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太陽風による自然災害 ウィキペディアから
太陽嵐(たいようあらし、英語: solar storm)とは、太陽で非常に大規模な太陽フレアが発生した際に太陽風が爆発的に放出され、それに含まれる電磁波・粒子線・粒子などが、地球上や地球近傍の人工衛星等に甚大な被害をもたらす現象である。
太陽は、太陽黒点数の変化周期である約11年のほか、約200 - 300年などのいくつかの活動周期を持つと言われている。最も顕著なのは11年周期であり、およそ11年ごとに、活動が活発な極大期とそうでない極小期とを繰り返す。極大期には、人工衛星に搭載される電子機器などに被害をもたらすような強い太陽フレアが発生することがある。また、強い磁場、高密度のプラズマを伴った太陽風が磁気圏に衝突することで、強い電気エネルギーが磁気圏内に生成され、それが原因となって短波通信障害や地上の電力施設などにも被害をもたらすことがある。太陽活動に関する研究が発展した近年、大規模な太陽フレアによって上記のような様々な影響がもたらされることが考えられるようになり、「太陽嵐」と呼ばれている。
なお、一般的な用法として太陽フレア全般のことを太陽嵐と呼称する場合もあるが、ここでは主に大きな被害が懸念される格段に強い太陽フレアについて記述する。
太陽嵐が発生すると、普通の太陽フレアよりも格段に多い電磁波(紫外線、光(可視光線)、赤外線、電波)、磁場の波、粒子線、粒子などが放出される。これらは通常、地球の磁気圏や大気圏を通過する際にほとんどすべてが減衰してしまう。例えば、紫外線は上部大気やオゾン層に吸収されるし、磁場、粒子線や粒子はまず磁気圏に捉えられたあと、上部大気を構成する粒子と衝突してエネルギーを放出し無害化される。唯一地表に届くのが大気の窓領域の電磁波、つまり可視光線や赤外線である。
太陽嵐のように規模が大きな場合でも、これらの防御機構は機能するため、プラズマ粒子などが直接地上に達することは考えにくい。一方で、間接的な影響は起こる可能性がある(ただし、2008年12月にテミスが観測したように磁気圏の穴=薄い場所があればそこから上部大気に直接影響が及ぶ可能性もある。この場合人工衛星等への影響が懸念される)。
太陽嵐により到達したプラズマ粒子等が溜まって磁気圏内に生成された電気エネルギーは、電離層に強い電流を流し、それによって激しい地磁気変動が発生する。さらにそれによる誘導電流が送電線に生成されると、この誘導電流が正弦波交流電流を乱し、電力関係の機器が壊れたり、発電所や変電所などの電力施設が破壊されて停電になるなど、大規模な被害が発生する。
太陽嵐により放出される電磁波などは、その速度の違いによって、3段階に渡って別々に到達する。まず、最初に到達するのが電磁波で、これは光速度で伝わるためわずか8分程度で到達する。これは主に電波障害を起こし、多くの通信システム(人工衛星、飛行機の無線など)が使用できなくなってしまう。
次に来るのが放射線で、これは数時間で到達する。宇宙飛行士などは放射線を遮蔽できるような施設内に避難しないと被曝してしまう。
最後に来るのがCME(コロナガス噴出、コロナ質量放出)と呼ばれるもので、2-3日後に到達する。この影響が最も危険であり、これに伴って磁気圏内に生成される電気エネルギーが原因となって発生した誘導電流が送電線に混入すると電流が乱れ、停電、電力システムの破壊を招く。これを防止するには、発電所などを停止して送電をストップし、強制停電を行うことが必要になると考えられている。大都市を中心に世界的に電力供給に影響が出ることが見込まれ、復旧に莫大な資金がかかり、経済的な損失を招くことになる。
はじめの電磁波到達を乗り切れれば、本体の太陽風の到達までに情報を発信して必要な措置を取ることができるため、主な対策として人工衛星による常時監視が挙げられる。これを担当している衛星として、NASAのACE がある。この衛星は地球と太陽のラグランジュ点付近で太陽嵐の常時監視をしており、太陽嵐の到達1時間前に太陽嵐を感知することができる。
過去に発生したと推定されている太陽嵐は以下のとおり。
地球上の海水が熱塩循環という大循環をしているように、太陽内部でも、磁気を帯びたガスがベルトコンベアーのように循環をしていると考えられている。この循環は40年程度で太陽内部を一巡するが、この長さが約30年-50年程度と前後する場合がある。速くなっている場合は、多くの磁力線が閉じてエネルギーが蓄積されていることを意味し、近い将来磁力線が開いてエネルギーを解放する可能性が高いと考えられている。この解放の周期は約50年周期とされ、かつ、太陽磁場が反転して磁力線が大きく動く極大期(11年周期)に合わせて発生する。
近年循環が早かったのは1986年-1996年であり、その直後の2000年の極大期には解放されなかったため、次の極大期に太陽嵐が発生する可能性があるとされていた。前述のように、2012年7月23日に発生していた太陽嵐は1859年の太陽嵐に匹敵する威力であり、地球の傍をかすめていたことが明らかとなっている。もし太陽嵐が発生すれば、これまでに被害が現れた1859年や1958年などと比べても、人工衛星が格段に増え、電気製品や電子機器があらゆるところに利用され電力システムが生活を支えている現代社会において、生活の末端から社会全般までの様々な場所に影響が及ぶ可能性がある。被害については未知数な点が多いが、仮に1859年と同レベルの太陽嵐が発生し地球に直撃すれば、広範囲で停電が発生し、現代社会における電力やGPSに依存する機能、水道などのライフラインが破壊され、全世界で2兆ドル規模の被害が発生するとの試算がある(全米研究評議会 (NRC) 、2008年)[5][4]。
2010年6月、NASAは「次の太陽嵐が太陽活動の極大期を迎える2013年5月頃に発生する可能性がある」という見解を発表した[6]。また、2013年に入ると極大期のピークは同年秋から冬頃という予想がされており、その前後には大規模な太陽フレアが発生する可能性がある。実際、同年5月中旬にはXクラス(最大X線強度が通常の100倍以上、最大クラス)の太陽フレアが2日間で4回発生しており、活発な黒点群が地球の正面側を向いていなかったことが幸いして特に被害などは出なかったが、今後の更なる発生が警戒されている[7][8]。ただ、2008年から始まった第24周期の黒点数の推移は、2009年のNASAの予想によれば1928年に近いものになり80年ぶりの少なさになると考えられている[9]。なお、さらに遡って2006年の時点では、第24周期は第23周期と同等の活動レベルであり、第25周期で大きく活動が低下すると考えられていた[10]。
いずれにせよ、近年は約11年周期である太陽活動周期が長期化してきている。第23周期終盤の黒点数極小期は2007年末から始まったが、その後の2008年1月に黒点磁極分布が反転して第24周期に突入してもしばらく活動は低迷し、極小期が当初の予想より大幅に長引いた。一時期は黒点数がほとんどゼロとなり、太陽風や放射照度も精密観測が始まった過去約1世紀で最低のレベルを記録した。2009年7月初旬には活動が活発化し始めたが、今回の谷と谷の間の周期は約13年と大幅に伸びていて、過去同様に周期が伸びた時期には寒冷化する傾向にあることから、小氷期の到来を懸念する声も出ている[11]。
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