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トクサ類(トクサるい)は、大葉シダ植物に含まれる分類群の1つである。現在学術的に広く用いられるPPG I (2016) によるシダ植物の分類体系では、トクサ亜綱 Equisetidaeと亜綱の分類階級に置かれるが[5]、分岐分類学による解析および分子系統解析が進む以前は維管束植物内の系統関係に諸説あり、様々な階級に置かれてきた[6]。現生種は1目1科1属(つまり、トクサ目とトクサ科は単型)からなり、トクサ属 Equisetum に15種のみが含まれる[7][5][8][9]。有節類[10](ゆうせつるい)、有節植物(ゆうせつしょくぶつ、Articulatae)[11][12]、スフェノプシダ(Sphenopsida[注釈 2])[10]、楔葉類(けつようるい、Calamophytina)[11][12]、トクサ植物[14]などとも呼ばれた。ただし、楔葉類はその中のスフェノフィルム目 Sphenophyllales を指すこともある[10]。
トクサ類 | ||||||||||||||||||
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スフェノフィルムの化石 Sphenophyllum miravallis
ヤチスギナ Equisetum pratense の輪生する枝 | ||||||||||||||||||
分類(PPG I (2016)[注釈 1]) | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Equisetidae Warm. | ||||||||||||||||||
タイプ属 | ||||||||||||||||||
Equisetum L. (1753) | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||
トクサ亜綱 | ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
horsetails | ||||||||||||||||||
目 | ||||||||||||||||||
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植物の最初の階層的分類体系はカール・フォン・リンネの『植物種誌』(Species Plantarum、1753年) で提示され、トクサ類はシダ類 Filices に含まれていた[15]。アウグスト・アイヒラー (1883) による分類体系では、楔形の葉や特異な節構造を持つ茎の形態から[12]、シダ植物の中でも独立のトクサ綱 Equisetineae に置かれ、ほかのシダ類が含まれるシダ綱 Filicineae および現在の小葉類が含まれるヒカゲノカズラ綱 Lycopodineae とは分けられた[16]。エドワード・ジェフレーは初めて維管束植物に小葉類 Lycopsida と大葉類 Pteropsida の2系統があることを認識したが、そのうちトクサ類は小葉類に含まれると考えた[17][18]。1920年代以降、デボン紀の化石シダ植物の研究が進み、シダ植物の各綱の差異はシダ類と裸子植物の差異よりも大きいと考えられるようになった[19]。例えば、アメリカの植物学の教科書に広く受け入れられた Tippo (1942) の分類体系では、トクサ類は楔葉植物亜門 Sphenopsida として維管束植物門 Tracheophyta に置かれ、種子植物やシダ類を含む大葉植物亜門 Pteropsida および小葉植物亜門 Lycopsida とは分けられていた[16]。その後、シダ植物はマツバラン類(無葉類)、ヒカゲノカズラ類(小葉類)、トクサ類(楔葉類)、シダ類(大葉類)の4群に大別されるというのが定説とされ[6][20]、各群は研究者によって門や亜門、綱、目などさまざまな高次の分類階級に置かれてきた[6]。初期の分子系統解析では、小葉類以外の3分類群が種子植物の姉妹群として単系統群(大葉シダ植物)をなすことが示され、トクサ類は中でも基部で分岐した系統であることが示唆されたが、一方で他の真嚢シダ類との系統関係は未解明であった[12][注釈 3]。その後、DNAの情報量を増やした分子系統解析により大葉シダ類の中で最も基部に分岐する(残りの姉妹群となる)ことが示され[23][24][12]、現在では大葉シダ綱 Polypodiopsida (Monilopsida) の下位に置かれトクサ亜綱 Equisetidae とする[25][5][26][27][注釈 4]。
