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まわりを陸に囲まれ海と直接連絡していない、静止した水のかたまり ウィキペディアから
湖沼(こしょう)は、周囲を陸に囲まれ海と直接連絡していない静止した水の塊である(一部の例外を除く)。語義では湖沼のうち比較的大きなものを湖、同様に比較的小さなものを池あるいは沼と呼ぶが、学問上は様々な定義や分類が行われてきた(後述)。
陸水は陸氷、地下水、地表水に分けられる[1]。地表水は流水または静水として存在し、凹地に滞留する静水及びその凹地を「湖沼」、特に静水が滞留する凹地とその地理的範囲を「湖盆」と呼ぶ[1]。一方、地下水に関しては地下河川を通じて地底湖などの水域が形成される[2]。
湖沼学では湖沼を湖(深い水底を持ち少なくとも中央部に水生植物が生えないもの)、沼(浅い水底でその全面で水生植物(沈水植物)の生育が可能なもの)、沼沢(ごく浅い水底で抽水植物が全面に繁茂するもの)に分ける[1]。また、池は人造の静水域のことをいう[1]。
ただし、歴史的には様々な分類が行われており諸説存在する。
1876年(明治9年)の『地所名称区別細目』においては陸地の一か所に水が滞留したもので天然の広くて深いものが湖、浅くて底が泥質のものが沼、平地を掘りまたは谷を堰き止めて人工的に造られたものが池とされている[1]。日本の淡水生態学の開祖とも言える上野益三は小型で浅く全水面に沿岸植物が広がっているものを沼とし、人工施設によって全貯水量を管理できるものを池とした。
湖沼学上の分類は固有の地名には当てはまらない[1]。例えば湖沼学ではカスピ海は世界最大の湖である[1]。また、奥日光の菅沼(最大水深92 m)などは水深の深い湖である[1]。ただ、福島県の「沼沢沼」が「沼沢湖」、静岡県の「狸沼」が「田貫湖」となるなど改称する池沼も増えている[1]。
なお、日本では河川法によって、ほとんどの湖沼は「河川」として名称と範囲が指定されている。だが、実際の「湖沼」がどのようなものかについて、法令による定義はない[3]。
何らかの要因で陸地内部に窪地が形成され、なおかつそこに水がたまることによって湖沼が形成される。要因として以下のような例を挙げることができるが、複数の要因が複合して形成されたものや形成要因がはっきりしない湖沼もある。陸水学者のエブリン・ハッチンソンは、湖沼の形成要因を地殻変動(構造湖)、火山活動(火山湖)、氷河活動(氷河湖)、その他の4種類に分類した。
日本においては陸水学者の吉村信吉が要因を侵蝕盆地、堰塞盆地、爆裂盆地、構造盆地に分類している。また、同じく陸水学者の田中正明は侵蝕作用(水蝕湖、氷蝕湖、溶蝕湖)、堰止湖(火山、氷河、川、地すべりなど)、火口湖、構造湖(褶曲湖、断層湖、カルデラ湖)に分類している。
広義の氷河湖である。
人為的に造られた湖は人造湖(じんぞうこ)とよばれる。多くは人工の堰堤によって川をせき止めたり湾を仕切ったりして造られる。後者の例に児島湖、諫早湾調整池など。旧ソビエト連邦領内には、核実験によってできたクレーターに水が溜まった人造湖(セミパラチンスク核実験場#原子の湖を参照)もある。
湖盆地形の変化は5段階に分けられる。
およそ十万年以上存続している湖。琵琶湖、バイカル湖、カスピ海、チチカカ湖など。特に、バイカル湖は2000万年以上前からあると考えられており、世界で最も古い湖とされる。また、福井県三方郡にある三方五湖(みかたごこ)にある水月湖は約11,200年- 52,800年前にわたる過去約5万年間の年縞とよばれる湖底堆積物が発見されており地質学的年代決定での世界標準となっている。
ダムや灌漑、温暖化によって湖に流れ込む水量が減り、蒸発する量が増えると消滅する。例としては、世界第4位であったアラル海[4]、中東でカスピ海に次ぐ面積を持っていたオルーミーイェ湖の他、ポオポ湖、ロプノールなどがある。
自然に消滅する例としては、東雲湖のように堆積物によって水位が下がる。天然ダムの決壊などによっても消滅する。
温帯にある深い湖沼は夏に3層の温度層を構成するものが多い。これは水の比重が4℃で最大となるためである(4℃よりも低くなると、逆に比重が低くなる)。最上層は表水層と呼ばれ、日光によって温められた水温の高い層である。最下層は深水層と呼ばれ、温度の低い層である。表水層と深水層との間には水温躍層(温度躍層)と呼ばれる温度変化の大きい層がある。
秋または冬になり表水層が冷却されると層構造が乱され上下に攪拌混合される。年間を通して1回だけ混合される湖沼は一循環湖と呼ばれ、冬期に混合される。年間2回混合される湖沼は二循環湖と呼ばれ、秋と春に混合される。浅い湖沼は1日あるいは2-3日ごとに混合される多循環湖となり、一年を通して氷の下にある湖沼は混合されない無循環湖となる。一般的な湖沼は混合が湖底にまで及ぶが、特に深い湖沼や湖底付近の塩分濃度が高い湖沼の中には部分的にしか混合されないものもある。
