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環境中に存在する微小なプラスチック粒子 ウィキペディアから
マイクロプラスチック(英: microplastics)は、(生物物理学的)環境中に存在する微小なプラスチック粒子であり、特に海洋環境において極めて大きな懸念材料となっている[1]。一般には、直径 5 mm 以下のプラスチック粒子または、プラスチック断片と定義されている[2][3][4]。海洋研究者の一部は1 mmよりも小さい顕微鏡サイズの全てのプラスチック粒子[5]と定義している。この定義は、現場での採取に一般に使用されるニューストンネットのメッシュサイズが333 μm (0.333 mm) であることから適切でないとの議論もあり[6]、5 mmよりも小さい粒子と定義している研究者もいる[7][8]。
マイクロプラスチックは、 もともとは、レジ袋、コンビニの弁当箱、ペットボトルの蓋などの[要検証] プラスチックゴミ(一般的にプラゴミと呼ばれる)である。プラスチック製品の大半は石油が使われているが、そのまま固めるのではなく、石油にさらにエネルギーを加えて化学合成して作られる。全世界で年間[いつ?]に製造されるプラスチック製品は約4億トンであり、その用途は、約半分が容器、包装などに使われている。これらの製品は一度使用すると捨てられる「使い捨て製品」が多く、代表的なものはレジ袋である。現在[いつ?]日本では全国で年間約300億枚のレジ袋が消費されている。その他のプラスチック製品としてペットボトル、食品パッケージ、コンビニの弁当箱などがあり、これらを合計すると、日本では1世帯1日あたり約数百グラムのプラスチックゴミが発生する。プラスチックゴミは人間が的確に処理していれば海に影響を及ぼすことはない。ポイ捨てされたもの、ゴミ箱からあふれて処理されず放置されたものなどが河川や下水に侵入したり、風に飛ばされたりして最終的に海へ流れ着いている。海洋を汚染するマイクロプラスチックの大半は人間が日々の生活で排出されたものに由来している。[9]
マイクロプラスチックは、マイクロサイズで製造された一次的マイクロプラスチックとより大きな二次的マイクロプラスチックに区別できる[10][11]。一次的マイクロプラスチックの例として、化粧品があげられる。二次的マイクロプラスチックは大きなサイズで製造されたものが、自然環境中で5㎜以下に破砕・細分化したものである。主に、ペットボトルやビニール袋が紫外線などに晒されて劣化することで発生すると考えられている。どちらも人体・環境に甚大な悪影響を与えることが懸念されている。
海洋生物がマイクロプラスチック自体と、それに付着した有害物質(PCBやDDTなど)を摂取し[11]、生物濃縮によって海鳥や人間の健康にも影響することが懸念されている[12]。2020年現在、実環境よりも有害物質とマイクロプラスチックをかなりの量増やした場合には毒性影響が確認されているが、実環境ではマイクロプラスチックに吸着または含有された有害物質による生物への毒性影響はまだ確認されていない[13]。これについて日本学術会議は、実環境での軽微な影響を評価する手法が開発されていないからだとして、その手法の開発と調査・研究を推進することが必要だと提言している。また、今後マイクロプラスチックの量が増え続けると悪影響が表れること、マイクロプラスチックは回収が困難であることから、予防的な対策が必要だと提言している[14]。
マイクロプラスチックの発生源と疑われているものは複数存在する
通常、家庭から下水道に流されたものは、下水処理場で処理される。マイクロプラスチックもある程度除去され、自然界に放流される水には少ししか残らない[19]。ただし、大雨が降った際にはすべての水を処理することができず、一部はそのまま自然界に流れ出ることになる。
牛島ほか(2018)[20]によれば、2016年10 - 12月に日本の5つの湾と琵琶湖で合計197匹の魚を採取して検査したところ、うち74匹の消化管から140個マイクロプラスチックが検出された[20]との報道がされた[21]。
『ナショナルジオグラフィック』日本版(2018年)は、9割の食塩からマイクロプラスチックが検出され、特にアジアの国々で産出される食塩には、相当量のマイクロプラスチックが含まれていると報じた。世界平均では、平均的な成人が食塩を通して1年間に摂取するマイクロプラスチックは、約2000個であるとしている[22]。食塩は不可欠であるため、健康に大きな影響を与える可能性がある[23]。
