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前立腺に発生する病気、癌の一つ ウィキペディアから
前立腺癌(ぜんりつせんがん、英語: Prostate cancer)とは、前立腺(外腺)に発生する病気、癌のひとつ。さまざまな組織型の悪性腫瘍が生じうるが、そのほとんどは腺癌で、通常は前立腺癌≒前立腺腺癌の意味で用いられる。2012年4月日本で初めてロボット手術であるda Vinciの健康保険適用となった疾患である[1][2]。前立腺炎、前立腺肥大症と関連する可能性も研究されている。なお、少数ではあるが女性前立腺癌の症例報告がある[3][4]。
前立腺がんは従前より、世界全体にて非常に発生率が高く、黒人・白人の発生頻度が著しい。そのため、米国における男性罹患率は1位、死亡数2位と最も罹患数の高いがんの一つとなっている[5]。アジアは人種・環境の両要素にて最も罹患率の低い地域であり、日本では、1950年(昭和25年)当時国内の前立腺がんによる死亡率は男性のがん死全体の0.1%とされ、長らく米国の1/10~1/20の割合と云われてきた[6]。だが日本国内においてもその後、患者数は増加の一途を辿ることとなる。
国立がんセンターによる前立腺がん統計調査においては、1975年(昭和50年)当初およそ年間約2,000人であった罹患者数が2019年(令和2年)には年間94,748人まで急激に増加している。2019年統計では、国内において男性の部位別がん罹患数は首位(2位は大腸がん、3位は胃がん)であるが、2020年(令和3年)男性の部位別がん死亡数は12,759人の7位となっている[7]。
前立腺癌は癌の中では進行性が遅く、生存率・治癒率は高いうえ、予後も他の癌に較べると大変よい。日本において45歳以下での罹患は家族性以外はまれで、50歳以降に発症する場合が多い。その割合は年を追うごとに増加し、80歳以上においては、実に半数以上の日本人男性が潜在性の前立腺癌を有するとされる[5]。米国では男性の約20%が生涯に前立腺がんと診断され[9]、同一人種間の日本と欧米での患者割合の差は食生活、とりわけ米国では脂質摂取量が日本の倍以上ある[10]ことが大きな要因ではないかと指摘される。日本国内においても食生活の欧米化[11]により、近い将来日本においても男性癌死亡者の上位となることが予想されている。また韓国でも経済成長に伴う食生活の変化により前立腺癌の死亡率は上がりつつある[12]。
また、前立腺液に含まれるたんぱく分解酵素であるPSAのスクリーニング検査は近年普及傾向にあり、そのため前立腺癌が発見される確率も高くなっているが、一方でPSA検査は会社や地方自治体における検診で必須項目になっておらず通常はオプション扱いであり、受診するには自費負担となっている[13]。このためPSA検査まで受けず定期検診を受けて安心しきり、自覚症状が出てから前立腺癌に気づいてすでに進行している状態だった例も多い[13]。このため今後、定期検診の中にPSA検査を組み込む自治体や健康保険組合が増加することが期待されている[13]。一般に腫瘍マーカーとしてPSAの信頼度は高いとされており、正常値は4ng/ml以下程度とされている[14][15]。
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前立腺癌の罹患率は、欧米で高く、アジアと欧米の間に大きな差が存在するが、日本では年々罹患率が上昇し、2011年では、胃がんに次いで第2位となっている。しかし、死亡率の上昇は緩徐で同第6位となっている。この乖離は、PSA検査の普及により早期癌で発見される例が多いことによると考えられる。こうした状況を反映してか、2003年から2005年の間に診断された前立腺癌の5年生存率は98.3%と報告されている[注 1]。
