Loading AI tools
アラブ首長国連邦とイスラエルの間で締結された合意 ウィキペディアから
アブラハム和平協定合意:アラブ首長国連邦とイスラエル国間における平和条約及び国交正常化 (英語:Abraham Accords Peace Agreement: Treaty of Peace, Diplomatic Relations and Full Normalization Between the United Arab Emirates and the State of Israel)[1]、通称アラブ首長国連邦・イスラエル平和条約 (Israel–United Arab Emirates peace agreement) 、 アブラハム合意、アブラハム協定 (Abraham Accord) とも[2]、は2020年8月13日にアラブ首長国連邦とイスラエルの間で締結された外交合意である。
アブラハム和平協定合意:アラブ首長国連邦とイスラエル国間における平和条約及び国交正常化 Abraham Accords Peace Agreement: Treaty of Peace, Diplomatic Relations and Full Normalization Between the United Arab Emirates and the State of Israel | |
---|---|
種類 | 和平協定合意(平和条約及び国交正常化) |
脈絡 | 中東和平 |
起草 | 2020年8月13日(合意) |
署名 | 2020年9月15日 |
署名場所 | アメリカ合衆国 ワシントンD.C・ホワイトハウス |
発効 | 当事国の批准により効力を発する。 |
現況 | ・相互の国家承認 ・イスラエルのヨルダン川西岸地区の併合を保留 ・繁栄に至る平和を前提としたパレスチナ・シリア問題の解決(東エルサレム全域・ヨルダン川西岸の約3割と、ゴラン高原のイスラエル領有を事実上容認) |
調停者 | |
署名国 |
|
締約国 | |
批准国 | 第5次ネタニヤフ内閣 (2020年10月12日) |
言語 | 英語 |
この用語については、アラブ首長国連邦とイスラエルの間の合意に止まらず「UAEとバーレーンとを皮切りとして,その後スーダンやモロッコがこれに倣って陸続としてイスラエルとの関係正常化に踏み出した現象を総括してアブラハム合意と呼ぶ。[3]」とすることもある。
アブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の始祖でかつユダヤ民族(イサク)とアラブ民族(イシュマエル)の共通の父祖であるアブラハムの名に因んで「アブラハム合意」と名付けられた[4]。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、「アブラハム合意」と命名したのは、米軍のミゲル・コレア少将である。同記事によると、アラブ首長国連邦(UAE)はイエメン内戦に介入していたが、2017年8月11日、皇族のザーイド・ビン・ハムダーン・アール・ナヒヤーンの乗ったヘリが敵軍に撃墜された。UAEはひそかに米軍に救出を要請し、コレアが救出に成功した。コレアがUAEの大きな信頼を得たことから、米国とUAEの交渉が急速に進んだという[5]。
2020年8月13日、アメリカ大統領のドナルド・トランプが、アブダビ皇太子のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン、イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフとの電話会談をホワイトハウスの執務室で発表する形で合意が明らかとなった[6]。
この合意によりアラブ首長国連邦は1979年のエジプト・イスラエル平和条約、1994年のイスラエル・ヨルダン平和条約に次いでイスラエルと国交正常化したアラブ世界の国で三番目となる[2][7]。同時にイスラエルはヨルダン川西岸地区の併合計画を保留することも合意した[8][9][10]。ヨルダン川西岸地区は1967年のイスラエルによる軍事侵攻によって事実上イスラエルの支配下に置かれていた地区である[11][12][13]。
両国の国交正常化を促したのはイランとの緊張が高まったことによる。アラブ首長国連邦が独立した1971年以降、長年アラブ首長国連邦はイスラエルを"敵"として認識していたが[14]、両国のイランとの緊張が高まったことによりアラブ首長国連邦とイスラエルは水面下で関係を深めていた[15] 。2015年7月14日にイラン核協議に関する最終合意がなされるも、イスラエルはイランが核兵器開発計画を秘密裡に実行していることを疑っており(イランはこのことについて否定している)、イランの核兵器開発計画によって周辺国の治安に影響を与えると考えたアラブ首長国連邦とイスラエルは非公式に軍事協力などを結んでいた[15]。さらにイランはシリア内戦やイエメン内戦といった代理戦争において反米勢力を支援しており、このことが親米国家のアラブ首長国連邦とイスラエルとの対立を招いた[16][17]。
