白鯨はくげい: Moby-Dick; or, The Whaleは、アメリカ小説家ハーマン・メルヴィル長編小説

概要 白鯨 Moby-Dick; or, The Whale, 著者 ...
白鯨
Moby-Dick; or, The Whale
初版の表紙
初版の表紙
著者 ハーマン・メルヴィル
発行日 18 10 1851、14 11 1851
発行元 Richard Bentley
ジャンル 冒険小説海洋小説
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
形態 文学作品
ページ数 822ページ
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本作は実際に捕鯨船に乗船して捕鯨に従事したメルヴィルの体験をもとに創作され、1851年に発表された。アメリカ文学を代表する名作、世界の十大小説の一つとも称される。たびたび映画化されている。原題は初版(1851年)の英国版が『The Whale』、米国版が『Moby-Dick; or, The Whale』であるが、その後『Moby-Dick; or The White Whale』とする普及版が多く刊行されており、日本では『白鯨』の題が定着している[1]

概要

本作品は、沈没した悲運の捕鯨船でただ一人だけ生き残った乗組員が書き残した、白いマッコウクジラ「モビィ・ディック」を巡る、数奇な体験手記の形式をとる。

本作品は大長編である上に、難解かつ全体の雰囲気が暗鬱で、読み通すことが難しいことでも名高い。に関する当時の知識の叙述や、当時の捕鯨技術の描写などストーリー外の脱線が多く、またイシュメイルエイハブなど人名が旧約聖書から象徴的に引用されていることなどが、名前が知られているほど愛読されていない理由の一つである[注 1]

あらすじ

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『白鯨』原書(1892年刊)のイラスト。Augustus Burnham Shute (1851–1906)

アメリカの捕鯨船団が世界の海洋に進出し、さかんに捕鯨を行っていた19世紀後半、当時の大捕鯨基地・アメリカ東部のナンタケットにやってきた語り手のイシュメイルは、港の木賃宿で同宿した、南太平洋出身の巨漢の打ち・クイークェグと出会い、ともに捕鯨船ピークォド号に乗り込んだ。

出航のあと甲板に現れた船長のエイハブは、かつてモビィ・ディックと渾名される白いマッコウクジラに片足を食いちぎられ、鯨骨製の義足を装着していた。片足を奪った「白鯨」に対するエイハブ船長の復讐心は、モビィ・ディックを悪魔の化身とみなし、報復に執念を燃やす狂気と化していた[4]。エイハブの狂った復讐心は、エイハブを諌める冷静な一等航海士スターバック、常にパイプを離さない陽気な二等航海士のスタッブ、高級船員の末席でまじめな三等航海士フラスク、銛打ちの黒人ダグーやクイークェグ、インディアンのタシテゴなど、多様な人種構成の乗組員にも伝染し、乗組員一同は、白鯨に報復を誓う。

数年にわたる捜索の末、ピークォド号は日本沖でモビィ・ディックを発見・追跡する。白鯨と死闘の末にエイハブは海底に引きずり込まれ、損傷したピークォド号も沈没する。イシュメイルのみが生き残り、棺桶を改造した救命ブイにすがって漂流の末、他の捕鯨船に救い上げられる。

