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複数の者の合意によって当事者間に法律上の権利義務を発生させる制度 ウィキペディアから
契約(けいやく、羅: pactum, 仏: contrat, 英: contract)とは、複数の者の合意によって当事者間に法律上の権利義務を発生させる制度[2]で、合意のうち法的な拘束力を持つことを期待して行われるもののこと。贈与・売買・交換・賃貸・請負・雇用・委任・寄託など、「誰が誰のために、何を幾らでどのようにする。不履行となった場合はどのようにする」のかを定めるものが多い。
大陸法の国であるドイツや日本では、私法上の契約とは、相対立する意思表示の合致によって成立する法律行為をいう。一方、英米法の契約の概念については、大陸法における契約の概念と多少異なる特徴を有し、後述のように例えば英米契約法では約因(consideration)または捺印証書(deed)が契約の有効性の要件となっていることなどの特徴がある[3]。
人間は集団社会を形成する生き物であり、歴史の中で人間関係においては合意はもっとも尊重されなければならないとする契約遵守の原則が確立されてきた[4]。
例えば古くから商品取引は売買契約によって行われてきたが、近代社会では本来取引的でない活動も契約によって行われている[2]。契約の拘束力は前近代の社会から認められてきたが、それは身分的覊束関係と密接に結びついたものであった[4]。しかし、近代社会においては、人間は自由で平等な法的主体であり、その自由な意思に基づいてのみ権利の取得と義務の負担が認められるべきであると考えられるようになった[4]。例えば商品を生産する労働過程は中世までは親方と徒弟という身分関係であったが、近代以降は労働者が使用者に労働力を提供して対価として賃金が支払われる一種の取引関係になっている[2]。また、土地の利用にもかつては領主と領民という身分関係があり、領主は領民を保護する代わりに領民から年貢を取り立てていた[2]。しかし、近代社会では地主が農民に土地を貸し、農民が対価として賃料を支払う一種の取引関係になっている[2]。生活全般が契約によって行われているのが近代社会の特徴であり、それは中世に身分制度で規律されていた領域にも及んでいる[2]。これを表現する語として、イギリスの法制史家であるメーン(Maine)の「身分から契約へ」がある[5]。
その社会的背景としては、中世まで自給自足的経済だったものが、近代に入って資本主義の成立によって経済的な自由主義が発達したことがある[6]。資本主義経済の下での社会は、貨幣経済が高度に発達し、商品流通過程においては売買契約、資本生産過程においては雇用契約(労働契約)の二つの契約が中核をなし、このほか他人の所有する不動産を生産手段として利用するための賃貸借契約、資本調達のための金銭消費貸借契約などが重要な機能を果たしている[7][8]。
また、精神的背景としては、権威主義的な発想から、自分の意思に従って自由に権利や義務を発生させることができるというルネサンス以降の合理主義(近代自然法学)への転換がある[6]。ただ、近代以後、自由な意思に基づいて締結されている以上は、人と人との合意はいかなる内容であっても絶対的なものであるとの契約至上主義がみられるようになったが、一方で契約当事者が対等な地位でない場合については不合理な内容の契約が締結されるといった点が問題化し、現代では著しく社会的妥当性・合理性を失する契約は公序良俗違反あるいは強行法規違反として拘束力が否定されたり、事情変更の原則などによって是正を受けるに至っている[9]。
契約自由の原則とは、私的生活関係は自由で独立した法的主体である個人によって形成されるべきであり、国家が干渉すべきではなく個人の意思を尊重させるべきであるという私的自治の原則から派生する原則をいう[10]。この原則は、「レッセ・フェール」の思想の法的な表れとして意味をもつとされる[11]。
資本主義の発展とともに社会的な格差が大きくなると、国家によって契約自由の原則の修正が図られるようになった[17]。
要式契約とは契約の成立に一定の方式を必要とする契約、不要式契約とは契約の成立に何らの方式をも必要としない契約をいう。財産行為における契約においては、契約自由の原則(具体的には契約の方式の自由)が強く妥当するので、要式性が要求される契約は一定の場合に限定されることとなる。したがって、ほとんどの財産行為の契約は不要式契約である。これに対し、身分行為においては当事者の慎重な考慮とその意思の明確化、さらに第三者に対する公示などが必要とされるので、そのほとんどが要式契約である(婚姻や養子縁組などは届出を要する典型的な要式契約である)。
日本民法は保証人の意思を慎重かつ明確なものにするという観点から保証契約につき要式契約としている(保証契約については平成16年民法改正により446条2項で要式契約とされることになった)。また、ドイツ法では、不動産物権変動の成立要件として登記を要求している(ドイツ民法873条1項)。フランス法では、贈与、抵当権設定、建築予定の不動産の売買等につき、公証人による公署証書の作成を要する[48]。
