トランプ大統領の政権 (2025-) ウィキペディアから
第2次ドナルド・トランプ政権(だい2じドナルド・トランプせいけん、英: Second Presidency of Donald Trump、Donald Trump administration)は、2025年1月20日にドナルド・トランプが就任して発足した。2017年から2021年まで第45代大統領を一期務めた。2024年の大統領選挙で民主党のカマラ・ハリス前副大統領に勝利した。1893年のグロバー・クリーブランドに続いて132年ぶり、史上2人目の非連続任期の大統領に史上最年長で就任、弾劾された後に就任した史上最初の大統領、さらに有罪判決を受けた後に就任した史上最初の大統領である。
2025年1月20日に2期目の大統領職を開始したドナルド・トランプは就任早々、WHOからの離脱への指示、2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の受刑者の恩赦を含めた大統領令に署名した[1][2]。
トランプは「地球温暖化対策は新たな緑の詐欺だ」と主張して民主党政権が加盟したパリ協定から脱退する考えを示している。また、ガソリン価格の抑制策として化石燃料の増産に取り組むとしている。再生可能エネルギーや電気自動車への補助金についても廃止または大幅な縮小に取り組むとしている[3]。
民間の気候変動対策への圧力も強めており、銀行間の国際的な枠組みである「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ」を反トラスト法違反と主張して攻撃し、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース、ステート・ストリート、バンガード、ブラックロックなどを脱退させることに成功した[4]。
トランプは、不法移民や薬物をめぐる取り組みが十分ではないと主張してメキシコやカナダに25%、中国に5%の追加関税を実施すると主張。その根拠法として国際緊急経済権限法による国家経済緊急事態宣言の発令を検討している[5]。またその他の国々についても一律で10%から20%と追加関税を課す考えを表明している[6]。
トランプは1期目の際もグリーンランド購入の意向を表明していたが、2期目就任に先立ちさらに野心を隠さなくなっている。デンマークに対して、グリーンランドの領有権を放棄しなければ高関税などの経済制裁や軍事的な実力行使も辞さないと発言している[7]。
また、カナダに対しても2024年12月にカナダから輸入される全ての製品に一律75%の追加関税を課すことを表明したことを受けて、ジャスティン・トルドー首相と行われた会談において、「カナダは貿易や移民の問題に対処しないことで生じる高い関税で経済が疲弊するのであればアメリカの51番目の州になるべきだ」と主張した[8]。
2025年1月8日には、SNSにカナダやグリーンランドをアメリカ領土であると主張する地図を投稿した[9]。
1月7日には、メキシコ湾を「アメリカ湾」に名称変更することを提案した。これに対し、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、メキシコ湾という名称は何世紀にもわたり国際的に認められてきたものだと反論し、その上で北アメリカ大陸にスペイン語で「アメリカ・メヒカーナ」(英語でメキシカン・アメリカ)と書かれた1600年代の地図を示しながら、北米の名称をこれに変更するよう逆提案した[10]。
また、かつて米国がパナマに返還したパナマ運河についても中国が実質的に支配してるという見解を示した上で「パナマは想像を絶する通航料をぼったくっている」として米国に管理権を返還させると主張している[11]。
ロシアのウクライナ侵攻に関しては、かねてから自分が大統領に就任すれば1日以内に停戦合意を仲介すると主張しており、実際1月22日にはウラジーミル・プーチン大統領がウクライナでの戦争を終わらせなければ、ロシアに高関税と追加制裁で対応すると警告したと報じられている[12]。
米中貿易戦争や新型コロナウイルス感染症の世界的流行 (2019年-)で対立した1期目の流れを引き継ぐ形で中国に関しては対中強硬派を政権の要職に据えているが、一方で台湾問題に対して台湾を「アメリカから半導体産業を盗んだ」と非難して台湾有事に関する意見では対中関税での対応のみに言及しており[13][14]、「台湾を守ることは絶対にない」と発言している[15]。また上述の様に交渉の余地があるとしてTikTokの禁止措置を延期させて「たくさんある中国製品のなかで、おかしな動画を見てる若者を監視するのが、中国にとって重要だろうか?」と安全保障上のリスクに懐疑的な姿勢を示し[16]、「私は対中関税をむしろ使いたくない」と述べてあくまで関税を交渉に強力な手段と認識する発言もしており[17][18]、安易な対中強硬論者とは言い難い側面を持つ。
1月20日、数十の大統領令に署名(第2次トランプ政権で署名された大統領令の一覧)。内容は[19]:
大統領令に対しては、「メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称」についてメキシコ大統領クラウディア・シェインバウムが21日、「私たちにとっても、世界にとっても、メキシコ湾はメキシコ湾と呼ばれ続ける」と反論した[20]。ほか、大統領令に対して22の州の司法長官が21日に、「出生地主義は憲法で規定されていて大統領令は違憲だ」として、東部・マサチューセッツ州の裁判所に差し止めを求める訴えを起こした。司法長官の一人は「大統領は憲法の文言をペンで消すようなことはできない」と非難した。ほか、大統領令で設置を命じられた政府効率化省についても、市民団体が活動の停止を求めて提訴している[21]。
