第2次トランプ政権
トランプ大統領の政権 (2025-) ウィキペディアから
第2次ドナルド・トランプ政権(だい2じドナルド・トランプせいけん、英語: Second Presidency of Donald Trump、Donald Trump administration)は、2025年1月20日にドナルド・トランプが就任して発足した。2017年から2021年まで第45代大統領を一期務めた。2024年の大統領選挙で民主党のカマラ・ハリス前副大統領に勝利した。1893年のグロバー・クリーブランドに続いて132年ぶり、史上2人目の非連続任期の大統領に史上最年長で就任、弾劾された後に就任した史上最初の大統領、さらに2024年5月の起訴で重罪の有罪判決を受けた後に就任した史上最初の大統領である。
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国内政策
要約
視点

トランプの2期目の大統領としての政策は、公式の政策計画集であるアジェンダ47で提案されていた[1][2]。
2025年1月20日に2期目の大統領職を開始したドナルド・トランプは就任早々、WHOからの離脱への指示、2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の受刑者の恩赦を含めた大統領令に署名した[3][4]。トランプは就任前から「就任初日だけ独裁者になる」と公言していた[5]。
妊娠中絶
トランプは2024年4月、妊娠中絶は州に委ねられるべきだと宣言した。その上で、彼はTimeのインタビューで、州に妊娠を監視することを許可し、妊娠中絶を行った患者を刑事告発することを許可すると述べた[6]。トランプは、アリゾナ州最高裁判所が母親の命を救う場合を除いて中絶を犯罪とする1864年の法律を支持したPlanned Parenthood Arizona対Mayes(2024年)の判決を批判し、連邦政府による中絶禁止法には署名しないと述べ[7]、10月にも自身の立場を再確認した[8]。
気候変動と環境
2024年4月にマール・ア・ラゴで開催された非公開の夕食会で、トランプは化石燃料の企業に対して、当選すれば環境規制を緩和すると述べ、自身の大統領選挙キャンペーンへの寄付を推奨した[9]。
トランプは「地球温暖化対策は新たな緑の詐欺だ」と主張して民主党政権が加盟したパリ協定から脱退する考えを示している。また、ガソリン価格の抑制策として化石燃料の増産に取り組むとしている。再生可能エネルギーや電気自動車への補助金についても廃止または大幅な縮小に取り組むとしている[10]。
民間の気候変動対策への圧力も強めており、銀行間の国際的な枠組みである「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ」を反トラスト法違反と主張して攻撃し、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース、ステート・ストリート、バンガード、ブラックロックなどを脱退させることに成功した[11]。
刑事司法と法執行機関
トランプは、過去50年間で凶悪犯罪発生率が最低水準となった2024年の後に就任した[12][13]。AP通信は、犯罪数が歴史的に減少しているにも関わらず、「誤解を招く選挙キャンペーンのレトリック」が原因で多くの投票者が不安を感じていると報じた[14]。
大統領の恩赦と減刑
大統領の移行期間中、トランプはアメリカ合衆国司法省によるワシントンDCにおける起訴とフロリダにおける起訴を取り下げさせると予想されていた。ワシントン・ポストによると、特別検察官のジャック・スミスは起訴を早期に終了し、トランプが就任する前にメリック・ガーランド司法長官に最終報告書を提出することを検討した[15]。最終報告書は2025年1月7日に提出されたが、報告書にはトランプを裁判にかける訴追は含まれなかった[16]。
多様性・公平性・包摂性
2025年1月、トランプはDEI(多様性、公平性、包括性)の慣行を終わらせることを目的とした2つの大統領令と、トランスジェンダー問題に焦点を当てた1つの大統領令に署名した[17]。2025年2月には、アメリカ合衆国国務省のアメリカ外交官養成局がDEIに関連する「数千ページに及ぶ研修資料へのアクセスを停止」し、内国歳入庁が「税金や金融に関する無難な一節を含め、手続きハンドブックから『多様性』、『公平性』、『包括性』という言葉が含まれている言及をすべて削除した」と報じられた。