後述するように米国では種々の契約で書面によって契約を行うことが要求されている[49]。
一回的契約とは売買契約など一回の給付をもって終了する契約、継続的契約とは賃貸借など契約関係が継続する契約をいう[44]。一回的契約の解除では契約の効力は遡及的に消滅するのに対し、継続的契約においては契約の効力は将来に向かってのみ消滅するという点で両者には違いがある(このほか継続的契約の解除においては信頼関係破壊による解除が認められる。信頼関係破壊の法理を参照)[44]。
債務の成立において、その原因事実と結びついている契約で、原因事実が不存在・不成立の場合には債権が無効となる契約を有因契約という[50]。反対に原因事実が不存在・不成立の場合にも債権については無効とはならない契約を無因契約というが、日本の民法上の典型契約はすべて有因契約である(ただし、契約自由の原則から無因契約を締結することは可能とされる)[51]。
複数の契約間に主従関係が認められる場合であり、金銭消費貸借契約を主たる契約とすると、その保証契約や利息契約を従たる契約という[52]。
契約は当事者の申込みと承諾の合致によって成立し、これが基本的な契約の成立形態である。契約の成立には客観的合致(申込みと承諾の内容の客観的一致)と主観的合致(当事者間での契約を成立させる意図)が必要となる[53]。
契約は、当事者間の申込みと承諾という二つの意思表示の合致によって成立する。例えば、売り手が買い手に対して「これを売ります」と言うのに対して買い手が「では、それを買います」と言えば両者の間で売買契約が成立する。
日本法においてはこのように意思表示だけで契約が成立する諾成主義が原則である。これに対し、契約成立のためには一定の方式をふまなければならないという考え方ないし規範を要式主義という(例えば、保証契約は契約書がなければ成立しない、など)。
英米契約法でも契約の成立は申込みと承諾を基本にしているが、後述の捺印証書(deed)または約因(consideration)がなければ契約は有効(enforceable)とならない[3]。
変則的な契約の成立形態として交叉申込と意思実現がある。
一方当事者の契約締結過程での過失によって、相手方の損害を被ったときは信頼利益の範囲で損害賠償責任を負う(契約締結上の過失という)[69]。
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契約が効力を生じるためには、その前提として契約が有効でなければならない。契約が有効とされるためには、(1)確定可能性(内容がある程度具体的に特定できること)、(2)実現可能性(契約締結時に実現可能な内容であること)、(3)適法性を要する[70]。適法性から社会的妥当性を分けて4つを有効性の要件と分析される場合もある[71]。
契約は、公序良俗に反する場合(90条)や、強行法規に反する場合(91条)、無効となる。契約を構成する申込み又は承諾が無効である場合(93条ただし書など)も、「その契約は無効である」と表現される。同様に、契約を構成する申込み又は承諾が取り消された場合(96条1項など)にも、「その契約は取り消された」と表現される。意思表示の有効性と契約の有効性を区別する意味がないため、このような用語法の混乱が生じている。
契約が有効に成立すると、当事者はこれに拘束され、契約を守る義務が生じる。契約の当事者は、契約によって発生した債権を行使し、債務を履行する。民法などの規定と異なる契約をした場合でも、その規定が任意規定である限り、契約の内容が優先する。「契約は当事者間の法となる」といわれるゆえんである。
契約により生じた債務を、債務者が任意に履行しない(債務不履行)ときは、債権者は、訴訟手続・強制執行手続を踏むことによって、債務者に対し強制的に債務の内容の実現を求めることができる(強制履行、現実的履行の強制)。また、債務不履行が発生した場合、債権者は、契約の解除をしたり、債務者に対し損害賠償請求をすることができる。
日本民法には契約の効力という款がおかれているが、実際上「契約の効力」の問題とされる事柄はつまるところ「債権の効力」の問題なのであって、債権総則の章において規定されている。そして、債権総則では包含しきれないような契約関係(特に双務契約)独自の規定を契約の効力の款においている。
近代法においては、本来、契約によって権利義務を取得するのは契約当事者のみであり、それ以外の者には利益・不利益をもたらすことはできないと考えられていた(契約の相対性の原則と呼ばれる)[72]。しかし、取引関係の複雑化に伴って、契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約が締結されるようになり、このような契約は第三者のためにする契約(537条)と呼ばれる(詳細については第三者のためにする契約を参照)。