登場人物

イシュメイル
この物語の語り部。放浪の水夫だが捕鯨船乗組みは初めて。ピークォド号では見張り担当。
エイハブ
捕鯨船ピークォド号の船長。かつて白鯨に片足を奪われ、それ以来復讐心を胸に抱いている。歳の離れた妻と子供を港に残して出港する。
クイークェグ
南太平洋のとある島の、西洋人から人食い人種と呼ばれる部族出身の銛打ち。イシュメイルの友人。キリスト教の文明世界に憧れて故郷を訪れた捕鯨船に乗り込むがすぐに幻滅し、故郷の信仰を守りながら放浪している。ピークォド号に乗り込んでからはスターバックの専属となる。
スターバック
捕鯨船ピークォド号の一等航海士。ナンタケット出身のクエーカー教徒
スタッブ
同二等航海士。コッド岬出身。
フラスク
同三等航海士。マーサズ・ヴィニヤード出身。
ダグー
黒人の銛打ち。フラスクの専属の部下。
タシテゴ
ネイティブアメリカンの銛打ち。マーサズ・ヴィニヤード出身。スタッブの専属の部下。
フェダラー
謎めいた東洋人。拝火教徒。エイハブ直属の銛打ち。
ピップ
黒人の少年。シップキーパー(捕鯨作業中に本船に残る留守番役。船番)。
パース
ピークォド号乗組みの鍛冶屋。
イライジャ
ナンタケットの波止場にいた謎の男。

映像化作品

海の野獣英語版(1926年)
ミラード・ウエッブ英語版監督、ジョン・バリモア主演。サイレント映画。ただし、原作が余りに暗く難解なため、大幅にアレンジされた。足を失う前のエイハブの姿が描かれ、エイハブが愛するエスターという美女や彼の舎弟デレックなど原作に存在しない人物が登場する。更にラストはエイハブが白鯨を倒し、エスターと結ばれるハッピーエンドとなっている。
海の巨人英語版(1930年)[注 2]
トーキー。こちらも原作をアレンジしていたと言われている。
白鯨(1956年)
3度目の映画化で、ジョン・ヒューストン監督、グレゴリー・ペック主演。『白鯨』という邦題が初めて映画にも使われた。原作に忠実に作られたが、前2作に比べて興行的に大失敗となった。暗く難解な原作を再現したため、観客が作品のストーリーや雰囲気に付いて行けなかったのが敗因と言われる。しかしその後、『ジョーズ』などの海洋パニック映画の原点として再評価された。権利関連は主演のペックが所有していた[注 3]
白鯨伝説(1997年)
出﨑統監督のTVシリーズ。原作を大幅にアレンジしたSFアニメ作品。
モビー・ディック英語版(1998年)[注 4]
フランク・ロッダム英語版監督のTVシリーズ。主演はパトリック・スチュワート
バトルフィールド・アビス(2010年)
トゥリー・ストークス英語版監督のアメリカの映画作品
白鯨 MOBY DICK英語版(2011年)[注 5]
マーク・バーカー英語版監督の全2話のTVシリーズ。前編は『冒険者たち』、後編は『因縁の対決』の日本語タイトルがつけられている。
白鯨との闘い(2015年)
ロン・ハワード監督のアメリカの映画作品。厳密には小説作品としての『白鯨』の映画化ではなく、『白鯨』の物語のモデルとなった1820年の捕鯨船エセックス号に起こった襲撃事件(マッコウクジラによって船首に穴を開けられ沈没、乗組員21名のうち生存者は8名のみ)を調査したナサニエル・フィルブリック英語版(Nathaniel Philbrick)のノン・フィクション『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇英語版(“In the Heart of the Sea-The Tragedy of the Whaleship Essex-”)を映画化した作品である。

上記以外にも、『トムとジェリー』に「白いくじら」(Dicky Moe、1962年7月1日)のエピソードがある他、舞台を中世ファンタジー世界に置き換えたアメリカ映画エイジ・オブ・ザ・ドラゴン英語版』(2011年)がある。

備考

白鯨「モビィ・ディック」のモデルは、実在した白いマッコウクジラの「モカ・ディック」だとされる[6]

本作には聖書のエピソードが数々登場し、エイハブ (Ahab) とイシュメエル (Ishmael) の名も旧約聖書の登場人物、イスラエルアハブ、そして、アブラハムの庶子イシュマエルに因む。

