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砥石(といし、sharpening stone、grinding stone、hone{剃刀用})は、金属や岩石などを切削、研磨するための道具。包丁などの刃物を手作業で研いで切れ味を回復させる小型の角砥石だけでなく、工作機械などに取り付けて回転させ、部品製造など金属加工に使われる大きな円盤も砥石と呼ばれる[1]。生産金額ではむしろ工業用砥石の方が圧倒的に比率が高い[注 1]。
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砥石は、「砥粒」「結合材」「気孔」の3つの要素からできている[2]。砥粒は、鉱物質の結晶粒子で非常に小さく、結合材に固定された砥粒が刃物となって工作物を削る。また、切れなくなると結合材から脱落し、新しい砥粒が表面に出てきて物を削り続ける(=自生自刃作用)。結合材は、砥粒を結合させて保持する土台の役目を果たす。気孔は、研削の際、切り屑が入るポケットとなり、安定した研磨ができる。また、ポケットに入った切り屑は、回転している間に外に排出される。この3つの要素が適切な状態に保たれることで、砥石による安定した切削・研磨が可能となる。砥粒・結合材・気孔の条件が悪いと、刃こぼれや目詰まり、目つぶれといった状態が起こり[3]、加工精度に悪影響を及ぼす。そのため、それら削りカスを除去するために表面に水や油をかけて砥汁の状態で除去する方法が古来から行われている。
主に、金属製の刃物の切れ味が落ちた際に、切断機能を復元するために使用される。また、用途によって種類も多くある。人手で刃物を研ぐ砥石は長方形が多いが、動力を利用するものだと厚みのある円形で、外周端面を使って研ぐものと円形の面を使い水平に回転させて研ぐものがある。砥石は後述のように人類の初期からの道具であるが、現代では切削工具(バイト、ドリル等)では得られない加工精度を得るための工具としても重用されている。
砥石は、これらの原料の種類、粒度(原料の粗さ)、結合度(原料を結びつける強さ)、組織(原料の密集度)、結合材(粉末の原料を固める材料)などの要因を選定する事により、あらゆる金属、及び非金属を高精度に研削することができる。
古来から石器や金属器の加工に用いられていることで知られるが、漆器などの漆芸にも砥石が用いられ[4]、用途は硬い無機物の加工に限らず、漆芸家にとっても必需品である。
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砥石の利用は古く[注 2]、磨製石器の製作に利用された時まで遡り、新石器時代以降、あらゆる年代の遺跡から出土し、もっとも初期の道具の一つであるといえる。
日本では縄文時代の遺跡から、石器とともに面状・線状磨痕(明らかに研磨に利用されて磨耗したと思われる痕跡)のある砂岩[注 3]などが、弥生時代には、墳墓から副葬品として鉄器とともに整形された砂岩が出土している。弥生期は石器によって鉄器を加工していた時期であり、鍛冶具としての砥石も弥生時代中期末では古墳時代の砥石に匹敵するほどの質・大きさを備える例もある(ただし、中期末以降の鍛冶遺構では大型砥石はみられなくなる)[7]。遺跡の出土場所には産しない研磨用と思われる岩石も多く発掘されており、既に商品としての砥石の価値が見出され、より研磨に適した材質のものが選別され、流通していたものと考えられている。
日本神話上には、砥石の名を冠した神名があり、鏡作部の遠祖の神たる「天糲戸(アマノアラト)」がこれにあたる[8]。文字通り、アラトは荒砥を意味し(アラトの子神はヤタノカガミを製作)、古代鏡作りにおいて砥石が重用された。8世紀成立の『日本書紀』に記述があるように、アラト=荒砥といった言葉は古くから用いられていることがわかる。
時代において兵士が準備すべき道具の一つとして、「砥石一枚」と記述されている(大刀などを研ぐため)[9]。日本に限らず、軍隊で刀剣が用いられていた時代では、砥石は軍事必需品であった。
日本は複雑な造山活動により、地底奥深くにあることで地圧により固められた良質な砥石となる堆積物の地層が採掘可能な深さまで隆起している事が多いため、日本で採掘される砥石は良質で、現代も世界各地に輸出されている。この良質な砥石を用いて日本では高度な研ぎの技術が発達したため、硬度の高い刃物を製作する事が可能になり、これに支えられ日本刀も発達し、鎌倉時代以降の武士の時代には需要が急増した。戦乱の終結した江戸時代になると大工ら町人にも広く普及するようになった。
一方、大陸部では造山活動が少ないため深部の地層が隆起することはあまりなく、日本ほど良質の砥石が採掘されないため、加工の容易な、日本と比べ柔らかめの刃物を好むようになるなど良質な砥石の有無は刃物文化に大きな影響を与えた。この硬軟の好みは現在でも続いている。
人造砥石は19世紀後半にアメリカ合衆国で人工のダイヤモンドを合成する中で発見された研磨材などを使用し発明された。昭和40年頃より日本では天然砥石の採掘の停止が相次ぎ同時に人造砥石の改良が進み、現在では様々な種類の砥石が製造されている。
人造砥石の分類は工業用では形状や寸法が重要になるが、研磨性に直接関係する要素としては砥粒と結合剤の種類、及び粒度が重要である。
人造砥石の研磨剤として使われる砥粒は、JIS R 6111:2005によれば、大きく分けて酸化アルミニウム(アルミナ、アランダム)を原料とするものと、炭化ケイ素(カーボランダム)を原料とするものの2つに分けられる。硬度としては炭化ケイ素系の方が大きく、主として荒砥から中砥に使われ、それより硬度が落ちるがじん性(破壊されにくさ)に優れるアルミナ系は中砥から仕上げ砥に使われる。この2種類以外に、人造ダイヤモンドや立方晶窒化ほう素も研磨剤として用いられる[10]。
フィラーとして混ぜられた砥粒をまとめて砥石の形状を形成するための材料を結合剤と言い、種類と製法は以下の通り[11]。
一般的に、砥石の研磨力を示すものとして番手というものが使われており、この数字が小さいほど研磨力が高い。この番手は砥粒の粒度によって決まり、JIS R 6001で規定されている。基本的に砥粒の平均の粒径とその分布の仕方によって番手が決まる。一般的に番手で#700未満を荒砥、#700~#2000を中砥、それを超えるものを仕上げ砥と呼ぶことが多いが、この分類の仕方に厳密な定義はなく、人によって違う場合が多い。また同じ番手であっても研いだ時の研磨性や研ぎ味は決して同じではなく、上記の砥粒や結合剤の違いで、大きく受ける感じが異なる場合がある。更には砥粒の種類によっては、元の粒径が破砕されて小さくなる場合もある。また天然砥石については、均一の砥粒を含むということはまずあり得ないため、番手を決めることは不可能であり、荒砥-中砥-仕上げ砥というざっくりした分類しか出来ない。
砥石の硬さを結合度という指標で表し、JIS R 6242:2006の6.6.3で規定されている。Aに近いほど軟らくなり、Zに近いほど硬くなる。一般的には研ぐものが硬い場合は軟らかい砥石を、軟らかい場合は硬い砥石を用いるのが良いと言われている[13]。
大工の世界では、「穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生」と言われるくらいに、納得できる仕事に至るまでが長い技術である。
このように、武器の製造に用いられていたことから古来から軍事物資と考えられた[15]。江戸時代には砥石の採掘・運搬・販売が幕府の直轄となり群馬の御蔵砥などが採掘された[15]。明治時代に討幕され民間による砥石の採掘・運搬・販売ができるようになった[16]。
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