オベチェ [3] [4] [5] [6] [7] [8] あるいはオベチュ [9] (obeche; 学名: Triplochiton scleroxylon )とは、アオイ科 (旧アオギリ科 )の落葉 高木 の一種である。西アフリカ の主にギニア からカメルーン にかけて自生し(参照: #分布 )、西アフリカで産出する材木の半分を占める[9] 。特徴の一つはカエデ のような形状の葉であり(参照: #特徴 、#オベチェ属 )、また材木は白っぽい色合いで加工が容易であり、内装 や家具 、彫刻 などの用途がある(参照: #利用 )。ガーナ では伝統的な紋様(アディンクラ・シンボル )の一つに本種の種子にちなむものが見られるが、この紋様はガーナ以外の場所でも使用されている(あるいはそう推定される)例が複数見られる(参照: #民俗・ポップカルチャー )。
オベチェというのはナイジェリア のエド語 に由来する呼称である[10] が、本来のエド語の発音では [óʋɛxɛ̀] といい、「オヴェヘ」に近い発音である(参照: #諸言語における呼称 )。カメルーン周辺での呼称からアユース (ayous)[7] [11] [注 1] やコートジボワール 等での呼称からサンバ (samba)[12] [5] とも呼ぶ(参照: #諸言語における呼称 )。日本 においてはアユースの名で取引されていることが多い[8] 。アフリカスオウ と訳された例も存在する[10] 。
木材としては軟らかい部類であるが、それにもかかわらずギリシア語 で〈硬い材〉を意味する種小名 scleroxylon がつけられている[13] 。
サバンナ や古い二次林に見られ、半落葉林の第一級高木 である[12] 。ガーナでは落葉林で極めてよく見られる一方、湿潤地域では極めてまれであり、二次林で急速に生長する[14] 。
胸高直径1-1.5メートル[6] の大径木で、樹冠は小さく密である[12] 。落葉性、樹幹はまっすぐで高さ65メートル以下、老木になると縦溝が見られるようになる[9] 。樹皮は灰色から橙褐色、鱗状になる[9] 。樹皮と材との間から明褐色でゼラチン 状の樹液がしみ出し、青く変わる[12] 。板根 は高い[12] 。
葉は掌状裂の単葉 で[12] 互生 、広卵形から3角形、葉の1/3程度まで切れ込みがあり、裂片は5-7[9] 。葉柄 は長い[12] 。
花は短い円錐花序 (落葉期に集散花序 [12] )で多少とも皿状で白色、花弁の基部は赤紫色である[9] 。芳香がある[12] 。
果実は1つづつの水平翼のある5分果 である[12] 。
ガーナ の
ビア国立公園 (英語版 ) (Bia National Park)で採取されたオベチェの標本。
カエデ のような形の7裂以下の葉が特徴の一つ。
オベチェ材
オベチェ材
オベチェからは木材が得られる。外観は辺材 も心材 もほぼ区別がなく淡黄白色から淡黄色で[6] 木肌は非常に粗く、直通な材であるが柾目 で軽い交錯木理 をなし、細かい斑が出て光沢を見せる[11] 。
ベルリン で見世物にされたナイジェリア 産オベチェ材(1932年1月)
材質は軽軟で収縮も小さく、湿度変化にも変動が少ない[11] 。気乾比重 は0.32-0.49[7] 、乾燥は非常に早く容易で、裂けや既存のひびの拡大もないが若干ねじれが生じることがあり、また湿度の高い環境下で鉄化合物と接触すると青色染色を起こしてしまう[6] 。柔らかいが目が詰まっているために繊維が壊れにくく、木口がボロボロにならない[7] 。曲げ強さ [注 2] 、圧縮強さ [注 3] は低く、剛性 [注 4] 、耐衝撃性 [注 5] も極めて低い[6] が、軽軟な材のわりにはしなやかな方である[11] 。蒸し曲げ に対する適性は中庸から低度である[6] 。加工時に細かい木粉が舞い上がって喘息 症状を起こす恐れがあるためマスクを着用するなどして作業に臨むことが強く推奨される[11] 。しかし加工はしやすく個体差も感じられないため建築材に向いている[7] 。手道具でも機械でも加工は容易であり[6] 、ロクロ を使用する場合はサクサク削れる[7] 。刃先を鈍磨させる性質もわずかしかなく、切削の際には刃先を鋭く研摩したものを浅い角度で用いることが推奨される[6] 。接着も塗装も良好で[11] 、釘打ちも容易であるが釘着性は低い[6] 。辺材はヒラタキクイムシ [注 6] の害を受けやすいが透水性 があり、保存薬剤を吸収してくれる[6] 。一方、心材は腐朽しやすく保存薬剤による処理も困難である[6] 。
