群集事故
無秩序な集団によって発生する事故 ウィキペディアから
群集事故(ぐんしゅうじこ)とは、無秩序な集団によって発生する事故である。雑踏事故、群衆雪崩、将棋倒し、ドミノ倒しともいう。
概要
群集事故は、統制ないし誘導されていない人の群れの流れによって発生する事故である。具体的な事故の要因は様々だが、例えば、通路上に障害物があって人が滞留したり、狭い出入口などのボトルネックにおいて、災害など他の要因で人が殺到した際に許容量を超えるなどが典型的なケースである。ガーディアンによると、群集事故の発生リスクは集団の密度に大きく関係し、1平方メートルあたり4人以下の場合は相対的に安全で、1平方メートルに6人以上がいる場合は発生するリスクが高い[1]。
群集事故は、災害によって誘発されたパニックの際に発生しやすいことはよく知られるが、パニック状態ではないときに発生することもある。日本では明石花火大会歩道橋事故のように、継続的な混雑時において、些細なきっかけから均衡状態が崩壊し事故に至ったケースが知られている。この事故では歩道橋に設置された手すりが群衆によって変形するほど凄まじい圧力であった[2]。同事故では、行楽客らが進むことも戻ることもできないことから、イライラしている状態にあったところに、予定されていたイベントの終了に伴ってさらに人が流入し、多数の死傷者を出した。主な死因は胸部を強く圧迫されることによる外傷性窒息である[3][4]。
将棋倒しとも呼ばれ、明石事故の際に日本将棋連盟からの抗議を受けたが、現在もニュース一般で使われている。
→詳細は「将棋倒し § 日本将棋連盟からの抗議」を参照
対策
群集事故は多くの死傷者をだす場合もあるため、都市計画や建築物の設計段階でも回避策が検討される。例えば公共施設などでは、その出入り口に設けられた扉に普段は開け閉めできるが、非常時には全面開放できボトルネック化しないよう設計されたもの(→パニックオープンドアなど)が見られる。
また、イベント等で一時的に群集が発生することが予想される場合は、あらかじめ雑踏警備に係る警備計画を策定することが重要である。警備員を配置し、ロードコーン等の保安器具により立ち入り規制を行う等により、特定の場所に人が集まりすぎないように人の流れをコントロールすることで事故を未然に防ぐことが可能となる。
個人は平均的に、約30×60 cm、0.18 m2の楕円形の床面積を占めており、1平方メートルあたり1、2人の密度であれば、互いに接触することなく自由に移動することができ、人々が素早く移動していても、この密度であれば障害物を避けることが可能であり、群衆に関連した事故の可能性は最小限に抑えられるうえに将棋倒しは生起しない[5]。1平方メートルあたり3、4人でも危険性は低いが[6]、1平方メートルあたり5人の密度になると、個人が移動することが制限されるようになり、より高い密度となる1平方メートルあたり6~7人になると、個人が互いに押し付け合うようになり、自分の意思で移動することができなくなることで群衆は流体のように行動し始め、個々が周囲の人々の圧力によって移動することによって群衆内の圧力が変化し、発生する衝撃波が群衆を通過することがあり非常に危険な状況となる[6]。また、密集状態で将棋倒しが発生した場合、先頭の人間が支えられる人数はぜいぜい平地で7人、階段では4人であることが研究から明らかとなっている[5]。
学問・技術
こういった事故の予防のために、コンピュータを使ったシミュレーションも盛んである。流体力学的な側面もある同分野だが、この中では意図的に人の流れを阻害するボトルネックを設置したり、あるいは「一人が転倒する」や「些細な行き違いから喧嘩が発生する」などの偶発的な要素で発生しうる滞留の状況を数理的に再現、これが全体の流れにどのように影響するかをシミュレーションするのであり、近年では駅や商業施設の動線配置の設計などで利用されている。
社会学の立場で警備業研究を展開している田中智仁は、群集事故の変遷と警備体制の強化を考察した論文を発表している(ただし、同論文では「雑踏事故」と表記されている)[7]。
主な群集事故

→詳細は「事故の一覧 § 群集事故」を参照
- 1807年9月20日(文化4年旧暦8月19日) - 永代橋崩落事故
- 1896年 - ロシアのモスクワで、皇帝ニコライ2世即位記念に配給された食物を求める人々が折り重なるように倒れたことで1,389人が死亡。
- 1897年(明治30年)8月10日 - 隅田川「両国橋」の崩壊事故。
- 1934年1月8日 - 京都駅跨線橋転倒事故
- 京都駅構内で海軍に入団する新兵を見送るために集まった人垣で人が折り重なるように倒れる事故が発生。死者77名、重軽傷者74名。
- 1937年10月27日 -
- 1948年(昭和23年)8月23日 - 万代橋事件