経済
トランプはバイデン政権から、経済成長の拡大、低い失業率、インフレの低下を伴う、回復力のある経済を引き継いだ[18][19][20][21][22]。トランプが2025年1月に就任した時点で、季節調整済み失業率は4%であり、個人消費支出物価指数で測定されたインフレ率は、2025年には2.2%から2.4%の範囲になると予測されていた[23][24]。ニューヨーク・タイムズと経済政策研究所は、経済状況を「2001年にジョージ・W・ブッシュが大統領に就任して以来、新しく選出されたどの米国大統領に引き継がれた経済よりも良好な状態」と評した[25][26]。しかし、世論調査では、多くのアメリカ国民が依然として2021年から2023年の急速なインフレーションの影響を感じており、そのことがトランプの再選に部分的に貢献したことが判明している[22][27]。
関税政策
2024年の選挙キャンペーン中、トランプはすべての国、特に中国からの輸入品に対してより高い関税を課すことを約束していた[28]。選挙の勝利後の2024年11月25日、トランプはカナダとメキシコに25%の関税を課し、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名すると述べた[29]。2024年11月30日、トランプはBRICS諸国が新たなBRICS通貨を創設したり、アメリカ合衆国ドルに代わる準備通貨を推進しようとした場合、100%の関税を課すと脅した[30]。
トランプは、当初掲げていた就任当日の関税賦課は見送ったものの[31]、不法移民や薬物をめぐる取り組みが十分ではないと主張してメキシコやカナダに25%、中国に5%の追加関税を実施すると主張した。その根拠法として国際緊急経済権限法による国家経済緊急事態宣言の発令を検討している[32]。またその他の国々についても一律で10%から20%と追加関税を課す考えを表明している[33]。
教育
トランプは最初の任期中、アメリカ合衆国教育省への資金を削減しながら、同省を批判し続けた。2024年の大統領選挙キャンペーンでは、トランプは教育省を廃止し、教育の管理を個々の州政府に引き渡すというアイデアを積極的に推進していた[34]。
連邦政府と行政権

第2次トランプ政権は、単一行政権理論を最大限に解釈することを追求してきた[36][37]。大統領の権限を制約している合衆国議会に関する複数の法律やアメリカ合衆国憲法の複数の部分に異議を唱え、行政府に広範な権限が存在するという主張を行っていることで注目されている[38][39][40]。トランプは、FCC(連邦通信委員会)、FEC(連邦選挙委員会)、SEC(証券取引委員会)などの独立した連邦機関を掌握するための大統領令を発令し、報道内容が気に入らないジャーナリストやメディア組織を攻撃し、アメリカ軍やFBIの責任者に自身への忠誠心の高い人物を配置し、自身の政治的利益を促進するために司法省を利用し、裁判所の命令を無視したり自身に不利な判決を下した判事を弾劾することも示唆している[41]。
トランプは2025年2月にTruth SocialとXに「He who saves his Country does not violate any Law(国を救う者は、いかなる法も侵害することはない)」と書き込み、同日ホワイトハウスアカウントがXで再投稿した[42][43]。その直後の2月19日、ニューヨークの渋滞税に関する投稿で、トランプは「LONG LIVE THE KING(国王万歳!)」と発言して自身を王に例えた[44]。その月の後半、トランプはメイン州知事のジャネット・ミルズに対して、トランスジェンダーのアスリートを女子スポーツから禁止する自身の大統領令に「従う」ように伝え、さもなければ「あらゆる連邦資金」を引き上げる、なぜなら「我々が連邦法である」からだ、と言った[45]。
DOGE(政府効率化省)