前立腺癌のリスクを研究した結果によると、生活環境が癌罹患と深く関与している一方、遺伝子背景も強く関与していることが示唆されており、前述のアジアと欧米の差がもたらされていると考えられる。
前立腺癌の治療予後には、下記のグリーソン分類や前立腺特異抗原値のほかに、陰茎長もそれぞれ独立した予後予測因子となっている[26]。
大豆に含まれるイソフラボン成分であるゲニステイン濃度、ダイゼインの代謝物であるエコール濃度が高いグループの前立腺に限局する前立腺癌リスクは低くなる。イソフラボンの血中濃度が高いと、限局前立腺癌のリスクを低下させる。進行前立腺癌では作用しない[28]。緑茶をよく飲むグループで進行前立腺癌のリスクが低下する[29]。
他に肉食を控えて減塩し、新鮮な野菜や果物を中心にした食生活も効果があるとされる[要出典]。
2016年にハーバード大学公衆衛生教室から発表された、アメリカ人の男性を約20年間追跡調査した研究によると20代の時に月21回以上射精していた人の前立腺癌のリスクは、4~7回の人よりも2割少なかった[30][31]。
血液検査によるPSA検査によるスクリーニングを行い、問診、直腸診、エコー検査(超音波断層撮影)を行った上で、癌が疑わわれる場合には、針生検による病理組織診断でグリソンスコアなどの評価が行われる。一般にはPSAが4.0ng/mlをカットオフ値とし、これ以上ならば生検を行う場合が多いが、急性前立腺炎などでもPSAの上昇を認めるため、最適なカットオフ値は分かっていない。年齢別にPSAのカットオフ値を分ける場合もあり、施設によって値は異なる。一般に4ng/ml<PSA<10ng/mlでは前立腺癌の見つかる可能性は25-30%、10ng/ml以上で50-80%と言われている。前立腺生検には敗血症発症のリスクもある[35]。PSAを用いた前立腺癌のスクリーニングを行なう上で注意が必要なのは、フィナステリド(プロペシア)やデュタステリド(アボルブ)を服薬していると、PSA値が本来の半分程度となり、偽陰性となることと、まれながらPSAの上昇を伴わない前立腺の腺癌が存在することなどである[36]。
スクリーニングの有用性については種々の意見があったが、最近の知見として、PSA検診で前立腺がん死亡リスクが44%減少、癌の発見率は1.64倍になるとの報告がなされている。[37]
生検で癌細胞が見つかった場合には、造影CTによりリンパ節転移の有無、精嚢浸潤などの前立腺被膜外への癌浸潤が検査されるが、CTによる精嚢・被膜外浸潤、リンパ節転移の診断能は低い。前立腺癌は比較的骨に転移しやすいため、核医学検査である骨シンチグラフィーで骨転移の有無を評価する必要がある。また、後述するT分類の精度を高めるため、MRIが行なわれることも少なくない。以前はPSA高値の症例にルーチンでMRI検査を行なうことを疑問視する意見もあったが、近年では、生検を行う前に磁力強度の高いMRI(3.0テスラMRI)や経直腸のMRIを用いることでより正確な画像診断が可能になってきている。
MP-MRIは、悪性度の高い前立腺癌を検出する感度がTRUSガイド下生検より有意に高かったが(93%対48%)、特異度は低かった(41%対96%)[38]。
生検後にMRI検査を行なっても、真の病変を見ているのか、生検による出血を見ているのか、判別に苦慮することも多い。また、カラードップラー検査を用いた経直腸超音波でも、画像診断は可能となってきている。
前立腺癌には「TNM分類」と「ABCD分類」(ジュエット分類)という2つの病期分類法(進行度・ステージ・浸潤度)がある[39]。TNM分類は癌の大きさ(T分類)、所属リンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)の3つに分けて分類する方法であり、ABCD分類は腫瘍の進展度別に分類する方法である[39]。ちなみにTNM分類は国際対癌連合すなわちUICCが作成しているもので、TUMOUR(腫瘍・原発巣)、NODES(リンパ節)、METASTASIS(転移)の頭文字である[39]。現在、治療現場ではTNM分類が採用されることが多いが、上に上がるたびに進行しているといったように患者にとってわかりやすいABCD分類が採用されることも少なくなく、日本泌尿器科学会と日本病理学会の前立腺癌取扱い規約ではABCD分類が採用されている[39]。
