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タイフーン型原子力潜水艦(タイフーンがたげんしりょくせんすいかん)は、ソビエト連邦で開発された弾道ミサイル潜水艦。この名称は、北大西洋条約機構 (NATO) が付けたNATOコードネームであり、ソ連およびソビエト連邦の崩壊後にこのシリーズを継承したロシア連邦では、941 「アクーラ」設計戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦(941 「アクーラ」せっけいせんりゃくにんむじゅうミサイルせんすいじゅんようかん;ロシア語: Тяжёлые раке́тные подво́дные крейсера́ стратеги́ческого назначе́ния прое́кта 941 «Аку́ла»)と呼ぶ。戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦(тяжёлые раке́тные подво́дные крейсера́ стратеги́ческого назначе́ния, ТРПКСН)の代表的なシリーズであった。
タイフーン型原子力潜水艦 | |
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タイフーン型潜水艦 | |
基本情報 | |
種別 | 弾道ミサイル潜水艦 |
建造所 | ルビーン設計局 |
運用者 |
ソビエト連邦海軍 ロシア海軍 |
就役期間 | 1981年12月12日-2023年2月 |
建造数 | 6隻 (退役済み) |
前級 | デルタ型原子力潜水艦 |
次級 | ボレイ型原子力潜水艦 |
要目 | |
排水量 |
浮上時: 23,200–24,500 t 潜航時: 33,800–48,000 t |
長さ | 175 m |
幅 | 23 m |
吃水 | 12 m |
推進器 |
OK-650 加圧水型原子炉2基, それぞれ190 MW (254,800 hp) 2 × VV-型蒸気タービン, それぞれ37 MW (49,600 hp) 2軸推進 7枚羽根スクリュー |
速力 | 浮上時22.22ノット、潜航時27ノット |
航海日数 | 180日間潜航 |
潜航深度 | 400 m |
乗員 | 163人 |
兵装 |
9K38 イグラ SAM 1基 650mm魚雷発射管 2基 • RPK-7 Vodopad AShM • 65K型 魚雷 533mm魚雷発射管 4基 • RPK-2 Viyuga巡航ミサイル • 53型魚雷[注 1] D-19発射装置 • RSM-52 SLBM 20基 |
ソ連海軍での正式分類は、当初は巡洋潜水艦、1977年7月25日以降は重ミサイル潜水巡洋艦であった。ロシア連邦海軍でも当初は重ミサイル潜水巡洋艦であったが、1992年6月3日付けの分類法改正でこの分類は廃止され、それに代わって新設された戦略任務重原子力潜水巡洋艦へと変更された。
941 設計は、ソ連ではロシア語で「鮫」を意味する「アクーラ(Аку́ла)」という設計名で呼ばれた。これは、別の原子力潜水艦に北大西洋条約機構(NATO)が Akula class というコードネームを付けていたことに関連し、混乱を狙ってわざと付けられた名称である。
本型に対し、NATOは当初「S(シエラ)型」のコードネームを割り当てる予定だった。しかし、1980年にソビエト連邦軍参謀総長ニコライ・オガルコフソ連邦元帥が「この度、我が海軍に、新型原潜"タイフーン"が就航した」と発表した上に、1981年のソ連共産党第26回大会でもレオニード・ブレジネフ書記長が「アメリカはトライデントを搭載したオハイオ級原子力潜水艦を建造している。我々も同様のシステムである「タイフーン」を有している。(Американцами создана новая подводная лодка «Огайо» с ракетами «Трайдент-I». Аналогичная система — «Тайфун» имеется и у нас.)」と演説した[1]。そのため、NATOは本型にNATOフォネティックコードには無い「タイフーン」型というNATOコードネームを与えた。
