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ミカン科の木本の一種 ウィキペディアから
マルフィン[2][3](ポルトガル語: marfim)あるいはパウマルフィン[4](ポルトガル語: pau-marfim)はミカン科の木本の一種である。マルフィンはポルトガル語では通常〈象牙〉を表す[5]が、これは本種から得られる材の色を指す[6]。この木材は有用であるが、原産地である南米中南部で話されるグアラニー語名が〈蠅の木〉あるいは〈ブヨの木〉の意味を持つ[7]ように、虫害には弱い[8]。
マルフィン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Balfourodendron riedelianum (Engl.) Engl. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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以下、マルフィンの形態的特徴の説明である。#Balfourodendron属全体の定義も併せて参照されたい。
(6-)9-25(-32)メートルの高木; 樹幹は直立し直径25-80(-100)センチメートル[9]。樹皮は淡灰色で平滑[9]。若芽は密着-軟毛つきである[9]。
葉は最初は軟毛つきだが、すぐに(ほぼ)無毛となる; 葉柄は長さ(2-)3-8センチメートルで半円柱形、先端に節が見られる; 小葉柄は長さ2-13ミリメートル; 小葉は倒卵-偏長形から細楕円形、背軸面上にのみ斑点あり、両面に毛状突起あるも主脈上のみ宿存性、背軸のダニ室は密に有毛からほぼ無毛、葉縁は全縁で扁平から弱く外巻き、先端は鋭先形から尖頭、まれに鈍頭、基部は頂小葉上で漸先形から楔形、側小葉は強く漸先形-非対称、頂小葉は7-13(-15)×2-5センチメートル、側小葉は5.5-11.5×1.6-5センチメートル[9]。
花序は概して疎生[注 1]、多数分枝し長さ(7-)14-19センチメートル; 花柄長さ1-2センチメートル、密に密着-軟毛つきで短い白色の湾曲した毛状突起を有するか無毛となる; 第1列の枝(側生分枝)は(3-)8-10本で、普通ほぼ対生から時に対生、開出、長さ(5-)9-14センチメートル; 苞および前出葉は線形-披針形、短-軟毛あり、長さ約0.8ミリメートル[9]。小花柄は長さ1.6-2.3ミリメートル、軟毛あり[9]。萼片は緑色、ほぼ球状から広卵形、長さ約0.8ミリメートル、外側に軟毛あり[9]。花弁は白色から乳白色、偏長形、先端鈍頭、基部でほぼ爪状、約2.5×約1.5ミリメートル、明瞭-斑点あり[訳語疑問点]、全縁[9]。
果実は翼果で直径(2.5-)4.5-6センチメートル、
南アメリカ中南部に分布する[3]。具体的にはブラジル西中央部(マットグロッソ・ド・スル州)、ブラジル南東部(サンパウロ州、ミナスジェライス州)、ブラジル南部(サンタカタリーナ州、パラナ州、リオグランデ・ド・スル州)、パラグアイ、アルゼンチン北東部(コリエンテス州、ミシオネス州)で標本が採取されている[10][注 2]。
マルフィンはふつう大高木となり、パラナ川流域の中生季節性半落葉林を特徴付けるものとなっている一方、イグアス川流域やウルグアイ川上流域ではさほどありふれた種という訳ではない[9]。サンタカタリーナ州の比較的湿潤な大西洋岸森林では極めてまれにしか見られず、サンタカタリーナ州ではむしろ攪乱された地域が主な生育地である[9]。
マルフィンの開花は8月から2月(もっと言えば10月から12月)にかけてであるが、6月に花をつけた例も1例のみではあるものの確認されている[9][注 3]。果実はピラーニが確認した限りでは1月から9月にかけて採取が行われている[9]。