作中、船が目指す海域として「Japanese sea」「coast of Japan」という表記が使われるが、これは日本海や日本近海という意味ではなく太平洋マッコウクジラが多く生息するハワイ小笠原諸島釧路[要曖昧さ回避]を結んだ三角形の海域「ジャパン・グラウンド(Japan grounds)」を指す当時の捕鯨関係者による呼称である[7]。また補給の問題に関連して日本の鎖国について言及されている(条約港を参照)。海図を確認する場面で『Niphon』の表記が登場しており[8]、当時はこの表記も使われていたことが確認できる。

実際にピークォド号のモデルとなった19世紀の捕鯨船ツー・ブラザーズ号はハワイの近海で発見された。2008年から行われたNOAA(アメリカ海洋大気圏局)の調査により、2011年に発見された残骸はハワイのホノルルから約1,000キロの浅瀬にあり、船の索具、2基や捕った鯨の脂を融かす器具3点のほか調理器具[9]が含まれている[注 6]

コーヒーチェーン店「スターバックス」の名前は、本作の一等航海士スターバックに由来する[11][12][13]スターバックは当時のナンタケット島でよく見られた姓で、鯨取りのスターバック[注 7]は言うなればパン屋のベーカー氏、といったニュアンスである。なお135章からなる作品中に、コーヒーという単語がスターバックとともに登場するのはただ1箇所で、油を切らして無心にきた捕鯨船の船長が手にしていた油差しをコーヒーポットと誤認する場面である。スターバックとコーヒーに特段の関連はない。

フィリップ・ホセ・ファーマーチャイナ・ミエヴィル夢枕獏などが本作のパスティーシュ小説を書いている。

書誌情報

原書

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Moby-Dick (1851年) アメリカ版
  • Melville, H. (1851a). The Whale. London: Richard Bentley - 全3巻 (第1巻 viii+312頁;第2巻 iv+303頁;第3巻 iv+328頁) いわゆる英国版。1851年10月18日発行。
  • Melville, H. (1851b). Moby-Dick, or The Whale. New York: Harper and Brothers xxiii+総635頁。いわゆる米国版。出版日は1851年11月14日と推定される。
  • Melville, H. (1979). Moby-Dick, or The Whale. Moser, Barry(木版画挿絵). San Francisco: Arion Press. http://www.arionpress.com/catalog/006.htm 2017年6月5日閲覧。 - B・モーザーによる木版画100点を挿絵に採用した総部数265部の限定版で250部を頒布。愛書家団体Grolier Clubが上位100冊に数えるなど、20世紀最高のアメリカの出版物として認められている[16]
  • Melville, H. (1988). “109 Ahab and Starbuck in the Cabin” (e). Moby-Dick, or The Whale. Northwestern-Newberry Edition of the Writings of Herman Melville. 6. エバンストン: ノースウェスタン大学出版会. ISBN 9780810102682. https://books.google.co.jp/books?id=mccZA9jAhfgC&pg=PA899&lpg=PA899&dq=Niphon%E3%80%80Moby&source=bl&ots=mRfWrhWPU-&sig=KfDwww74gf2KWbv2cbCPCHzkqyU&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwiDwcv3vdTfAhVMdXAKHZ3HBqMQ6AEwBnoECAEQAQ#v=onepage&q=Niphon%E3%80%80Moby&f=false 2019年1月4日閲覧。 - アパラタス全文を付録した研究書。記述は他の版に引用されている。総1048頁。
  • Melville, H. (2009). Moby-Dick. Kent, Rockwell(挿絵). The Folio Society. オリジナルの2017-02-20時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170220120757/http://www.foliosociety.com:80/book/MBY/moby-dick 2017年6月5日閲覧。 - 限定出版、Rockwell Kentによる挿絵281点入り。

日本語訳

初完訳版は阿部知二訳で、1941年に第一部が、1949年に再版と続編が出版、のち旧岩波文庫版や各社「世界文学全集」で刊行。
1950年代に、富田彬訳、宮西豊逸訳、田中西二郎訳も出版。現行の文庫判は、改版と新訳版が出ている。

関連作品

脚注

参考文献

関連文献

外部リンク

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