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『永劫の探究』(えいごうのたんきゅう、原題:英: The Trail of Cthulhu )は、アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスが発表した5連作の小説。クトゥルフ神話の一つ。
永劫の探究 The Trail of Cthulhu | |
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作者 | オーガスト・ダーレス |
国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
ジャンル | ホラー、クトゥルフ神話 |
初出情報 | |
初出 | 『ウィアード・テイルズ』1944年3月号 |
刊本情報 | |
出版元 | アーカムハウス |
出版年月日 | 1962年 |
ウィキポータル 文学 ポータル 書物 |
ダーレスが『ウィアード・テイルズ』(以下WT)誌上で1944年から1952年にかけて発表した5連作の小説シリーズであり、1962年にアーカムハウスから単行本が刊行された。下記5作で構成される。
日本では、まず青心社のハードカバー『クトゥルー』全6巻の第2巻に収録され、続いて文庫版全13巻の第2巻(以下、クト2)に収録されている。クト2は実質的に本作のための巻である[注 1]。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(以下HPL)の影響を大きく受けている。
順にWT1944年3月号、1945年7月号、1949年3月号、1951年5月号、1952年1月号に掲載された。
作中時は1938年から1947年まで。各編は、それぞれの語り手の手記であり、彼らの失踪後に公表されたものと位置づけられている。具体的な状況は5編それぞれ異なるが、概ねとしてはパターン化している。作中時では9年にわたる物語であるが、明らかとなっているのは手記に残されている部分のみ、つまり主人公が博士と関わってから身をくらますまでのごく短期であり、本格的に潜伏準備している間の出来事は描写されておらず、空白期間の割合が大きい。
人類がクトゥルフに抗戦するというオカルトアクションである。シュリュズベリイ博士のアクティブなヒーロー像は、後続作品群に大きな影響を与えた。文庫(クト2)カバーでは「クトゥルーと人類との凄惨な闘争を描いたクトゥルー神話の白眉」と紹介されている。既存作品の後日談であり、さらにHPLの存在が取り込まれており、虚実が入り混じる。
全5部作のうち、第2部のみ別の邦訳が存在し、単発で特定書籍に収録されている。
ダーレス作品の傾向については、長所と短所の両方が指摘されており、本作品については長所を活かした作品であるという評価がなされている。ダーレスにはHPLのコズミックホラーは書けないが、パルプ・ホラーとしてのダーレス神話は新たな読者を魅せていく。ダーレスの手腕は、コズミック・ホラーを「クトゥルフ神話」へと変革させ、HPLが成し得なかった業績を為した。巨大な存在に翻弄される孤立した人間ではなく、アクティブに邪神との戦いに立ち向かうという新路線は、後続作家達にも影響を与えた。
東雅夫の『クトゥルー神話事典』における解説を、以下に引用する。
朱鷺田祐介は、長所と短所の両方に触れつつも、「ダーレス版クトゥルフ神話の頂点であり、現在、われわれが満喫しているクトゥルフ神話というジャンルのエキサイティングな部分はここで凝縮されているといってもよい」などと解説している。[7]
山本弘は本作に「同じパターンの話を五回続けて読むのは少しつらい・・・・・・」と微妙なコメントを出している[8]。
平井呈一は高く評価しており、「英米恐怖小説ベスト・テン」で現代編の4位に挙げている[9]。平井は「オーガスト・ダーレット」「ズールーの足跡(The Trail of Cthulhu)」と訳した。
アーカムのシュリュズベリイ博士が、1915年に消息を絶ち、1935年に突如帰還する。また1925年のルルイエ浮上から10年の間に、世界中で邪教団の活動が活発化する。
1938年6月、博士は「想像力に欠如した者」という奇妙な条件で秘書求人を出す。面接に合格したアンドルー・フェランは、博士の屋敷に住み込みで働き始める。彼は博士の屋敷を訪れて来た水夫フェルナンデスから「ペルー奥地で怪物と教団を目撃した」という証言を得るが、後日フェルナンデスは怪死を遂げる。
博士から勧められて黄金の蜂蜜酒を飲んだアンドルーは速やかに眠りにつき、奇妙にリアルな夢を見る。