トランプ政権は、イーロン・マスク[46]を長とする暫定組織である政府効率化省(DOGE)を設立し、その上位機関として機能させるために、United States Digital Service(アメリカ合衆国デジタルサービス)をUnited States DOGE Service(アメリカ合衆国DOGEサービス)と改名した。DOGEを設立する大統領令によると、DOGEはコスト削減策を提言する任務を負う部署であり、その正式な目的は「政府の効率と生産性を最大化するために連邦政府の技術とソフトウェアを近代化する」ことである[47][48][49]。
USAID

トランプとDOGEは、当初人道支援プロジェクトを実施・監視する任務を負っていた10,000人規模の機関である[50]USAID(アメリカ合衆国国際開発庁)の大部分を解体しようと試みている[51]。USAIDの批判者たちは、プロジェクトの多くが実際にはそれほど人道的ではなく、資金の多くがそれほど有効に使われていないと主張している。
連邦政府による資金提供の凍結
2025年1月27日、トランプ政権の行政管理予算局(OMB)は覚書M-25-13を発表し、連邦政府に対して、翌日から「連邦政府の財政援助の義務または支出に関連するすべての活動、および(トランプの)大統領令によって影響を受ける可能性のあるその他の関連する政府機関の活動(外国援助、非政府組織、DEI、Wokeジェンダー・イデオロギー、グリーン・ニューディールに対する財政援助を含むが、これらに限定されない)を一時的に停止する」ための措置を講じるよう命じた[52]。覚書はさらに、この覚書によりトランプ政権は「法律および(トランプの)優先事項に沿って、これらのプログラムに対する資金の最適な用途を決定できる」と述べているが、一方で「メディケアまたはソーシャルセキュリティーの給付」は影響を受けないように除外された[53]。審査対象として、2,600の連邦プログラムが選出された[54]。この覚書により、連邦政府職員、議員、非営利団体の間には非常に大きな不確実性や不安が引き起こされた[54]。
忠誠者テストと大量解雇
トランプ政権(2期目)が始まると、求職者に対してトランプ大統領の政策への忠誠心を審査するために、ホワイトハウスの審査チームが各連邦機関に派遣された。就任初日、トランプは、能力主義に基づく連邦政府の採用慣行と「我が国の憲法への献身」を回復すると主張する大統領令に署名した[55][56]。政府機関繰り延べ辞職プログラムの一環として、トランプ政権は連邦政府機関の職員に「忠誠心」を要求している[57]。トランプ政権下の司法省は、政治的に中立な言動を行う慣行から逸脱し、「不服従(insubordination)」と「忌まわしい行為(abhorrent conduct)」に関する覚書を発行し、トランプの支出削減努力に反対する者たちは「地の果てまで」追いかけていくことを誓った。これは、現職および元法執行官によって、トランプに十分に忠実でない捜査官に対する脅迫キャンペーンだと評された[58]。国家情報機関および法執行機関のトップの地位の候補者には、トランプへの忠誠心テストが課された。候補者は、1月6日の事件(アメリカ合衆国議会襲撃事件)が「内部犯行(inside job)」であったかどうか、2020年の選挙が「盗まれた(stolen)」選挙であったかどうかについて、イエスかノーで答えるよう求められた。両方の質問にイエスと答えなかった者は採用されなかった[59]。
裁判官への反応
2025年2月に連邦地裁のポール・エンゲルマイヤー判事がDOGEがアメリカ合衆国財務省の決済システムにアクセスすることを阻止する判決を下した後、トランプは「率直に言って、そんな決定を下すことを許されるべき判事はいない」と述べ、副大統領のヴァンスは「判事は行政府の正当な権限をコントロールすることは許されていない」とコメントした[60]。
複数の連邦裁判官がトランプ政権の行動に対して不利な判決を下した後、2025年2月にホワイトハウス報道官のカロライン・リービットは、「ホワイトハウスで憲法上の危機が起きている」ということを否定し、代わりに「裁判官たちは司法活動家として行動している」、「真の憲法上の危機が起きているのは司法府内だ」と主張した[61][62]。一方、イーロン・マスクは「即座に複数回に渡って裁判官の弾劾を行うこと(an immediate wave of judicial impeachments)」を提案した[63]。
