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殺虫剤(さっちゅうざい、InsecticideまたはPesticide)は、人間や農作物にとって有害な害虫(昆虫を含む動物)を殺す(駆除する)ために使用される薬剤である。広義には殺ダニ剤(Acaricide, Miticide)や殺線虫剤(Nematicide)も含める。殺虫剤には殺卵剤、殺幼虫剤、殺蛹剤、殺成虫剤があり、最も多く使用されるのは、殺幼虫剤と殺成虫剤である。アース製薬では、家庭用の製品について虫ケア用品(むしケアようひん)の呼称を使用している[1]。
アブラムシや毛虫など農作物の害虫に対して用いるものは農薬の1種であり、ハエ、カ、ゴキブリなどの感染症に関連する衛生害虫を除するものは防疫用殺虫剤(防除用医薬部外品)と呼ぶ。日本では農薬は農林水産省、防疫用殺虫剤は厚生労働省の管轄である。農業以外で「殺虫剤」と呼ぶ場合、後者の「防疫用殺虫剤」を指す。
農業用殺虫剤は、主に系統と呼ばれる農協か、商系と呼ばれるそれ以外のルートで販売される。一部はホームセンターで入手することもできる。防疫用殺虫剤は缶に入ったエアゾールや蚊取線香などとして広く市販されているものは家庭用で、防除業者向けにもっと強力なものも市販されている。
殺虫剤は原体(有効成分)のまま使用されることは無く、共力剤・希釈剤と混合され、効力を調整されて使用される。
殺虫剤の効力の評価法には次のようなものがある。
江戸時代には、イネにつくウンカという害虫のせいで、100万人近くの死者がでる大飢饉があったことから、田圃に鯨油を流してから、稲についているウンカをはらい落として窒息死させていた。しかし、鯨油が高価なことから、一般的には神仏に祈っていた[2]。
毒キノコ、タバコ(ニコチンの殺虫効果)やハエドクソウ(植物)の天然物は、古くからウジ殺しなどに用いられた。その中で除虫菊は、選択毒性により人畜に対する毒性が低いので、19世紀から盛んに製造され、日本にも明治時代に導入されて蚊取線香やノミ取り粉として用いられた。
1930年代になると、有機化学の発達により有機塩素系殺虫剤(DDTなど)や有機リン系殺虫剤が開発され、第二次世界大戦後本格的に使われるようになった。しかし有機塩素系は自然界で分解しにくく、動物やヒトの体内に蓄積するため、1960年代から有害性が問題にされ(「沈黙の春」)、その後多くの国家で製造販売が禁止され、あるいは生産が中止された。有機リン系の毒性についても、神経伝達のアセチルコリンエステラーゼを阻害する作用で、人畜に対する毒性の高いものが多かったため、なるべく毒性の低いものを求めて開発が進められた。
その後、カラバルマメの有毒なアルカロイド成分であるフィゾスチグミンを参考にして、有機リン系と同様の神経毒作用をもつカーバメート系殺虫剤が開発され、除虫菊成分(ピレトリン)を基本にした毒性の低いピレスロイド系殺虫剤(家庭用などに多く使われる)やニコチンを基本にしつつ、ニコチンの人間に対する毒性を低下させた、殺虫効力の高いネオニコチノイド系殺虫剤などが開発された。
主要グループと 1次作用部位 |
サブグループ あるいは代表的有効成分 | 有効成分 |
---|---|---|
1 アセチルコリンエステラーゼ (AChE) 阻害剤 |
1A カーバメート系 | アラニカルブ アルジカルブ ベンダイオカルブ ベンフラカルブ ブトカルボキシム ブトキシカルボキシム NAC (カルバリル) カルボフラン カルボスルファン エチオフェンカルブ BPMC (フェノブカルブ) ホルメタネート フラチオカルブ MIPC (イソプロカルブ) メチオカルブ メソミル MTMC(メトルカルブ) オキサミル ピリミカーブ PHC (プロポキスル) チオジカルブ チオファノックス トリアザメート トリメタカルブ XMC MPMC (キシリルカルブ) |
1B 有機リン系 | アセフェート アザメチホス アジンホスエチル アジンホスメチル カズサホス クロレトキシホス CVP (クロルフェンビンホス) クロルメホス クロルピリホス クロルピリホスメチル クマホス CYAP (シアノホス) ジメトン-S-メチル ダイアジノン DDVP (ジクロルボス) ジクロトホス ジメトエート ジメチルビンホス エチルチオメトン(ジスルホトン) EPN エチオン エトプロホス ファンフル フェナミホス MEP (フェニトロチオン) MPP (フェンチオン) ホスチアゼート ヘプテノホス イミシアホス イソフェンホス イソプロピル=O-(メトキシアミノ チオホスホリル)サリチラート イソキサチオン マラソン(マラチオン) メカルバム メタミドホス DMTP (メチダチオン) メビンホス モノクロトホス BRP (ナレッド) オメトエート オキシジメトンメチル パラチオン メチルパラチオン(パラチオンメチル) PAP (フェントエート) ホレート ホサロン PMP (ホスメット) ホスファミドン ホキシム ピリミホスメチル プロフェノホス プロペタムホス プロチオホス ピラクロホス ピリダフェンチオン キナルホス スルホテップ テブピリムホス テメホス テルブホス CVMP (テトラクロルビンホス) チオメトン トリアゾホス DEP (トリクロルホン) バミドチオン | |
