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悪性腫瘍の増殖を抑えることを目的とした薬剤 ウィキペディアから
抗がん剤(こうがんざい、英語: Anticancer drug)とは、悪性腫瘍(がん)の増殖を抑えることを目的とした薬剤である。抗癌剤(こうがんざい)、抗悪性腫瘍剤(こうあくせいしゅようざい)、制癌剤(せいがんざい)とも表記される。
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抗がん剤の起源は、第一次世界大戦、第二次世界大戦で使用された化学兵器・毒ガスのマスタードガス(イペリット、ナイトロジェンマスタード、とも呼ばれる)である[1][2]。第2次世界大戦中の1943年末、イタリアの基地バーリ港に停泊していたアメリカの輸送船がドイツ軍の爆撃を受けて、積んでいた大量のマスタードとナイトロジェンマスタードが漏出し、連合軍兵士たちが大量に浴びた。翌朝、兵士たちは目や皮膚を侵され、重篤な患者は血圧低下とショックを起こし、それに白血球の値が激減するなどして、617人中83名の兵士が死亡した[3]。この事故の経験から、マスタードガスの研究が始まり、抗がん剤の治療薬の開発が生まれた。マスタードガスという化学物質は、その後の研究で、白血病という血液のがんを死滅させる効果があることがわかり、さらに改良されて抗がん剤として使われるようになった[4]。
抗がん剤の作用機序としては、DNA合成阻害、細胞分裂阻害、DNA損傷、代謝拮抗、栄養阻害などがある。
腫瘍細胞はいくつかの種類のものが混在しており、さらに耐性を得やすい。抗がん剤の持つ毒性のため投与量に制限があることが多く、単剤投与は失敗に終わることが多いため、一般に多剤併用療法となる。多剤併用療法であっても、やみくもに組み合わせればよいというものではなく、いくつかの重要な経験則がある。標的とする分子が異なる薬物、有効とされる細胞周期の時期が異なる物質、用量規定毒性が異なる薬物を併用するのが一般的である。さらにできるだけ相乗効果(シナジー)を得られる投薬を工夫する。このようにすることで、結果として最小の毒性で最大の結果が得られると考えられている。また、近年は支持療法の進歩で、多くの抗がん剤において最大耐容量をさらに増やすことができるようになったということが注目に値する。G-CSFの投与によって骨髄抑制の回復を図る時間を短く取ることができ、アロプリノールの投与によって、腫瘍融解症候群を抑制し、全身合併症を減少させることができるようになった。フォリン酸(ロイコボリン)の投与によってメトトレキサートの大量投与が可能になった。またフォリン酸とフルオロウラシルの併用がフルオロウラシル単独投与よりも治療効果が高いということも分かってきた。また急性嘔吐の治療薬が開発されることにより、治療中も食事摂取が可能な場合が増えてきたといったことが挙げられる[注釈 1]。
感染症治療と抗がん剤投与が原理がほぼ同じであるため、感染症学で多用されるPD(薬力学)、PK(薬物動態学)といった概念は腫瘍学でも有効であり、抗がん剤にもシナジーは存在し、脳腫瘍では血液脳関門があるため使用薬剤は制限される。抗菌薬投与で髄液移行性が問題となったように、脳腫瘍に有効な抗がん剤は極めて少ない。非ホジキンリンパ腫は基本的にR-CHOP療法で治療されることが多いが、病変が脳の場合はR-CHOP療法は有効でなく、シタラビン大量療法 (HD-AraC) やメトトレキサート療法 (HD-MTX) といった治療が選択される。
がん細胞は細胞周期が速く進む(分裂が速い)といったところを標的にすることが多いが、アポトーシス感受性の違いも重要なターゲットとなる。細胞周期がターゲットとなると、骨髄や消化管上皮、毛包といった細胞周期が早い正常細胞も攻撃される。抗がん剤で必発と言われる症状は骨髄抑制、悪心、脱毛である[注釈 2]。
