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アメリカの大型打ち上げロケット ウィキペディアから
スペース・ローンチ・システム(英語: Space Launch System, SLS)とは、アメリカ航空宇宙局 (NASA) により開発・運用されている、スペースシャトルから派生した大型打ち上げロケットである。これは取り消されたコンステレーション計画に続くもので、また退役したスペースシャトルを代替するものである。
スペース・ローンチ・システム | |
---|---|
SLSブロック1 | |
基本データ | |
運用国 | アメリカ合衆国 |
開発者 | NASA |
運用機関 | NASA |
使用期間 | 2022年 - 現役 |
射場 | ケネディ宇宙センター第39発射施設 |
打ち上げ数 | 1回(成功1回) |
打ち上げ費用 | 20億ドル (推計) |
公式ページ | NASA - Space Launch System |
物理的特徴 | |
段数 | 2段 |
ブースター | 2基 |
全長 |
Block 1 Crew: 98.1 m Block 1B Crew: 110.9 m Block 1B Cargo: 99.7 m Block 2 Cargo: 111.3 m |
直径 | 8.4 m (コアステージ) |
軌道投入能力 | |
低軌道 |
Block 1: 95 t[1] Block 1B: 105 t[2][3] Block 2: 130 t[4] |
SLSは、小惑星やラグランジュ点、また月と火星のように、地球近傍が対象となる目的地へ宇宙飛行士と装置を輸送するものである。もし必要であれば、SLSは国際宇宙ステーション (ISS) への旅行の助けとなる可能性がある。またSLS計画は、多目的有人機を配備するNASAのオリオン計画と統合・両者を利用するアルテミス計画では、月軌道プラットフォームゲートウェイ建設に利用される[5]。SLSは、打ち上げの施設および地上での操作に際して、フロリダに設けられたNASAのケネディ宇宙センターを使用するものとされている。
2010年NASA認可法案では、アレスIとアレスV型の機体設計を、有人用と貨物用とに使用できる単一の打ち上げ機へ変容させることを想定していた。これは時が過ぎるにつれてより強力なものへとアップグレードされることになっている。この時点での計画は以下の通りであった。上段部分を除去した第1段部分の当初の能力は、70t(ブロック0形態。SSME派生型第1段エンジン3機および部分的に燃料を充填された第1段部分)から100t(ブロックI形態。エンジン4機および完全に燃料を充填された第1段部分)を地球の低軌道(LEO)に送り込み、低軌道より彼方への任務に備えるものとなる。地球離脱ステージを上段に搭載し、5基にエンジンを増加した場合の打ち上げ能力の総量は130tに達しており、これは今までに作られた中でも最も強力なロケットになる[6][7]。
2011年9月14日、NASAは新規打ち上げシステム用に選ばれた設計案を公表し、これは当局の宇宙飛行士を、従来に増して宇宙の遠い場所へ運ぶことができ、また将来におけるアメリカ人の宇宙探査活動のための基礎を提供すると明言した[8][9][10]。この発表以来、打ち上げ機には4つの型式が出現した。ブロック0、I、IA、そしてIIである。各形態には異なる第1段、ブースター、そして第2段が利用される。少数の機器にはスペースシャトルで開発された装置が直接受け継がれており、また他のものはSLS用として特別に開発された[11]。後期の型式では5機のRS-25Eエンジンと強化されたブースターを採用し、また直径8.4mの第2段ステージには3機のJ-2Xエンジンが用いられた。5m級のフェアリングは10mもしくはそれ以上の長さを持ち、深宇宙任務のための重量級搭載物を収容できると考えられている[12]。最初のブロックIの2段型では70,000kgから77,000kgの打ち上げ能力を有し、また提案にあるブロックIIの最後期型は、サターンV型ロケットの原型機と同様の打ち上げ能力および全高を持つ[13]。2011年11月、NASAは風洞試験のための5種のロケット形態を選出し、3種の低軌道級を描いた。70t、95t、そして140t級である[14]。
2011年5月24日、NASAはコンステレーション計画で行われていたオリオン宇宙船の開発が、多目的有人機(Multi-Purpose Crew Vehicle、MPCV)として続行されると公表した[15]。
SLSの第1段はすべての機体形態で共通のものであり、基本的には改修されたスペースシャトル外部燃料タンクの後方区画にロケット主推進システム(MPS)を収容して構成している。また頂部は段と段の間の構造物を受け入れるために換装される[16][7]。この段では使用される形態に従い、様々な数と型式のRS-25エンジンが利用される。
第1段に搭載されたエンジンが発生する出力に加えて、第1段ロケットで飛行する最初の2分間のために、2基のブースターロケットが第1段ロケットの両側面へ追加装備される。初期の形態(ブロック0とI)のSLSでは改修型のスペースシャトル固体燃料補助ロケット(SRB)を使用し、この形態では各々4セグメントから5セグメントと決定されている[11]。これらのブースターは回収されるものではなく、飛行軌道に沿って大西洋に沈むものとされている。ブロックIAおよびブロックII形態用のブースターは改良されたブースターの中から選ばれ、さらにアップグレードされたブースターが用いられる[20]。このブースターは固体燃料または液体燃料タイプのものになる可能性がある[11]。
