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気流が山の斜面にあたったのちに風が山を越え、暖かくて乾いた下降気流となってその付近の気温が上がる現象 ウィキペディアから
フェーン現象(フェーンげんしょう、英語: the Foehn phenomenonまたはFoehn wind)とは、気流が山の斜面にあたったのちに風が山を越え、暖かくて乾いた下降気流となってその付近の気温が上がる現象をいう。
フェーン現象という名前は、フェーン(ドイツ語: Föhn : 南風)というアルプス山中で吹く局地風が由来であり、この局地風はアルプスを越えて吹く乾いた暖かい風のことである。現在は一般用語として使われており、本来のフェーンのほかに、北米のロッキー山脈を越えて吹く風チヌークなど、世界各地の同様の風もフェーンと呼ばれる。なお、漢字による当て字は岡田武松(おかだ たけまつ)が考案した風炎である。
日本の富山平野で発生するフェーン現象の8割が力学メカニズムによって発生していることが、2021年の筑波大学の研究によって明らかになった[1][2]。
フェーン現象には二つの種類がある。すなわち、熱力学的な断熱過程によって起こるフェーン現象と力学的に起こるフェーン現象である。前者を湿ったフェーン、後者を乾いたフェーンという。乾いたフェーンは風が山を越えなくても起こるフェーン現象として知られている。この両者の現象の発生を唱え、フェーン現象の本格的な研究を行ったのは「近代気象学の父」とも称されるオーストリアの気象・気候学者ユリウス・フェルディナント・フォン・ハン(Julius Ferdinand von Hann、「J.F.ハーン」と表記する例もある)(1839年 - 1921年)である。ハンはフェーン現象の研究のほか、上昇気流による断熱変化、高気圧論など、気象熱力学を主とした気象力学の研究で業績を上げた人物である。なお、富山平野で観測されたフェーン現象の内80.8%は力学的なフェーンで19.2%は二つのフェーンが混在した複合型であった。[3]
ここに、高さ1,000mの山があるとする。その麓を地点A、さらにその山を越えた麓を地点Bとする。地点Aの気温を15℃とし、ここで地点AからBの方向に向けて風が吹いているとする。もちろんその風は、山肌にぶつかり行き場を失って上昇気流として山を登り始める。気温は高度とともに低下するので、この風が空気を飽和させるのに十分な水蒸気を含んでいる場合、上昇中のどこかで空気が飽和して雲が発生し、最終的には山に雨を降らせる。湿った空気の温度減率(これを湿潤断熱減率という)は、空気中に含まれる水蒸気が凝縮する際に熱を放出させる凝縮熱から、平均の温度減率(0.6℃/100m)よりも小さい。すなわち湿潤断熱減率は約0.5℃/100mである。その割合で温度が低下していくならば、山の頂上(1,000m)付近では温度が10℃となるはずである。また、吹き降ろすときには水蒸気の凝結がないので温度減率(これを乾燥断熱減率という)は湿潤温度減率よりも大きい約1℃/100mである。そうするとB地点での温度は20℃となる。よってB地点ではA地点よりも気温が高く、乾燥した風が吹くということになる。このフェーン現象は、湿った空気を前に伴ったものという意味で湿ったフェーン現象と呼ぶ。水蒸気と分離した結果、温位が上昇した空気が力学的に下降する現象と言える。その性質により山地の前後で相当温位はほぼ保存する。
ハンはまず非断熱加熱説を研究したとされるが、その後ハンは風上側で水蒸気の凝結を伴う断熱変化が起こらなくても、フェーン現象は十分起こりうるということを考え出した。あまり厳密な説明ではないが、これは次のような事柄である。今、湿ったフェーンが起こったときと全く同じ状態の例を考える。A地点の気温は15℃だが、この空気は上昇せずに、そこにとどまっているとする。また、空気の平均的な気温減率は約0.6℃/100mなので、これに従うとその時の山頂の温度は9℃ということになる。この山頂の空気が乾燥しているとすると、B地点に下降気流として下りてきたときの温度は乾燥断熱減率より19℃ということになる。よってA地点の空気よりもB地点の方が高いのでフェーン現象が起きたことになる。これはもとから乾いた空気が力学的にフェーンを起こしたという意味で乾いたフェーンと呼ばれる。空気が山を登り、その後空気が重くなって吹き降ろすことは明らかだが、流体力学では空気が単に地面と平行に移動していて、山の頂上付近にさしかかると、風の速さによってはその空気が下降気流となって下降することが知られている。これが乾いたフェーンを起こす原因ともなる。もともと温位が相対的に高かった上空の空気が力学的に下降する現象とも言える。
フェーン現象は時には非常に乾燥した強い突風ともなることがあるので、一旦火災が起こると消火しにくく、広がりやすい。広範囲にわたる深刻な被害を招くこともある。よって、フェーン現象が起こっている時には火の扱いに厳重な注意を払うのが肝要である。
1952年4月17日、鳥取市で発生した鳥取大火はフェーン現象による大火の代表例である。
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フェーン現象は山地が多い日本でも頻繁に起きる現象である。日本では日本海に台風や前線を伴う温帯低気圧があり、強い南風が吹くとき日本海側では暖かく乾いた風が吹く。実際、春にこの現象によって日本海側では一気に雪解けが進むことが多い。これだけではなく、例えば冬に季節風によって日本海側で雪や雨を降らせた後、山を越えて太平洋側に乾いた空気として吹くのもフェーン現象と考えてよい。しかし、空気のもとが寒気なのでいくら山を越えても太平洋側の温度はそれほど暖かくなることは通常ない。これは俗にいう「からっ風」である。
アメリカのロッキー山脈を吹き下ろすチヌークと呼ばれる局地風もまたフェーン現象を伴う。サウスダコタ州で1943年1月22日にわずか2分間で27℃も気温が急上昇する現象が発生している。
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