第三者のためにする契約は、当事者の一方が第三者に対して給付を行うことを約するものであり、それぞれ独自の主体的立場の異なる三人の当事者の間で成立する三面契約とは異なる。また、第三者のためにする契約では要約者に権利義務が帰属した上で一部の権利のみが受益者に帰属することになる点で、権利義務の一切が本人に直接帰属する代理とは異なる。沿革的にはローマ法は他人のための契約締結を許さなかったが、フランス民法がローマ法を受けて原則としてこのような契約の締結を認めなかった(例外的に自己の他人に対する贈与の条件としてのみ可とする)のに対し、ドイツ法やスイス法はこのような契約の締結を認める法制をとった[73][74]。
契約の終了原因としては、単発的契約の場合には履行(弁済)、期間の定めのある継続的契約の場合には期間満了(更新が続いている場合には更新拒絶)、期間の定めのない継続的契約の場合には解約申入れがある[75]。また、契約一般の終了原因として解除や合意解除がある(なお、合意解除はそれ自体が独立した一つの契約であり解除権の行使とは異なる)[75]。
契約は解除することによって終了することができるが、契約が解除される場合には大きく分けて二つある。
一つは当事者の片方が一方的に契約を解除する場合であり、通常「解除」といえばこちらを指す。このとき、解除契約を一方的に解除する権限(解除権)が法律の規定によって一定条件(例えば債務不履行など)のもと発生するものを法定解除権といい、契約などで定めた条件に従って発生するものを約定解除権という。
上記の意味の解除については、講学上、遡及効を有するものを「解除」、有さないものを「解約(告知)」と分類することがあるが、民法の法文上はともに「解除」である。 もう一つの解除は、契約の当事者で話し合って契約をなかったことにする合意解除である。合意解除も「契約をなかったことにする契約」という一つの契約である。
信義則上、契約関係に立った当事者は、契約の終了後によっても権利義務関係は当然には終了せず相手方に不利益をこうむらせることの無いようにする義務を負う[41][76]。これは契約の余後効と呼ばれており、ドイツ法に由来する概念である[77]。これを実定法化したものとして日本法では民法654条(委任の終了後の処分)や商法16条(競業避止義務)などがある。
狭義には、義務(債務)の発生を目的とする合意(債権契約:英contract、仏contrat)のみを指し、広義には(義務の発生以外の)権利の変動(物権変動又は準物権変動)を目的とする合意(物権契約及び準物権契約)を含み(仏:convention)、さらには婚姻や養子縁組といった身分関係の設定や変更を目的とする合意(身分契約)をも含む[78][79]。異なる利益状況にある者が相互の利益を図る目的で一定の給付をする合意をした場合にそれを法的な強制力により保護するための制度である。
「契約」は狭義には債権契約のみを指し、広義には物権契約及び準物権契約を含むが、ドイツ民法やフランス民法が一般に広義の意味の契約を指しているのに対し、日本民法の「契約」は一般には狭義の意味で用いられている[78]。債権契約とは、一定の債権関係の発生を目的として複数の当事者の合意によって成立する法律行為を意味する[78]。
日本法においても民法の契約に関する規定は物権契約・準物権契約に準用すべきとされる[78]。
英米法においては、契約(Contract)とは2名以上の当事者間で結ばれた法律上強制力のある合意を意味する。大陸法と英米法を比較すると、破産法などの法分野に比べると、契約法の法分野は非常に似通っている[3]。例えば、契約の成立は申込みと承諾を基本にしている[3]。また、原則として承諾は申込みを変更してはならず、申込みを変更したり、申込みに条件などを付加したときは新たな申込みとして扱われる[3]。一方、捺印証書(deed)または約因(consideration)がなければ契約は有効(enforceable)とならないといった特色もある[3]。
コモン・ローにおいては、契約(Contract)が成立するためには、捺印証書(deed)という厳格な書面によって作成されているか、内容の約束がコンシダレイション(Consideration)法理により支えられている必要がある[80]。コンシダレイションとは「契約の一方当事者がその約束と交換に、相手方当事者から受け取る利益もしくは不利益」のことで道徳や正義ともイギリス人の慣行とも無関係である。considerationは日本語では「約因」と訳されている[3]。
契約の成立要件は申込(Offer)、承諾(Agreement)、約因(Consideration)、契約能力(Capacity)、合法性(Legitimacy)の5つであり、原則として約因を必要とするのが大陸法諸国との大きな相違点である。さらに、一定の契約は詐欺防止法の規定に従い書面により作成されなければならない。