2 GABA 作動性塩化物イオン(塩素イオン) チャネルブロッカー |
2A 環状ジエン有機塩素系 | クロルデン ベンゾエピン(エンドスルファン) |
2B フェニルピラゾール系(フィプロール系) | エチプロール フィプロニル | |
3 ナトリウムチャネルモジュレーター | 3A ピレスロイド系 ピレトリン系 |
アクリナトリン アレスリン(アレスリン、d-シス-ト ランス-、d-トランス-異性体) ビフェントリン ビオアレスリン(ビオアレスリン、 S-シクロペンテニル-異性体) ビオレスメトリン シクロプロトリン シフルトリン(シフルトリン、β-異性体) シハロトリン(シハロトリン、λ-、 γ-異性体) シペルメトリン(シペルメトリン、α -、β-、θ-、ζ-異性体) シフェノトリン[(1R)-トランス異性体] デルタメトリン エンペントリン[(EZ)-(1R)-異性体] エスフェンバレレート エトフェンプロックス フェンプロパトリン フェンバレレート フルシトリネート フルメトリン フルバリネート(τ-フルバリネート) ハルフェンプロックス イミプロトリン カデスリン ペルメトリン フェノトリン[(1R)-トランス異性体] プラレトリン ピレトリン レスメトリン シラフルオフェン テフルトリン フタルスリン(テトラメスリン) テトラメスリン[(1R)-異性体] トラロメトリン トランスフルトリン |
3B DDT メトキシクロル |
DDT メトキシクロル | |
4 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) 競合的モジュレーター |
4A ネオニコチノイド系 | アセタミプリド クロチアニジン ジノテフラン イミダクロプリド ニテンピラム チアクロプリド チアメトキサム |
4B ニコチン | 硫酸ニコチン(ニコチン) | |
4C スルホキシミン系 | スルホキサフロル | |
4D ブテノライド系 | フルピラジフロン | |
4E メソイオン系 | トリフルメゾピリム | |
5 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) アロステリックモジュレーター |
スピノシン系 | スピネトラム スピノサド |
6 グルタミン酸作動性塩化物イオン(塩素イオン)チャネル (GluCl) アロステリックモジュレーター |
アベルメクチン系 ミルベマイシン系 |
アバメクチン エマメクチン安息香酸塩 レピメクチン ミルベメクチン |
7 幼若ホルモン類似剤 | 7A 幼若ホルモン類縁体 | ヒドロプレン キノプレン メトプレン |
7B フェノキシカルブ | フェノキシカルブ | |
7C ピリプロキシフェン | ピリプロキシフェン | |
8 その他の非特異的 (マルチサイハロゲン化アルキルト) 阻害剤 |
8A ハロゲン化アルキル | 臭化メチル(メチルブロマイド) その他のハロゲン化アルキル類 |
8B クロルピクリン | クロルピクリン | |
8C フルオライド系 | 弗化アルミニウムナトリウム フッ化スルフリル | |
8D ホウ酸塩 | ホウ砂 ホウ酸 オクタホウ酸ニナトリウム塩 メタホウ酸ナトリウム塩 | |
8E 吐酒石 | 吐酒石 | |
8F メチルイソチオシアネートジェネレーター | ダゾメット カーバム | |
9 弦音器官TRPV チャネルモジュレーター |
9B ピリジンアゾメチン誘導体 | ピメトロジン ピリフルキナゾン |
10 ダニ類成長阻害剤 | 10A クロフェンテジン ジフロビダジン ヘキシチアゾクス |
クロフェンテジン ジフロビダジン ヘキシチアゾクス |
10B エトキサゾール | エトキサゾール | |
11 微生物由来昆虫中腸内膜破壊剤 | 11A Bacillus thuringiensis と生産殺虫タンパク質 | B.t. subsp. israelensis B.t. subsp. aizawai B.t. subsp. kurstaki B.t. subsp. tenebrionis B.t.作物に含まれるタンパク質 Cry1Ab, Cry1Ac, Cry1Fa, Cry1A.105, Cry2Ab, Vip3A, mCry3A, Cry3Ab, Cry34Ab1/Cry35Ab1 |
11B Bacillus sphaericus | Bacillus sphaericus | |
12 ミトコンドリアATP 合成酵素阻害剤 |
12A ジアフェンチウロン | ジアフェンチウロン |
12B 有機スズ系殺ダニ剤 | アゾシクロチン 水酸化トリシクロヘキシルスズ(シヘキサチン) 酸化フェンブタスズ | |
12C プロパルギット | BPPS(プロパルギット) | |
12D テトラジホン | テトラジホン | |
13 プロトン勾配を撹乱する 酸化的リン酸化脱共役剤 |