当初アンドルーは単なる夢としか思わなかったが、次第にリアルすぎる夢が現実と区別がつかなくなったことに不安を感じ始め、精神科を受診する。医師は疲労やストレスを指摘し、休職と帰宅を薦める。だがアンドルーは靴の汚れやイギリスの新聞といった数々の物証から混乱に陥る。診察から戻ったアンドルーは退職を申し出ようとするが、博士は逃走のための荷造りをしており、アンドルーにすぐさま資料を図書館に寄贈するように命じる。博士はアンドルーに夢の記憶が残っていた手違いを認め、「3つの夢は現実の出来事であること」「自分は20年間セラエノにいたこと」「クトゥルフとの闘争」等について説明し、続いて自分とアンドルーは遂に敵に目をつけられたと告げる。博士はアンドルーに、アーカムから離れて逃げるよう命じ、さらに護身用アイテムも手渡す。その夜、博士の屋敷は火事で全焼し、博士は行方不明となる。
アンドルーはボストンの自宅に戻るも、ついに敵が近づいてきたことを察知する。アンドルーは博士に教わった方法でバイアクヘーを召喚し、難を逃れる。失踪したアンドルーの部屋には手記が遺されており、後年一部削除された上で公表される。
アンドルーは、シュリュズベリイ博士と共にセラエノ図書館で研究をしていた。それから2年後の1940年、敵がインスマスで再動したことを察知する。単身地球に戻ったアンドルーはインスマスを探るが、敵に察知される。
一方で、失踪したアンドルーの部屋には、新たに神学生エイベルが入居していた。疲れていたアンドルーはエイベルに簡単な説明をすると眠ってしまい、エイベルはミスカトニック大学付属図書館でアンドルーについて調べる。エイベルがインスマスについて口にすると、ピーバディ老司書はやめておけと警告してくる。エイベルは荒廃したインスマスの町を偵察に行き、深入りせずに自宅に戻る。目覚めたアンドルーは詳細をエイベルに説明し、話を聞いたエイベルは仲間入りを申し出る。
アンドルーの標的は、インスマスを再興させた、マーシュ家の新当主エイハブ・マーシュである。2人は変装したうえでインスマスに赴き、絶えた旧名家ウィルキン家の遠縁であると素性を偽ってインスマス唯一のホテルに泊まる。その夜、2人は魔力石で屋敷を取り囲んで逃げ道を塞いだ上で放火し、エイハブ・マーシュを名乗る人外を焼き殺す。火は燃え広がり、港町の大部分を焼き尽くす大火災となる。2人は別れ、アンドルーはバイアクヘーを召喚して逃げ去る。
エイベルは単身帰宅し、数日は何もなかったが、何者かに尾行され始める。エイベルは手記を書き上げ、ミスカトニック大学付属図書館宛に送り、バイアクヘーを召喚してボストンを離れる。
ボストンの学者アサフ・ギルマンは、核物理学でハーヴァード大学教授を勤めた人物であり、定年退職後はミスカトニック大学で教鞭をとっていた。ミスカトニック時代の2年間でとある古代宗教に興味を抱き、南太平洋文明の物品を調査収集するようになる。やがて隠居するが、旅行中にロンドンで暴動に巻き込まれて突然死する。
ニューオリンズ在住のクリオール文化の研究家であるクレイボーン・ボイドは、近親者で唯一の学生だからという理由で、死んだ大叔父アサフ・ギルマンの研究資料を相続する。クレイボーンは資料を読み込むうちに、大叔父が邪教団に暗殺されたと確信を抱く。
ボストンのジュダ弁護士の事務所を、ギルマン教授の研究仲間を自称するジェイフット・スミスという男が訪れ、研究資料の譲渡を求める。資料はすでにクレイボーンの手にわたっていたことから、弁護士はスミスに彼の住所を教える。 夢を通じてその出来事を知ったクレイボーンはスミスを敵と判断し、さらにやって来て資料の譲渡/売却を要求してくるだろうことを予測し、全資料を隠す[注 5]。監視者の存在を察知しつつ、就寝したクレイボーンは、新たな正夢を見る。その映像は「生前の大叔父がクレイボーンに宛てた手紙が、旧住所ナチェスの郵便局で滞っている」というもの。夢は黒眼鏡の老人へと続き、彼はクレイボーンにすぐ逃げて夢の手紙を回収するよう助言する。クレイボーンは、スミスとの対面を避け尾行者も躱して、大叔父からの手紙を入手する。
クレイボーンは南米ペルーの首都リマのアンドロス教授に会いに行き、アンドラダなる人物および夢に現れる黒眼鏡の老紳士について尋ねる。教授は、宣教師アンドラダとシュリュズベリイ博士だと回答する。教授は資料を提供し、クレイボーンはアンドラダ神父を見つけ出すことを決意する。宿泊就寝中の夢に現れたシュリュズベリイ博士は、神父抹殺と拠点破壊の重要性を強調し、クレイボーンにアイテムを授ける。