英米契約法では契約には捺印証書(deed)または約因(consideration)がなければ有効(enforceable)とならない[3]。
申込者が自ら行った申込みを撤回できないという効力を申込みの拘束力というが、イギリスでは申込みの拘束力を原則として認めていない[83]。
英米法では一定期間申込みを撤回しないと約束した確定的な申込みをfirm offerという[49]。英国法では原則として契約の申込みに拘束力が認められていないが、これは一定期間申込みを撤回しないという約束にも約因を要すると考えられているためで、相手方になる者が対価を支払っているなど約因がない限り申込みにも拘束力は認められない[49]。約因がなく未だ契約が成立していなければ原則として申込者は申込みを撤回できる。
しかし、これでは不便なので米国法では統一商事法典で3か月の期限付きで一定期間申込みを撤回しないという約束の効力を認めている[49]。3か月を超える確定的な申込み(firm offer)が必要な場合、相手方になる者が申込者に対して対価(通常Option teeという)を支払えば約因を生じ、申込者は申込みに拘束され、3か月を超えて有効な確定的な申込み(firm offer)を取得できる[49]。
米国では種々の契約で書面が必要な要式契約とされている[49]。統一商事法典では500ドル以上の物品売買契約には相手方の署名入りの書面がなければ契約は有効にならないとされている[49]。また、多くの州で、不動産売買契約や保証契約などが書面が必要な要式契約とされている[49]。
多くの契約で書面が必要とされているのは詐欺防止法(statute of frauds)に由来する[49]。
イギリスでは1954年のLaw Reform Actにより多くの契約で書面の要件を撤廃したが、保証契約や不動産売買契約には書面が必要である[49]。
国際契約に関する条約としては国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)がある[3]。日本は国際物品売買契約に関する国際連合条約に2008年に加入し、2009年8月1日に発効した[3]。
隔地者間の契約における契約の成立時期につき、国際的には承諾の意思表示が申込者に到達した時点とする到達主義が支配的であり[84]、国際的な取引の場面においては、国際物品売買契約に関する国際連合条約において、国際的な物品売買契約に関する承諾の意思表示は、申込者に到達した時に効力を生ずることが規定され(同条約18条)、承諾の効力が生じた時点で契約が成立するとされている(同条約23条)。
行政主体(国や地方公共団体がその典型例)が一方当事者として締結する契約のことを特に行政契約(狭義の行政契約)という[85]。また行政主体同士で結ばれる契約も行政契約の一つである。
行政主体が私人との間で結ぶ行政契約の例は多岐に及ぶが、公共施設を借りたり、補助金の交付の際の贈与契約や、公共事業の請負(以上、準備行政型)、水道の給水(以上、給付行政型)、公害防止協定等の協定を結ぶ場合(規制行政型)、国有財産の地方公共団体への売払い(行政主体間型)が挙げられる。
従来、行政が結ぶ契約を「私法上の契約」と「公法上の契約」に峻別してきたが、現在は、行政主体を契約の当事者とする契約をまとめて「行政契約」(行政上の契約)とする。
行政契約も契約の一種だが、行政主体がその当事者であるため特殊な考慮が必要となる場合がある。例えば、本来ならどのような契約を結んでも良いのが原則であるが(契約自由の原則)、法律の優位を全面的に受け、行政主体に権力的権限をあたえるような契約は制限される。さもなければ権力的な行政作用は法律に基づいて行われなければならないとする「法律による行政の原理」が骨抜きにされかねないからである。さらに、合理的理由のない差別的な取扱いについても禁じられると考えられている(平等原則の適用)。また、本来ならば契約を結ぶか否かも自由なはずであるが、水道などの給付契約においては契約を締結する義務が課されている場合もある。
規制行政は行政行為の形式が原則であるが、例外的に契約方式が認められる。公害防止協定の内容について、法律の定めより厳しい規制を行うとともに、立入検査権などを定めている例があるが、刑罰を課すことや強制調査までは認められないとするのが判例である。
行政主体間の契約については、国有財産の地方公共団体への売払いは純然たる民法上の契約であるが、事務の委託は、権限の委任であるため、法律上の根拠が必要である。
行政契約は、住民監査請求(地方自治法242条)・住民訴訟(同242条の2)の対象となる。
契約は、一般競争入札を原則とし、指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限る(234条2項)。
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