医療
11月14日にフロリダ州のマール・ア・ラゴで行われた演説で、トランプはロバート・F・ケネディ・ジュニアを保健福祉長官に指名すると発表した。ケネディは反ワクチン陰謀論を繰り返し支持しているため、この任命は物議を醸した。アメリカ公衆衛生協会の理事は、ケネディは「すでに国内の健康に甚大な害を与えており」、ケネディは「医療に関する経歴を持たない人物でもある」と述べた[64]。12月、トランプはロバート・F・ケネディ・ジュニアと子供の予防接種プログラムの廃止について話し合っていることを明らかにし、ワクチンと自閉症に関連があるという科学的に反証された主張を推進した[65]。
移民

ニューヨーク・タイムズによると、トランプは、第1次政権中に課した入国管理政策を拡大し、復活させる意向を示している。その中には、イスラム教徒に対する渡航禁止、感染症を保有していると主張して難民申請者を追放すること、移民・税関執行局(ICE)の大量強制送還を支援するために警察官やアメリカ軍の兵士を派遣すること、広大な拘留収容所を設立することなどが含まれる[66]。トランプは大統領選挙勝利後、こうした強制送還を実施することに「費用は惜しまない(there is no price tag)」と述べた[67]。
LGBTQの人々の権利
トランプは2024年の選挙キャンペーンで、最近のLGBTQ関連政策を覆し、ジェンダーアイデンティティとトランスジェンダーの権利に関する連邦政府のガイドラインを再構築することを目的とした一連の提案を詳述した。トランプは「初日」に、トランスジェンダーの学生が自身のジェンダーアイデンティティに合致するトイレ、ロッカールーム、代名詞を使用する権利を保護するためにバイデン政権が行ったタイトルIXの解釈の拡大を撤回すると述べた。トランプはまた、「批判的人種理論、トランスジェンダーの狂気、およびその他の不適切な人種的、性別に関する、政治的なコンテンツ」を推進する学校への連邦政府による資金援助を廃止することを約束した[68]。
軍隊
2024年11月、トランプの移行チームは、アフガニスタンからの撤退に関与した軍当局者のリストを作成し、彼らを軍法会議にかけることができるかどうか調査していたと報じられた。さらに、一部の当局者が反逆罪に該当する可能性があるかどうかを含め、撤退を調査するための委員会を設立することも検討していた[69]。トランプは選挙活動中、アメリカの領土で軍隊を利用して「内なる敵(the enemy from within)」と戦うことを約束し、その敵を「急進左派の狂人(radical left lunatics)」やアダム・シフのような民主党の政治家だと表現した[70][71]。就任後、トランプは軍隊を政治化し、文化戦争の話題を導入していると評された[72]。
宗教
ドナルド・トランプの大統領選挙キャンペーンは、キリスト教ナショナリズムのシンボル、レトリック、アジェンダを利用している[73]。トランプはキリスト教の宗教的イメージを自身のイデオロギーに織り込み、それを「無神論者、グローバリスト、マルクス主義者」に対する「正義の十字軍」として特徴づけようとしている[74]。
科学

大統領令に対応するために、LGBTQ問題、ジェンダー、気候変動、人種の多様性に関連のある科学研究資金が凍結されたり、関連するデータが削除されたりした[76][77]。さらに、連邦政府全体に渡る様々な科学研究機関で大規模な解雇が実施された。
対外政策
要約
視点


トランプの2期目の外交政策は、帝国主義的政策と膨張主義的政策の両方を混合したものとして描写されている[78][79][80][81]。トランプは現実主義的かつ孤立主義的な「アメリカ・ファースト」外交政策アジェンダを積極的に推進してきた[82][83]。同盟国との関係は取引的であり、無関心なものから敵対的なものまで様々で、同盟国に対して経済的な関税を課したり領土を併合すると脅迫した[84][85]。トランプは、ロシアのウクライナ侵攻においてロシアの側に付き[86][85][87]、1945年以降のルールに基づく自由で開かれた国際秩序の崩壊と多国間主義の決裂を招いたと描写されている[88][82][83]。
領土的野心