マルフィンは最初はエセンベッキア属(Esenbeckia)というミカン科の別属の1種 Esenbeckia riedeliana として1874年、ドイツのアドルフ・エングラーにより新種記載された[12][13]。この時エングラーはサンパウロ州やその周辺で採取された複数の標本(シンタイプ)を引用し、その中にはルートヴィヒ・リーデル(Ludwig Riedel)という人物が採取した標本79番[注 4]が含まれていた[12]。この動きとは別にイギリスのキュー植物園で働いていたダニエル・オリヴァーは1877年、ジョアキン・コレア・デ・メッロがサンパウロ州カンピーナスで採取した標本を Balfourodendron eburneum として発表した[14][13][注 5]。これがイギリスの植物学者ジョン・ハットン・バルフォアにちなむ Balfourodendron という属名の初出であり、eburneum〈象牙の〉という種小名はその木材が象牙のようであることや俗名の一つ[注 6]を示唆するものであった[6]。エングラーは1896年、Esenbeckia riedeliana を組み替えて Balfourodendron riedelianum とし、B. eburneum よりも優先されるものとした[16][6]。ジョゼ・ルベンス・ピラーニによるBalfourodendron属および関連属の見直し[17]の際にシンタイプ複数個のうち Sello 2174 がレクトタイプ(選定基準標本)であるとされ、サンパウロの環境研究所(ポルトガル語: Instituto de Pesquisas Ambientais)所蔵の標本[注 7]が指定されている[9][注 8]。なおエングラーは Esenbeckia riedeliana と同じ機会に Helietta multiflora[注 9] という新種を発表している[18]が、これも Balfourodendron riedelianum の学名を発表した際にその下に置いている[16]。
Balfourodendron属は上記のエングラーによる1896年の見直し以降、丸1世紀の間マルフィン1種のみが知られる単型属であった[19]。この流れを変えたのが1998年のジョゼ・ルベンス・ピラーニ (サンパウロ大学所属) による関連属の見直しであり、彼は当時Heliettaという属に置かれていた1種を Balfourodendron molle (Miq.) Pirani とするのがより適切であると判断したのである[20]。ピラーニが見直しの対象とした関連属とはエングラーが設定した亜連 Pteleinae の下に置かれたものであり、その内訳は Helietta属・Balfourodendron属・ホップノキ属(Ptelea)である[20]。ピラーニはこれらの属を区別する上で役立つのは果実であり、花の標本を見ただけでは同じ「亜連」内の別属や、マルフィンの最初の分類先で幾分か類似するエセンベッキア属と誤同定しやすいという旨のことを述べている[19]。
ピラーニにより設定された亜連 Pteleinae の検索表は以下の通りである[21]。
しかしピラーニも加わった後年のある分子系統学的研究では、従来亜連 Pteleinae 下に置かれていた属の大半が Galipeeae という連の下に位置付けられている[24][注 14]。旧 Pteleinae 下の属が関係する範囲に限れば、大雑把な系統関係は次のようになる。
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2017年以降の分子系統学的研究の結果得られた Galipeeae のクラドグラム (旧 Pteleinae 下の属関連限定)[25] |
ピラーニによるBalfourodendron属の定義は以下の通りである[21]。
樹高2-30メートルの高木あるいは小高木、斑点状の腺が木質化していない部位全てに斑点状の腺が通常見られる; 蕾は密に絹毛あり; 葉は対生、掌状で3小葉、密に腺-斑点状、軟毛ありから無毛となる; 葉柄は半円柱形から小管状、頂小葉の基部に近い向軸の表面上に小さく有毛な付属物もしくは長めの毛状突起の房を有する; 小葉は無柄から小葉柄つきで、溝つきの葉柄の先端で顕著に有節、紙質からほぼ革質、葉縁は全縁からまれに弱く鈍鋸歯状; 頂小葉は対称で側小葉よりも大きく、側小葉は基部が非対称である; 葉脈は環結脈で中脈はふつう両面上に隆起する; ダニ室(小、有毛、1-4室の窪みあり)が多くの2次脈腋に見られる。花序は頂生で無頂花な2重の密錐花序、ふつう葉より長く、軟毛つき、疎生から密生; 枝は(ほぼ)対生、開生; 花柄はあったりなかったりする; 苞や前出葉(小苞)は線形-披針形でふつう対になる。花は4数花で完全花、放射相称、小花柄つき、乳白色。萼片は鱗状に重なり、軟毛ありか無毛、果期でも宿存性、乾膜質で繊毛あり。花弁は離弁花、蕾時に鱗状に重なり、明瞭-斑点あり[訳語疑問点]、無毛、中脈を除きガラス質、全縁からぎざぎざ、基部では漸先形からほぼ爪状。
