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数学における零写像(れいしゃぞう、ゼロしゃぞう、英: zero mapping)は、零元を持つ適当な代数系[注釈 1]への写像であって、その定義域の全ての元を終域の零元へ写すものを言う。殊に、解析学における零函数 (zero function) は、変数の値によらず函数値が常に零となるような函数を言う。また、線型代数学におけるベクトル空間の間の零(線型)写像 (zero map) または零(線型)作用素 (zero operator) は、全てのベクトルを零ベクトルに写す。
零写像は多くの性質を満足し、数学において例や反例としてしばしば用いられる。零写像は斉次線型微分方程式や積分方程式などの数学の一連の問題において、自明な解になる。
実解析における実零函数は、実函数 φ: R → R であって、すべての引数に 0 を割り当てるもの、すなわち を満足するものを言う。恒等式の記法を用いれば、零函数であることを「φ ≡ 0」とも書ける。
零函数は以下のような函数のクラスの特別の場合になっている:
零函数は滑らかな函数、すなわち何回でも連続的微分可能であり、その各階の導函数は零函数で与えられる。すなわち が成り立つ。指数函数を除けば、このような性質を持つ函数は零函数に限る。
零函数自体は、定数函数の導函数として、あるいは一般に n-次多項式函数の (n + 1)-階導函数として得ることができる。
零函数の定積分は、積分の限界の取り方に依らず常に零である。すなわち が成り立つ。
したがって、零函数は実数直線全体で可積分な唯一の多項式函数である。零函数の原始函数は、不定積分の積分定数は任意にとれるから、零函数自身も含めた任意の定数函数によって与えられる。
零函数はコーシーの四つの函数方程式: の自明な解である。[2]
さらに、零函数は なる形の斉次線型微分方程式の自明な解であり、また (K(x, y) は積分核、λ は前因子)なる形の積分方程式の自明な解である。逆に非斉次の線型微分または積分方程式が零函数を解に持つことはない。
線型代数学において、同じ体 K 上の二つのベクトル空間 V, W の間の写像 φ: V → W が零写像または零作用素であるとは、V の全てのベクトルを W の唯一の零ベクトル 0W へ写す写像 を言う。
零写像も 0 で表すことがある(文脈から数値の 0 か零写像の 0 かが文脈から明らかである場合に限る)。零写像も定義域を部分集合 U ⊂ V に制限することができる。
零写像は線型写像である。すなわち、ベクトル空間の間の準同型として を満足する。したがって零写像は、線型写像全体の成すベクトル空間 L(V, W) に属し、そのベクトル空間の零ベクトルとなる。
有限次元ベクトル空間の間の零写像は、それぞれの空間の基底をどのように選んでも、サイズ dim V × dim W の零行列で表現される[6]。零写像の核は V 全体で、像 は {0W} であり、したがって階数は常に 0 である。V = W のとき、固有値はすべて 0 であり、固有空間は V となる。
V, W がノルム空間で、それぞれのノルムを ‖ • ‖V, ‖ • ‖W とすれば、零写像の作用素ノルムは となる。W = R に対して零写像自身が半ノルムを成す。
一般に零写像は、未知函数 u に関する任意の斉次線型作用素方程式 を満足する。ただし、右辺の 0 は零写像の意味である。逆に、右辺を零写像以外に取り換えて得られる任意の非斉次線型作用素方程式において零写像は解にならない。
X を集合、Y を単位的マグマ(つまり、結合 ∗ とそれに関する単位元 0 を持つ集合)とすれば、写像 φ: X → Y が零写像であるとは、 を満たすときに言う。そのような代数系 (Y, ∗) としてモノイド、群、環、加群やうえで述べたベクトル空間などが重要な例として挙げることができる。
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