トランプは就任演説でマニフェスト・デスティニーを公言した初めての大統領となり[89]、火星に星条旗を立ててアメリカの影響力を宇宙に拡大していくとも述べた[90]。
トランプは1期目の際もグリーンランド購入の意向を表明していたが、2期目就任に先立ちさらに野心を隠さなくなっている。デンマークに対して、グリーンランドの領有権を放棄しなければ高関税などの経済制裁や軍事的な実力行使も辞さないと発言している[91]。
また、カナダに対しても2024年12月にカナダから輸入される全ての製品に一律75%の追加関税を課すことを表明したことを受けて、ジャスティン・トルドー首相と行われた会談において、「カナダは貿易や移民の問題に対処しないことで生じる高い関税で経済が疲弊するのであればアメリカの51番目の州になるべきだ」と主張した[92]。
2025年1月8日には、SNSにカナダやグリーンランドをアメリカ領土であると主張する地図を投稿した[93]。
1月7日には、メキシコ湾を「アメリカ湾」に名称変更することを提案した。これに対し、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、メキシコ湾という名称は何世紀にもわたり国際的に認められてきたものだと反論し、その上で北アメリカ大陸にスペイン語で「アメリカ・メヒカーナ」(英語でメキシカン・アメリカ)と書かれた1600年代の地図を示しながら、北米の名称をこれに変更するよう逆提案した[94]。
また、かつて米国がパナマに返還したパナマ運河についても中国が実質的に支配してるという見解を示した上で「パナマは想像を絶する通航料をぼったくっている」として米国に管理権を返還させると主張している[95]。
2025年2月には2期目の就任後初めてホワイトハウスで会談した外国首脳であるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との共同会見で、パレスチナのガザ地区をアメリカが領有して住民を他国に移住させて土地を更地にしたのちに再開発する意向を示し[96]、米軍の派遣も「必要であれば、そうする」と示唆した[97]。
外交
ロシアのウクライナ侵攻に関しては、かねてから自分が大統領に就任すれば1日以内に停戦合意を仲介すると主張しており、実際1月22日にはウラジーミル・プーチン大統領がウクライナでの戦争を終わらせなければ、ロシアに高関税と追加制裁で対応すると警告したと報じられている[98]。
米中貿易戦争や新型コロナウイルス感染症の世界的流行 (2019年-)で対立した1期目の流れを引き継ぐ形で中国に関しては対中強硬派を政権の要職に据えているが、一方で大統領就任式での前例がない習近平への招待や就任して間もなく電話協議を行って個人的に良好な関係を強調するなどトランプ自身は硬軟織り交ぜた対中姿勢も示している[99][100]。台湾問題に対しては、台湾を「アメリカから半導体産業を盗んだ」と非難して台湾の半導体に100%の関税を行うと述べており[101][102][103]、台湾有事に関する意見では「決してコメントしない」と発言し[104]、就任前には150%から200%の対中関税での対応のみに言及していた[105][106]。また上述の様に交渉の余地があるとしてTikTokの禁止措置を延期させて「たくさんある中国製品のなかで、おかしな動画を見てる若者を監視するのが、中国にとって重要だろうか?」と安全保障上のリスクに懐疑的な姿勢を示し[107]、アメリカの株式市場に打撃を与えた中国製人工知能のDeepSeekについても「ポジティブに見ている」と評価し[108]、「私は対中関税をむしろ使いたくない」と述べてあくまで関税を交渉に強力な手段と認識する発言もしており[109][110]、安易な対中強硬論者とは言い難い側面を持つ。
ネオコン的・反共主義的と思われたルビオ国務長官も「台湾の独立には反対」と表明するなど中国に対してはディールを前提とした軟硬入り混じる対応を取っている[111]。
2025年のトランプ・ゼレンスキー会談

→詳細は「2025年トランプ・ゼレンスキー会談」を参照