分類上の問題として、T分類の根拠が直腸診によるのか、超音波検査によるのか、MRIによるのか、統一されていないことが挙げられる。(例えば、今まで用いられてこなかった感度の高い診断手法・装置で病期分類などを行なうと、見かけの治療成績が上がる、という現象が生じる。)また、T分類においては。生検所見ではなく、MRIや超音波によって分類する必要があり、画像上片側にしか病変を確認できないが、生検では両葉からがん細胞が証明された症例について、T2cと分類するのは不適切である。前立腺癌では、多発病変の扱いがTNM分類の分類規則の例外である点も注意が必要である。一般に、多発病変が確認された場合、そのうちの進行度の最も高い病変についてT分類を行なうが、腫瘍が多発することが多い前立腺癌では、独立した結節が両葉に認められる場合、これをT2cとする慣例がある。精嚢浸潤はT2強調画像の冠状断で評価しやすい。MRIによる原発巣の存在診断には、以前は造影検査が用いられてきたが、拡散強調画像(DWI)でも明瞭に描出されるため、ルーチンのシーケンスが置き換わっている。
Stage | T-classification | N-classification | M-classification |
---|---|---|---|
Stage I | T1, T2a | N0 | M0 |
Stage II | T2b, T2c | N0 | M0 |
Stage III | T3, T4 | N0 | M0 |
Stage IV | Any T | N1 | M0 |
〃 | Any T | Any N | M1 |
グリソングレード | グリソンスコア | グリソンパターン |
---|---|---|
1 | ≦6 | ≦3 + 3 |
2 | 7 | 3 + 4 |
3 | 7 | 4 + 3 |
4 | 8 | 4 + 4 |
5 | 9 - 10 | 4 + 5, 5 + 4, 5 + 5 |
前立腺癌は他の癌と比較して生存率は高いが、再発の危険性は常にある。再発とは前立腺の全摘除術や放射線療法などの根治療法で癌の完治を目指したものの、また進行してきたり新しい癌細胞が発見された場合を差す[41]。前立腺癌の再発にはPSA再発(生化学的再発)と臨床的再発の2種類がある。
再燃とは癌で根治治療を選択せず、あるいは発見された時にすでに根治治療が不可能だったために内分泌療法を行い、それが効いて癌の進行が一時停止していたのに、また癌細胞が増殖することをいう[41]。癌細胞は内分泌療法によって押さえ込まれていても抵抗力をつけるので内分泌療法の効果はだんだんなくなっていき、半数以上は5年以内に効かなくなっていく[41]。
癌の再発と再燃はそれぞれ意味が違い、対処法も変わるためいずれにしても定期的な検診による早期発見が重要である[41]。
前立腺癌は発見時における状態(リスク分類)を基にして治療法を選択する。前立腺癌は治療の選択肢が非常に多く、また選択する際は生存期間や性機能温存の問題など肉体的にも精神的にも患者本人の考え方が非常に重視される[43]。
過剰治療とその有害事象を回避するため、二次治療として根治治療を想定して、根治の時機を逸しないように監視する積極的治療と位置づけられている。従来は「PSA監視療法」と呼ばれていたが、実際にはPSAのみでなく病理組織などの他の要素も監視することになるため、前立腺癌診療ガイドライン2016年版では「監視療法」と名付けられている。単なる経過観察とは峻別される(便宜上手術や放射線治療と同列に論じたが、同列の治療ではない。遅延治療の一時治療として位置づけられる。)。主として、低リスクの早期癌に対して行なわれる。[44]