また、就任早々「聖域都市」と呼ばれる移民に寛容な都市を狙い撃ちした「史上最大の強制送還」を開始した。拘束した移民を軍用機で南米諸国に送還しており、トランプに投票した人物も容赦なく対象となった[22]。
不法移民を送り込まれたコロンビアは当初「コロンビアからの移民を犯罪者のように扱うべきではない」(グスタボ・ペトロ大統領)として、受け入れ拒否の構えを見せた。しかしトランプが、コロンビアからの全ての輸入品に25%の緊急関税を実施して、1週間後に関税を50%に引き上げ、コロンビア政府当局者に対する入国禁止とビザ(査証)取り消し、コロンビア人や貨物の入国審査・税関手続き強化を発表し、「こうした措置は始まりに過ぎない」と恐喝を行うと、一転して受け入れを表明した。不法移民を巡ってはメキシコも受け入れを拒否したほか、ブラジルも自国民が手錠をかけられ連行されたことを「恥ずべき行いだ」として非難するなど各国との軋轢を生んでいるが、左派政権であるコロンビアを「見せしめ」として脅迫したと見られている[23]。
21日、SNSでトランプは「『米国を再び偉大にする』という我々のビジョンにそぐわない、前政権で任命された1000人超を特定し、排除する」と投稿。マーク・ミリー(反トランプ派)前統合参謀本部議長を政府の諮問委員会から解任し、「お前はクビだ」とコメントした。その他、沿岸警備隊トップで女性のリンダ・フェイガン司令官も解任され、「報復人事だ」との批判も出ている[24]。
22日、ソフトバンクグループなど3社がAIインフラの構築のために、今後4年間で5000億ドル規模を投資する計画を発表。「次世代の進歩を支えるインフラを構築する」と説明し、アメリカ国内で10万人の雇用創設にもつながると強調した[25]。
23日にトランプは、ケネディ大統領暗殺事件・ロバート・ケネディ暗殺事件・マーティン・ルーサー・キング・ジュニア暗殺事件の3事件に関して、政府文書の機密指定を解除するよう命じた。これらは、アメリカ史上最も重大な暗殺事件とされる。トランプは大統領執務室で、「たくさんの人が長い間、何十年もの間、これ(機密解除)を待っている」と記者団に語り、「すべてが明らかになるだろう」と述べた[26]。
24日、第1次トランプ政権でアメリカ国立アレルギー・感染症研究所長を務め、COVID-19対策の重要性を訴えて自身と対立したアンソニー・ファウチの警護を打ち切ったと発表。トランプ自身からは、「彼はたくさん稼いでいる。自分で警護を雇える」と述べた[27]。
同日、政府の十数機関で内部統制の機能を果たしてきた監察総監を、一斉に解任した。監察総監は、政府機関や職員による職務怠慢、不正行為、浪費、職権乱用などの疑いを、独立した立場から調べる役割を担う。第1次トランプ政権でもトランプは監察総監の解任を行っていた[28]。
ほか、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の山火事被災地を訪れ、「政敵」が知事を務める同州で被害が拡大したのは州政府の失態だと繰り返し非難。「こうした火災が発生しても、消火に十分な水があるはずだ」とも述べた。しかしロサンゼルス住民からは「政治の道具」にされることへの憤りが募った[29]。
また、北米最高峰のデナリをマッキンリー山に改称した。デナリは元々ウィリアム・マッキンリーに因む名称であったが、バラク・オバマ政権時代にアラスカ先住民に配慮して、先住民の言葉で「偉大な存在」を意味するデナリに改められたものであるが、トランプはマッキンリーのアメリカ帝国主義を象徴する政策を称賛しており、再改称に踏み切った[30]。
26日、米国内の不法移民を送還する軍用機の着陸を拒否したとして、南米コロンビアに報復措置をとると表明した。具体的な報復措置の内容は[31]:
2月1日、イスラム国(IS)幹部らの潜伏先であるソマリアに空爆を実施。トランプ自身はSNSで「洞窟に隠れ、米国と同盟国を脅かしていた。ISや、米国人を攻撃しようとする他の全ての者たちへのメッセージは『必ず見つけ出し、必ず殺す!』ということだ」と投稿した[32]。
また、同日、ウクライナ・ロシア担当特使を務めるキース・ケロッグが、ウクライナに対して選挙を実施するよう要請した[33]。
ほか、カナダ・メキシコからの輸入品全体に25%の関税をかけるための大統領令に署名。中国にも10%の追加関税をかけることを発表した。各国からの薬物・不法移民流入を「緊急事態」と認定し、危機が終わるまで課税を続け、カナダ産の石油や重要鉱物などには10%の軽減税率を適用する[34]。
カナダに対しては2月4日輸入分から適用、報復措置が取られた場合、さらなる税率の引き上げや対象品目の拡大に踏み切るとした。期限は、カナダが合成麻薬フェンタニルや医療用麻薬オピオイドなどの密輸業者の取り締まりと国境警備に協力するまで、メキシコは薬物対策で米国に協力するまでとされている[34]。
カナダ側からは反発が相次いでいる。オンタリオ州のダグ・フォード州知事は「貿易関係からの離脱に非常に失望している。カナダにはもはや、激しく反撃するほかに選択肢はない」とXに投稿。マーク・カーニー元イングランド銀行(中央銀行)総裁もXに「カナダとして統一した対応が必要だ」と投稿した。国内からも、全米鉄鋼労働組合が「私たちは確かに貿易システムの改革を求めてはきたが、カナダを責め立てることは前進への道ではない。カナダの関税政策を撤回してほしい」と再考を求めた[34]。
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