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イギリスの児童文学 ウィキペディアから
『フランダースの犬』(フランダースのいぬ、英: A Dog of Flanders)は、イギリスの作家ウィーダが19世紀に書いた児童文学である。絵画をテーマとした貧しい少年と犬の友情を描いた悲劇として知られる。
フランダースの犬 A Dog of Flanders and Other stories | ||
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1891年の挿絵 | ||
著者 | ウィーダ (Marie Louise de la Ramée) | |
発行日 | 1872年 | |
発行元 | チャンプマン・アンド・ホール | |
ジャンル | 児童文学 • 悲劇 | |
国 | イギリス | |
言語 | 英語 | |
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『フランダースの犬』の舞台は19世紀、ベルギー北部のフラーンデーレン(フランドル)地方。現在ではアントワープ証券取引所を持つアントワープ(英語表記、蘭語・アントウェルペン)に隣接するホーボケン (Hoboken) が舞台となった村のモデルと考えられている。ウィーダはこの作品を執筆する前年にアントワープを旅行で訪れてホーボケンにもやって来ており、寒村のこの村にまだ当時の領主、オラニエ公ウィレムの風車小屋が存在していたことが1985年にアントワープ市観光局のヤン・コルテールによって突き止められ、以来この発見から物語に登場する風車小屋はこれをもとに描写されたものと見られている。さらに物語に登場するアロアのモデルと思しき12歳の娘が領主にいたことや、物語の最後にネロを葬った教会が現存することも確認されている。これらのことは1985年(昭和60年)3月22日付の『朝日新聞』夕刊で風車小屋の写真とともに報道された。しかしコルテールの言葉によると、ネロが葬られた教会はあっても100年前のことのため墓所ばかりは現存していないと言う。
フランドルを含む南ネーデルラントは、フランス第一共和制(1792年 - 1804年)、フランス第一帝政(1804年 - 1815年)、ネーデルラント連合王国(1815年 - 1839年)とフランスとオランダの抗争の時期にあったが、物語では、ネロの祖父が半世紀以上昔のナポレオン戦争で兵士として戦い片足に障碍を得ていたり、登場人物のアロアの容姿が金色の巻き毛に血色の良い黒目というように八十年戦争前のスペイン統治時代の混血の面影があったり[独自研究?]と、当地の複雑な歴史的社会背景を根底に忍ばせている。
1872年、英国の "Lippincot's Magazine" に発表され、後に "A Dog of Flanders and Other stories" の一冊にまとめられたものが初出とされる。日本語版は1908年(明治41年)に初めて『フランダースの犬』(日高善一 訳)として内外出版協会から出版された[注釈 1]。舞台設定はそのままだが西洋人の固有名詞が受容されにくいと考えられたためか、ネロは清(きよし)、パトラッシュは斑(ぶち)[3]、アロアは綾子(あやこ)、ジョハン(ヨハン)・ダースは徳爺さん[1]、ステファン・キースリンガーは木蔦捨次郎(きつた・すてじろう)などと訳された。さらに昭和初期には、1929年(昭和4年)の『黒馬物語・フランダースの犬』(興文社、菊池寛 訳)、1931年(昭和6年)の『フランダースの犬』(玉川学園出版部、関猛 訳)など他の訳者によって出版された。これら旧訳はパブリックドメインとしてウェブ上で読むことができる(→フランダースの犬#日本語訳参照)。
小説としての長さはそれほど長くなくどちらかといえば短編ともいえ、文庫本などで出版される場合作者ウィーダの他の作品と併録されることもある。1950年(昭和25年)以降は、童話文庫・児童向け世界名作集の作品として多くの出版社から出版されている。
活字以外にも1975年(昭和50年)に日本でテレビアニメシリーズ「世界名作劇場」(放送当時の名称は「カルピスまんが劇場」)でアニメーション化されたり(詳細は「フランダースの犬 (アニメ)」または「フランダースの犬 ぼくのパトラッシュ」(1992年作品)を参照)、アメリカで1914年をはじめ何度か映画化されたりしている。
フランダース地方の都市アントワープ郊外の小さな農村の、さらに外れに住むアルデネン地方出身の15歳の少年ネロ (Nello) [注釈 2]は、正直な寝たきりの祖父ジェバン・ダース老人 (Jehan Daas) と忠実な老犬パトラッシュ[注釈 3] (Patrasche [黄色の毛並み、立ち耳の大型犬のドラフトドッグで ドッグカート等を引っ張ったりする犬]。金物屋にこき使われたあげく捨てられていたところを、ジェバンと幼少のネロに保護され、以来飼育されている) とともに暮らす。ネロは貧しいミルク運搬業で糊口をしのぎながらも、いつか画家になることを夢見ており、アントワープの聖母大聖堂の二つの祭壇画を見たいと心に望んでいた。それはアントワープはもとよりベルギーが世界に誇る17世紀の画家ルーベンスの筆によるもので、見るためには高価な観覧料を必要とするため、貧乏人のネロには叶わぬものであった。