湖沼の水質は流入する河川水、地下水や雨水、あるいは地質、気候、生態系など様々な要因に影響される。
水質を表す最も重要な指標の一つはその湖沼がどれだけ多くの生物を養うことができるかを表すものであり、湖沼型あるいは栄養型と呼ばれる。基本的には養いうる生物が少ない順に、貧栄養型、中栄養型、富栄養型に分類される。具体的には食物連鎖の底辺にある植物プランクトンの生育速度を規定する窒素およびリンの含有量を指標とすることが多い。
多くの湖沼は形成時において貧栄養型であり、次第に中栄養型、富栄養型へと移り変わっていく。このような遷移は湖沼の富栄養化と呼ばれる。生物の活動が盛んになるとともに水底に有機物が堆積し湿地や陸地になって湖沼は消滅する。但し、実際の遷移過程は湖沼の深さや周辺環境などに大きく左右されるため実に多様である。湖沼周辺における人間の活動はしばしば湖沼の富栄養化を加速する。
溶存酸素量も水質を表す重要な指標である。湖沼水中に溶解している酸素は主として植物の光合成によるものであり、湖沼型や水温によって変動する。
湖沼の色には「水そのものの色」と「見かけの色」とがある。水そのものの色は分光器などを用いて計測される。見かけの色とは湖沼の岸から観察される色であり、水そのものの色に加えて透明度、深さ、太陽の位置、背景となる空や陸地の色、湖底の色などに影響される。一般に濁りがなく深い湖沼は青色に見え(水の青を参照)、濁りが強まったり水深が浅くなると緑色や黄色を呈するようになる。
学術的には湖沼の真上から見た色を水色標準と比較する方法で計測される。標準として一般にフォーレル・ウーレ水色計が用いられる。
規模の大きい湖沼や古代湖は生物相が豊富であることが多く、たとえば琵琶湖には多数の固有種が知られる。多くの湖沼はあまり長い歴史を持っておらず、むしろ周辺の河川に棲む生物との関連性が強い。一般に人工湖は生物の多様性が小さい。
ただし、状況は湖沼の成因や性質、地域などによって大きく異なる。火口湖や塩湖の一部のように酸や塩類の濃度が高い場合、ほとんど生物の棲まない例、あるいはごく限られた生物のみが見られる例もある。
生物相そのものは、それが海水に起源を持つかどうかで大きく異なる。潟湖のような場合、極端な例では周辺の海と大差ない生物相を持つ例もある。一般に海は生物相が豊富であり、海水に起源のある湖は豊富な生物相を持つ。現在では完全な淡水であるが、かつて海水であったような湖では海産生物に類縁を持つ生物が見られる場合がある。たとえばバイカル湖には唯一の淡水産アザラシであるバイカルアザラシが棲んでいる。このような生物が見られた場合、この湖がかつて海との繋がりを持っていた証拠と考え、海水遺跡種と呼ぶ。
湖沼を取り巻く陸地には豊富な地下水を好むヤナギなどの樹木からなる水辺林が形成され、岸辺に近い場所にはスゲ、イヌガラシなど湿潤を好む湿地性植物が繁茂する。
水深の浅い場所には水面下に根を張り水面上に葉を広げる抽水性植物が分布する。温帯ではヨシ、ホタルイ、ショウブなど、熱帯ではパピルスなどが見られる。水深が大きくなると水面に葉を浮かせるヒシ、ジュンサイ、アサザなどの浮葉性植物が繁茂する。さらに深い場所には水面下に葉を広げる車軸藻類などの沈水性植物が分布する。
湖沼において水辺、特に抽水性植物の分布する場所は魚類、エビ、両生類、水生昆虫などが生育し、湖沼における漁獲量の75パーセントを占めている。岸辺の傾斜が緩やかになるほど水辺の面積が大きくなり多様な生物が見られるようになる。一方で湖沼の面積が大きくなると風浪の影響によって生物は少なくなる。
水中を漂う植物プランクトンは十分な日光の届く水面近くで光合成を行い酸素を供給する。ウキクサ、サンショウモ、ホテイアオイなどの浮漂植物は風に流されやすく肥沃な水を必要とするため一般的ではないが、条件が整うと急速に繁茂して湖面を覆い尽くすこともある。
湖沼に関する環境問題として以下のようなものがある。
規模の大きな湖では湖岸を迂回した陸上交通では迂遠になるため、渡し船などを用いた水運が行われる。また観光地にある湖では、観光用の旅客船を運航することがある。
食用になる水生生物を産する場合には水産業が行われる。天然に産するものを採取するだけでなく、養殖業も盛んである。また、一部の湖は漁業法上の海面に指定されている。
かつての塩湖が干上がることによって広大で平坦な土地が形成される(塩水乾湖)。その地を利用して多くは未舗装のまま滑走路や路面とし、航空機の緊急離着陸場や自動車、自動二輪車のドラッグレース場、高速度・高加速実験場として利用されている。
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