前述のように、抗腫瘍薬は異なる細胞周期に働きかけるもの、用量規定因子が異なるもの、作用する部位が異なりシナジーを得られるものを組み合わせて作られている。ある程度の理論的背景は存在する(ただし、薬剤が実際に有効なのか、あるいは効果がないのかという点については、実際に疫学的な調査を行ってみるまで判らない。つまり根拠に基づく医療によってなされなければならない。)。
細胞周期はDNAを合成するS期、有糸分裂をするM期に分かれる。細胞が分裂し、DNAの合成が始まるまでをgap1 (G1) といい、DNAの合成が終了し有糸分裂が始まるまでをgap2 (G2) という。これらはサイクリンとサイクリン依存性キナーゼによって調節されており、これらを監視する系に数多くのがん抑制遺伝子が存在する。原則としてはアルキル化薬は細胞周期非依存性に働き、それ以外は何かしら周期に特異的に働く。傾向としてステロイドはG1に働き、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害薬はDNA合成のS期に働く、ビンカアルカロイド系など微小管機能阻害薬はM期に働く。基本的に用量規定因子は骨髄抑制であることが多く、それゆえに骨髄機能を温存するために間欠的スケジュールで投与する場合が多い。
抗がん剤使用には、体重減少率が非常に重要である。BMI22を標準体重とした場合、太り気味の患者が20箇月生きられる場合でも痩せすぎの患者では3 - 5箇月しか生きられない。また、太り気味の患者でも体重減少率が15%以上など大きな場合は予後が悪い。痩せすぎの患者の場合は、抗がん剤の使用に耐えられない場合がある。抗がん剤の使用で体重の減少が起こる。体重減少が激しい患者では、新薬が出ても使用に耐えられない場合が多く、体重維持は非常に重要である。また、高血圧の患者では抗がん剤の使用で立ちくらみが起こりやすい。体重減少で過度に降圧剤が効きすぎ、立ちくらみが起こる。高血圧の治療にダイエットや減塩があるが、抗がん剤使用中には共に無意味である[5]。
がん細胞は総量が問題となり、がん細胞が1兆個を超えてくるとやがて死に至る[要出典]。抗がん剤はその総量を減らすことができる。ここで問題となるのは、耐性変異がん細胞で、がんの総量が多くなればなるほど、耐性変異がん細胞が増える。このため、総量を抑えることが重要で、ステージの低いがんでは手術で取り去ることができる。しかし、ステージ4では手術で取り切れないため、目に見えないがん細胞に効果的な薬物療法が決め手となる。薬物療法では、その抗がん剤に弱いがん細胞が減って腫瘍の大きさが縮小する。しかし、その薬剤に強いがん細胞は残る。それが再増殖すると今までの抗がん剤が無効となっているため、同じ抗がん剤で治療を続けてもがんは大きくなる。再度縮小させるためには、耐性のない別系統の抗がん剤が必要となる。このため、様々な系統の抗がん剤が使えることが生存期間延長に重要となる。しかし、最初に効きやすい抗がん剤を使用するため、2番手、3番手の抗がん剤は効きにくいことが多い。これは初期には体力が残っている患者が多いため、最初に強めの抗がん剤を使用するのが治療現場では一般的だからである。薬物療法で肝心なのは体力であり、胃がんでは2次治療に移行できる患者は6割と言われている。このため高齢者は不利である。また、高齢者ではがん治療ガイドライン通りに行うとあだとなることもある。これはガイドラインは70歳以下の人を基準に作られているためである。このため、がん関連学会で高齢者のがん治療についての指針を作ろうとしているが、多くのがん治療医には浸透していない。治療医の多くが新薬治療に目を奪われ、ついていくのが精いっぱいで高齢者の治療ノウハウをまで手が回らないという現実がある[信頼性の低い医学の情報源?][6]。
主な抗がん剤は以下に大別される。DNA合成あるいは何らかのDNAの働きに作用し、作用する細胞周期をもって分類する。この項では抗がん剤の類縁物質は抗がん剤として使われない薬物でも記載する。傾向としては抗菌薬の類縁物質は抗がん剤としても利用可能なことが多い。
