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人工的に生物を育生する産業 ウィキペディアから
養殖業(ようしょくぎょう、英語: aquaculture)とは、生物を、その本体または副生成物を食品や工業製品などとして利用することを目的として、人工的に育てる産業である。金魚、錦鯉などを鑑賞・愛玩目的で育てることは「養魚」と称する場合が多い[1]。
狭義及び通常は、水産業(養殖漁業)の一種で、魚介類や海藻などの水棲生物の人為的繁殖について使われる。広義には、生物全般を育てることを指すが、陸生植物に関しては栽培・農耕、哺乳類に関しては畜産、そのうち乳牛などは酪農、ニワトリに関しては養鶏、ブタは養豚、昆虫は昆虫養殖(養蜂・養蚕など)という用語がある。
養殖するためには対象となる生物の生態を知る必要があり、安定した養殖技術の獲得までには時間がかかる。魚介類に関しては、卵あるいは稚魚・稚貝から育てることが多い。反面、飼育親魚からの採卵と管理環境下での孵化を経た仔魚及び稚魚の質と量の確保が困難な魚種(例えば、ニホンウナギ・クロマグロ・ハマチ)の場合、自然界から稚魚を捕らえて育てる「蓄養」が行われる。ニホンウナギやマグロ類では稚魚として用いる未成魚の捕獲行為が無制限に行われ、捕獲する行為自体が天然資源資源減少の要因と指摘されていたが、クロマグロに於いては2014年から未成魚の捕獲制限が行われると報道された[2][3]。
多くの場合、育てた生物自体を食用とする事が目的であるが、生物の育成によって副次的に生成される物質を食用以外の用途とする場合(真珠など)もある。一方、人間によって略奪、破壊された海洋環境を自然に返す手段の一つとする見解もある[4]。
養殖には、漁の条件や捕獲環境を管理できることで、捕獲時のダメージによる劣化を防ぎ時間やエネルギーなどの各種コストを抑えられること、魚種によっては天然環境に比べ成長が早めることが技術的に可能であることなど、明確なメリットがある[5]。
魚が逃げ散ったりしないように管理して、給餌や漁獲を容易にするため、海の沿岸域や淡水の湖沼などに様々な施設が作られる。魚介類の種類に合わせて、海面生け簀や筏、養魚池などが使い分けられる。海水魚の一部は、海水の水質を保って内陸部で育てる閉鎖循環式陸上養殖が可能になっている[6]。
特に悪天候時において波や海流、潮流が激しい外海での養殖は難しいが、ノルウェーでは北海油田の石油プラットホーム技術を応用し、水深150mの外洋でサーモンを養殖している[7]。
中国大陸には淡水魚の養殖では古くからの歴史があり、今なお最も盛んなコイの養殖は3000年前から始まったという。春秋時代に越王の臣下である范蠡が世界初の養殖についての概論書『養魚経』を著した。
古代ローマではカキ(貝)が養殖された[8]ほか資産家の投資先の一つとして、養魚池の経営があった。養魚池には淡水の池もあれば、海から海水を引き込んで内陸に作られる海水池もあった。資産家たちは饗宴に使われる高級魚であるヘダイやヒメジなどを育てていた。中世ヨーロッパではカワカマスやウナギ、四旬節用のコイの養殖が盛んで、大地主が農夫に池や湖の権利を貸し、魚と金銭を徴収する形で行われた。領主は水産資源と養魚家の権益を守るために川や湖での釣りには厳格なルールを作った。上流階級には特許状を出したが、平民が違反すると重罪となった[9]。
生物の誕生から次世代への継続というサイクルをすべて人工飼育で実施することを完全養殖(かんぜんようしょく)という。例えば、魚類であれば、成魚から卵を採り人工孵化の後に成魚に育て、さらに成長させた大魚から卵を採って人工孵化させるというサイクルが出来ると完全養殖と呼ぶ。ナマズ、サケ科、コイ科、マダイ、トラフグ、浅海性のエビ等多くの食用となる種では技術確立し、完全養殖が行われている。一方、食用魚介類として馴染みのあるイカ、タコ、サンマ、イワシ、アジ、海生カニ、牡蠣などでは完全養殖は行われていない。例えば、養殖魚として馴染みのあるハマチ[10]においては天然産稚魚を捕採し育てる畜養が全てを占めている。
完全養殖は「産卵」「孵化」「稚魚育成」「性的成熟」まで全ての過程を最適条件に管理した環境下で行うもので、生物の生態と各課程を詳細に研究し最適な餌、水温、明るさなどの条件を見出す必要が有る。実際に完全養殖を行おうとした場合、目的とする魚種の生態解明だけで無く親魚の飼育と稚魚の生産までにかかる生産コストも重要で、生産コストの上乗せが容易なウナギ、マグロでは技術開発に成功しているが、サンマやイワシなど安価で販売される魚種では技術開発も行われていない。しかし、21世紀に入ってから、かつては、不可能とされていたウナギなどの魚介類での完全養殖の実験が実験室レベルで成功し[11]、特にクロマグロは長い期間をかけて完全養殖を商業的に成り立たせており[12]、今後の技術発展に水産業者の関心が集まっている。
