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自然の回復力を超える伐採により森林が減少もしくは存在しなくなる状況 ウィキペディアから
森林破壊(しんりんはかい)とは、自然の回復力を超える樹木の伐採により森林が減少もしくは存在しなくなる状況を指す。国連食糧農業機関の統計によれば、全世界の森林面積は1990年には4,236,433,000haであったが、2020年には4,058,931,000haとなった。すなわち、この間に177,502,000haの森林が消滅した(全世界の4.1%にあたる)[1][2]。 森林面積の変化は地域の差がある。東アジアは増加、ヨーロッパは微増、しかし東南アジアやアフリカや南アメリカでは大きく減少している。すなわち、熱帯雨林の森林減少が地球規模で進行している[3]。
熱帯の森林破壊の大部分を引き起こしているのは、牛肉、大豆、パーム油、木製品の4つの商品であり、これらのうち最大の影響力を持っているのは牛肉である[4]。2021年9月23~24日にかけて、150か国以上の参加を得て開催された国連食料システムサミット(FSS)の準備ミーティングでは、一部アマゾンなどで牧畜や家畜飼料作物栽培のために行われている熱帯雨林の伐採を止める必要があることについて多数の参加者から発言があった[5]。
日本は森林の割合(森林率)が国土の68.9%を占め、森林大国と言われる(森林大国として名高いカナダでも森林の比率は45.3%)[6]。ただし、人口が多いため、一人当たりの森林蓄積量は世界平均の6分の1ほどである[7]。
森林の保水力が失われ、その結果として土壌栄養分の流亡や洪水、土砂崩れを引き起こすことがある(水源涵養機能の低下)。また水質・大気浄化能力を低下させる。さらに燃料として燃やされた場合、固定されていた二酸化炭素(CO2)が開放されるための地球温暖化につながると指摘される。 熱帯雨林は高温多湿で有機物の分解が早く、土壌がやせているという特徴があるため、伐採による裸地ができると、土壌浸食・不毛化が進みやすい。 生態学的な観点から見た場合、陸上生態系の基盤となる森林を失うことで生態系自体の安定性を低下させ、森林で生きる動植物や昆虫の住みかを奪うことになる。森林破壊が伝染病の関係についての研究では、森林破壊はマラリアやデング熱といった昆虫媒介性の伝染病の罹患率を上昇させるとの結果が示されている。森林破壊により動植物が減少した結果、これらの病原菌の媒介昆虫はそのライフサイクルに人間を組み入れるという形で適応しようとするためとされる。 社会的な観点からは、基本的かつ公共性の高い社会資本の喪失という側面もあるため、途上国における森林破壊は国際的な経済格差拡大の原因のひとつともなっている。 [8][9]。
2021年現在、森林破壊で問題になっているのは農地開発である。人口の増加による需要を満たすための農業の拡大は、世界の森林破壊の約90パーセントに当たる。割合は耕作地が約50%、放牧地が約40%となっている[10]。森林破壊の95%は道路から25キロメートル以内で発生しており、農業や畜産業、林業と密接に関連している[11]。 世界の総人口は2019年の77億人、2030年の85億人へ、さらに2050年には97億人へと増えると予測されている[12]。増え続ける人口の食糧を確保するために森林を切り開き農地開発が進んでいる[13]。人口増加と貧困、環境破壊は互いに関連しあい悪循環を繰り返している。彼らには環境の事を考える余裕はない、学ぶ機会すらない状態の地域もある[14]。 手法としては焼き畑が多く行われる。
木は代表的なバイオマスであり、燃料として利用されている。最も一般的な形態は薪である。その他、ウッドチップやウッドペレットなどに加工され消費される。
需要が急増しているバイオ燃料やバイオプラスチックの材料となる作物を生産するための農地開発。ブラジルでは1970 - 1980年代に焼畑による牧場開発が進んだが、「ハンバーガーコネクション」として世界的な批判を浴び一時は森林破壊と農地開発は止まるかと思われたが農地開発は止まらなかった。食料用の農地に加え、近年の世界的な大豆需要やバイオ素材需要の増加のする中、農地需要は増え、農地を求めてアマゾンへと侵入し、大規模な農地開発がふたたび熱帯林破壊につながっている[48]。