ピロール ジニトロフェノール スルフルラミド |
クロルフェナピル DNOC スルフルラミド |
14 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) チャネルブロッカー |
ネライストキシン類縁体 | ベンスルタップ カルタップ チオシクラム チオスルタップナトリウム塩 |
15 キチン生合成阻害剤、タイプ0 | ベンゾイル尿素系 | ビストリフルロン クロルフルアズロン ジフルベンズロン フルシクロクスロン フルフェノクスロン ヘキサフルムロン ルフェヌロン ノバルロン ノビフルムロン テフルベンズロン トリフルムロン |
16 キチン生合成阻害剤、タイプ1 | ブプロフェジン | ブプロフェジン |
17 脱皮阻害剤 ハエ目昆虫 | シロマジン | シロマジン |
18 脱皮ホルモン(エクダイソン) 受容体アゴニスト |
ジアシル-ヒドラジン系 | クロマフェノジド ハロフェノジド メトキシフェノジド テブフェノジド |
19 オクトパミン受容体アゴニスト | アミトラズ | アミトラズ |
20 ミトコンドリア電子伝達系複合体III阻害剤 | 20A ヒドラメチルノン | ヒドラメチルノン |
20B アセキノシル | アセキノシル | |
20C フルアクリピリム | フルアクリピリム | |
20D ビフェナゼート | ビフェナゼート | |
21 ミトコンドリア電子伝達系複合体I阻害剤(METI) | 21A METI剤 | フェナザキン フェンピロキシメート ピリダベン ピリミジフェン テブフェンピラド トルフェンピラド |
21B ロテノン | デリス(ロテノン) | |
22 電位依存性ナトリウムチャネルブロッカー | 22A オキサジアジン | インドキサカルブ |
22B セミカルバゾン | メタフルミゾン | |
23 アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤 | テトロン酸およびテトラミン酸誘導体 | スピロジクロフェン スピロメシフェン スピロテトラマト |
24 ミトコンドリア電子伝達系複合体IV阻害剤 | 24A ホスフィン系 | リン化アルミニウム リン化カルシウム リン化水素 リン化亜鉛 |
24B シアニド | 青酸(シアン化カルシウム・シアン化ナトリウム) シアン化カリウム | |
25 ミトコンドリア電子伝達系複合体II阻害剤 | 25A β-ケトニトリル誘導体 | シエノピラフェン シフルメトフェン |
25B カルボキサニリド系 | ピフルブミド | |
28 リアノジン受容体モジュレーター | ジアミド系 | クロラントラニリプロール シアントラニリプロール フルベンジアミド |
29 弦音器官モジュレーター 標的部位未特定 |
フロニカミド | フロニカミド |
UN 作用機構が不明あるいは不明確な剤 | アザジラクチン | アザジラクチン |
ベンゾキシメート | ベンゾメート(ベンゾキシメート) | |
ブロモプロピレート | フェニソブロモレート(ブロモプロピレート) | |
キノメチオナート | キノキサリン系(キノメチオナート) | |
ジコホル | ケルセン(ジコホル) | |
GS-オメガ/カッパ HXTX-Hv1a ペプチド |
GS-オメガ/カッパ HXTX-Hv1a ペプチド | |
石灰硫黄合剤 | 石灰硫黄合剤 | |
ピリダリル | ピリダリル | |
硫黄 | 硫黄 |
ホームセンターやドラッグストアで市販されている殺虫剤は、家庭用殺虫剤で、比較的毒性が低い成分を使用している。主な用途は、日常生活において害が強いゴキブリ、蚊、ハエ、ダニを防除するためのものであるが、これにネズミ駆除、犬猫忌避などを加えたカテゴリーを、家庭用殺虫剤と呼んでいる。中には殺虫成分を含まない駆除目的の関連商品(捕獲器など)もあり、必ずしも化学品だけではない。
主な種類を次に挙げる。ただし既に発売中止の商品も含まれており、花王のキスカ、大正製薬のワイパアなどは絶版となっていて、花王や大正製薬は、殺虫剤事業から撤退している。また、白元も白元アースとなった際に、アース製薬に殺虫剤事業を集約している。
などのカテゴリに分類できる。
また広義では、これに人体用殺虫剤(医薬品)、人体用忌避剤(一般に虫よけ。医薬部外品ないしは医薬品扱い)なども含まれ小売業界ではこれらを総称する。以上の商品が売れる時期は蚊やハエ、ゴキブリなどの活動が盛んになる、初夏-秋であり気温に比例する。
小売・製造サイドともに、夏場の商材としてこれらは欠かせないものであるが、暖房器具の発達によって、冬場でも家で害虫が活動しているため、ゴキブリやネズミ駆除剤に関しては、年中需要のあるものとなった。
家庭用殺虫剤業界において、最も売り上げの比重が高いものは蚊対策商品であり、以下ゴキブリ用、ダニ用と続く。
日本の市場規模は、
の5社で、市場の9割以上を寡占している。
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