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肺の疾患 ウィキペディアから
気胸(ききょう、英語: pneumothorax)は、何らかの理由で肺の空気が胸腔内へ漏れ出し、その空気が肺を圧迫し、肺が外気を取り込めなくなった状態である。
多くは自然気胸(原発性自然気胸 primary spontaneous pneumothorax および続発性自然気胸 secondary spontaneous pneumothorax)で、肺胞の一部が嚢胞化したもの(ブラ Bulla)や胸膜直下に出来た嚢胞(ブレブ Bleb)が破れ、吸気が胸腔に洩れる事でおこる。胸痛をきっかけに受診することが多い。知名度が低いため、喘息などと勘違いして放置されることもあるが、それほど珍しい病気ではない。
年配者の気胸は、肺気腫・結核・肺癌などの基礎疾患に伴う続発性気胸が多い。女性の場合は、子宮内膜症が横隔膜や肺に広がり月経とともに剥がれ落ちて起こる、月経随伴性気胸の場合もある。交通事故などによる肋骨骨折が原因となるものや、点滴誤穿刺、気管支鏡検査による合併症、鍼による肩背部・胸部などへの直深刺などによる外傷性気胸もある。
静脈や動脈の損傷(血胸)を伴う場合は血気胸と呼ばれる。
自然気胸は、「背が高く」「痩せ型で」「10〜20代の若い」「男性」に起こりやすい傾向がある。BMIが20前後の男性では、6パーセント程度にブレブの発生が見られた[3]。しかし低身長者、肥満者、年配者、女性が発病する事も稀ではない。
嚢胞が発生する原因や破れる原因は明確になっておらず、故に「自然」気胸と呼ばれる。喫煙や運動、猫背などの姿勢、気圧変化(夏よりも秋から冬にかけての発症が多い)などによって肺に強い負担がかかったため、成長期の骨の急成長に肺の成長が間に合わず肺が引き伸ばされてしまったため、心的ストレスや睡眠不足等の生活習慣の悪化のためとも考えられているが、いずれも確証は得られていない。
多くは突然発症する。呼吸をしても大きく息が吸えない、激しい運動をすると呼吸ができなくなるなどの呼吸困難、酸素飽和度の低下、頻脈、動悸、咳などが見られる。発症初期には肩や鎖骨辺りに違和感、胸痛や背中への鈍痛が見られることがあるが、肺の虚脱が完成すると胸痛はむしろ軽減する。痛みは人によって様々で、全く感じない人もいれば、軽微の気胸で激痛を感じる人もいる。
自然気胸の場合、両方の肺で同時に発症することは稀だが、片方の肺が発症するともう一方に負担がかかるので、可能性は少なからずある。両肺で同時に発症した場合は酸素が供給されないため危険である。症状が悪化すると、胸部の皮膚に気泡のようなもの(皮下気腫 en:Subcutaneous emphysema)が現われることもある。
胸腔に漏れ出した空気が著しく多く、陽圧になって対側の肺や心臓を圧迫している状態を緊張性気胸という。この場合は血圧低下、ショックを来たし、緊急に胸腔穿刺を行わなければ死に至る。これは、心臓は勿論肺も、血液が体内を一巡するごとに必ず通る臓器だからである。しかも肺の毛細血管の還流圧は低いため、血液が肺の毛細血管を通過できなくなる(心臓に戻って来られなくなる)という事を意味する。
緊張性気胸による呼吸困難に対し、陽圧換気は禁忌である。胸腔内圧を更に上げる事になり、肺の虚脱が亢進する。緊張性血気胸・血胸では緊急手術となることもある。
軽度気胸 | 胸部レントゲン検査で、肺尖(はいせん:肺の頂上)が鎖骨より上にある。 |
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中等度気胸 | 胸部レントゲン検査で、肺尖が鎖骨より下にある。 |
高度気胸 | 胸部レントゲン検査で、肺の虚脱が著しい。 |
緊張性気胸 | 高度気胸で、さらに肺から空気が漏洩し続け、胸腔内が陽圧になっている。 |
胸痛患者では致死的疾患へのアプローチを優先しなければならない。具体的には下記の6つの疾患がある。
他にもTieze病や肋間神経痛、胸膜炎などがある。
基礎疾患の無い自然気胸でも、再発を繰り返す場合がある。対側に起こる場合も多い[5]。再発率の統計は、自然治癒(もしくは胸腔ドレナージ術のみ)の場合、約50パーセントと非常に高い。胸腔鏡下手術の場合5 - 10パーセント、開胸手術の場合0.5 - 3パーセントであり、個人差はあるが外科手術によって再発率が劇的に低くなる。一方で閉塞性肺疾患などが基礎にある場合は、さらに難治性となる。
治療後も暫くは安静を要する。大きな気圧変化をもたらす事象、即ち飛行機への搭乗(鉄道や自動車・バスでも峠越えなど)、管楽器演奏、スキューバダイビングなどは事前に医師の許可を得る事が望ましい。勿論、喫煙は厳禁であるし、咳はできるだけ我慢して、早めに鎮咳薬を服用する必要がある。1か月程度安定状態が続けば、運動も再開できるようになる。
気胸による術後の死亡は稀であり、緊張性気胸を除けば極めて低い0.04パーセントである。一方で、肺癌や結核などの基礎疾患を持つ重症の続発性気胸では、1.2パーセントとなっている[6]。
過去に、肺結核の治療法に気胸が良いとされた時期があり、胸膜腔に空気を注入することで人工的に肺を萎縮させる療法があった[7]。逆に結核による気胸の発症例も多かった。現在では膿胸などの危険が伴うため衰退している。人工気胸術、気胸療法ともいう。
15世紀頃のオスマン帝国(中世トルコ)で、外科医の「セレフェディン・サボンジュール」が、胸腔から空気を吸引する簡易的な治療を行った記録が残っている[8]。気胸の外科手術は、記録が残っている中でこれが最も古いとされている。
1803年には、気胸に関する疫学と、その大半は結核が原因だとする研究が、フランスの医師ジャン・イタールとルネ・ラエンネックによって発表された[9]。しかし1932年には、結核以外を原因とする自然気胸の存在も、デンマークの医師Hans Kjaergaardによって発表された[10]。
20世紀初頭には、気胸で縮んだ肺の大きさを可視化するために、X線撮影が用いられるようになった。
1941年には、外科医のタンソンとクランドールによって、気胸の原因となる嚢胞の切除手術が初めて導入された[11]。この時点で、初めて気胸に対する根本的治療が確立された。
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