1950年代から欧米や日本の木材需要が増え、各国の森林が伐採されて輸出された。マレーシアではサラワク州を中心に伐採が進み、1970年代には日本向けの木材輸出が70%を占めた。サラワク州の森林の急速な減少をみた国連食糧農業委機関(FAO)はサラワク州に対策を勧告し、1988年にはヨーロッパ共同体(EC)がサラワク州からの輸入を中止した。国際熱帯木材機関(ITTO)もサラワク州に伐採の削減を勧告したが、日本は輸入を続けサラワク州からの輸出は続いた。マレーシアの森林面積は1960年代の国土の80%以上から1998年には66%へと減少した。1995年の調査では、ボルネオ島の117の河川のうち84で土砂の流入量が増加し洪水の原因になっている[49]。
日本では戦後、高度経済成長に伴う木材需要に対応するため、大規模に天然林が伐採され、住宅の梁や柱、家具材などとして消費された。こうして伐採された所にスギなどが大量に植林がなされた。現在では安価な外材の輸入の増加とともに国産木材が売れなくなったことと林業就労者の収入減少が影響し、林業就労者の減少がおき、間伐や間引きなどの手入れの行き届いていない不成績造林地が増加して全国各地で問題になっている。手入れの行き届いていない所では木々が密集した状態で日光が十分に当たらず細い木ばかりになっている。
2003年時点で世界人口の2%である日本は、他方で丸太輸入の50%以上、木材加工品の約30%を占めており、世界最大の熱帯木材輸入国でもある。フィリピンでは1950年代から1960年代に日本に大量に輸出を続け、1980年代には木材輸入国に転じる結果となった。日本に輸出された木材は50%が建設・土木、30%が家具となった[50]。
道路や鉄道の開発は大規模な森林破壊を引き起こす原因の一つである。 レールの敷設のために進路に沿って森林が伐採される他、枕木や労働者の暖房、調理のために大量の木材が調達されるため、森林が大きく破壊される。 過去に行われた特に大規模な開発ものとしてはアメリカの大陸横断鉄道が有名である。近年の大規模な開発にはブラジルのアマゾン熱帯雨林における交通開発があり、国際的な非難を浴びている。 単純な森林破壊以外の点では、森林が分断される形で破壊されることで動物や昆虫などの移動が制限される、車に轢かれるといった問題があり、森林の生態系への影響が懸念される[51][52][53]。
太陽光発電・風力発電の発電施設の設置には大きな面積を必要とするため、森林を伐採して土地を取得するケースが多い[54]。 また送信所・送電線などの鉄塔も併せて設置される。 国外では電線によるショートが原因で森林火災が起き、それもまた森林の減少に繋がっている[55]。
近年世界中で大規模な山火事が起き、多くの森林が失われている。自然発火することもあるが、人が原因の火事も多くある。南米、北米、オーストラリアなどで甚大な被害が出ている[59]。
1997年には東南アジア各地で山火事が起き、ジャワ島、スマトラ島、マレー半島、フィリピンなどの7箇所におよんだ。中でもボルネオ島では呼吸器障害などで17人が死亡し、旅客機が墜落して234人が死亡するガルーダ・インドネシア航空152便墜落事故も起きた。インドネシア政府は当初は農民の焼畑が出火原因としたが、NGOや国際組織の調査では火元は政府主導のアブラヤシのプランテーションや水田のある地域に集中していた。政府はのちに伐採業者を24人を逮捕し、この伐採業者の全てがプランテーションと伐採事業に関わっていた[60]。
紙は主に木材パルプから作られるため、その原料となる木材のために森林破壊が行われる。特に東南アジアなど監視のゆるい国家では違法な伐採が多く、紙の大量輸入国である日本の責任を問う声もある。現地で合法であることは持続可能であることを意味せず、また需要に応えるために違法伐採が行われており、持続可能な枠組みを構築することが求められている [61]。
南米などの資源国では、石炭などの燃料や、金などの貴金属、ダイヤモンドのような宝石、鉄鉱石などの産業資源、コバルトなどレアメタルといった有用な地下資源を目的とした採掘が森林破壊を引き起こしている。爆薬を使って表土を吹き飛ばし、残土を周囲に積み上げるといった乱暴な手法が横行し、また地下水が漏れ出すため周囲の森林が消滅している [62][63][64][65]。
