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化学物質 ウィキペディアから
スラグ(slag)あるいは鉱滓(こうさい)は、鉱石から金属を製錬する際などに、冶金対象である金属から溶融によって分離した鉱石母岩の鉱物成分などを含む物質をいう。スラグは、しばしば溶融金属上に浮かび上がって分離される。また、浮遊選鉱および湿式製錬では、水分を中心とした泥状の物質が排出される。これはスライムと呼ばれ、こちらも鉱さいと表記される事が多い。鉱さいは廃棄物処理法の産業廃棄物に定められている[1]。
スラグは種々の金属の製錬の際に生じるが、最も多く産出されているのが生産量の多い鉄の精錬由来のものである。その場合、特に製鉄スラグや鉄鋼スラグとも呼ばれる。非鉄金属、例えば銅やアルミニウムの精錬に際しても発生し、その場合、鍰(からみ)とも呼ばれる。
スラグの主成分は鉱石の母岩の成分に由来するケイ酸塩と金属酸化物を多く含んでいる。具体的には、鉱物に由来する二酸化ケイ素 (SiO2)や 、酸化アルミニウム (Al2O3)、酸化カルシウム (CaO)、酸化マグネシウム (MgO) などの金属酸化物が多く含まれている。製鉄においてこのようなスラグが生じるのは、主に高炉を用いて鉄鉱石から金属鉄を還元精製し、融解した銑鉄を抽出する段階である。転炉を用いて鋼を作る製鋼段階でもスラグが発生する。その段階でのスラグの主成分には、SiO2、CaOのほか、FeOも加わる。このFeOは、燃焼によって炭素を減少させる際に鉄の一部が酸化されて生じる。火成岩をその成分で酸性岩、塩基性岩と分類するのと同じ論理で、成分中にSiO2を多く含むスラグを酸性スラグ、CaOを多く含むものを塩基性スラグと呼ぶ。
「滓」が表外字のため、しばしば「鉱さい」と書かれる。なお、「こうさい」は慣用読みで、本来は「こうし」である。大和言葉では「のろ」と呼び、たたら製鉄などでは「のろ」とも呼ぶことが多い。金屎(かなくそ)とも呼ばれる。
原料鉱石に何も加えないでも、鉱石にケイ酸塩や石英などからなる母岩成分が混在する以上は、金属製品から分離すべきスラグは発生する。たとえば、たたら製鉄のような前近代以来の古典的製鉄においては、海綿状に還元生成した鉄塊の内部に粒子状、あるいは塊状に分散してスラグが生じる。その場合には、鉄塊を砕くことによって、または、鍛造によって赤熱した鉄素材を叩いて、金属鉄の組織から搾り出すことによって、スラグの成分が分離される。
近代以降の金属精錬では効率が求められるため、金属の溶融と同時に溶融することによって、きれいに浮上させて分離しうる、いわば「良い」スラグを作る必要がある。スラグが「良い」スラグとなる条件には、流動し始める温度が低いこと、金属への溶解度が低いこと、粘性が小さいこと、比重が小さいことなどが求められる。これらの性質は、いずれも、金属本体とすみやかに分離するために必要なものである。例えば、SiO2は3次元網目状にケイ素と酸素が結合している。このため、スラグに含まれるSiO2の比率が高いと、スラグの粘度が上昇し、金属との分離に時間がかかる。このため、スラグでは、1次元のケイ酸イオンを作ることによって流動性を高めるように成分が調整される。この目的で高炉においては石灰石 (CaCO3) を鉱石に加えながら加熱される。このように、SiO2を多く含んでいる鉱石に対しては、塩基性の強い金属酸化物CaO(ここでは石灰石の分解によって生じている)を加えることによって、流動点が低く、粘度が小さいケイ酸塩化合物を生成する工程が採用される。この工程は、多くの種類のガラスの製造工程と共通している。このように、「良い」スラグを形成するために用いられる物質は、融剤(フラックス)と呼ばれている。このフラックスとして、ヨーロッパでは有史以来蛍石 (CaF2) が多く使われてきた。
スラグ、特に生産量の多い製鉄スラグの発生量は膨大である。日本国内だけでも、高炉で3000万トン/年、転炉で1000万トン/年もの製鉄スラグが発生している。スラグは産業廃棄物として扱われており、処理費用が嵩む。このために古くからスラグの有効利用が模索されてきた。
例えば日本では、足尾銅山の防火壁の遺構に、スラグを使ったレンガ(カラミレンガ)が残されている。 また、尾小屋鉱山があった石川県小松市尾小屋町ではスラグ煉瓦を使った擁壁や蔵などが残されている。北九州ではネズミ色の鋼滓煉瓦が使われた建物が残っている。[3]
現在では、比重の高さから高炉セメントや、道路の路盤材、グラウンドの舗装材、建築用断熱材であるロックウールの原料などに用いられるほか、イネの育成などに用いるケイ酸肥料(ケイ酸カルシウム)としても利用されている。アブラナ科植物の根こぶ病を防ぐことにも有効といわれている[4][5][6]。また、製鉄スラグは微量の鉄分を含むため、土壌への鉄分供給や、海水中の鉄分不足による沿岸の磯焼けへの対策としての利用が研究されている[7][8]。
経済産業省等から「スラグ類に化学物質評価方法を導入する指針について-総合報告書-」が平成24年3月に公開された。ここでは、循環素材の一例としてスラグ類が挙げられるとともに、循環素材を管理するために従来検討された素案が紹介されている[9]。
続いて、検討を重ねとりまとめたものとして、下記5項目の「循環資材の環境安全品質及び検査方法に関する基本的考え方」が示されている。
(1) 最も配慮すべき曝露環境に基づく評価: 環境安全品質の評価は、対象とする循環資材の合理的に想定しうるライフサイクルの中で,環境安全性において最も配慮すべき曝露環境に基づいて行う。
(2) 放出経路に対応した試験項目:溶出量や含有量などの試験項目は、(1) の曝露環境における化学物質の放出経路に対応させる。
(3) 利用形態を模擬した試験方法: 個々の試験は,試料調製を含め、(1) の曝露環境における利用形態を模擬した方法で行う。
(4) 環境基準等を遵守できる環境安全品質基準:環境安全品質の基準設定項目と基準値は、周辺環境の環境基準や対策基準等を満足できるように設定する。
(5) 環境安全品質を保証するための合理的な検査体系:試料採取から結果判定までの一連の検査は、環境安全品質基準への適合を確認するための「環境安全形式検査」と、環境安全品質を製造ロット単位で速やかに保証するための「環境安全受渡検査」とで構成し、それぞれ信頼できる主体が実施する。
鐵鋼スラグ協会は鉄鋼スラグ製品の管理すべきことをガイドラインを2005年に制定し改正を行っており、目次や要旨を以下に示す[10]。
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