2020年9月11日にはトランプ大統領はバーレーンもイスラエルと国交正常化で合意したことを発表した[18]。15日、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーンはホワイトハウスでアブラハム合意に調印した[19]。
日本の飯山陽は、国交正常化はUAEが「基本的にパレスチナの大義」を捨てたものであり、「我々のような自由主義国、民主主義陣営にとっては極めて喜ばしい、歓迎すべきもの」と主張した。また、国交正常化への批判は、パレスチナ自治政府のアッバースやハマースのハニーヤら、(援助を)「自らの懐に入れ、あるいは武装テロ組織の資金として用い、破壊行為と殺戮を扇動してきた」者たちが「世界平和に反対」するものであると非難した[20]。
佐々木伸と『朝日新聞』は、一連の国交正常化はパレスチナを孤立させ、米国・イスラエルによる和平案「繁栄に至る平和」を呑ませる思惑があると解説した[21][22]。
立山良司は、UAEはイスラエルの技術を必要としており、アラブ諸国は「イスラエルへの接近にさまざまなメリットを見出した」と指摘した。他方、パレスチナ人が「基本的人権をほとんど奪われている」状況に変わりは無く、二国家解決が現実味を失った以上、イスラエルはこれからもずっと、「占領下のパレスチナ人と対峙し続けなければならない」と指摘した。また、国際刑事裁判所によって、イスラエルが戦争犯罪で起訴される可能性を指摘した[23]。
2020年9月21日、オンラインで「中東の平和:安全保障と繁栄のための新たな道を拓くために」と題されたシンポジウムで議論された(アブダビのTRENDSリサーチ&アドバイザリー主催、アブダビのアル・イッティハードとイスラエルのイェディオト・アハロノト協力)。アラブ首長国連邦・イスラエル・バーレーン・米国・フランスから14人の専門家が参加し、アブラハム合意によってもたらされる可能性などを議論した[24][25]。
イスラエルの人権団体・ベツェレムは、イスラエルは名目上、ヨルダン川西岸の併合を棚上げしたが、実質的に併合し、国際法に従わない形で占領統治を続けている現実に変わりは無いと批判した。また、イスラエルによる併合の動きに対し、国際社会は具体的な制裁で脅すという「珍しい措置」を取ったが、イスラエルが当面併合を行わない見返りに「いつも通りのビジネス」に戻り、「イスラエルが代償を払わない、継続的な奴隷制政策を正当化」したと批判した[26]。
2020年9月4日、米国の仲介でコソボとセルビアが経済関係正常化で合意した。同時に、イスラエルはコソボと国交正常化し、コソボの在イスラエル大使館を、イスラム教が多数派の国で初めてエルサレムに置くことを明らかにした。また、セルビアの在イスラエル大使館のエルサレム移転を発表した[27]。ただし、セルビアの在イスラエル大使館移転については、米国の独断だったのでは無いかという報道もある[28]。セルビアはその後、「イスラエルがコソボを独立国家と認めるならば、セルビアは大使館を移転しない」と軌道修正した[29]。
10月23日、米国の仲介で、イスラエルとスーダン暫定政権が国交正常化で合意した[30]。ただし、スーダンは2019年スーダンクーデター後の暫定政権であるため、正式な国交正常化は民政移管後になる見込である。
11月10日、米国はUAEがイスラエルと国交正常化したことを受けた措置としてステルス戦闘機のF-35および無人攻撃機のMQ-9 リーパーの売却を承認し、議会に通知した[31]。UAEへのF-35の売却に反対してきたイスラエルは容認する意向を10月23日に発表していた[32]。
12月10日、米国の仲介で、イスラエルとモロッコが国交正常化で合意した。米国は見返りに、西サハラのモロッコ領有権を承認した[33][34][35]。
12月12日、イスラエルとブータンが国交正常化で合意した。米国の仲介では無く、イスラエル単独での合意であるという[36]。
レバノンはイスラエルに対しては国家承認をしておらず、イスラエル当局者との接触を法律で禁じている[37]。両国沖の地中海には、イスラエル寄りに「カリシュ・ガス田」、レバノン寄りに「カナ・ガス田」があり、その開発を急ぐ意味もあって海洋境界について2020年10月から断続的に交渉してきた[37]。イスラエルは2022年10月11日に境界画定で合意したと発表し、交渉を仲介したアメリカ合衆国と、イスラエルに抵抗運動を続けてきたヒズボラがそれぞれ妥結への寄与を主張した[38]。同年10月27日に合意最終案への署名に至り、イスラエルの首相ヤイル・ラピドは「(レバノンが)イスラエルを国家として認めた」と主張したが、レバノンのミシェル・アウン大統領は「和平協定ではない」と否定した[37]。
駐日イスラエル大使ギラッド・コーヘンは『毎日新聞』への寄稿で、この協定では、レバノンとの国境にあるイスラエル領ロシュ・ハニクラの5キロメートル沖に、イスラエルが2000年以降設置している浮標を 国境とする現状を維持して排他的経済水域(EEZ)の端まで境界を確定し、さらに今回の協定および両国海域にまたがる海底資源が将来発見された場合へのアメリカ合衆国の関与を定めており、レバノンによるイスラエルの事実上の国家承認を意味すると説明している[39]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.