クレイボーンは偽装用の建前を掲げてペルー奥地へと乗り込み、随時アンドロス教授に手紙を出して状況を報告する。アンドラダの正体は、クトゥルフを崇める人外の司祭であった。敵の目的は、かつてシュリュズベリイ博士が埋めた戸口を再び開くこと。地底湖の神殿に入り込んだクレイボーンは、クトゥルフの従者を目撃して危険性を悟り、すぐさまアンドラダの射殺を試みるが、仕留めきれずに逃げられる。クレイボーンはダイナマイトを起爆させて洞窟を崩し、バイアクヘーで逃走する。
失踪したクレイボーンは死んだとみなされる。複数の遺品や手紙類はブエノス・アイレス大学付属図書館で保管され、後に読者を限定し全文公開される。
ロンドン在住の小説家ネイランドは、資料調査や現地取材を経て、新作怪奇小説で成功を収める一方、誰かに身辺を嗅ぎ回られている気配を覚える。ネイランドを来訪してきたシュリュズベリイ博士は、ネイランドの作品がクトゥルフ崇拝を反映しているために目をつけられたと説明し、尾行者が非人間種族・深きものどもだと教える。ネイランドは蜂蜜酒の副次効果で尾行者たちの姿を視認し、異形の者たちが実在することを認め、博士への同行を申し出る。
失われたと言われている「アル・アジフ」を求め、博士とネイランドは、まず海路でアラビアに行き、続いて内陸入りして円柱都市アイレム=無名都市[注 6] を探す。護符の力で船旅は無事に終わり、深きものどもは砂漠まではやって来れないが、代わりに陸棲の爬虫類人が追跡してくる。2人は現地人を雇って砂漠をラクダで行進するが、ガイドが消えたり人夫が殺されたりしたことで、彼らは恐れて進行を拒むようになり、最終的には博士とネイランドの2人だけで無名都市に入る。遺跡の地下室には、3人の青年のボディが安置されており、博士は「バイアクヘーが肉体を安置して魂をセラエノに運ぶ」のだと説明する。続いて2人はアルハザードが殺された部屋に移動し、博士は降霊術でアルハザードの霊魂を呼び出す。博士はアルハザードの亡霊からルルイエの位置を教わり[注 7]、さらに部屋に隠されていたアル・アジフの羊皮紙原稿を回収する。2人は何者かが迫ってくる気配を感じ取り、急いで無名都市を離れ、上空にバイアクヘーを浮遊させて護衛につけたまま[注 8] 砂漠を戻る。
2人は船旅を続けるが、敵の強化に勘付き、他の乗客を巻き添えにはできないと判断し、バイアクヘーを召喚して離脱する。表向きは、嵐の中で甲板に出た博士とネイランドの2人が行方不明・溺死とされる。船室から発見されたネイランドの記録は大英博物館に保管されるも、後に南太平洋で起こったある出来事を調べるために公表される。
1928年にインスマスの町で発生した災害によりウェイト家は全員命を落とし、親戚に預けられ町を離れていた幼少のホーヴァスだけが難を逃れて生き残る。ホーヴァスはブレイン家の養子として育ち、学問を修めて考古学者となる。
1947年、ホーヴァスはシンガポールのバーで、老博士と4人の青年達に話しかけられる。博士はホーヴァスにクトゥルフ神について説明し、考古学的知見からの意見を求める。さらに博士はある場所を探していると言い、古地図を見せてホーヴァスに尋ね、ホーヴァスは現代のポナペであると回答する。博士は一度島を爆破しようとしたが失敗したと語り、今度こそ潰すと言う。ホーヴァスは自分が協力すれば島の場所を特定できると思い、同行を申し出る。
ホーヴァスは旅立ちの前に、祖父から譲り受けた書類を読み直す。ホーヴァスは、博士の探究には祖父にかかわる謎の解答があると理由のわからない確信を抱き、これまでの自分の業績を投げ打ってでもクトゥルフの探究をするという決意が湧く。
博士らの行動は、アメリカ政府に支援されていた。1947年9月、6人はポナペに赴き、アメリカ海軍と合流し、島を特定する。6人と軍人達はボートで島に上陸し、爆発物を仕掛けた正にそのとき、クトゥルフが姿を現す。邪神の姿と敵意にホーヴァスは混乱し、仲間を妨害してクトゥルフの元へ行きたいとすら思ったが、博士に引き戻される。急いで軍艦まで撤退したところで、遠隔爆破がクトゥルフを吹き飛ばすが、クトゥルフは肉片を再結合し復活を果たす。第一作戦は失敗と判断し、第二作戦へと移る。艦は高速で島から離れ、別働の航空機が島に原子爆弾を投下する。ルルイエの島は、核爆弾によって粉砕された。
博士はもう自分にできる限りのことはやったと言う。博士らと別れたホーヴァスは、故郷インスマスに行き、自分の血筋を知る。ウェイトの血がルルイエ行きを誘うのに、行ったら同族から裏切者として殺されることを理解し、ホーヴァスは絶望する。さらに、旧神未満であろう核攻撃ごときでクトゥルフを殺せているわけがないことも確信する。ホーヴァスは新聞記事から、社会復帰したエイベルが「水泳中に消えた」ことを知り、邪神達の報復が始まったことを察する。
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