以下に階級と名称、及び採用した分類体系の例を示す。
Wickett et al. (2014)、Puttick et al. (2018) による分子系統解析の結果に、Kenrick & Crane (1997)、Elgorriaga et al. (2018)などによる化石植物の系統樹を加えた維管束植物の系統樹は次のようになる[36][23][24][28]。
トクサ類を含む大葉シダ類は種子植物を含むクレードである木質植物 Lygnophyta とともに大葉植物 Euphyllophytina にまとめられ、トリメロフィトン類 Trimerophytopsida をステムグループとする[37]。かつてトクサ類として分類されていた化石植物に、ヒエニア Hyenia やカラモフィトン Calamophyton があり、これらは現在はクラドキシロン類とされる。例えば、デボン紀のヒエニア目は、トクサ類の形質をやや不規則に備えているため、かつてはこれが特殊化を重ねて進化し、ロボク類(ロボク科 Calamitaceae)とスフェノフィルム類(スフェノフィルム目 Sphenophyllales)へと分岐したと考えられていた[11]。
維管束植物 |
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Tracheophyta |
トクサ類の胞子体では根・茎・葉が分化している[11][38][39]。顕著な共有派生形質は楔葉(輪生葉)と胞子嚢床である[40]。
茎は匍匐性の根茎(地下茎)と直立する地上茎があり、ともにはっきりした節構造をもっている[11][7][34]。根茎には節ごとに節部から根と鱗片状の小葉を輪生する[10][11]。地上茎では基部の数節から不定根が輪生し[11]、それより上の直立する茎は一般に中空で節があり、節から小葉および小枝が輪生する[10][38]。地上茎に分岐するものとしないものとがある[11]。茎は緑色で光合成を行う[38]。
茎の維管束は原生中心柱または管状中心柱で、特殊な腔所があって独特の配列をしている[11][39]。葉隙は持たない[39]。導管のあるものもあるが、これは節間に限られている[11]。節部では維管束が輪になり、それから枝へ入る維管束や葉跡が分出する[11]。茎葉の表皮細胞壁にはケイ酸質を含む[10][8]。
化石種の中には、維管束形成層による二次肥大成長が顕著なものもある[11]。スフェノフィルム目とロボク科では一次木部の周りに維管束形成層が形成され、内側に二次木部、外側に二次篩部を形成する[40]。大葉シダ植物の共通祖先では維管束は中原型放射原生中心柱であったが、スフェノフィルム目の茎は中実で、外原型の3箇所の原生木部を頂点とする三角形の一次木部が分化し、その周囲に二次木部が少し発達する[10][40]。アルカエオカラミテスでは中心柱は中原型の環状で、二次木部は形成するが中央に髄腔がなく、通水道と通気孔のみをもつ[7]。ロボク科は、トクサを大形にした外見を示し、茎は髄腔と通水道を持ち中空で節部だけ中実となり、二次組織が発達して高さ10 m(メートル)に達する高木となる[10][40]。また、ロボク科とトクサ科では原生木部が内原型に進化した[40]。スフェノフィルム目および次に示すロボク科ではともに維管束形成層を形成し、二次成長を行うため、トクサ類の共通祖先で両面維管束形成層が進化したと推定される[40]。種子植物を含む木質植物でも両面維管束形成層を進化させており、トクサ類以外の大葉シダ植物でこれを二次的に消失した可能性もある[40]。
トクサ科では髄腔、通水道、通気孔(通気腔)からなる通気組織が発達し、地上茎が中空である[7][40]。維管束内と皮層にも穴が開いている[7]。髄腔および通水道はロボク科ももち、それらの共通祖先で獲得したと考えられている[40]。髄腔は茎の中央にある空洞で、通水道は原生木部周辺にある大きな穴である[40]。通気孔のある部分と無い部分では茎の成長が異なり、茎の表面では維管束のある部分が出っ張り、通気孔のある部分がへこんでいる[40]。これらの構造は円柱のように軽く丈夫である[40]。トクサ属ではロボク科とは異なり両面維管束形成層を持たないため、それを二次的に消失したと考えられている[40]。
トクサ属の一次根は短命である[8]。それ以外の根は不定根で、全て茎の節から生じる[11][8][34]。
根端分裂組織は1つの頂端細胞(四面体細胞)からなる[8]。頂端細胞は四つの切断面をもち、最も外側のものが根冠を生み出す[11][8]。頂端細胞の側方の分裂により基部方向に娘細胞が形成され、順に維管束、皮層、表皮の起源細胞となる[8]。頂端細胞は活動を静止しておらず、核内倍数体にもなっていない[8]。
