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スポーツカー (仏: voiture de sport、英: sports car) は、自動車競技に用いる目的で特別に製造される自動車の一類型であり、特殊車ないし実験的競技車に属する。並列2座席でホイールの大半がボディに覆われており、前照灯、尾灯、方向指示器を備えるなど、公道走行に必要な最低限の形態と装備を有している。プロトタイプとも呼ばれる。
以下、断りなき場合「スポーツカー」とは競技用に製造された車両を指す。
自動車競技の中でも、主に自動車の走行性能を競う製造者対抗ロードレース[1][2]と、ヒルクライム[注釈 1][3][4]でそれぞれ運用することを前提に企画、開発、製造される。2020年以降においては国際自動車連盟 (以下、FIA) 国際モータースポーツ競技規則 (国際スポーツ法典、以下、CSI) 付則J項部門IIのグループCN「プロダクションスポーツカー」と、同グループE (フリーフォーミュラレーシングカー群) のSC (スポーツカー) に属する類型が該当する。SCは国際ヒルクライム技術規定のグループE2-SC、FIA世界耐久選手権およびル・マン地域シリーズ[注釈 2]技術規定の「『ル・マン』プロトタイプ」("Le Mans" Prototype, LMP) 1から3およびハイパーカー (LMH)、IMSAスポーツカー選手権技術規定の「デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル」(Daytona Prototype Int., DPi) が代表的であるが、CSIの既存グループに適合しない2座席車両は全てが該当する。E2-SCはCNから、DPiはLMP2からそれぞれ派生した類型である。
FIAの管理下で技術規定がなされているが、規定の基本趣旨は製造者が公道運用に自由な発想で製造した乗用車を競技運用する場合の、階級分類と形式分類である。これはツーリングカーやグランドツーリングカーと同じであるが、それらとは異なり1台だけの特別製造車から対象となる[5][6][7]ため、実質的にはほぼすべてが競技専用として製造されている。また、生産台数の要件がある場合でも、それはごく少数[8][9][10]であるため、競技専用のまま要件台数が生産され、不良在庫車は無理にでも公道用に仕立てて富裕層(コレクター)などへ売却される[11]。本来から自由製造されるものであるため、諸元や投入技術に制約が少なく、これが製造者の技術先進性や知見、開発能力などを競う下地となってきた[注釈 3]。ただし、1982年以降は諸元に上限または下限が設けられるようになり、その制限内での競争となっている。
ロードレースにおけるスポーツカーの競技性高度順位は、一つ上位にフォーミュラレーシングカーがあるのみであり、下位にシルエットタイプカー、グランドツーリングカー、ツーリングカーと続いている。スポーツカーはフォーミュラレーシングカーレースに参加することはできないが[注釈 4]、過去にはフォーミュラレーシングカーとの間に存在した二座席レーシングカーのレースに参加することができた。またヒルクライムは個別スタートであるため、スポーツカーとフォーミュラレーシングカーは同部門として競合する。
スポーツカーの製造者 (マニュファクチャラー) とはシャシの製造者を指す。エンジンは大規模製造者では自身で開発、製造する場合が多く、小規模製造者では他者 (大規模製造者またはエンジン専門製造者など) から供給 (供与、貸与、売却など) を受ける場合が多い。なお、大規模製造者が他者 (多くは小規模製造者) へシャシの開発、製造を委託する場合もあるが、[注釈 5]スポーツカーの名称であるメイクは委託者のものを名乗り、開発、製造を請負った受託者のメイクが名乗られることはない。また、小規模製造者は自身のメイクに連ねてエンジンメイクが表示される場合がある。 [1]
「公道運用を前提とした生産台数義務を課されていない車両」とは、即ち乗用車の試作車とみなすことができ、自動車競技においてスポーツカーとプロトタイプは同義である[12]。過去、グランドツーリングカー (以下、GT) レースへスポーツカーを部門化させるにあたり「プロトタイプ(試作GT)」は方便として度々用いられた。以降、競技会の部門名称にスポーツカーとプロトタイプのいずれを採るかは主催者の思惑次第となっている。
ボディはフェンダーを固定して備えるか、ないしはそれと一体化している。フェンダーはホイール外周の1/3以上を覆う規定となっているが、前後にボディのオーバーハングが伸びているため、上から眺めたとき操舵輪が直進状態においては全てのホイールが完全にボディ輪郭内に収まっている。また全ての機械部位もボディに覆われ、通気口から覗き見える部位や排気管後端などを除き、外部から見えてはならない[13][14][15][注釈 7]。
