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フェアチャイルド メトロ

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フェアチャイルド メトロ
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フェアチャイルド メトロ(英語: Fairchild Metro)は、スウェアリンジェン・エアクラフト(英語版: Swearingen Aircraft)が1969年に開発し、1972年以降はフェアチャイルドの傘下で1999年まで生産された、乗客19席(最大20席)、ターボプロップ双発のコミューター航空会社向け小型旅客機である。シリーズ全体で約700機が生産・納入され[6]、特に1970年代後半から1980年代にかけては代表的なターボプロップ・コミューター機であった[7]。生産元の変遷(買収、社名変更など)に伴い、「スウェアリンジェン メトロ」(英語: Swearingen Metro)、「フェアチャイルド・スウェアリンジェン メトロ」(英語: Fairchild Swearingen Metro)、「フェアチャイルド・ドルニエ メトロ」(英語: Fairchild Dornier Metro)とも呼ばれる[8]

概要
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開発・生産状況

要約
視点

「メトロ」開発の経緯

ビル・リア英語: Bill Lear[注 2]やディー・ハワード(Dee Howard)[注 3]の下で航空機の開発研究を行っていたエド・スウェアリンジェン英語: Ed Swearingen[10]、1959年に独立し、アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ国際空港そばにスウェアリンジェン・エアクラフトを設立した[11]。この独立後、「エクスカリバー」(Excalibur)と呼ばれるビーチクラフト ツイン・ボナンザビーチクラフト クイーンエアの改造を手掛けていた[11]

1964年になると、「基礎となる汎用胴体を開発し、レシプロ、ターボプロップ、ジェットといった各種エンジンと組み合わせることにより、また胴体の長さを変えることにより、多様な航空機シリーズを作りだす」とのアイデアのもと[7]、ビジネス機「ビーチクラフト キングエア」を凌駕する航空機を目指し、新型航空機の開発を始めた[10]。ジェット機の亜音速対応や高速度・長航続距離化のための空気抵抗削減、胴体延長対応、与圧効率化などの観点より、前後で半径が変わらない円筒型の胴体を新開発[7]、また尾翼も新製し、クイーンエアの主翼、ツイン・ボナンザの降着装置と組み合わせ、これがビジネス機「スウェアリンジェン マーリン英語版」となった[5]。まず、4人乗りレシプロエンジン(ライトカミング TIGO-540英語版[5])搭載の「SA26 マーリン」として開発が始まったが[10]、この機体は生産には至らなかった[11]。胴体を延伸、プラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6ターボプロップエンジンを採用、それに合わせて主翼を適応させた8人乗りビジネス機「マーリンII」は、1965年に初飛行、1966年にアメリカ連邦航空局(FAA)の型式証明を取得、「SA26-T マーリンIIA」として商業生産・販売開始となった[11]。1967年になるとギャレット・エアリサーチ英語版と「マーリン」の独占的販売の契約を結び、エンジンをギャレット TPE331-1-151Gへと変更した「SA26-AT マーリンIIB」を開発、1968年に型式証明を取得し、「SA26-T マーリンIIA」に替わり生産されることとなった[11]

その後、主翼・尾翼(十字尾翼[12])・降着装置を自社で新製し[13]、胴体延伸型の開発も行われ、8人乗りビジネス機「SA226-T マーリンIII」(型式証明取得:1970年7月)、胴体延伸型12人乗りビジネス機「SA226-AT マーリンIV」(型式証明取得:1970年9月)、胴体延伸型を乗客19席(最大20席)で最大離陸重量5,670kg(12,500ポンド)のコミューター機[14]とした「SA226-TC メトロ」(初飛行:1969年8月26日、型式証明取得:1970年6月)として結実した[1][注 4]。なお、この当時のアメリカの航空業界の背景としては、1969年に「乗客用19席以下、最大離陸重量12,500ポンド(5,670kg)以下の機体であれば、運航証明書なしでの地域航空定期運航事業(コミューター航空)に使用できる」との規定が制定されていた[15]

「メトロ」誕生後の展開

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1970年にシリーズ機「マーリンIV」(胴体延伸型の12席ビジネス機)がリットン・インダストリーズ英語版に納入され、これが胴体延長型の「メトロ」シリーズ納入第1号となった[14]。 1971年には「メトロ」がコンゴ民主共和国キンシャサソシエテ・ミニエール・デ・バクワンガ英語版(MIBA)に初納入される[16]。一方で、この頃の世界的不況・航空機市場縮小により売上が急減し資金繰りが悪化、1971年中ごろにはスウェアリンジェン・エアクラフトは生産を停止し、自ら破産を申請するに至った[16]。「マーリン」「メトロ」の新型主翼の製造を担当し[11]、「メトロ」の販売代理店でもあったフェアチャイルド・インダストリー[17][注 6]、1972年2月に90%出資の子会社スウェアリンジェン・アビエーション[注 1]を設立し、スウェアリンジェン・エアクラフトの資産を取得、事業を引き継ぐことになった[16][注 7]