根の皮層外層は厚い細胞壁を持ち、内層では細胞壁は薄くなる[8]。根の木部は三原型または四原型で、細根では二原型となることもある[8]。皮層から分化する内皮および内鞘の細胞は同放射線状に接して生じており、同一起源である[8]。側根は内皮に起源する[8]。
葉は楔葉(けつよう、sphenophyll、輪葉[11]、輪生葉[40])といわれ、節に輪生し、葉跡は1本であるが、古い時代のものでは脈が又状分岐するのもある[11][41]。プセウドボルニア Pseudobornia では2回二又分枝した軸に細かい葉片が鳥の羽状につく[7]。スフェノフィルム類では楔形の1–2 cm(センチメートル)の葉を輪生する[10]。ロボク科は節部に癒着して鞘状になった小形の葉を形成する[10]。ロボク科の葉にはへら型のアンヌラリア Annularia と先細りのアステロフィリテス Asterophyllites があり、長さ数 mm から数 cm になり、葉脈は1本である[7]。
構造が単純化したトクサ属のものは葉緑体を持たず、小葉のように退化して光合成は行わない[11][7]。葉の基部が隣同士で融合して袴状の葉鞘を作るものがある[11][38]。現生トクサ属の輪生葉では四面体の茎頂端幹細胞から3面で順次細胞が切り出され、葉原基が作られる[40]。個々の娘細胞形成にはタイムラグがあるが、葉原基形成時は同調する[40]。
胞子は球果状の胞子嚢穂につく[10][38][8][39]。胞子嚢穂はふつう栄養成長を行う茎の先端に付くが、スギナ Equisetum arvense では胞子嚢穂をつける胞子茎が栄養茎と分化しており、特にツクシと呼ばれる[42]。胞子嚢穂は胞子嚢床[11][40](胞子嚢托[39][7][34]、sporangiophore)と呼ばれる枝状の構造に分かれ、胞子嚢はこれに頂生する。胞子嚢床が他の植物のどの器官と相同であるかには様々な説があり、胞子嚢をつける枝や胞子葉であるという説がある[43][44]。ほとんどの場合に胞子嚢床はかぎ型に曲がっているので胞子嚢の先端は茎の方を向いている[11][40]。ロボク科はトクサ科によく似た胞子嚢穂を生ずるが[10]、スフェノフィルム類およびロボク科では胞子嚢床の間に托葉状の葉(苞葉[7])が加わってそれを保護し、胞子嚢穂をつくるが、その構造が極めて複維になっているものもある[11][40]。スフェノフィルム類では胞子嚢床が1枚の苞葉の上側に2個作られ、それぞれ二又分枝後に胞子嚢を頂生する[7]。現生のトクサ属では胞子嚢床を形成する生殖部には苞葉は形成されず、胞子嚢床の先端が盾状に広がり胞子嚢を保護している[7][40]。アルゼンチンで見つかっているペルム紀の Crucitheca の胞子嚢穂では栄養葉の生じる節間に胞子嚢床が数層輪生し、この構造が数回繰り返される[7]。現生のトクサ属ではこの胞子嚢穂が一つだけになり、胞子嚢床の間に栄養葉を欠くと考えられている[7]。胞子嚢穂は外見上節として輪生しているが、発生的には節間に繰り返される生殖単位 (reproductive phytomer) だと考えられている[7]。
胞子には同形胞子性のものも異形胞子性のものも知られており[11][39]、ロボク科の一部で異形胞子性が進化した[40][34]。現生のトクサ科およびロボク科のポトキテス Pothocites では同形胞子性で、胞子外壁に層状構造を持ち、胞子壁の表面が剥がれて4本のリボン状になり、胞子散布に役立つ弾糸が付着する[10][40][7]。異形胞子性のロボク科には北米の後期石炭紀に見られるカラモカルポン Calamocarpon があり、この長さ3 mm(ミリメートル)になる大胞子嚢内には大胞子が1個だけ成熟し、大配偶体が形成される[7]。小葉植物のレピドカルポン Lepidocarpon や被子植物の真の種子とは異なり、大胞子嚢を包み込む小葉やテローム群に当たる構造がトクサ類にはなかったため、種子様器官の形成には至らなかった[7]。
配偶体(前葉体)は現生のトクサ属について知られており、緑色の葉状体で、扁平な構造をもっている[11][10]。下面には根毛をつけ、上面には中央に大きく発達した中褥のまわりに数個の光合成を営む板状突起(裂片)を出す[10][11]。雌雄性があり、それぞれ造卵器(頸卵器)と造精器を生ずる[10]。頸卵器は絨毯組織 (cushion) につき、頸部が突出する[11]。造精器は絨毯組織に埋まっていることが多く、かなり大きくて、多数の精子を放出する[11]。精子は螺旋状に巻き、多数の鞭毛をもっている[11][10]。受精卵の第一分裂は頸卵器の軸と直角の面で行なわれ、胚は胚柄をもたず、外向的に発生し頸卵器の外側に向けて生長していく[10][11]。胚発生の初期のどの細胞からどの組織が導かれるかは決まっていない[11]。