破壊された森林を回復するために植林をすることは有効な取り組みの一つである。 行政や様々な団体、企業が植林事業を行っている。 環境意識が高まる中、企業(林業関係以外の)が植林活動に参加することは「環境に配慮している企業」として企業イメージの向上を図る事ができる、そのため多くの企業が植林事業に参加して来ている。[77][78] 一方、植林したところで消費量が生産量を上回る限り森林破壊は進むため、必ずしも持続可能性を約束するものではない。 また植林は簡単な技術ではなく、植える植物の特性や土地の性質を調査し適切な苗を植える必要があり、またその後の管理を怠れば成長が軌道に乗る前に枯死してしまう。 実際に行われた植林では事前調査が不十分で、植え付け後に放置されるケースが多く、その大半が枯死しているという研究結果がある。 そのため安易な植林はグリーンウォッシングとみなされる場合もある。
保全生態学の観点からは潜在的な(その場所のもともとの)植生や地理的な遺伝変異などを考慮した植林がなされるべきだが、現在一般的に行われている事例ではそうしたことを意識すらされていない場合も多い。[79] 植林は一般的に挿し木で行われることが多いが、挿し木で植えるのではなく現地で採取した種から実生の苗を育て、混植・密植植樹方式で行うことで木の根は絡み合い土の流出を抑え根をしっかりと張り成長する。そのため災害に強い林が形成される。[80][81]
発展途上国での植林活動、森林を保全しつつ森林を活用したビジネスの提案、技術支援。人材育成、教育支援などを行い森林の重要性や持続性可能な森林の活用法を周知する。[82][83]
薪などの木質燃料の使用を削減し、よりクリーンな電源、燃料を開発する。アフリカ・ボツワナでは、国策として太陽光発電への移行を支援している。その一方で、こうした開発自体が森林破壊の一因になってしまうことも懸念されている[84]。
違法伐採された木材を利用しない。合法で持続可能な森で伐採された木材を利用する。[85]消費者は商品を選ぶ際に目安として、管理された森で合法的に伐採された木材を利用した製品に付けられる森林認証マーク[86]の付いた商品やエコマーク等の付いた環境に配慮された商品を選ぶとよい。
木材に替わる非木材を利用する。
過剰な放牧と家畜の量を減らすために、肉の代わりの代替肉(プラントベースドミート)、代替卵、代替ミルク、培養肉などが注目されている[87]。
世界の森林の保全に貢献する企業と、海外で保全活動を行っているNGO、NPO等との連携を強化し、世界の森林の保全活動を促進する。 [88][89] [90]
消費者に対して合法性、持続可能性が証明された木材製品の調達に取り組んでもらうために、各種啓発活動を行う。 [91]
2022年9月、欧州議会は、企業に牛、ココア、コーヒー、パーム油、大豆、木材及び、これらを使って製造された製品が森林破壊された土地で生産されていないことを調査させる(いわゆる「デューディリジェンス」)を義務づける新法を採択し[92]、同年12月に締結した。この法律により禁止されている国や商品はないが、原産地を追跡できない限り企業は EU で対象の製品を輸入販売できなくなる[93][94]。
年 | 世界 | アフリカ | アジア | ヨーロッパ | 北・中央アメリカ | オセアニア地域 | 南アメリカ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1990 | 4,236,433 | 742,801 | 585,393 | 994,319 | 755,279 | 184,974 | 973,666 |
2000 | 4,158,050 | 710,049 | 587,410 | 1,002,268 | 752,349 | 183,328 | 922,645 |
2010 | 4,106,317 | 676,015 | 610,960 | 1,013,982 | 754,190 | 181,015 | 870,154 |
2020 | 4,058,931 | 636,639 | 622,687 | 1,017,461 | 752,710 | 185,248 | 844,186 |
増減数 | △177,502 | △106,162 | +37,294 | +23,142 | △2,569 | +274 | △129,480 |
増減率(%) | △4.1 | △14.3 | +6.4 | +2.3 | △0.3 | +0.1 | △13.3 |