腫瘍マーカーの普及のため、近年では前立腺癌が早期発見されることが多い。そのため早期に発見された初期癌なら直ちに治療して根治するべき、と考えるであろうが、実はこれは早計である。前立腺癌は前述しているが進行が非常に遅く、早期に発見された場合なら無症状のまま経過して前立腺癌そのものが死亡原因にならないケースが多い(潜伏癌)。そのため、あえて治療をしないで当面は経過を観察していき、遠隔転移が出現した際に内分泌療法を開始するという治療方法があり、これを待機療法という。根治治療を見越した「監視療法」とは区別されるものの、監視療法中の患者が高齢となり根治治療ではなく内分泌療法を施行することになることがあり、両者はシームレスな関係といえる。待機療法では不要な過剰治療を避け、合併症のリスクを回避するのを目的としている[45]。
待機療法とあるため、何も治療しないことだと誤解されがちだが、これは定期的にPSA値を計るなどして徹底した監視下のもとで行われるれっきとした治療法である[46]。待機療法の有効性は高く、待機療法の臨床試験(厚生労働省研究班の調査)において前立腺癌の患者で待機療法が適切と判断された118人のうち、84人が治療不要と判断され続け、大半は5年以上がたっても無治療のまま経過観察を続けている状況にあるとされている[45]。
待機療法を適用される前立腺癌の患者はこの癌は潜伏癌であると考えてよい。
PSA検査で前立腺癌の早期発見が可能となっているため、前立腺癌が前立腺内に留まっている場合は根治を目指して前立腺全摘除術を行うことで癌をすべて取り除くことが可能となっている。手術で切除するのは前立腺、精嚢、精管の一部、膀胱頸部の一部などで、それらに関連したリンパ節(所属リンパ節)も対象となる(リンパ節郭清)[47]。しかし、リンパ節郭清に関しては、所属リンパ節をすべて切除するのではなく、閉鎖リンパ節だけ郭清するという術式が採用されることもある。
前立腺全摘除術には恥骨後式、会陰式の2つがあるが、恥骨後式が最も一般的に行われている。
これらの手術は共通して約3時間から4時間ほどで終わり、その後10日から2週間ほどの入院になる。術後1週間ほどで尿道カテーテルが抜かれる[47]。ただしこの手術で起こりやすい合併症として尿漏れと性機能不全がある。尿漏れについては、術後はこの症状に悩まされやすいため看護師のケアや指導により自分で対処できるようになってから退院する例が多い[47]。退院後は骨盤底筋体操を毎日行う習慣づけをして尿漏れを防ぐようにすれば、平均して1か月ほどで、長くても1年ほどで尿漏れは改善される。また、前立腺床を刺激しないように1か月は自転車や乗馬などは避ける注意が必要である[47]。
前立腺全摘除術の適用範囲は、限局癌(癌が前立腺内に留まっている。すなわち早期発見された場合)であること、期待余命が10年以上であること、低リスクであること(PSA10ng/mlまで、グリソンスコア6以下、T1かT2a、この3項目を全て満たす場合)、中リスクであること(PSA20ng/mlまで、グリソンスコア7以下、T2b以下である場合)である[48]。
前立腺全摘除術は簡単なように言われているが、前立腺は身体の深部にあり周囲をさまざまな臓器に囲まれているため、また前立腺の前面には静脈が密集している部分があるため、開腹による前立腺全摘除術は大量の出血を起こしやすい難しい手術である。このため、事前に自らの血液を採血して保存しておき、自己輸血できるようにする場合もある。大体の場合、1週間から10日間隔で2回から3回、400mlずつ採血して保存する[48]。