だが上記のように、本型のソ連での設計名は「アクーラ」であり、「タイフーン」ではない。ブレジネフの演説のとおり、「タイフーン」は潜水艦ではなく搭載されるR-39を含めた戦略ミサイルシステムの総称だった模様である。
ソ連海軍の戦略原潜に搭載される弾道ミサイルは液体燃料によるものが主体であり、固体燃料ロケットはヤンキーII型で試作されたR-31(SS-N-17)のみであった。本型は、新型の固体燃料弾道ミサイルR-39(SS-N-20)を搭載するために計画された艦である。R-39は約9,000kmの射程を持つ長射程ミサイルで、それ以前のR-31に比べると性能は大幅に向上したが、重量が100t近くなったため、それまでの667B 設計(デルタ型)シリーズには搭載できない巨大なミサイルになってしまった。そこで、新たに大型の原潜を設計する事になり、建造されたのが941 設計である。設計はルビーン海洋工学中央設計局が行い、主任設計師I.スパスキーが担当した。
このためもあってか、941 設計は水中排水量が48,000tに達する空前絶後の超巨大潜水艦となった。タイフーンは、これまでの潜水艦とは異なる革新的なデザインで当時の西側諸国を驚かせた。
この節の加筆が望まれています。 |
本型は、セヴェロドヴィンスク市の第402造船所(現・セヴマシュ、北方機械建造会社)で6隻が建造された。むろんこれは、同造船所で竣工した最大の艦船であった[注 2]。
それまでの667B 設計シリーズよりも遥かに大きい941型は、既存の港湾設備での運用は無理が有り、1980年代、原潜基地ザーパドナヤ・リーツァのニェールピチャ湾に本型専用埠頭が建設された。
941 設計は6隻建造され、R-39(SS-N-20 Sturgeon)潜水艦発射弾道ミサイルを20基備える世界最大の潜水艦であった。ソビエト連邦の崩壊後も、ロシア海軍は艦齢の若い本型と667BDRM 設計(デルタIV級)を維持する方針だったが、崩壊後の財政難により、維持運用に多大な費用が掛かる本型のような巨大な原潜は、ロシア海軍の手に余る存在となった。加えて、第1段ロケットをウクライナで生産していたR-39は、ソ連崩壊で製造が途絶え、1990年代以降、寿命が尽きる事が予測された。代替となるR-39UTTkhバルクの開発も1998年には中止され、941 設計は搭載ミサイルの供給を絶たれる事になった。
1990年代末期以降、3隻の941 設計が除籍された。これらの退役艦は、衛星打ち上げロケットの洋上プラットフォームや運送船への転用がルビーン設計局より提案されたが、結局解体された。解体工事の資金は米国から援助された。残る3隻も現役を退くのは時間の問題と見られていたが、元首相のセルゲイ・ステパーシンは、残る3隻を現役に留める為、率先して活動を行ない、3隻の除籍を食い止めた。
一番艦TK-208は、後にロシアの英雄に因み「ドミートリー・ドンスコイ」[注 3]と命名された。が、財政難によりすでに5隻が退役し、TK-208は1992年以降改装工事に入り、新型潜水艦発射弾道ミサイル3M14ブラヴァー(Bulava)(SS-NX-30)のテストプラットフォームとなるための改造を施された。この改装工事も予算不足で長期間かかったが、2003年に工事を完了した。2005年9月、TK-208はブラヴァーの発射テストに成功した。なお、ブラヴァー試験艦に改造されて以降は941U 設計、941UM 設計と呼ばれる。
TK-17「アルハンゲリスク」は、2004年初頭に行われた戦略原潜のミサイル発射演習においてウラジミール・プーチン大統領が乗艦し、演習を視察した。もっとも、この時のミサイル発射演習は全て失敗した。
2008年12月、ロシア海軍総司令部は、予備役のTK-17とTK-20の2隻を巡航ミサイル搭載艦あるいは機雷敷設艦、もしくは特殊作戦用に改装する構想が有る事を明らかにした。
2009年6月26日、ロシア海軍総司令官ウラジーミル・ヴィソツキーは、3隻の941 設計が、今後もロシア海軍の編制に留まり続けると記者団に伝えた。
2011年12月、ルビーン設計局取締役アンドレイ・ジャチコフは、TK-208をブラヴァー試験艦からボレイ型原子力潜水艦の試験艦として運用すると明らかにした。
2013年6月、TK-208はボレイ型及びヤーセン型原子力潜水艦の試験のため、TK-208が出航した。