耐久性も強度も重要でない場所で、白木家具 、造作 、内装横木 、引き出し の桟木 や裏板、キャビネット の骨組み、内装建具、モールディング 、オルガン 用スライダーレス共鳴板 、模型製作に用いられ、さらに青色染色を起こしてしまったオベチェ材も象嵌 職人に愛好されている[6] 。彫刻 にも適しており、長尺ものなど大きな板材を得ることが可能である[7] 。ロータリーカット されて積層材の芯材や合板の裏板に、また縞模様の美しいものはスライスカット されて化粧単板 にされる[6] 。ほかに箱材や額縁 にも用いられる[11] 。ポプラ 材の代用となる[12] 。
ことわざ
ナイジェリア のヨルバ語 でオベチェは arère と呼ばれ、以下のようなオベチェが登場することわざ が存在する。
Àràbà tún ara mú, odò ńgbé Arère.
これは文字通りには「川がオベチェを流してしまったらカポック (別名: パンヤノキ)は帯を締めるはずだ」と訳されるが、この西アフリカ産の立派な2種の木が用いられたことわざの含意は、用心するために状況の変化を評価し直し続けることの必要性を説いたものである[17] 。つまり、自分の仲間に起こった良いことあるいは悪いことは自分自身にもそのうち起こり得るので身構えておくべきということである[17] 。
アフリカの現地語には複数の言語名を持つものもある。Lewis et al. (2015) も参照。
ガーナ:
ガーナおよびコートジボワール:
アニ語 (Anyin, Anyi, Agni): patabo(ɛ)[14] , pataboué[25] , kpataboué[26] , wawa[14]
クランゴ語 (Kulango ):〔ボンドゥク の〕samba[26] [25] , sama, sérama, sankamba[26]
ンゼマ語 (Nzema; 別名: Appolo, Apollonien): wawa[26] [14] , wana[26]
カメルーン:
コートジボワール:
コートジボワールおよびギニア、リベリア:
ダン語 (Dan; 別名: Yacouba, Yakuba): dodi, douodié[26] , lôli[25]
コンゴ民主共和国(旧ザイール):
中央アフリカ:
ナイジェリア:
リベリアおよびギニア:
リベリアおよびコートジボワール:
オベチェ属 (Triplochiton )は World Flora Online[31] や Hassler (2019) によれば2種が認められているが、よく知られているものはオベチェのみである[5] 。もう一方の種は Triplochiton zambesiacus Milne-Redh. というもので、ザンビア 南部およびジンバブエ に分布する[2] 。
葉の形はヨーロッパ や北アメリカ のカエデ やシカモア のものに似て掌状に裂け、果実には翼が見られる[28] 。
属名 Triplochiton はギリシア語 で〈3つの覆い〉を意味し、花の形にちなむものである[28] 。
日本を含む中新世 の北半球に広く分布していた葉化石ウリノキモドキ Byttneriophyllum tiliifolium との類縁が示唆されている[32] [33] 。
注釈
小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 (1994) によれば、カメルーンの材木市場の名に由来する。
板材の両端に力を加えて割れる時の力を測定したもの[15] 。
木口に加えられる荷重に耐えられる能力のことで、短柱や支柱などに用いられる木材にとっては重要な要素となる[15] 。
木材の弾力性を表す尺度で、曲げ強さとの関連で考慮される[15] 。
木材の靭性 の尺度のことで、急に加えられる衝撃荷重に対する抵抗力を表す[15] 。
出典
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小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 (1994).
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