2025年2月28日、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプとウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは、ワシントンD.C.のホワイトハウスで、2022年ロシアのウクライナ侵攻の中、非常に対立的な会談を行い、その模様が生放送された[112]。会談は予想されたウクライナ・アメリカ鉱物資源協定の署名が行われることなく、また明確な戦争の解決策も示されることなく、突如打ち切られた[113][114]。会談の中で、トランプとアメリカ合衆国副大統領J・D・ヴァンスはゼレンスキーを批判し、しばしばゼレンスキ―の発言の声をかき消すような形になった。この会談は、アメリカ合衆国の歴史において、現職の大統領が訪問中の国家元首をカメラの前で公然と批判した初めての事例となった[115]。結局、トランプはゼレンスキーにホワイトハウスから出ていくように求め、交渉は打ち切られた[116]。
倫理
政治批評家たちにより、トランプの2期目の大統領職は、1期目よりもビジネス活動の禁則や潜在的な利益相反に対するガードレースが少なくなっており、トランプ自身に直接影響がある機会がより多くあると評されている[117][118]。トランプは自分自身や賛同者たちのために汚職を防ぐために行われてきた活動や倫理標準を撤回、縮小したり、自分と関係のある政治家に対する汚職の起訴を取り下げさせたり、詐欺や不正行為を調査する役職である監察総監たちを解雇してきた。ニューヨーク・タイムズは、政府機関や「彼が気に入らない誰もを証拠なしに汚職や犯罪で非難するために、トランプは『薄い空気から』統計を作り上げている」と記述した[119]。
潜在的な利益相反
トランプの2期目の大統領職には、1期目の就任時には存在しなかった多数の潜在的な利益相反がある。株式公開企業のTruth Social、暗号通貨のベンチャー企業、国営団体に関する新しい国外の不動産取引、トランプブランドの商品を販売する複数のブランディングおよびライセンス取引などが存在する[117]。
2024年の大統領選挙キャンペーンは、個人的なビジネスと政治資金調達が「前代未聞で」混同されていたことで注目された[120]。トランプは、大統領選挙キャンペーン用ではない自分の個人アカウントで、59.99ドルの聖書、399ドルのスニーカー、99ドルの「Victory47」コロン、99ドルのトランプブランドのNFTデジタル・トレーディングカードを宣伝した[121][122]。トランプの選挙キャンペーンは、トランプ自身が所有する企業、特にマー・ア・ラゴリゾートとトランプ・ナショナル・ドラール・マイアミで多額の選挙資金を使用していることが知られている[123]。
選挙当選後、トランプは1期目と土曜の倫理的コミットメントの対応を取り、自身のブランディングや不動産への関与を手放さなかった。また、独立した受託者が管理する信託に資産を移すこともしなかった[124]。トランプは自身で正式な倫理ガイドラインを採用しなかった[125]。
暗号通貨のミームコイン
1月17日、トランプは暗号通貨ミームコイン「$Trump」を立ち上げ、宣伝した。このミームコインは数時間以内に50億ドル以上の市場評価額(希薄化後時価総額は270億ドル)に急騰し、トランプは、コインの供給量の80%を所有している自分自身が所有するCIC Digital LLCという企業を通じて個人的な利益を得た[126][127]。2日以内に、$Trumpコインは世界で19番目に評価額の高い暗号通貨となり、総取引価値は130億ドル近く、1月19日までに発行された2億トークン(各64ドルの評価額)を基にすると、合計290億ドル相当の取引があった[128]。
歴史的な評価と世論
評価
Christina Pagel教授は、トランプ政権の最初の数々の行動を「前権威主義国家の特徴に対応する5つの広範な領域」を識別するベン図にマッピングした。これらの5つのドメインは、民主的な制度と法の支配を弱体化して、連邦政府を解体する。贈賄と汚職からの社会的な保護と権利を解体する。反対意見を抑制し、情報を管理する。科学、環境、健康、芸術、教育を攻撃する。攻撃的な外交政策とグローバルな不安定化である[129]。