3隻の941 設計は、書類上はザーパドナヤ・リーツァの第18潜水艦師団に所属していたが、実際には、3隻ともセヴェロドヴィンスクに回航されており、TK-17、TK-20の2隻は同市の白海海軍基地に係留され、TK-208はセヴマシュ造船所の係留所にいる。
2016年、TK-17とTK-20の2隻の解体が決定された[2]が、TK-17は2015年に解体が始まっている。ロシア軍需産業筋によると、この時点で唯一就役中の「ドミートリー・ドンスコイ」は、2020年まで運用される予定だった[3]。
2022年12月、TK-208は技術保守要員のみを残し退役することが発表された[4]。
2023年2月、TK-208が正式に除籍された。解体時期は未定[5]。
955型(ボレイ型) | 941型(タイフーン型) | 667B型(デルタ型) | 667A型(ヤンキー型) | 658型(ホテル型) | ||
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船体 | 水中排水量 | 24,000 t | 33,800 – 48,000 t | 10,000 t(I型) 10,500 t(II型) 10,600 t(III型) 12,100 t(IV型) |
9,300 t | 5,500 t |
全長 | 170 m | 175 m | 139 m(I型) 155 m(II,III型) 167 m(IV型) |
132 m | 114 m | |
全幅 | 13.5 m | 23 m | 11.7 m(I,II,III型) 12.2 m(IV型) |
11.6 m | 9.2 m | |
吃水 | 9.0 m | 12.0 m | 8.4 m(I型) 8.6 m(II型) 8.7 m(III型) 8.8 m(IV型) |
8.0 m | 7.31 m | |
主機 | 機関 | 原子炉+蒸気タービン+発電機 | 原子炉+蒸気タービン | |||
方式 | ギアード・タービン | |||||
出力 | 不明 | 49,600 hp | 52,000 hp(I型) 55,000 hp(II型) 60,000 hp(III,IV型) |
20,000 hp | 39,200 hp | |
水中速力 | 25 kt | 27 kt | 26 kt(I型) 25 kt(II,III型) 24 kt(IV型) |
27 kt | 26 kt | |
兵装 | 水雷 | 533mm魚雷発射管×6門 | 650mm魚雷発射管×2門 533mm魚雷発射管×4門 |
533mm魚雷発射管×4門(I-IV型) 406mm魚雷発射管×2門(I-III型) |
533mm魚雷発射管×4門 406mm魚雷発射管×2門 | |
SLBM | 3M14×16基 | RSM-52×20基 | R-29×12基(I型) R-29×16基(II-IV型) |
R-27×16基 | R-13/R-21×3基 | |
同型艦数 | 14隻予定 | 6隻 | 18隻(I型) 4隻(II型) 14隻(III型) 7隻(IV型) |
34隻 | 8隻 |
艦番号 | 名称 | 建造所 | 起工年 | 進水年 | 竣役年 | 所属 |
---|---|---|---|---|---|---|
TK-208 | ドミートリー・ドンスコイ | 1976年 6月30日 |
1980年 9月27日 |
1982年 12月14日 |
除籍 | |
TK-202 | ウラジミール・モノマフ | 1977年 4月22日 |
1982年 9月23日 |
1983年 12月31日 | ||
TK-12 | シンビルスク | 1980年 4月19日 |
1983年 12月17日 |
1984年 12月27日 | ||
TK-13 | セヴァストーポリ | 1982年 2月23日 |
1985年 4月30日 |
1985年 12月30日 | ||
TK-17 | アルハンゲリスク | 1983年 8月9日 |
1986年 12月12日 |
1987年 12月25日 | ||
TK-20 | セヴェルスターリ | 1985年 8月27日 |
1989年 4月11日 |
1989年 12月22日 |
2006年にロシア海軍潜水艦隊創設100周年記念切手の1枚として、本型を描いた6ルーブル切手が発行された。
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