雄蕊 ()は4本、alternipetalous[訳語疑問点]、合着せず、無毛; 花糸は錐状、半透明、花盤の下に着生、花期後に反り返る; 葯は卵状、中点下に背着、丁子着、内開き[注 15]、2葯室、この葯室は基部より幾分か先端よりで分岐する。花盤は雄蕊内、殻斗状、直立した波状縁を形成し、4裂、各裂片には2小裂片あり、無毛、子房を包み子房と同じ高さ。子房は4つの合着した心皮[注 10]からなり顕著に4裂、へこみ-球状、微細に腺あり-結節あり、無毛; 胚珠は各室につき2個、並生し、下垂性; 花柱は1本で円柱形、無毛; 柱頭は頭状で微細に4裂する。果実は(3-)4室の翼果で4つの膨脹し、垂直性で円形から円-切形、ほぼ革質で、脈の浮き出た翼 ()を持ち、無毛となるか無毛; 種子は各心皮ごとに1つ、内果皮とは合着せず、偏長形、細い(外)種皮や肉質の内胚乳があり、無毛; 胚は肉質、真っすぐな偏長形の子葉や上位の幼根を持つ。
マルフィンと同属の Balfourodendron molle (Miq.) Pirani(Wikispecies) との区別法は以下の通りである[26]。
マルフィンからは木材が得られる。通常、挽き材や角材の形で船積みされる[4]。
外観にさほど特徴はなく、色は淡黄白色である[4]。心材と辺材との間に差異はほとんど見られないが、心材は黒い筋入りのものも存在する[4]。肌目は非常に精で均一である[4]。
材の性質は重く緻密であり、気乾比重は0.80、乾燥の際は困難もなく、乾燥後も安定し、また加工も容易である[4]。その一方で道具の刃先を急速に鈍磨させる性質も持つ[4]。滑らかで精な表面仕上げとなり得る[4]。靭性や剛性[注 16]には特に優れており、あらゆる尺度において高い強度を示し、特に耐衝撃荷重性が秀逸である[4]。ただその強靭さのあまり、蒸し曲げには適さないと考えられている[4]。柾目木取りの材面に鉋削りや刳り形加工を行う際は木理を逆立たせる傾向があるため、刃先の角度は浅くした方が良い可能性がある[4]。釘・ネジ着性は良く、接着性も良好である[4]。ステインとつや出し材により表面を美しく滑らかに仕上げることができる。辺材は透水性があるが虫害を受けやすく、心材は耐久性が低く、保存薬剤による処理も難しい[4]。
用途に関しては、靭性に優れた木材であるということもあり、打撃工具の柄やオールなどに適している。原産国においては建築用資材、家具、キャビネットなどに用いられている[4]。肌目が精かつ小ぶりであるため、ろくろ細工に合う木材である[4]。靴の木型、織物用芯材、画材、定規類に用いられ、またメープル材(カエデ属)の理想的な代替材として、歩行頻度の激しい床のフローリング材ともなる[4]。美観に優れた木材はスライスカットにより最高級の化粧単板となり、キャビネットや住宅用羽目板の表面材、さらには象嵌細工にも用いられている[4]。
ブラジルポルトガル語では複数の呼び名が存在するが、数多くの押し葉標本や文献においてマルフィンあるいはパウマルフィンという呼び名が見られる[9]。パラグアイやアルゼンチン(ミシオネス州)においてはグアラニー語(由来)の guatambú や yvyrá ñetĩ イヴィラ・ニェティ(ン) という呼称で知られているが、前者は yvá〈果実〉 + tambú〈食用となる甲虫の幼虫〉、後者は yvyrá〈木〉 + ñetĩ〈蠅、ブヨ〉からなり、この木が倒れると急速に蛆虫による被害を受けることからこの名がある[27]。
そのほかの呼称に関してはwikt:マルフィン#翻訳を参照されたい。
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