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音声、即ち人が発声器官を使って発する音の一種 ウィキペディアから
母音(ぼいん、英: vowel)は、言語を発音するときの音声、即ち発声器官を使って発する音の一種である。普通は声帯の震えを伴う有声音であり、ある程度の時間や声を保持する持続音である。
英語の vowel から V と略して表されることもある。子音(英: consonant、C)とは対立概念である。なお半母音は一般には子音へ分類される。
母音は、舌、唇、歯または声門で息の通り道の閉鎖を伴なわず(完全にも部分的にも、瞬間的にも)、狭くすることもない[注釈 1]。
母音は単独で、あるいはその前後に一つまたは複数の子音を伴って、一つの音節を構成する。すなわち音節主音としての機能を持つ。
ほとんどの言語は3つ以上の母音を持ち、例えば、古代ギリシア語、ラテン語、日本語[注釈 2]は5つを区別する[注釈 3]。
国際音声記号(IPA)では、母音の音を決める以下の3つの主要な要素にしたがって母音を分類している。その形から母音三角形・母音四角形・母音四辺形などとも呼ばれる。
母音の音色を決定するのは、舌の形と唇の形、顎の開閉度である。そこで調音音声学では、母音を分類する基準として、唇の丸み加減、舌の最上部の前後と舌の最上部の高低の位置が使われる。これらの状態によりIPAによって基本母音が定められている。ただし、これは物理的に舌の位置をはかったものではなく、聴覚印象上の音の距離によって決められたものである。
舌の頂上の位置を前後によって分類する。
舌の頂上の位置を高低によって分類する。
調音器官の筋肉の緊張を伴うと考えられるか否かで母音を弁別することがある。前者を緊張音 (tense vowel)、後者を弛緩音 (lax vowel) と呼ぶ。必ずしも筋肉の緊張があると証明されてはいないので、純粋な音声学的な研究ではあまり扱われないが、個々の言語の音韻論では、伝統や母語話者の感覚に基づきこの用語が使用されることがある。例えば、英語音韻論では、特に一般米国英語発音の母音の分類で、伝統的にこの術語が使用されることが多い。この場合、英語音韻論上の短母音 /æ, ɛ, ɪ, ʌ, ʊ/ を弛緩母音、英語音韻論上の長母音と二重母音 /i, u, ɑ, ɔ, eɪ, aɪ, oʊ, aʊ, oɪ/ を緊張母音に分類する。この分類は、英語の開音節が必ず緊張母音で終わることなど、英語の音節構造の特徴を説明する際には非常に利便性が高い。また子音のうち、有声音を軟子音 (fortis consonant) として弛緩音、無声音を硬子音 (lenis consonant) として緊張音に分類する。そもそも、英語の発音では、文末の有声子音が無声化する場合や、音節境界上の本来は無声子音の /t/ が母音に挟まれると有声化する現象などを考慮すると、英語の子音音素を有声音と無声音で対比させることは、必ずしも正確だとは言えない。
母音は、その持続時間の長さの違いによって長母音と短母音に分けられる。言語のなかには、長母音と短母音の区別により意味の弁別を行うものがある。日本語もその代表であり、長母音を含む音節を長音と呼んでいる。
なお、英語の [i] と [ɪ] (bead [ˈbid], bid [ˈbɪd]) は、習慣的に長母音・短母音と呼ばれることがあるが、実際には長さは弁別的ではない。英語では、 bead [ˈbiːd], beat [ˈbiˑtˑ] のように、音節末の子音の有声・無声の区別に長さを利用している。
一つの母音の発声中に調音を変えるものを二重母音と呼ぶ。三種類の調音があるなら三重母音と呼ぶ。二重母音・三重母音はあくまで一つの母音であり一音節であるが、単なる母音の連続は複数の音節となる。後者は単母音と呼ぶ。
鼻からも息を出す母音を鼻母音と呼ぶ。標準的な日本語ではこの音は音素としては存在しないが、実際の音では「雰囲気」、「陰影」など撥音(「ん」の音)の次に母音、半母音、摩擦音が続く場合、撥音が鼻母音化して、それぞれ [ɸɯɯ̃iki] または [ɸɯĩiki], [iĩeː] と発音される。[ĩ], [ɯ̃] は [i], [ɯ] に対応する鼻母音である。
母音を調音する際に舌尖を反らせたり、舌を盛り上げたりすると、咽頭に狭めができてr音のような音色を備える。これをr音化といい、r音性の母音ができる。
母音は言語によってはしばしば無声音として実現されることもある。この現象を母音の無声化(ぼいんのむせいか)という。
例えば、日本語の音韻体系において、無声子音に挟まれた狭母音[i], [ɯ](「北」[ki̥ta]、「房」[ɸɯ̥sa])や、無声子音の後で文節末でピッチの低い狭母音[i], [ɯ](「秋」[aki̥]、「〜です」[desɯ̥])などの場合がある。但し中部地方から中国地方にかけての方言においては、母音の無声化の起こらないものも少なくない。
中国語や琉球の宮古方言などの言語には、舌先母音(したさきぼいん)または舌先的母音(したさきてきぼいん)[1]と呼ばれている特別な母音がある。
舌先母音は、普通の母音(舌面母音、ぜつめんぼいん)のように主に舌面を用いて発音されるのに対し、舌の先端(舌尖ではなく舌端も含めた部分)を口蓋に近づいて発音されるため、しばしば[z]や[s]に類似する摩擦噪音を伴う。成節的子音と解釈される立場もある。
習慣上、舌先母音を普通の母音と区別するため、中国語諸方言や南琉球諸方言の文献では、以下のような国際音声記号(IPA)にはない記号が使われている。
非円唇 | 円唇 | |
---|---|---|
普通 | [ɿ] | [ʮ] |
そり舌 | [ʅ] | [ʯ] |
研究者によっては、[ɿ] のような母音を [ɨ] [ï] [s̩] [z̩] [ɹ̩] などのように記述する場合もある。
舌、歯、唇または声門で口からの息の通り道を完全に、部分的にあるいは瞬間的に閉鎖せず、かつ、口腔内の上下の調音器官の間隔が狭い無摩擦の有声音を接近音といい、接近音は持続音として発する場合は狭母音として母音に含めるが、持続せずその構えからすぐに続けて別の母音を発する場合は、一般にその接近音を半母音として子音に含める。また、鼻音の[m]、[n]、[ŋ]や流音の[l]、[ɹ]などが音節性を持って母音のように用いられる言語もある。[h] を無声の母音とすることがある。
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