロシアでもよく知られ、翻訳も存在した[12]。『聖なる血』は、ギッピウスによる本作の引用と再構成であるという考察がなされている[13]。
村上春樹の『国境の南、太陽の西』において、「島本さん」の脚が悪いという設定は、本作を物語のテンプレートとして使用しているとすると説明がつく(平野芳信による)[14]。
コペンハーゲンには人魚姫の像があり、有名な観光名所となっている。なお、想像以上に小さく、「世界三大がっかり」の一つとしても知られる。
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