トクサ類の祖先的な植物としてイビカ Ibyka が挙げられている[7][41]。イビカは中期デボン紀の化石植物で、主軸から側軸が比較的等間隔で3回単軸分枝を行い、最終分枝は4回程度二又分枝を行って胞子嚢を頂生する[7]。胞子嚢をつけた軸は反転するため、テローム説において「反転」によるトクサ類の胞子嚢托の起源を示すように見え、節間が規則的なことからトクサ類との類縁が示唆された[7]。ただし、形態が大きく異なるため分類としてはクラドキシロン綱イリドプテリス科とされることもある[7]。
トクサ類の化石はデボン紀から知られているが、最古のものではトクサ類の特徴を不規則にもっており、やがて明瞭な特徴をもったものに置きかわってくる[11]。後期デボン紀では、プセウドボルニア目のプセウドボルニア Pseudobornia が出現する[7]。プセウドボルニアは高さ20 m、太さ60 cm、枝も3 m になり、スピッツベルゲンとアラスカから発見されている[7]。
トクサ類は石炭紀に非常に多様化した[38]。石炭紀からペルム紀にかけての湿地性大森林はトクサ類が主要素の一つとなっていた[11]。そのため、トクサ科は小葉植物のヒカゲノカズラ科やイワヒバ科と同様、2億年以上も存続している系統である[45]。
スフェノフィルム類 Sphenophyllales は小形の草本またはつる植物、ときに水生で、後期デボン紀に出現し、石炭紀には全世界に広がってペルム紀に絶滅してゆき、日本を含むアジアで三畳紀まで残った[7]。石炭紀の林床あるいは林縁植物として繁栄した[7]。
ロボク科ともされるアルカエオカラミテス科のアルカエオカラミテス Archaeocalamites は、後期デボン紀から見つかっており、後期石炭紀後期に一旦記録が途絶えるが前期ペルム紀まで存続した[7]。ロボク科のロボク(蘆木、カラミテス)Calamites は石炭紀からベルム紀末まで生存した[10][7]。ロボクには材の特徴により3つの形態属が認められる[7]。
現生のトクサ属に形態的に類似したものはエキセティテス Equisetites と呼ばれ、最初は後期石炭紀後期から、そして多くは中生代初期から見つかっている[8][7]。スキゾネウラ Schizoneura はペルム紀のゴンドワナ大陸で現れ、三畳紀からジュラ紀にかけ欧米やアジアでも見られる[7]。中生代にはこれら以外のトクサ科もみられ、三畳紀からジュラ紀になると、ロボク Calamites によく似て、いっそうトクサ属に近い形をもつ小形の草本のネオカラミテス Neocalamites が現れた[10][7]。ネオカラミテスはトクサとは違いその葉はロボク科のアンヌラリア Annularia のように長く、葉鞘を作らないこともある[7]。
現生のトクサ属とはっきり認識できるものは始新世から出現する[7]。現生のものはトクサ属15種だけであるが、オーストラリアを除く全世界の温帯の湿地や渓流沿いに分布する[11][38][39][45]。北半球の温帯が分布の中心で、熱帯より温帯のほうが種数が多い[45]。内部には通気孔が通ると同時に気孔が落ち込み、クチクラのような表面の保護層が発達しており、湿地性でありながら乾生植物にみられるような特徴を兼ね備えている[11][34]。現生最大の種はギガンテウム Equisetum giganteum で、そのままでも5–6 m、寄りかかれば12 m にもなる[7]。
以下に属までのトクサ亜綱の分類を示す[5][35][7][28]。現生種のみを含むPPG I (2016) の分類体系をもとに[5]、化石植物の下位分類についてはテイラーらの教科書をもとにした西田 (2017) によるトクサ綱の分類および Elgorriaga et al. (2018) による形態と現生種のDNAに基づく系統解析の結果を用いる[35][28]。また、ヒエニア目 Hyeniales を置き、ヒエニア Hyenia と Protohyenia を含むヒエニア科 Hyeniaceae およびカラモフィトン Calamophyton を含むカラモフィトン科 Calamophytaceae を置くこともあったが[11][26]、現在これらはクラドキシロン目 Cladoxylales に含まれるとされる[8][46]。ロボク科はその巨大さから単独の目とされたこともあった[7]。なお、以下の表ではアルカエオカラミテス科に置かれるアルカエオカラミテスは、西田 (2017) ではロボク科に内包されている[7]。現在では化石種には†を、特に器官属については‡を付した。
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