座席は左右対称に並列配置されている。運転席は左右いずれでもよいが、2021年のWEC出場チームは全車が左を選択している。左が選ばれる理由は単純に「多くを占める欧州のドライバーが乗り慣れているため」である。ただし右のほうがピットイン時の交代が速い、乗車姿勢が若干楽になる、日欧のサーキットは右回りが多いので重心で有利などのメリットも多いとされる。パドルシフトの無かった時代は右運転席の恩恵を受けつつ欧州人ドライバーが乗りやすくするため、右運転席+右手側にシフトレバーという凝った設計が用いられたこともあった。
乗車定員数(座席数)は黎明期にはエンジン排気量の多寡に応じ最少数を4、2、1とされていた[16]が、それが撤廃され、エンジン排気量にかかわらず最少で2とされた[17]後においては、例外なく2座席(運転席、助手席)が選択されている。4座席はデザイン的にも運用的にも選択する利点はなく、国際自動車連盟(以下、FIA)の公認が取得されていないグランドツーリングカーを先行して競技運用した場合[注釈 8]や特殊プロダクションカーのシャシを流用した場合[注釈 9]などに例があるのみである。なお、1982年から運転席以外の座席は取り外すことが許されており(ツーリングカー以上に共通)[18]、実質的には助手の搭乗空間と座席の取り付け場所が確保されているだけであり、場合によってはFIAが求める必要機材の設置場所として利用される。
ルーフの有無は基本的に問わないが、クローズドカー(クーペ、ベルリネッタ)かオープンカー(ロードスター、バルケッタ、スパイダー)のいずれかに限定されることもある[注釈 10]。クローズドカーは一定寸度を満たした左右一対のドアが必須装備であり、ウィンドウを乗降口とすることはできない。
原動機は黎明期から常識的にガソリン燃料のオットーサイクルエンジンが多用されているが、内燃レシプロ (ヴァンケル式を含む) であれば高速ディーゼル (サバテサイクル) などあらゆる理論サイクルのエンジンを用いる事ができ、過給や電動補助も自由である。一時期はガスタービン (ブレイトンサイクル) も許容されていた。[19]排気量は個別レースやレースシリーズで制限が設けられている場合がある。
原動機から取り出した回転運動エネルギーをホイール外周のトレッドと路面との間に発生する粘着摩擦により直線運動に変換して走行する。駆動方式は基本的に制限はないが、個別のレースまたはレースシリーズの運営において制限されている場合がある[1][20]。
スポーツカー開発の大義名分は一般交通下での運用であるためスターターモーター、ブレーキランプ、ターンシグナルはもとより、夜間走行用にヘッドランプ、テールランプ、乗用車のライセンスプレートランプに相当する側面コンペティションナンバーランプ、メーター照明および雨天走行用に乗用車のリアフォグランプに相当するレインランプを備えており、クローズドカーの場合はウィンドシールドワイパーがこれに加わる。ただし競技運用においては、それが昼間のみで終始する場合に限りヘッドランプとターンシグナルの装備を免除される運用規定もある(グループCNなど)。また1971年まではスペアホイールの固定搭載が義務付けられていた[注釈 11]。おおよそすべてのクローズドカーではラム圧による換気システム[注釈 12]を備えているが、車内温度を一定基準内に保つ規則が適用される場合は別途エア・コンディショナーが追加装備される。
国際自動車連盟 (以下、FIA) による分類と日本語での呼称および原文。
黎明期から1950年:国際スポーツ法典付則C項 (以下、CSI-C)「スポーツカー (voiture sport)」
1956年:CSI-C「スポーツカー」
1958年:CSI-C「スポーツカー」
1961年:CSI-Cスポーツ部門第4グループ「スポーツカー (voiture de sport)」
1966年:国際スポーツ法典付則J項 (以下、CSI-J) A部門「公認生産車」第4グループ「スポーツカー」、CSI-J|B部門「特殊車」第6グループ「プロトタイプ・スポーツカー (voiture de sport prototypes)」
1969年:CSI-J|A部門「公認生産車」第4グループ「スポーツカー」、CSI-J|B部門「特殊車」第6グループ「プロトタイプ・スポーツカー」
1970年:CSI-J|A部門「公認生産車」第5グループ「スポーツカー」、CSI-J|B部門「実験的競技車」第6グループ「プロトタイプ・スポーツカー」
1972年:CSI-J|B部門「実験的競技車」第5グループ「スポーツカー」
1976年:「実験的競技車」廃止
1982年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツカー」
1983年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツカー」
1985年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツカー」