- 1948年(昭和23年)11月4日
- 1949年(昭和24年)4月24日
- 1950年(昭和25年)5月5日
- 1954年1月2日 - 二重橋事件
- 皇居の一般参賀に訪れた人達の将棋倒しが発生。死者16名、重軽傷者65名。
- 1956年1月1日 - 彌彦神社事件
- 1960年1月26日 - ソウル駅圧死事故
- 1960年3月2日 - 横浜歌謡ショー将棋倒し事故
- 1961年1月1日 - 松尾鉱山小学校児童圧死事故
- 新年祝賀会で生徒百数十名が校内の階段で倒れ込み、10人が死亡した。
- 1964年5月24日 - エスタディオ・ナシオナルの悲劇
- 1967年(昭和42年)
- 1971年1月2日 - アイブロックスの惨事
- スコットランドのグラスゴーにあるアイブロックス・スタジアムで行われたサッカーの試合の際に発生し、66人が死亡した。尚、同競技場では1902年4月5日にも群集事故が発生しており、25人が死亡している。
- 1978年(昭和53年)1月27日 - 札幌市の中島スポーツセンターで行われたイギリスのバンドレインボーのコンサートで、開演と同時に興奮した約500人の観客がステージに殺到し、詰めかけた観客が折り重なるように倒れ、女子大学生1人が死亡し、負傷者は7人[18]。
- 1979年(昭和54年) - 兵庫県西宮市の第51回選抜高等学校野球大会開催中の阪神甲子園球場で、入場券売り場前にいた群衆が販売が開始されたと思いこんで殺到、倒れた小学生2名が死亡した。
- 1985年5月29日 - ヘイゼルの悲劇
- ベルギーの首都ブリュッセルで行われた、UEFAチャンピオンズカップ 1984-85決勝のリヴァプールFC対ユヴェントスFCの試合前に、リヴァプールサポーターの一部が隣のユヴェントスサポーターの観戦エリアを襲撃した。逃れようとした多くのユヴェントスサポーターが壁際に押し寄せて折り重なるように倒れ、39人が死亡、400人以上が負傷した。
- 1987年(昭和62年)4月19日 - ラフィンノーズ公演雑踏事故
- 東京都千代田区の日比谷野外音楽堂で行われたロックバンドLAUGHIN' NOSEのコンサート中に観客がステージ前に殺到し、折り重なるように倒れる形となり死者3名重軽傷者27人を出した。当日の会場には主催者スタッフのみが配置され、警備員の配置は全くされていなかった。LAUGHIN' NOSEは引責謹慎。担当していたラジオ番組も降板した。
- 1987年(昭和62年)12月10日 - 1987年上海陸家嘴輪渡站雑踏事故
- 1989年4月15日 - ヒルズボロの悲劇
- イングランド・シェフィールドのヒルズボロ・スタジアムで行われた、リヴァプールFC対ノッティンガム・フォレストFC戦で、ゴール裏の立見席に収容能力を上回る大勢のサポーターが押し寄せたことにより死者96人、重軽傷者766人を出す惨事となった。イギリスのスポーツ史上最悪の事故と評される。
- 1990年(平成2年)1月7日
- 1990年7月2日 - 1990年メッカ巡礼事故
- 1993年1月1日 - 蘭桂坊将棋倒し事故
- 1999年5月30日 ‐ ニャミハ群衆事故
- 2001年7月21日 - 明石花火大会歩道橋事故
- 2005年(平成17年)
- 2010年7月24日 - ラブパレード死傷事故
- 2010年11月22日 - プノンペン群集事故
- 2014年12月31日 - 2014年上海外灘雑踏事故
- 2015年9月24日 - 2015年メナー群衆事故
- ハッジに訪れていた多数の巡礼者がメッカ郊外において人が折り重なるように倒れ、2,181人以上が圧死。ハッジでの群集事故としては史上最悪となった。
- 2017年5月7日 - COMIN'KOBE17における群衆事故
- 兵庫県神戸市のワールド記念ホールで開催されたチャリティーフェス「COMIN’KOBE17(カミングコウベ)」において、多数の観客が折り重なるように倒れ、21歳の女性が脊髄損傷の重症、他2名が軽症を負った。前のバンドが終わり退出する客と、次のバンドを観るために入場したい客が出入口付近に殺到した結果とされている。
- 2021年11月5日 -アストロワールドフェスティバル群衆事故
- 2022年10月1日 - カンジュルハン・スタジアムの悲劇
- インドネシア東ジャワ州マランのサッカー場で行われた、ペルセバヤ・スラバヤ対アレマFC戦後に、サポーターがピッチに乱入。これを鎮圧しようと警察が催涙ガスを撒いた結果、場内はパニック状態となり131人が死亡[25]。
- 2022年10月29日 - 梨泰院雑踏事故
関連項目
脚注
外部リンク
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