1975年には、機内システムの改修、客室窓の変更(丸形→四角形で大型化)[18]、騒音低減のための改良、コックピット周りの改修、オプションでロケット補助推進離陸装置(RATO)の装備、などの変更がなされた「SA226-TC メトロII」が登場[19]。また、生産再開から続けられてきた効率化による生産性向上もあり1975年には損益が黒字転換、経営が軌道に乗るようになった[16]。1978年頃にはアメリカ国内で12社が導入し、またヨーロッパでも導入例があるなど、コミューター機市場でのシェアの約半分を占め[20]、このクラスのコミューター機では代表的な機種となっていた[5]

アメリカで1978年に航空規制緩和法が制定され、その一環として、「コミューター機(乗員用19席以下)の最大離陸重量12,500ポンド(5,670kg)制限」が、1980年から10年間限定で撤廃されることとなった(特別連邦航空規則14[21][22]。この規制の変化に対応し、1980年には、エンジンを高出力の「ギャレットTPE331-10」(出力:671kW=900shp[23])に変更し[24]、最大離陸重量を6,001kg(13,230ポンド)に引き上げた「SA226-TC メトロIIA」を開発[22]。続いて同年、主翼を大型化し、新型高出力エンジン「ギャレットTPE331-11」(出力:ドライ時746kW=1,000shp、ウエット時820kW=1,100shp[25])に変更し最大離陸重量を6,577kg(14,500ポンド)まで引き上げた「SA227-AC メトロIII」の型式証明も取得[18][注 8]。また、「メトロIII」をベースとした貨物専用機「SA227-AT エクスペディター」が誕生した[18]。1985年には、当時のギャレットTPE331エンジンが抱える問題点を回避する観点より、エンジンをプラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6Aに変更した「SA227-PC メトロIIIA」の型式証明を取得するも、ギャレットTPE331エンジンの問題点が解消されたため、販売には至らなかった[27]。1980年代も「メトロ」の生産・販売は順調に推移、1987年末では世界で50社370機が定期運航されており、アメリカ製ターボプロップ機では最も使われていた機体であったとされる[27]

1987年、「メトロIII」を連邦航空規則英語版パート23規格に適合させた「メトロIV」[28]、胴体延長、室内高拡大(「立ち上がれる客室」)[27]動翼改良、T字尾翼化などを施した「メトロV」の開発計画を発表[28]。また、この頃、主翼新製や高出力エンジン導入による高速化を図る「メトロVI」の構想もあったが[27]、1989年に「メトロV」「メトロVI」開発は打ち切りとなった[29]

1988年からは、一般輸送・要人輸送・麻薬取締・各種哨戒などの用途として、「メトロIII」ベースの改変機をアメリカ軍(空軍州兵陸軍州兵)に納入しており、「C-26英語版」と呼ばれている[30]

1989年、「メトロIII」をベースに、客席6席追加(19→25席)のために機体後部の荷物室を胴体下部の外部ポッドに移行するなどした「メトロ25」の開発計画を発表、試作機で初飛行も行った[31]。また「メトロ25」をターボファンエンジン化した「メトロ25J」の構想もあった[4]。1990年2月、GMFインベストメンツ傘下となっていた製造元フェアチャイルド・エアクラフトが連邦倒産法第11章手続きを申し立て[注 1]、フェアチャイルド・アクイジション傘下で生産が再開されるが、「メトロ25」計画、「メトロ25J」構想は凍結となった[4]

1990年6月、「C-26」に盛り込まれた各種システム改善[5]、燃費改善のためのエンジン変更、大型フラップ搭載などの改修も織り込み、最大離陸重量を7,484kg(16,500ポンド)に引き上げた「メトロIV」が連邦航空規則パート23規格で型式証明(SA227-CC、SA227-DC[注 9])を取得、「メトロ23」と名付けられた[18]。また、電子飛行計器システム(EFIS)、デジタル式自動操縦装置を装備した「メトロ23E」(1996年納入)、より多くの荷物を収容するための外部ポッドを胴体下部につけた「メトロ23EF」も設定された[4]