ネロの唯一の親友は、風車小屋の一人娘である12歳の少女アロア (Alois) [注釈 4]であったが、アロアの父であるバース・コゼツ (Baas Cogez) は家柄の低いネロのことを快く思わず、遠ざけようとする。さらに冬になったある日、ネロは風車小屋の外縁部と穀物倉庫を全焼する火事(風車と居住区は無事)の放火犯の濡れ衣を着せられた上、新しく街から通い始めたミルク買い取り業者に仕事を奪われ、そしてクリスマスを数日後に控えた日に優しかった祖父を亡くし、楽しいはずのクリスマスの前日に家賃を滞納していた小屋からも追い出されることになってしまった。
クリスマス前日は、街で開かれている絵画コンクールの結果発表日でもあった。倒木に腰掛ける木こりのミシェル老人 (Michel) を白墨で描いた渾身の力作で応募していたネロは、優勝すればきっと皆に認めてもらえるようになるとコンクールに全ての望みを賭けていたが、結果は落選だった。
傷心のネロは厳しい吹雪の中、村へ向かう道でパトラッシュが見つけた財布を持ち主の風車小屋に届ける。それは風車小屋一家の全財産であった。ネロはパトラッシュを一家に託すと再び雪夜の闇の中に飛び出して行ってしまう。財布が見つからずに絶望して帰宅をしたバースは、今までネロに向けて行ってきた数々のひどい仕打ちを悔やみ、翌日ネロの身元を引き受けに行くと決心[注釈 5]する。さらに翌日には、コンクールでネロの才能を認めた著名な画家が彼を引き取って養育しようとやって来た。だが、何もかもが既に手遅れだった。
大事な未来を無くしたことで自分の生にも絶望したネロは極寒の吹雪によってその命を奪われ続ける中、最期の力を振り絞って大聖堂へ向かい、パトラッシュもネロを追って風車小屋から大聖堂へ駆けつける。するとこの時、雲間から射した一筋の月光が祭壇画を照らし出し、ネロの念願は果たされるとともにネロは神に感謝の祈りを捧げた。かくてクリスマスを迎えた翌朝、大聖堂に飾られた憧れのルーベンスの絵の前で、愛犬を固く抱きしめたまま共に凍死している少年が発見される。両者は誰の手でも引きはがす事が出来ず、村人たちは悔いつつも、教会の特別な計らいの下に犬と少年を共に祖父の墓に葬ったのだった。
パトラッシュは原作では次のように描写されている。全体に黄色 (yellow) もしくは褐色 (tawn (e) y) の、がっしりとした立ち耳の大型犬である。
Patrasche was a big Fleming.(中略)A dog of Flanders--yellow of hide, large of head and limb, with wolf-like ears that stood erect, and legs bowed and feet widened in the muscular development wrought in his breed by many generations of hard service.
(中略)
the green cart with the brass flagons of Teniers and Mieris and Van Tal, and the great tawny-colored, massive dog, with his belled harness that chimed cheerily as he went,
(中略)
until the doors closed and the child perforce came forth again, and winding his arms about the dog's neck would kiss him on his broad, tawney-colored forehead, and murmur always the same words:"If I could only see them, Patrasche!—if I could only see them!"
(中略)
and felt many and many a time the tears of a strange, nameless pain and joy, mingled together, fall hotly from the bright young eyes upon his own wrinkled yellow forehead.
(中略)
In answer, Patrasche crept closer yet, and laid his head upon the young boy's breast. The great tears stood in his brown, sad eyes:not for himself—for himself he was happy. — [6]
東京ムービー版アニメ・実写映画版・ホーボケンに建てられた銅像には、フランドル原産のブーヴィエ・デ・フランドルという黒い毛むくじゃらの犬がモデルとして採用されており、原作のパトラッシュは、この犬種であるとされる[7]。
世界名作劇場版アニメでは、立ち耳の白い斑犬に改変されている。
また「皺だらけの (wrinkled) 黄色い額」などの表現から、同地方原産の、現在のベルジアン・シェパード・ドッグ、特にその中のマリノアに近い犬種と言う説もある。この作品が執筆された当時は、まだ犬種として完全に固定されていなかったが、同地方では一般に使役目的で同様の犬が飼われていた。ただし、ブーヴィエ・デ・フランドル種にも明るい褐色の毛並みを持つ個体が存在するため、一概に断じることはできない。
実写映画化はアメリカで過去5度行われている。
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