Loading AI tools
ウィキペディアから
ヴァルキリー (Valkyrie) は、イギリスの自動車メーカー、アストンマーティンが製造・販売する、高級スポーツカー(ハイパーカー)。フォーミュラ1 (F1) のレッドブル・レーシングとの共同プロジェクトとして開発された。
ヴァルキリー (Valkyrie) とは北欧神話に登場する、戦死した英雄の魂を導く半神「ワルキューレ(Walküre)」の英語表記である[1]。アストンマーティンの特別なモデルに受け継がれてきた”V”のイニシャルが与えられている[1]。
ヴァルキリーはアストンマーティンに宿るスポーツカーの伝統と、レッドブルが持つF1の先端技術を融合した究極のロードカーとして企画された。開発はQ by アストンマーティン・アドバンスド、レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ、AFレーシングAGの協力により行われ、アストンマーティンのマレック・ライヒマン、レッドブルのエイドリアン・ニューウェイという双方のデザイン責任者が指揮している[2]。
「空力の鬼才」としてF1マシンをデザインしてきたニューウェイ自身、ロードカーの設計は長年の夢であったという[3]。2014年8月、F1シーズンの夏季休暇中にアイディアが具体化し、9カ月間のシミュレーション作業を経て、自動車メーカーとの提携を選択した[4]。アストンマーティンをパートナーに選んだのは、お互いのファクトリーが30マイル(約48 km)ほどしか離れていなかったことと、インフィニティとのパートナーシップを通じて、アストンマーティンの経営陣と面識があったためである[4]。
2016年3月にプロジェクトを正式発表し、諸々の情報公開を経て、2019年内の納車開始にむけて準備が進められたが、開発期間の延長や1台当たり2,000時間以上の製作時間を要することから、デリバリー開始は2021年までずれこんだ[5]。価格は200〜250万ポンド(約3億2,000万〜4億円)[6][5]。生産台数は150台限定で、予約完売となっている。日本には11台がデリバリーされる予定[7]。
また、バリエーションとして、オープントップモデルのヴァルキリー スパイダー(85台)[8]と、サーキット走行に特化したヴァルキリーAMR Pro(40台)[9]が限定生産される。
さらに、両社はハイパーカープロジェクトの第二弾として、ヴァルハラ (Valhalla) の開発を発表している[10]。ヴァルハラとは、北欧神話でワルキューレに選ばれた戦士の魂が集められる主神オーディンの宮殿である。
日付はイギリス現地時間。
エンジンは英国のエンジンビルダー、コスワース製の6,500 cc自然吸気V型12気筒エンジン(バンク角65度)をミッドマウントする。V型6気筒ターボという選択肢も考えられたが、ストレスマウントの振動やギアボックスの軽量化、エンジンサウンドの好みという点で自然吸気V12が搭載された[4](ヴァルハラではV6ターボを搭載予定)。最高回転数は11,000 rpm、最大出力は10,500 rpmで1,014馬力、最大トルクは7,000 rpmで740 Nm[22]。排ガス規制に適合するロードカー用自然吸気エンジンとしては、世界で初めて1,000馬力に達した、とされる[22]。
ハイブリッドシステムはF1に導入された運動エネルギー回生システム (KERS) に似た機構で、インテグラル・パワートレイン製の電気モーターとリマック製のバッテリーで構成される[22]。162馬力・280 Nmのモーターアシストを加えると、最大出力は10,500 rpmで1,176馬力、最大トルクは6,000 rpmで900 Nmとなる[22]。
車体はカーボン(CFRP)製で、車両重量は約1,000 kgに抑えられ、パワーウェイトレシオ1:1 (1.0 kg/PS) を謳っている[6]。細部まで軽量化を徹底しており、フロントノーズのアストンマーティンのウィングバッジは厚さ70ミクロン(0.07 mm)のアルミを溶着している[23]。電気モーターの搭載により、スターターモーターやオルタネーター、リバースギアが不要になり、重量増を相殺している[4]。
ニューウェイはゲーム「グランツーリスモシリーズ」のために手掛けたレッドブル・X2010〜X2014のデザインを応用しており[24]、空力主義のレーシングカーを思わせる大胆なボディスタイリングになっている。フロントグリル部分は大きく開口し、バンパーの代わりにフラップ付きの吊り下げ式ウィングを装備している。キャビンとエンジンルームの底はティアドロップ形状で、車体下面は大きなトンネル状になっており、ここを通過する気流のヴェンチュリ効果によってダウンフォースを獲得する。プロトタイプのAM-RB 001から実車仕様のヴァルキリーに進む段階で、ディフューザーやテールランプなどリアセクションのデザインが変更されている(下の画像参照)。
コクピットは並列2座席で、ガルウィングドアを採用。乗員はフォーミュラカーのように足を持ち上げた格好で乗車する。身長2mの乗員でも自然なポジションをとれるようにしているが、2人分のスペースを確保するため、運転席と助手席をやや前後にずらして設置している[25]。スイッチ類は脱着式ステアリング上に集約される。