1996年ごろ、機内で人が立ち上がれる「ビーチクラフト 1900D」と同等の室内高(1.8m=71インチ)をもち、主翼を再設計するという新型「メトロ」を計画しており、同年5月には展示会にてモックアップを展示した[4]。一方、同年、フェアチャイルド・エアロスペースはドイツの航空機メーカー・ドルニエを買収[注 1]、「ドルニエ 228」(ターボプロップ双発、乗客19席)、「ドルニエ 328」(ターボプロップ双発、乗客約30席)が生産ラインナップに加わり、また「ドルニエ 328JET英語版」(ターボファン双発、乗客約30席)が開発中の状況であった[4]。かかる状況下、1997年、新型開発は「328JET」に集中することになり、新型「メトロ」は凍結されることとなった[4]

1999年に生産を終了[5]、2001年に「SA227-DC-904 メトロ23」が納入され、これが「メトロ」シリーズ最後の納入機体となった[33]。シリーズ全体累計で約700機生産された[注 5]

2002年、フェアチャイルド・ドルニエ[注 1]は破産を申請[34]、元フェアチャイルド航空部門はM7エアロスペース英語版が買収し、「マーリン」「メトロ」の型式証明を保持、メンテナンス等を行っていた[35][36]。2022年、アメリカで航空機部品製造、航空機整備を行っているオンティック(Ontic)が、M7エアロスペースから「マーリン」「メトロ」事業を買収した[37]

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運用状況

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2019年7月時点で255機が現役で運用されており、リージョナル機英語版では世界10位の運用機数、また同等クラス(ターボプロップ19席)では「ビーチクラフト 1900」、「デ・ハビランド・カナダ DHC-6」に次ぐ規模を維持している[38]。2019年7月時点で「メトロ」を運用している航空会社は、アメリフライト英語版(45機)、ペリメーター・アビエーション英語版(32機)、アエロナヴェス・TSM英語版(28機)、キー・ライム・エア英語版(17機)、アンコール・エア・カーゴ(Encore Air Cargo。10機)などとなっている[39]

また各国政府や軍で、要人輸送、軍事輸送、哨戒活動などで使用されており、2003年現在では、アメリカ(22機)、アルゼンチン(7機)、ベルギー(5機)、ペルー(5機)、メキシコ(4機)など11か国で53機が運用されていた[4]

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機体の特徴

要約
視点
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SA226-TC メトロII。後部左舷に貨物用扉がある
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操縦席(SA-227AT マーリンIVC)
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運航中の客室内

ターボプロップ双発、与圧客室19席(最大20席)のコミューター機[18]

胴体は、断面が真円形で[18]、前後で半径が変わらない円筒型となっており[7]、四角形の客室窓(メトロII以降)、後部左舷に貨物用扉(幅1.35m、高さ1.3m)が設けられている[18]

客室は、全長7.75m、最大幅1.57m、室内高1.45mのスペースに、中央の通路を挟んで、左右各1席(シートピッチ76cm[5])のレイアウトで19席(最大20席)[18]。最大差圧0.048MPaの与圧により、高度5,120mまで海面気圧の維持が可能[18]。出自がビジネス機ということもあり、胴体が細く、室内高が低い[18]

機首部分(容量1.3m3)、客室後部(容量2.7m3)に荷物室があり[18]、荷物収納用の外部ポッド(容量3.7m3)付きの「メトロ23EF」の設定もあった[4]

「メトロIII」において大型化された主翼は、翼幅17.37m、翼面積28.71m2(「メトロII」は翼幅14.10m、翼面積25.78m2[40])、低翼配置のテーパー翼で、アスペクト比10.5とやや細長い形状をしており[18]、後縁フラップはダブルスロッテッドフラップを採用している[5]

エンジンはギャレットTPE331ターボプロップの双発で、吸気口・排気口が主翼の上側になる様にマウントされている[41]。出力は、最終モデル「メトロ23」のギャレットTPEギャレットTPE331-12UAR-701Gでは出力820kW(1,100shp)まで強化された[18]。プロペラは「メトロII」では3枚羽根であったが[40]、「メトロIII」にて4枚羽根となった[4]

尾翼は、十字尾翼を採用(同時開発の短胴型ビジネス機「マーリンIII」の十字尾翼[12]と共通[42])。

バリエーション

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SA226-TC メトロ

1969年初飛行の初代[11]。同時開発のビジネス機「SA226-T マーリンIII」の胴体を延長し、乗客19席(最大20席)としたコミューター機[11]。1970年に型式証明取得[16]。ギャレットTPE331-3UWエンジン(出力:ドライ時626kW=840shp、ウエット時700kW=940shp[43])を2基搭載[44]、最大離陸重量は5,670kg(12,500ポンド)[18]。客席窓は丸型[16]

