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1つの演算によって定義される基本的な代数的構造 ウィキペディアから
抽象代数学におけるマグマ(英語: magma)または亜群(あぐん、groupoid)とは、集合 M とその上の二項演算 M × M → M からなる組をいう。マグマ M における二項演算は M において閉じていることは要求するが、それ以外の何らの公理も課さない。1つの集合上の1つの二項演算のみによって定義される最も基本的な代数的構造である。 このような構造に対して「マグマ」という呼称を導入したのはニコラ・ブルバキである。旧来はオイステイン・オアによる用語で亜群(groupoid)と呼ばれていたもので、現在でもしばしばそのように呼ばれる(ただし、圏論において、「亜群(groupoid)」と呼ばれる全く別の概念もある)。
マグマは集合 M と、M のどの二元 a, b に対しても μ(a, b) で表される別の元を対応させる二項演算 μ を対として考える。集合と演算の対 (M,μ) がマグマと呼ばれるためには、マグマの公理として知られる条件
を満足しなければならない。演算が明らかで紛れの虞の無いときは演算の記号を落として台集合の記号のみによってマグマ M などという。しばしば二項演算 μ はマグマ M における乗法とも呼ばれ、このときの演算結果 μ(a, b) はa と b との積という[* 1]。また、誤解の虞が無いならば積 μ(a, b) は演算記号を省略してしばしば ab と書かれる。演算記号が省略されている場合に、マグマが台集合と演算の対であることを明示するにはプレースホルダを用いて (M, ·) のように書かれる。
演算 μ が偏演算(局所演算、部分演算)ならば、(M, μ) を局所マグマ(偏マグマ)という[* 2]。
マグマ (M, μ) に対し、台となる集合 M の部分集合 N が M の演算 μ に関するマグマを成すならば、マグマ (N, μ) を M の部分マグマ(submagma)という。
ふたつのマグマ (M, μ), (N, ν) の間の準同型写像(magma morphism/homomorphism)またはマグマ準同型とは写像 f: M → N であって、
なる意味でマグマの二項演算を保つものをいう。マグマ準同型 f: M → N が全単射ならば f の逆写像 f−1 N → M もまたマグマ準同型であり、M と N はマグマとして同じ構造を持つと考えられる。このとき、f(および f−1)をマグマ同型写像(magma isomorphism)またはマグマ同型と呼び、ふたつのマグマ M と N は互いに同型(isomorphic)であるという。
マグマ (M, μ) と台集合 M 上の同値関係 ∼ が与えられているとき、同値関係 ∼ がマグマ合同であるとは
が任意の x, y, u, v ∈ M に対して成り立つという意味でマグマ演算 μ と両立することをいう。∼ がマグマ合同であるとき、∼ による合同類の全体
に二項演算 μ' が
とおくことにより矛盾なく定まり、(M/∼, μ') は再びマグマを成す。これをマグマ M のマグマ合同 ∼ による剰余マグマ(residue class magma)、商マグマ(quotient magma)、因子マグマ(factor magma)などと呼ぶ。
一般の非結合的な場合のマグマ演算を繰り返し反復適用することを考え、演算を適用する対を表すのに括弧を用いる。演算を繰り返して得られた文字列は、マグマの元を表す記号と開閉の対応のとれた括弧からなるものとなる。対応のとれた括弧からなる可能な限りの文字列全体の成す集合はダイク言語と呼ばれる。マグマ演算を n-回適用して得られる相異なる文字列の総数はカタラン数 Cn で与えられる。したがって例えば、C2 = 2 であることから、マグマの三つの元に二回演算を適用するときの組合せは
のふた通りしかないことがわかる。
表記の簡略化のためしばしば括弧の数を減らすことが行われる。これは演算を適用する場所でだけ文字を併置することで実現される。たとえば、マグマ演算を中置記法で ∗ とすると、xy ∗ z が (x ∗ y)∗ z の簡略表示である。さらなる簡略化は空白の挿入・抜取によるもので、例えば、xy∗z ∗ wv によって ((x ∗ y) ∗ z) ∗ (w ∗ v) が表せる。もちろん、もっと複雑な式に対しては、括弧の使用は不可避のものとなる。括弧の使用を完全に避ける方法としては、演算を中置記法で記すのではなく、前置記法や後置記法によればよい。
集合 X 上の自由マグマ(free magma)とは集合 X から生成されるマグマのうち「可能な限り最も一般」なもの(つまり、元を生成するときに、生成された元の間に何の関係や公理も課さないという意味で自由なマグマ)をいう。これは、X を字母集合としたとき、括弧を保った非結合的な語の集合とみなすこともできる。また、計算機科学でよく用いられる概念をつかえば、自由マグマは、葉ノードがそれぞれ X の元でラベル付けられた二分木全体の集合であると見ることもできる。この見方をするとき、マグマ演算は二つの木を根と根で結合する操作に対応する。したがって、これは構文論において基礎的な役割を演じる。
自由マグマのもつ「可能な限り最も一般」という性質(普遍性)は次のように表すことができる。
すなわち、任意のマグマはある自由マグマのマグマ準同型像(同じことだが剰余マグマ)にマグマ同型である。
一般には、マグマをそのままマグマとして調べるということはまずあり得ず、代わりに(部分的なクラスに分けるために)マグマの二項演算に適当な公理を課した、いくつかの別な種類の代数系として調べることになる。よく知られたクラスの、特別な名前が付いている代数系としては
といったようなものを挙げることができる。もちろん、特別な呼び方はなくとも、可換マグマや可換モノイドといったような代数系のクラスもしばしば扱われる。
マグマ M が、[* 3]
多項群を見よ。
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