1986年:CSI-J|部門I「量産車」グループB「スポーツグランドツーリングカー (voiture de grand tourisme de sport)」、CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツプロトタイプカー (voiture de sport prototypes)」
1988年:CSI-J|部門I「量産車」グループB「スポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツプロトタイプカー」
1989年:CSI-J|部門I「量産車」グループB「スポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツプロトタイプカー」
1990年:CSI-J|部門I「量産車」グループB「スポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツプロトタイプカー」
1991年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「スポーツカー」
1993年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「ジュニアスポーツカー (junior sports car)」、CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー (production sports car)」、CSI-J|部門II「競技車」グループGT「グランドツーリング・スポーツカー (grand touring sports car)」
1994年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「ジュニアスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループGT1「グランドツーリング・スポーツカー」
1997年:CSI-J|部門II「競技車」グループC「ジュニアスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループGT1「グランドツーリング・スポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループE「スポーツレーシングカー (Sports Racing Car)」
1999年:CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループE「スポーツレーシングカー」
2005年:CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー」
2012年:CSI-J|部門II「競技車」グループCN「プロダクションスポーツカー」、CSI-J|部門II「競技車」グループE|SC「『ル・マン』プロトタイプ ("Le Mans" Prototype, LMP)」
1960年代前半に国際自動車連盟加盟団体であるアメリカ・スポーツカークラブは、国際スポーツ法典 (以下、CSI) 付則C項のスポーツカー技術規定を大幅に緩和して公道運用を前提としない純レーシングカーとなっていた「改造部門」を独自に分類していた。[21]これが1966年にCSI付則J項へスポーツカーとは決別してC部門 (レーシングカー) 第7グループに二座席レーシングカーとして新定義された[22][注釈 16]。
※括弧書きは製造者自身の競技運用年
※画像は年式やエンジン排気量が優勝車と異なる場合がある。
ル・マン24時間、RACツーリストトロフィー、ミッレミリアのうち2つ以上の同年優勝した型式または同一大会連続優勝した型式、および欧州ヒルクライム選手権を3年以上連続で獲得した型式。
※この間、第二次世界大戦により、世界的にモータースポーツ興行が中断。
国際自動車連盟主催選手権を獲得した製造者による同年のル・マン24時間に優勝した型式、および欧州ヒルクライム選手権を3年以上連続で獲得した型式。
※1976年から1981年まではスポーツカーが廃止されているため、代用された二座席レーシングカーを参照のこと。
国際自動車連盟主催選手権[注釈 17]を獲得した製造者による同年ル・マン24時間に優勝した型式、および欧米両ル・マンシリーズ[注釈 18]を同年年間優勝した製造者による同年ル・マン24時間に優勝した型式、および欧州ヒルクライム選手権を3年以上連続で獲得した型式。
インターコンチネンタル・ル・マン・カップとそれに続くFIA世界耐久選手権を獲得した製造者による同年ル・マン24時間に優勝した型式、および欧州ヒルクライム選手権を3年以上連続で獲得した型式。
※括弧書きは製造者自身の競技運用年
※画像は年式やエンジン排気量が優勝車と異なる場合がある。
日本の製造者メイクを有する型式から、国際自動車連盟主管レースに総合優勝したことがある型式、または各国のシリーズ戦に年間総合優勝したことのある製造者の当時運用していた型式。
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