SA226-TC メトロII

1975年登場の「メトロ」改良機[16]。客席窓を四角形とし大型化、機内システム諸改良、ロケット補助推進離陸装置(RATO)のオプション設定など[19]。ギャレットTPE331-3UW-303Gエンジン(出力:ドライ時626kW=840shp、ウエット時700kW=940shp)を2基搭載[40]。最大離陸重量は5,670kg(12,500ポンド)[40]

SA226-TC メトロIIA

1980年登場の「特別連邦航空規則14」対応機[22]。ギャレットTPE331-10エンジン(出力671kW=900shp[23])を2基搭載[24]。最大離陸重量は6,001kg(13,230ポンド)[22]

SA227-AC メトロIII

1980年登場の「特別連邦航空規則14」対応機[22]。主翼大型化や高出力型エンジン(ギャレットTPE331-11U-601G、出力:ドライ時746kW=1,000shp、ウエット時820kW=1,100shp[25])搭載などにより、最大離陸重量を6,577kg(14,500ポンド)まで引き上げた[18]

SA227-PC メトロIIIA

1985年に型式証明を取得したプラット・アンド・ホイットニー・カナダPT6Aエンジン搭載機[27]。販売には至らなかった[27]

SA227-BC メトロIII

1989年に型式証明を取得した[45]、メキシコの航空会社アエロメヒコ・コネクト向け特別仕様機[26]。ギャレットTPE331-12Uエンジン(出力:ドライ時746kW=1,000shp、ウエット時820kW=1,100shp)を搭載[45]

SA227-CC、SA227-CD メトロ23

1990年登場の「連邦航空規則パート23」対応機[18]。各種システム改善[5]、高燃費エンジン搭載[注 9]、大型フラップ搭載などにより、最大離陸重量を7,484kg(16,500ポンド)まで引き上げた[18]

派生型(シリーズ機)

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DIRAC AviationのSA226-AT マーリンIVA
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SA227-AT エクスペディター。客室窓の無い貨物専用型
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メキシコ空軍のC26-A
マーリンIV

「メトロ」をベースとした12-14席のビジネス機バージョン[5]

「SA226-TC メトロ」ベースの「SA226-AT マーリンIV」、「SA226-TC メトロII」ベースの「SA226-AT マーリンIVA」、「SA227-AC メトロIII」ベースの「SA227-AT マーリンIVC」、「SA227-CC、SA227-DC メトロ23」ベースの「マーリン23」がある[5]

エクスペディター

「メトロ」をベースとした貨物専用型[18]。 「SA227-AC メトロIII」ベースの「SA227-AT エクスペディターI」、「SA227-DC メトロ23」ベースの「SA227-DC エクスペディター23」がある[18]

C-26

「メトロ」をベースとした軍用機[4]。 1988年に「メトロIII」ベースの「C-26A」をアメリカ空軍州兵に初納入、1991年からは「メトロ23」ベースの「C-26B」も作られた[4]

その他、1990年代中ごろにアメリカ陸軍が中古「マーリンIVC」を入手し[46]AN/APG-66レーダー、前方監視型赤外線装置(FLIR)を搭載し対麻薬任務機とした「C-26C」[30]、1998年に「C-26B」6機がアメリカ空軍から同海軍へ移管され改名となった「C-26D」[46]、なども存在する。

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主要諸元

さらに見る SA226-TC メトロII, SA227-AC メトロIII ...
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主な事故・事件

要約
視点

アビエーション・セーフティー・ネットワークのデータベース(2022年2月27日現在)によると、「メトロ」シリーズの事故・事件は機体損失に至ったものが139件、死者数は累計で256人とある[49][注 10]。うち、最初の死亡事故は1975年4月14日発生のマグナボックス(貨物便)の墜落事故(死者2名)[50]、最悪の死亡者数を出したのは1988年2月8日発生のニュルンベルク・フルクディンスト108便墜落事故(死者21名)[49]、2022年2月27日現在で直近のものは2021年12月10日発生のキャッスル・アビエーション英語版CSJ921便(貨物便)の墜落事故(死者1名)[51]、となっている。ほかにハイジャックが1件発生している[49]。死亡事故を中心とした主な事件・事故は下表の通り。

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脚注

参考文献

関連項目

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