ジャーナリストのマーティン・サンドゥ(Martin Sandu)と権威主義政治研究者のアレックス・ノリス(Alex Norris)は、ドナルド・トランプの2期目の大統領としての行政権の最大限の解釈について、広範な大統領命令、連邦政府資金の凍結、政敵とメディアに対する行動、2021年の自主クーデータの試みに関与した人々の恩赦、イーロン・マスクのいわゆる政府効率化省の活動、その他同様の活動を自主クーデターの試みであると記述した[130][131]。
動向
要約
視点
2025年
1月20日、数十の大統領令に署名(第2次トランプ政権で署名された大統領令の一覧)。内容は[133]:
- メキシコとの国境に国家非常事態を宣言
- 国境に軍隊を派遣し、壁を追加建設
- メキシコとの国境を越えて来る難民申請者の入国を一時停止
- 国内生まれの子に自動的に米国籍を与えるルールの見直し
- 麻薬カルテルを外国テロ組織に指定
- 難民受け入れプログラムの原則一時停止
- エネルギー非常事態を宣言
- 電気自動車(EV)の普及策の撤廃
- 液化天然ガス(LNG)の新規輸出許可の審査再開
- 米沿岸部の新たな石油・ガス掘削を禁じた前政権の覚書を取り消し
- アラスカのLNGを優先的に開発
- エネルギー開発を阻害する各省庁の規制の見直し
- 人員削減計画ができるまで、政府職員の新規採用の凍結(軍などを除く)
- 政府職員のリモートワークを原則終了
- 「政府効率化省(DOGE)」の新設
- 男性と女性という二つの性のみを認める
- 政府の「DEI(多様性・公平性・包括性)」の取り組み終了
- TikTokのサービス提供の禁止を75日間猶予
- 世界保健機関(WHO)から脱退
- 「パリ協定」からの離脱
- 関税を徴収する「外国歳入庁」の設立の可能性を調査
- 中国人に付与された米国の特許や著作権、商標などの状況を調査
- 連邦議会襲撃事件をめぐって約1500人を恩赦
- アラスカ州の北米最高峰デナリを旧称のマッキンリーに戻す
- メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称
大統領令に対しては、「メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称」についてメキシコ大統領クラウディア・シェインバウムが21日、「私たちにとっても、世界にとっても、メキシコ湾はメキシコ湾と呼ばれ続ける」と反論した[134]。ほか、大統領令に対して22の州の司法長官が21日に、「出生地主義は憲法で規定されていて大統領令は違憲だ」として、東部・マサチューセッツ州の裁判所に差し止めを求める訴えを起こした。司法長官の一人は「大統領は憲法の文言をペンで消すようなことはできない」と非難した。ほか、大統領令で設置を命じられた政府効率化省についても、市民団体が活動の停止を求めて提訴している[135]。
また、就任早々「聖域都市」と呼ばれる移民に寛容な都市を狙い撃ちした「史上最大の強制送還」を開始した。拘束した移民を軍用機で南米諸国に送還しており、トランプに投票した人物も容赦なく対象となった[136]。
不法移民を送り込まれたコロンビアは当初「コロンビアからの移民を犯罪者のように扱うべきではない」(グスタボ・ペトロ大統領)として、受け入れ拒否の構えを見せた。しかしトランプが、コロンビアからの全ての輸入品に25%の緊急関税を実施して、1週間後に関税を50%に引き上げ、コロンビア政府当局者に対する入国禁止とビザ(査証)取り消し、コロンビア人や貨物の入国審査・税関手続き強化を発表し、「こうした措置は始まりに過ぎない」と恐喝を行うと、一転して受け入れを表明した。不法移民を巡ってはメキシコも受け入れを拒否したほか、ブラジルも自国民が手錠をかけられ連行されたことを「恥ずべき行いだ」として非難するなど各国との軋轢を生んでいるが、左派政権であるコロンビアを「見せしめ」として脅迫したと見られている[137]。
21日、SNSでトランプは「『米国を再び偉大にする』という我々のビジョンにそぐわない、前政権で任命された1000人超を特定し、排除する」と投稿。マーク・ミリー(反トランプ派)前統合参謀本部議長を政府の諮問委員会から解任し、「お前はクビだ」とコメントした。その他、沿岸警備隊トップで女性のリンダ・フェイガン司令官も解任され、「報復人事だ」との批判も出ている[138]。