ロシアのスプートニクは、2018年3月25日の日本語版記事で『サイエンティフィック・リポーツ』の掲載論文について引用し、太平洋を浮流するゴミを約7万9000トンと算出した上で、うち31%がマイクロプラスチックであるとした。また、東日本大震災によって海洋流出した災害ゴミについても言及している[24]。
海中以外では大気中への飛散が確認されており[25]、人間の大便・胎盤・血液などからも発見されている[26]。
2021年から、新型コロナウイルスの流行で、プラスチックごみが増加している。大気環境学会誌によると「コロナ禍による在宅学習・在宅勤務によって宅配やテイクアウトが盛んになり、プラスチック容器ゴミが急増した。」「不織布マスクの9割はプラスチックであり、月間推定で1290億枚のマスク、65億枚の手袋が世界全体で使用され、不適切管理により新たな環境汚染要因となっている(Prataet al.,2020)。」とされている。[27]国内では、2020年4月から7月にかけて全国の大都市部における家庭からのプラスチックごみの排出量が、前年同月比で10%前後増加した。タイのバンコクでは、2020年4月の一日当たりのプラスチックごみの排出量は3432トンとなり、前年より62%も増加した。[28]
2022年、オランダの科学者らによる調査で、スーパーマーケットの75%の肉や乳製品からマイクロプラスチックを検出された。また、畜産動物の飼料からは100%のマイクロプラスチックが検出された[29]。
2008年9月9日から11日までアメリカ合衆国ワシントン州タコマ市のワシントン大学タコマ校で開催された、マイクロプラスチックの海洋ゴミの存在、影響および環境運命についての最初の国際研究ワークショップに参加した研究者たちは、以下の根拠によりマイクロプラスチックが海洋環境に問題をもたらしていることに合意した。
これまでの研究はもっと大きいプラスチックに重点が置かれてきた。(釣り糸や漁網などの)プラスチックに絡まるか、プラスチックを摂食するか、喉に詰まらせて窒息することによって、生物が衰弱死してしまうか、陸地に乗り上げて身動きができなくなるといったことに関連する問題は広く認識されている。
これとは対照的に、マイクロプラスチックは5 mmよりも小さくて目立たない存在である。この大きさの粒子は極めて幅広い生物種が利用しうる形態であるが、摂食されることが実証されている例は、沈積物摂食性のゴカイ(タマシキゴカイ (Arenicola marina))と濾過摂食性のイガイ(ヨーロッパイガイ (Mytilus edulis))[30]の2例しか挙げられていない。食物網の下位にいる生物種の摂食の影響がほとんど知られていないことが不安をもたらしている[7]。栄養段階を通じてマイクロプラスチックが移行するかどうかは、まだわかっていない。
マイクロプラスチックを摂食した後の海洋生物への影響は次の3つが考えられる。
小動物は、偽りの満腹感のために食物の摂取が減る危険があり、その結果、飢餓状態に陥るか、それ以外の物理的被害を受ける。しかし、海洋生物に対する長期的な影響は現時点では不明である。
また、プラスチックごみが生物相を散布する運び屋の働きをすることも実証されているので、大洋中の拡散の機会が増大することによって全世界の海の生物多様性が危機にさらされている[31]。侵略的外来種と侵入種の拡散は、汎存種の拡散と同じくらい大きな問題である[32]。
海洋環境中に入り込むプラスチック材料の約半数は水に浮くが、生物の付着によってプラスチックゴミは海底に沈みやすくなる。沈んだプラスチックは底生生物と底質のガス交換プロセスを阻害する可能性があるが、これが重要になるのは大きいプラスチックゴミの場合である[要出典]。
海に漂うマイクロプラスチックは数百年漂うと考えられているが、実際にマイクロプラスチックの年齢を調べたところ外洋では1-3年、陸近くでは0-5年と比較的若いものが多いことがわかった。海には海面近くから除去する働きがあり、古いものは分解され海底に沈殿していると考えられる[33][34]。
マイクロプラスチックに紫外線を照射した実験では年1.7-2.3%の割合で分解された。つまり過去に海に流出した浮遊プラスチックの7-22%はすでに分解されたといえる [35][36]。