完全養殖の世代を重ねると、養殖し易い特性を持つ遺伝集団が形成される反面、単一の形質をもつ遺伝的な多様性に欠ける集団となる。その結果、環境ストレスに対する耐性や耐病性を低下させると共に、継代人工種苗が親魚(Broodstock)となった自然界での再生産のサイクルが良好に機能しない原因となっている可能性がアユでは指摘されている。一方、遺伝的多様性を維持する為に、養殖メスと野生オスを交配させ次世代の種苗とする事で遺伝的多様性の維持をはかることが可能である[13]。
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1883年に著名な生物学者トマス・ヘンリー・ハクスリーは「タラ漁、ニシン漁、マイワシ漁、サバ漁、そしておそらくすべての海洋漁は無尽蔵である。つまり、我々人間のすることなど魚の数に大きな影響を及ぼすことはない」と述べたが、その後の1世紀で世界の海洋資源は激減し、国連食糧農業機関の推定では流通している主な魚の3分の2は、集団を維持できる以上のレベルで捕獲されていると指摘している[5]。
西ヨーロッパでは、1970年代に乱獲による漁業資源の枯渇と、沿岸の無秩序な開発や海洋汚染が問題となった。ムール貝やカキの養殖は18世紀以来の伝統があったが、海洋汚染のために従来の場所が養殖に適さなくなったり、新たな手法を開発する必要に迫られたりした。魚類の養殖は中世以来廃れていたが、環境問題の高まりとともに研究や実践が進みつつある。
カナダ、スカンジナビア、チリではサケ科魚類の養殖が盛んである。養殖魚の成長には温度管理が重要となるが、フランスやカナダでは原子力発電所の冷却水を利用した温度管理でウナギやコイの養殖が行われている。アメリカ合衆国では、流通しているニジマスとナマズのほぼ100%が養殖されたものである。
中央ヨーロッパでは伝統的にコイの養殖が盛んで、中でも南ボヘミア地方のコイは世界的な名声がある。ハンガリーでは、コイとアヒルやガチョウを同じ池で飼うことで家禽類の排泄物でコイを太らせている。似たような方法は中国や中央アフリカなどでも行われている。また、数年毎に池の水を抜き穀類を栽培する輪作を行っている[15]。
養殖対象となる主な品目は魚類で、生産高の多い種はコイ科、サケ科、ティラピア、ナマズである。甲殻類では浅海性エビの養殖が1970年代から、上海蟹は1990年代から急激に増加した。軟体動物では牡蠣、ムラサキイガイなど、その他にはクラゲ、ナマコ、ウニ、ホヤなどである。
1980年代以降に中国国内(中華人民共和国の生産高)の養殖が急成長している。2009年の生産量は約8千万トンで生産金額は860億ドル[20]。
日本における養殖による生産量は重量ペースで世界の約1%であった。
魚種によって生産地はまったく異なるが、生産金額では下記の地域が上位にランクされる。瀬戸内海や有明海などの内海は特に養殖が多く、西九州・四国はいずれもタイ、ブリ類(ハマチ等)、ウナギの養殖が盛んである。なお、海面漁業も含めると北海道が最多である。宮城県・岩手県の三陸海岸は東北地方太平洋沖地震の津波で大きな被害を受けた。
順位 | 都道府県(海面) | 単位 = 1万t | 海面最多生産種 | 都道府県(内水面) | 単位 = t | 内水面最多生産種 |
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全国 | 106.69 | 全国 | 36,114 | |||
1 | 北海道 | 16.60 | ホタテ 13.51 | 鹿児島 | 8,127 | ウナギ 8,007t |
2 | 広島 | 11.07 | カキ 10.68 | 愛知 | 6,485 | ウナギ 5,116t |
3 | 青森 | 10.11 | ホタテ 10.07 | 宮崎 | 4,014 | ウナギ 3,315t |
4 | 宮城 | 7.68 | コンブ・ワカメ類 315 | 静岡 | 3,255 | ウナギ 1,834t |
5 | 兵庫 | 7.64 | クロノリ 674 | 長野 | 1,599 | ニジマス 767t |
6 | 佐賀 | 6.84 | クロノリ 665 | 福島 | 1,379 | コイ 932t |
7 | 愛媛 | 6.47 | ブリ・カンパチ 214 | 岐阜 | 1,358 | アユ 897t |
8 | 鹿児島 | 4.98 | ブリ・カンパチ 434 | 茨城 | 1,252 | コイ 1,087t |
9 | 熊本 | 4.95 | 海藻 303 | 和歌山 | 991 | アユ 984t |
10 | 岩手 | 4.29 | コンブ・ワカメ類 329 | 山梨 | 979 | ニジマス 702t |
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