腹腔鏡下(内視鏡)前立腺全摘除術とは腹腔鏡という内視鏡(カメラ)を使って行う手術である。腹腔鏡(内視鏡)を患者の体内に挿入するため、腹部に5mmから12mmの穴を複数個(通常は5個)開け、ここから内視鏡や手術器具を挿入する。また、手術する空間を確保するため、腹部に二酸化炭素を送り込んで膨らませる気腹を行う。実際の作業はカメラの画像をモニターで見ながら行い、患部をよく観察しながら体外から手術器具を操作して前立腺や精嚢を摘出する[49]。
2012年4月に保険収載された[1][2]。腹腔鏡手術はモニターを見て手術をするため二次元の映像を見ての手術となるが、da Vinciは3次元立体画像を表示でき術者はそれをみて手術を行える。さらに腹腔鏡手術で使う鉗子と違い多関節の鉗子であるため、細かい作業が可能となり、また手振れ防止機能も搭載されている。
近年、前立腺癌の放射線療法には新しい方法が次々と登場し、それだけに治療の選択も広がっているため、個々の特徴を見極めて自分に合った選択をする必要がある[51][52]。
外照射としては現在では強度変調放射線治療 (IMRT) による放射線治療が増加している。この治療法で治療した場合、直腸出血などの有害事象を減ずることができるため、照射する線量を増加させることが可能になり、局所制御率の向上につながっている。Alicikusらは、IMRTで81Gy照射し、10年PSA制御率が、低/中/高リスクで81%/78%/62%と報告している[53]。また、画像誘導放射線治療の臨床応用も進んでいるほか、陽子線・重粒子線を用いた粒子線治療や体幹部定位放射線治療も行なわれている[52]。
外照射の治療適応はほぼ全ての病期に対してであり、癌が精嚢以外の他臓器浸潤がなく(T3bまで)、遠隔転移がないなら根治が期待できる。ただし前立腺の被膜を越えているなどの局所進行癌では内分泌療法との併用が勧められ、通常半年程度内分泌療法を先行させた後、外照射を行なう[54]。
小線源治療といって、前立腺癌組織に直接放射線の出る粒(小線源)を刺入し、前立腺癌を治すという治療法がある。これには、一生小線源を留置したままの125I 治療(永久挿入密封小線源治療)と、一時的に線源を留置する治療(高線量率組織内照射)とがあり、双方とも優れた臨床成績が報告されている。
前立腺癌は進行すると骨転移をきたし、それによる疼痛に苦しむこともある。箇所が少なければ、外照射により疼痛の軽減を図れるが、多発骨転移である場合には外照射で対応することが困難な場合がある。一定の要件を満たす患者に対しては、89Sr(メタストロン)を血管内投与することにより、疼痛の軽減が図る治療がかつては行われていた。しかし、2019年2月、製造原料である88Srの入手が困難になり製造販売が終了した[55]ために現在は行われていない。現在行われている非密封小線源治療としては、223Ra(製品名ゾーフィゴ)[56]の血管内投与がある。ゾーフィゴは疼痛緩和だけでなく生命予後の改善効果もあることが知られており、今後の普及が期待される。
内分泌療法はホルモン療法とも言われる。前立腺癌は男性ホルモン(アンドロゲン)が刺激になって癌が分化・増殖する(ホルモン依存性)。このため男性ホルモンの分泌や作用を抑えて癌細胞の増殖を防ぐというのが内分泌療法の機序である。内分泌療法には外科的去勢術(両側精巣摘除術)とLH-RH(黄体化ホルモン放出ホルモン)アゴニストによる薬物療法の2つがある。また、薬の使い方を工夫した併用療法としてMAB(CAB)療法があり、この療法も多く取り入れられるようになっているほか、抗アンドロゲン薬を単独で使用する場合もある[57]。ただしこれらの療法には副作用や問題点も存在している[57]。具体的には、女性の更年期障害で起こるホットフラッシュといった症状を認めることがあり、患者の生活の質を下げうる。
内分泌療法は癌が前立腺の被膜を越えていたり、周辺臓器にまで広がっている局所浸潤癌の場合(T3からT4)、所属リンパ節や離れた臓器に転移のある進行癌(N1、M1)、体力的に前立腺全摘除術、放射線療法などの根治療法を受けることが難しい高齢者[58][59]、持病があって根治療法を受けられない人に適用されることが多い[60]。