また、海洋プラスチックを能力をもつ微生物が見つかっており、Rhodococcus ruberはポリエチレンを年1.2% [37]、Parengyodontium albumはポリエチレンを日に0.044%分解する能力をもっている[38]。
2019年8月14日に学術誌「サイエンス・アドバンシス」で発表された研究論文より、北極で雪に交じって降ってくることが判明している。マイクロプラスチックが風で巻き上げられ、大気中を長距離飛んで北極圏まで運ばれたとみているが、その仕組みの全容は分かっていない[39]。また、2019年4月15日に「Nature Geoscience」で発表された研究論文でも、フランスのピレネー山脈に降ってくる雪にも混じっていた[40][41]。2020年6月24日には南極に生息するナンキョクトビムシから、ポリスチレンの破片が見つかったいう論文が発表された[42]。
大気中の量は都市ほど多い傾向がある[43]。
プラスチック粒子は、環境と周囲の海水中に普通に存在する合成有機化合物(例えば、残留性有機汚染物質=POPs など)をその表面から吸収することによって高度に蓄積して運搬する可能性がある[44]。マイクロプラスチックが、このような経路を通ってPOPsを環境から生物に移行させる媒介者の働きをしているかどうかはまだ不明であるが、マイクロプラスチックが食物網に入る潜在的な入口であることを示唆する証拠[45]がある。さらに、プラスチックの製造中に加えられた添加剤が摂食時に浸出して生物に深刻な害をもたらす可能性も懸念されている。プラスチック添加剤による内分泌かく乱は、人と野生生物の生殖に関する健康に等しく影響を及ぼす恐れがある[46]。
現在のレベルでは、マイクロプラスチックがPCB・ダイオキシン・DDTなどのPOPsの外洋における世界的に重要な地球化学的貯留層になる可能性は低い。しかし、小規模なスケールでマイクロプラスチックが化学的貯留層として大きい役割を果たすかどうかは明確ではない。大都市の港湾や、農業排水と工業廃水が集中する排水路などの汚染された人口密集地域においては貯留層機能があると考えられる[要出典]。
石油系ポリマー(プラスチック)の多くは、生分解性がない。一方で、すでに生分解性をもったポリマー(生分解性プラスチック)は開発されているが、その物性は従来の石油系ポリマーに及ばないものが多い。そのため、従来の石油系ポリマーと同等な物性と生分解性を兼ね備えたポリマーの研究が行われている。生分解性を持つポリマーは、バイオマスを原料(バイオマスプラスチック)とすることが多いが、バイオマスを原料としているからと言って、生分解性を持つわけではない。一方で、石油系のポリマーでも生分解性を持つものも開発されている。しかし、それらを大々的に使用する前に、環境中の特性を詳細に精査することが要求される[要出典]。
欧州アカデミーによる政策のための科学的助言 (Science Advice for Policy by European Academies)が2019年1月9日に欧州委員会[47]に提出したレポートによると、「現在の環境中で測定できるマイクロプラスチック濃度は遥かに濃度レベルが低く、しきい値を下回っており、マイクロプラスチックが人間あるいは環境に影響を与えるという信頼できる証拠は無い」と報告している。「ただし汚染が今の速度で続けば状況が変わる可能性がある」ともしている[48]。欧州食品安全機関 (EFSA)は「マイクロプラスチックの人体内での挙動は毒性を明らかにするにはデータが十分でなく、有害かどうかを言及するのは時期尚早だ」と見解を公表している[49]。 世界保健機関(WHO)は2019年8月22日に水道水とボトル入り飲料水に含まれるマイクロプラスチックが現状人体に影響を与えることはないと発表した[50][51]。ただし限られた情報からの判断であり更に多くの調査が必要だとしている。またプラスチックの環境への流出削減は緊急課題だとしている。また、排泄物や化学物質の除去ができていれば同時にマイクロプラスチックの9割以上を取り除けるという。WHOのブルース・ゴードン博士は、未知のリスクよりも既知のリスクが重要で「ふん便汚染された水を20億人が飲んでおり、年間10億人が死亡している。これこそが重要な問題だ」と述べた[52]。
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