オープントップモデルの「スパイダー」はシザーズドアを採用。ルーフを取り外した状態でも空力パフォーマンスを維持するよう、アクティブエアロダイナミクスシステムとアクティブシャシーシステムのチューニングが見直されている[26]。
テクニカルパートナーとしては、リカルド(7速セミAT)、マルチマティック(カーボンコンポジット)、アルコンおよびサーフェス・トランスフォームズ(ブレーキシステム)、ボッシュ(エレクトロニクス)、ワイパック(照明)、ミシュラン(タイヤ)が挙げられている[27]。
コードネームAM-RB 002と呼ばれていたサーキット専用(トラックバージョン)のヴァルキリーは、AMR Proというサブネームを与えられた[9](AMRはアストンマーティン・レーシング)。
当初は公道仕様のヴァルキリーから最大限のパフォーマンスを引き出すことをテーマにしていたが、後述するル・マン・ハイパーカー(LMH)計画においてル・マン24時間レースの総合優勝を狙うレースカーとして開発が進められた。その後、LMH計画の延期により、レースのレギュレーションの制約から解放され、究極のパフォーマンスを追求するマシンへと生まれ変わった[28]。
交通法規上必要な装備や快適性に関わる部品を取り除き、ウィングの大型化、軽量ボディワークへの換装、レース用カーボンブレーキディスク / キャリパーの採用、エンジン・電子制御系・サスペンションのチューンなどを行っている[29]。ホイールはロードモデルよりも小さい前後18インチ。最高速度は400km/h(予測値)、3.3 Gを超えるコーナリングフォースと3.5 Gを超える減速フォースに耐えうるとしている[29]。ル・マン24時間レースの行われるサルト・サーキットの1周ラップタイムは3分20秒を目標としている[30]。
2020年末をもってレッドブル・レーシングとのスポンサー契約を解消したためヴァルキリープロジェクトを一時延期していたが、翌2021年6月末に正式な製品化と40台の限定生産を発表した。購入特典は、「FIA公認サーキットでアストンマーティン主催のサーキット・デイに参加する権利」が付与される[31]。なお既存のレース等のレギュレーションは一切無視して開発されているため、サーキット・デイ以外でのレース参戦の予定はない[30]。
カテゴリー | LMH |
---|---|
コンストラクター | アストンマーティン |
先代 | アストンマーティン・AMR-One |
主要諸元 | |
シャシー | カーボンファイバーモノコック |
サスペンション(前) | 独立懸架 ダブルウィッシュボーン プッシュロッド |
サスペンション(後) | 独立懸架 ダブルウィッシュボーン プッシュロッド |
エンジン | コスワース 6.5 L V12 自然吸気 ミッドシップ, 縦置き |
トランスミッション | 7速 シーケンシャル・セミオートマチック |
タイヤ | ミシュラン |
主要成績 | |
チーム | ハート・オブ・レーシングチーム |
初戦 | 2025年のデイトナ24時間レース |
ヴァルキリープロジェクトが始動した2016年より、アストンマーティンはレッドブルF1チームのスポンサーとなり、2018年にはタイトルスポンサーに就任して「アストンマーティン・レッドブル・レーシング」の名でF1に参戦した。レッドブルは2019年よりホンダ製パワーユニットを搭載したが、アストンマーティンはタイトルスポンサーを継続した[32]。
スポーツカーレースのFIA 世界耐久選手権 (WEC) において2020-2021シーズンより最高峰クラスにハイパーカー規定が導入されることを受け、アストンマーティンは2020年よりヴァルキリーでWECにワークス参戦することを表明した[33]。2021年は同社のル・マン24時間レース参戦100周年にあたる[34]。また、AMR Proのカスタマー供給も視野に入れている[35]。
2020年、ローレンス・ストロール率いるコンソーシアムがアストンマーティンを買収したことで状況は変化した。ストロールは所有するレーシング・ポイントチームを改称し、2021年より「アストンマーティンF1」としてF1にワークス参戦することを決定。レッドブルとのスポンサー契約を2020年一杯で終了するとともに、WECのハイパーカープログラムを再検討し、参戦を保留すると発表した[36]。
しかし日本時間2023年10月5日、突如として2025年より同車を用いてハイパーカークラスに参戦することが発表された[37]。エンジンは市販車同様のコスワース製6.5リッターV12エンジンを使用する一方で、ハイブリッド機構は搭載しない。またWEC以外にウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPクラスへの参戦予定も明らかにしており、LMHとしてWEC/IMSA双方のシリーズに参戦する初のチームとなる。
2024年6月、アストンマーティンとパートナーシップを結ぶハート・オブ・レーシングチームは、2025年のWECに計2台の「アストンマーティン・ヴァルキリー AMR-LMH」を投入することを確認した[38]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.