鉄の外交(てつのがいこう、宇: залізна дипломатія)は、2022年にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降、世界各地の首脳や要人が鉄道でポーランドからウクライナに向かう慣行を指す言葉[1][2][3][4][5][6][7][8][9]。
ウクライナ鉄道のCEOオレクサンドル・カムイシンによる造語であり、侵攻によりウクライナの領空の利用が非現実的になり、多くの外交官が鉄道によりウクライナの首都キーウを訪問していることが由来とされる[10][11][9]。また、キーウを初めて訪問した外国の首脳が、ロシアがエスカレートする動きと解釈した場合に備えて、ポーランドの軍用機でポーランドからウクライナに訪問しないと決定していた[12]。
ウクライナへの訪問者は、2023年に訪問したアメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンを含めて、ジェシュフ=ヤションカ空港行きの飛行機でポーランドに入り、夜行列車でキーウに向かっている。
鉄道システム
2022年にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降、ウクライナの領空は閉鎖され、道路は戦闘により不安定になり[14]、人道支援、難民、兵器、輸出用食糧の輸送を鉄道システムに大きく依存せざるを得なくなっている[14][10]。鉄道システムが侵攻に対するウクライナの抵抗において極めて重要であるため、クラマトルスク駅へのミサイル爆撃を含めて多くの攻撃を受けているにもかかわらず、ウクライナ鉄道は営業を続けている[10]。セキュリティも強化され、カムイシンは武装した護衛2人を同行させ、スケジュールと居場所を秘匿し、家族との物理的な接触を避けている[10][注釈 2]。
ウクライナへの訪問を望む外交官や世界各国の首脳もまた同様に選択肢の余地がないため、カムイシンの鉄の外交プログラムに定期的に参加している[14]。列車による移動には10時間ほどかかる[16]。ウクライナは警護特務部隊を派遣し、カムイシンもまた訪問の詳細を秘匿しているが、代表団がウクライナを離れる前に情報が公にされてしまい、結果として攻撃される危険性が高まったケースも存在する[14][17]。
客車
鉄の外交プログラムに利用されている客車の一つは元々クリミア半島に向かう裕福な旅行客向けに建造されたものである[14][13]。2014年に建造されたが、3月にクリミア半島がロシアに併合されたため、ほとんど使用されなかった[13]。近代化されたソビエト連邦時代の客車もまた鉄の外交プログラムに利用されている[14]。ウクライナを訪問する首脳が快適に過ごすことが出来るように、ほとんどの車両が改装され高級な家具が備え付けてあるものの、すべての客車が同じように改装されているわけではない[14]。鉄道車両の宿泊設備に関する食い違いは、2022年6月にフランスの大統領エマニュエル・マクロン、ドイツの首相オラフ・ショルツ、イタリアの首相マリオ・ドラギが合同でウクライナを訪問した際に指摘されている[15]。
特筆すべき訪問者
日付 | 訪問者 | 国 | 訪問先 | 備考 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|
2022-03-15 | マテウシュ・モラヴィエツキ ペトル・フィアラ ヤネス・ヤンシャ ヤロスワフ・カチンスキ |
ポーランド チェコ スロベニア ポーランド |
キーウ |
|
[12] [18] [13] |
2022-04-01 | ロベルタ・メツォラ | 欧州連合 | キーウ |
|
[9] [19] [20] [21] |
2022-04-08 | ウルズラ・フォン・デア・ライエン ジョセップ・ボレル エドゥアルド・ヘゲル |
欧州連合 欧州連合 スロバキア |
キーウ |
|
[14] [22] [23] [24] [25] |
2022-04-09 | ボリス・ジョンソン | イギリス | キーウ | [13] [26] | |
2022-04-09 | カール・ネーハマー | オーストリア | キーウ |
|
[27] |
2022-04-13 | アラル・カリス エギルス・レヴィッツ ギタナス・ナウセダ アンジェイ・ドゥダ |
エストニア ラトビア リトアニア ポーランド |
キーウ |
|
[28] [29] |
2022-04-24 | アントニー・ブリンケン ロイド・オースティン |
アメリカ | キーウ |
|
[9] [30] |
2022-04-28 | アントニオ・グテーレス | 国際連合 | キーウ |
|
[31] [32] [33] |
2022-04-30 | ナンシー・ペロシ | アメリカ | キーウ | [34] | |
2022-05-08 | ジャスティン・トルドー クリスティア・フリーランド メラニー・ジョリー[注釈 3] |
カナダ | キーウ | [6] [35] | |
2022-05-22 | アンジェイ・ドゥダ | ポーランド | キーウ |
|
[36] |
2022-05-26 | サンナ・マリン | フィンランド | キーウ |
|
[37] |
2022-06-16 | エマニュエル・マクロン オラフ・ショルツ マリオ・ドラギ |
フランス ドイツ イタリア |
キーウ |
|
[38] [39] [15] |
2022-06-16 | クラウス・ヨハニス | ルーマニア | キーウ |
|
[40] [39] |
2022-06-17 | ボリス・ジョンソン | イギリス | キーウ |
|
[41] |
2022-06-29 | ジョコ・ウィドド | インドネシア | キーウ |
|
[42] |
2022-07-03 | アンソニー・アルバニージー | オーストラリア | キーウ |
|
[43] [44] [17] [45] |
2022-07-25 | アレハンドロ・ジャマテイ | グアテマラ | キーウ |
|
[46] |
2022-10-20 | イニャツィオ・カシス | スイス | キーウ |
|
[47] |
2022-10-25 | フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー | ドイツ | キーウ |
|
[29] |
2022-11-19 | リシ・スナク | イギリス | キーウ |
|
[48] |
2022-11-26 | アレクサンダー・デ・クロー ノヴァーク・カタリン イングリダ・シモニーテ マテウシュ・モラヴィエツキ |
ベルギー ハンガリー リトアニア ポーランド |
キーウ |
|
[49] |
2022-11-28 | ウルマス・レインサル ペッカ・ハーヴィスト ソルディス・コルブルン・レイクフィヨルズル・ギルファドッティル エドガルス・リンケービッチ ガブリエリュス・ランズベルギス アニケン・ヴィットフェルト トビアス・ビルストロム |
エストニア フィンランド アイスランド ラトビア リトアニア ノルウェー スウェーデン |
キーウ |
|
[50] |
2023-01-30 | メッテ・フレデリクセン | デンマーク | ムィコラーイウ、オデーサ |
|
[51] |
2023-02-20 | ジョー・バイデン | アメリカ | キーウ |
|
[52] |
2023-02-21 | ジョルジャ・メローニ | イタリア | キーウ |
|
[53] |
2023-02-23 | ペドロ・サンチェス | スペイン | キーウ |
|
[54] |
2023-03-21 | 岸田文雄 | 日本 | キーウ |
|
[55] |
2023-04-28 | ペトル・パヴェル ズザナ・チャプトヴァー |
チェコ スロバキア |
キーウ、ドニプロ |
|
[56] [57] [58] |
2023-06-10 | ジャスティン・トルドー | カナダ | キーウ |
|
[59][60] |
関連項目
脚注
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