国名 | 陸地面積 (千ha) | 区分 | 1990 | 2000 | 2010 | 2019 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
面積(千ha) | 陸地利用 割合 |
増減面積 1990年比 | 増減率 1990年比 | ||||||
ブラジル | 835814 | 森林 | 588898 | 551089 | 511581 | 497799 | 59.56% | -91100 | -15.47% |
農地 | 56456 | 54870 | 61657 | 63518 | 7.6% | 7062 | 12.51% | ||
牧草地 | 178444 | 173454 | 170177 | 173361 | 20.74% | -5083 | -2.85% | ||
アルゼンチン | 273669 | 森林 | 35204 | 33378 | 30214 | 28681 | 10.48% | -6523 | -18.53% |
農地 | 27595 | 28640 | 39003 | 33701 | 12.31% | 6106 | 22.13% | ||
牧草地 | 99970 | 99870 | 87265 | 74681 | 27.29% | -25289 | -25.3% | ||
インドネシア | 187751 | 森林 | 118545 | 101280 | 99659 | 92739 | 49.39% | -25806 | -21.77% |
農地 | 31973 | 36000 | 44600 | 51300 | 27.32% | 19327 | 60.45% | ||
牧草地 | 13110 | 11177 | 11000 | 11000 | 5.86% | -2110 | -16.09% | ||
ボリビア | 108330 | 森林 | 57805 | 55101 | 53086 | 51034 | 47.11% | -6771 | -11.71% |
農地 | 2255 | 3312 | 4516 | 4787 | 4.42% | 2532 | 112.28% | ||
牧草地 | 33200 | 33831 | 33000 | 33000 | 30.46% | -200 | -0.6% | ||
パプアニューギニア | 45286 | 森林 | 36400 | 36278 | 36179 | 35889 | 79.25% | -510 | -1.4% |
農地 | 742 | 825 | 1000 | 1000 | 2.21% | 258 | 34.77% | ||
牧草地 | 135 | 180 | 190 | 190 | 0.42% | 55 | 40.74% | ||
パラグアイ | 39730 | 森林 | 25546 | 22992 | 19570 | 16382 | 41.23% | -9164 | -35.87% |
農地 | 2199 | 3110 | 4060 | 4824 | 12.14% | 2625 | 119.37% | ||
牧草地 | 11985 | 13628 | 16100 | 17000 | 42.79% | 5015 | 41.84% | ||
マレーシア | 32855 | 森林 | 20619 | 19691 | 18948 | 19164 | 58.33% | -1454 | -7.05% |
農地 | 6481 | 6654 | 7104 | 8286 | 25.22% | 1805 | 27.86% | ||
牧草地 | 276 | 285 | 285 | 285 | 0.87% | 9 | 3.26% | ||
ニカラグア | 12034 | 森林 | 6399 | 5399 | 4188 | 3508 | 29.15% | -2892 | -45.19% |
農地 | 1495 | 2151 | 1826 | 1790 | 14.87% | 295 | 19.73% | ||
牧草地 | 2530 | 2990 | 3200 | 3275 | 27.21% | 745 | 29.45% |
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