アルキル化薬は細胞内条件下で、種々の電気陰性基をアルキル化することからその名称がつけられた。アルキル化剤は直接DNAを攻撃して二重鎖のグアニン塩基同士を架橋することで腫瘍の増殖を停止させる。架橋によりDNAは一本鎖になったり分離することができなくなる。二重鎖が解けることはDNAの複製に必須のため、細胞はもはや分裂することができなくなる。
これらはアルキル基を有する求電子性分子であり、このアルキル基がDNAの求核性部位との間に共有結合を形成する。これによりDNAを周期非特異的に傷害する。最もよく使われるのがシクロホスファミドであるが、用量規定毒性は骨髄抑制である。有名な副作用に出血性膀胱炎があるが、メスナ(ウロミテキサン)にて予防がある程度可能である。また、シクロホスファミドを始めとするアルキル化薬は免疫抑制薬として用いられることもある。この場合は抗腫瘍薬としてよりも低用量である。
いずれも悪性リンパ腫や慢性骨髄性白血症で用いられることがある。ニトロソウレア類は中枢神経の移行もよく、脳腫瘍に用いられることがある。
用量規定因子は腎毒性があり、この他に悪心、嘔吐といった消化管症状もよく見られる。カルボプラチンはシスプラチンの腎毒性を軽減し、抗腫瘍効果も同等であることから、シスプラチンに置き換わって使用される傾向がある。オキサリプラチンは大腸癌・直腸癌に有効性が示されている。よく知られている副作用に末梢神経障害があり、FOLFOXの患者にしばしば起きる。
代謝拮抗剤 (anti-metabolites) はDNAの構成要素のプリンやピリミジンのイミテーションであり、(細胞周期の)S期にDNAへのプリンやピリミジンの取り込みを防止する。それにより、正常な増殖や分裂は停止する。重要な代謝拮抗剤の代表として5-フルオロウラシル (5-FU) が挙げられる。
葉酸は1炭素単位の移動(C1代謝という人もいる)を含む多くの酵素反応に関与するビタミンである。これらの反応はDNAとRNAの前駆体、グリシン、メチオニン、グルタミン酸といったアミノ酸、ホルミルメチオニンtRNAや他の重要な代謝産物の生合成に重要な反応である。植物は自ら生合成するが人は生合成することができず経口摂取する。しかし、DHF、THF、MTHFの変換といった代謝は行われているので、その部位をターゲットとした場合、葉酸代謝阻害薬でヒト細胞も傷害できる。
I型トポイソメラーゼは1本鎖DNAのらせん制御、II型トポイソメラーゼは2本鎖DNAのらせん制御をすると考えられており、作用が複雑で多目的な働きをするII型トポイソメラーゼを阻害したほうが効果があると考えられている。
用量規定因子は消化器毒性と骨髄抑制である。特に下痢は致死的になることもある。FOLFIRIでは止痢剤としてロペミンを併用することがしばしばある。骨髄抑制も非常に強い。
1953年に梅沢浜夫が発見したザルコマイシンが最初の抗がん性抗生物質 (antitumour antibiotic) であり、DNAポリメラーゼを阻害する。いろいろ異なる種類があるが、主に2つの方法で細胞分裂を阻止する。
「がん細胞の、増殖、浸潤、転移に関わる分子を標的にして、その分子を阻害することにより、がんの治療を行う」とされる薬。「正常細胞へのダメージを少なくしてがん細胞だけを攻撃すること」を目指す。分子標的治療薬には小(低)分子化合物 (small molecule) とモノクローナル抗体がある。分子標的薬の一般名の付け方として、モノクローナル抗体の語尾をマブ (mab)、小分子薬の語尾をイブ(ib=阻害薬)と名付ける。また、マブ (mab) の前にxiがつけば、異なった遺伝子型混在のキメラ抗体となる。 低分子化合物の抗がん剤には、キナーゼ阻害薬(イマチニブなど)やmTOR阻害薬(エベロリムスなど)、プロテアソーム阻害薬などがある。
いくつかの悪性腫瘍はホルモン療法に反応する。
他にもホルモン感受性腫瘍が存在するが、作用機序は不明である。
抗がん剤にはいくつかの問題点があげられている。化学療法 (悪性腫瘍)の「副作用」「支持療法」「日本における抗がん剤」「癌の長期管理」の項も参照。
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