22日、ソフトバンクグループなど3社がAIインフラの構築のために、今後4年間で5000億ドル規模を投資する計画を発表。「次世代の進歩を支えるインフラを構築する」と説明し、アメリカ国内で10万人の雇用創設にもつながると強調した[139]。
23日にトランプは、ケネディ大統領暗殺事件・ロバート・ケネディ暗殺事件・マーティン・ルーサー・キング・ジュニア暗殺事件の3事件に関して、政府文書の機密指定を解除するよう命じた。これらは、アメリカ史上最も重大な暗殺事件とされる。トランプは大統領執務室で、「たくさんの人が長い間、何十年もの間、これ(機密解除)を待っている」と記者団に語り、「すべてが明らかになるだろう」と述べた[140]。
24日、第1次トランプ政権でアメリカ国立アレルギー・感染症研究所長を務め、COVID-19対策の重要性を訴えて自身と対立したアンソニー・ファウチの警護を打ち切ったと発表。トランプ自身からは、「彼はたくさん稼いでいる。自分で警護を雇える」と述べた[141]。
同日、政府の十数機関で内部統制の機能を果たしてきた監察総監を、一斉に解任した。監察総監は、政府機関や職員による職務怠慢、不正行為、浪費、職権乱用などの疑いを、独立した立場から調べる役割を担う。第1次トランプ政権でもトランプは監察総監の解任を行っていた[142]。
ほか、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の山火事被災地を訪れ、「政敵」が知事を務める同州で被害が拡大したのは州政府の失態だと繰り返し非難。「こうした火災が発生しても、消火に十分な水があるはずだ」とも述べた。しかしロサンゼルス住民からは「政治の道具」にされることへの憤りが募った[143]。
また、北米最高峰のデナリをマッキンリー山に改称した。デナリは元々ウィリアム・マッキンリーに因む名称であったが、バラク・オバマ政権時代にアラスカ先住民に配慮して、先住民の言葉で「偉大な存在」を意味するデナリに改められたものであるが、トランプはマッキンリーのアメリカ帝国主義を象徴する政策を称賛しており、再改称に踏み切った[144]。
26日、米国内の不法移民を送還する軍用機の着陸を拒否したとして、南米コロンビアに報復措置をとると表明した。具体的な報復措置の内容は[145]:
- 全製品への25%の緊急関税
- 1週間後に関税の50%への引き上げ
- コロンビア政府当局者や同調する国の関係者、支持者に対する入国禁止とビザ(査証)取り消し
- コロンビア人や貨物の入国審査・税関手続き強化
- 経済制裁の徹底
2月1日、イスラム国(IS)幹部らの潜伏先であるソマリアに空爆を実施。トランプ自身はSNSで「洞窟に隠れ、米国と同盟国を脅かしていた。ISや、米国人を攻撃しようとする他の全ての者たちへのメッセージは『必ず見つけ出し、必ず殺す!』ということだ」と投稿した[146]。
また、同日、ウクライナ・ロシア担当特使を務めるキース・ケロッグが、ウクライナに対して選挙を実施するよう要請した[147]。
ほか、カナダ・メキシコからの輸入品全体に25%の関税をかけるための大統領令に署名。中国にも10%の追加関税をかけることを発表した。各国からの薬物・不法移民流入を「緊急事態」と認定し、危機が終わるまで課税を続け、カナダ産の石油や重要鉱物などには10%の軽減税率を適用する[148]。
カナダに対しては2月4日輸入分から適用、報復措置が取られた場合、さらなる税率の引き上げや対象品目の拡大に踏み切るとした。期限は、カナダが合成麻薬フェンタニルや医療用麻薬オピオイドなどの密輸業者の取り締まりと国境警備に協力するまで、メキシコは薬物対策で米国に協力するまでとされている[148]。
カナダ側からは反発が相次いでいる。オンタリオ州のダグ・フォード州知事は「貿易関係からの離脱に非常に失望している。カナダにはもはや、激しく反撃するほかに選択肢はない」とXに投稿。マーク・カーニー元イングランド銀行(中央銀行)総裁もXに「カナダとして統一した対応が必要だ」と投稿した。国内からも、全米鉄鋼労働組合が「私たちは確かに貿易システムの改革を求めてはきたが、カナダを責め立てることは前進への道ではない。カナダの関税政策を撤回してほしい」と再考を求めた[148]。
脚注
関連項目
外部リンク
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