外科的去勢術(両側精巣摘除術)とは簡単に言うと男性の両側の精巣すなわち睾丸を摘出する手術である。これは最も古くから行われている方法であり、精巣から分泌される男性ホルモンをなくすことを目的としている[61]。
LH-RH(黄体化ホルモン放出ホルモン)アゴニストとは、脳の下垂体に作用してLH(黄体化ホルモン)およびテストステロンという男性ホルモンの分泌を抑えて癌の進行を阻害する薬剤のことである。通常、脳の視床下部で作られるLH-RH(黄体化ホルモン放出ホルモン)とは、下垂体にLHを作るように指令を出しており、LHは精巣にテストステロンを作るように働きかけるので、それにより前立腺癌の細胞が増殖することになる[61]。LH-RHアゴニストはLH-RHと構造が似ている薬で、継続的に用いると下垂体が常に刺激された状態になりLHを放出し続ける。そのため、治療開始後から約4日間はLHの分泌量が一時的に増加し、テストステロンの分泌量も増加する(フレアアップ現象)。だが、その後はLHが枯渇したような状態になり、精巣が刺激されなくなり、結果として精巣でのテストステロン生成が止まり、癌細胞の増殖が抑えられる[62]。
MAB(CAB)療法とは、Maximum/Combined Androgen Blockade、マキシム/コンバインド・アンドロゲン・ブロッケイド)療法のことである[64]。わかりやすく言えば、精巣と副腎からの男性ホルモンをブロックする療法で、LH-RH(黄体化ホルモン放出ホルモン)アゴニストと抗アンドロゲン薬を併用する。
上述のMAB(CAB)療法に抵抗性(去勢抵抗性前立腺癌)となった場合に、エンザルタミド、アビラテロンの有効性がそれぞれ確認されている。エンザルタミドの有害事象には疲労感、食欲不振、脱力感、血小板減少、痙攣など(後二者はまれ)がある。アビラテロンの有害事象には肝機能障害、体液貯留、心血管障害などがある。どちらを優先して使用すべきかについては明確な答えがなく、患者の状態に合わせて使用される。
アパルタミド、ダロルタミドも認可されている。
化学療法とは抗がん剤治療のことである。上述のエンザルタミドやアビラテロンと並んで延命を目的に使用されることになる[66]。従来、化学療法だけは効果がないといわれていたが、2004年にアメリカで承認されたドセタキセル(タキソテール)が2008年8月から日本でも使えるようになった。これは前立腺癌で初めて立証された抗がん剤である。通常、ドセタキセルにステロイド剤を併用する。従来はエストラムスチン(エストラサイト)が使用される場合が多かったが[66]、心血管系の有害事象が多いという問題があったため、近年ではTAX327試験の結果からプレドニゾロンを併用するのが標準となっている。
ドセタキセル抵抗性となった場合の化学療法として、TROPIC試験の結果からカバジタキセルが認可されている。ドセタキセルと同様、プレドニゾロンを併用する。発熱性好中球減少症の頻度が高いため、患者の状態によってG-CSFの一次予防が推奨されている。
最初の治療が前立腺全摘除術(手術)で、前立腺癌が再発した場合は放射線療法、内分泌療法、化学療法の3つの選択肢がある[71]。初回治療が放射線療法であった場合の再発では内分泌療法、化学療法の選択肢がある[71]。
米国英国で前立腺肥大症に不適応とされたHIFU治療器が承認を受けずに臨床で使用されているのを受けFDAはFOCALサージェリー社に警告書を出した。同社は前立腺がんに対する治療もホームページで宣伝している。同機は日本国内で「前立腺肥大症」について薬事承認、「前立腺がん」について先進医療の承認を受けている。
最初の治療が内分泌療法の場合、前立腺癌が再燃すると根治療法は行わず化学療法を適用する[71]。
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