スペースシャトル用のSRBを製造しているATK社は、ブロック0およびIで使用されるであろう5段式のブースターの、フルスケールかつ全行程の静的試験3件を終了した。モーターの開発(DM-1)は2009年9月10日の試験に成功した。DM-2は2010年8月31日、DM-3は2011年9月8日であった。DM-2用のモーターは中心温度が華氏40度(摂氏4度)に冷却され、DM-3用のモーターは華氏90度以上(摂氏32度以上)に加温された。他の目的に加え、これらの試験ではこうしたモーターの最大の温度での性能が確認された[21][22][23]。
2011年6月17日、エアロジェット社は推力が海面高度で2.2MNに増強されたNK-33エンジンの国内版を開発・生産するため、テレダイン・ブラウン社との戦略的な提携を発表した。このブースターはSLS打ち上げ機用のシャトル派生型固体燃料ブースターと対抗し、競争するものである[24]。
SLSは、その多様な形態において、幾種類かの第2段を採用する[11][25]。
発射前のSLSは、発射中止や発射の遅延のために、最小で13回のタンク注入サイクルを容認する能力を持つ。組み立てられたロケットは最短で180日間発射台に据え続けることができ、待機の形態では解体する必要なしに、少なくとも200日は据え続ける事ができる[27]。 また、機体を自機との重さに耐えられるように極力軽くするために溶接方法はNASAで極限まで技術向上させた摩擦攪拌接合によるものである。つまり、重量はSLSにとって機体を守るため最重要問題である。
2011年9月、上院とNASAの共同で行われたプレゼンテーションにおいて、SLSプログラムでは2017年までを通じて180億ドルの開発経費を計画したことが明確に示された。うち100億ドルがSLSロケット用、60億ドルがオリオン多目的有人機用、また20億ドルがケネディ宇宙センターの発射台ほか施設のアップグレード用である[28]。こうした経費と予定は、ブーズ・アレン・ハミルトン社によれば楽観的と考えられている。この企業はNASAのために独自の経費評価を実施した[29]。非公式なNASAの文書では、2025年までの計画の経費につき、4基の70tロケット(2017年に無人で1機、2021年に有人で3機を開始)[30]を発射するために総額で410億ドルかかり、130t型は2030年より早く準備されないとも見積もっている[31]。またHEFTでは、ブロック0のユニットコストに16億ドルが必要だったと推定している[32]。
NASAのSLS代表計画マネージャーであるジョディ・シンガーは、アラバマ州ハンツビルにあるマーシャル宇宙飛行センターに所属している。彼は発射能力上、経費への比較的少ない依存により、SLSの経費目標としては発射ごとに5億ドルが手頃であることを示唆した[33]。
No | 打ち上げ日時 (UTC) | ミッション | 型式 | 結果 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 2022年11月16日6時47分 | アルテミス1号 | ブロック1[25] | 成功 | 月周辺を航行する、無人のオリオン/MPCVの打ち上げ。 |
2 | 2025年9月[34] | アルテミス2号 | ブロック1[25] | 予定 | 4名の乗員を乗せたオリオンMPCVを月周回軌道へ打ち上げる。 |
3 | 2026年9月以降[34] | アルテミス3号 | ブロック1 | 予定 | スターシップ HLSと共に行われる、有人月着陸ミッション。 |
4 | 2028年9月以降[35] | アルテミス4号 | ブロック1B | 予定 | スターシップHLSと共に行われる、有人月着陸ミッション。 |
5 | 2029年 | アルテミス5号 | ブロック1B[36] | 予定 | 月軌道プラットフォームゲートウェイ, International Partner Habitatの搬入[37] |
14種程度が現在提示中であり、設計の参考とするための任務が含まれる[38][39][40][25][26][41]。
以下は「最悪のケース」での予算案に基づく非常に予備的かつ非公式な予定表であり、初期のSLSの飛行と同じく概説である[36]。
ミッション | 予定日時 | 型式 | 注記 |
---|---|---|---|
Artemis 6 | 2029年 | ブロック1B[36] | 月軌道プラットフォームゲートウェイ, ESPRIT及びU.S. Utilization Moduleの打ち上げ、並びにL2点のSouthern Near Rectilinear Halo Orbit (NRHO-S) 上でPPEと結合[37] |
Artemis 7 | 2030年 | ブロック1B[36] | 月軌道プラットフォームゲートウェイ, 最初のロジスティクス・モジュール及びロボット・アームの搬入 |
Artemis support mission | 2030年 | ブロック1B[36] | 月軌道プラットフォームゲートウェイ, U.S. Habitatの搬入[37] |
SLS-9 | 未定 | ブロック1B[36] | 月軌道プラットフォームゲートウェイ, 乗員4名のオリオンMPCVがエアロック・モジュールを搬入。 |
SLS-10 | 未定 | ブロック1B[36] | 貨物機打ち上げ。 |
SLS-11 | 未定 | ブロック1B[36] | 有人機打ち上げ。 |
SLS-12 | 未定 | ブロック2[36] | 新規形態の貨物機を打ち上げる。 |
SLS-13 | 未定 | ブロック2[36] | 新規形態の有人機を打ち上げる。 |
SLSは、多額のコスト、民間の関与の欠如、スペースシャトルのコンポーネントを使うよう義務付けたことによる競争の排除と言った点で批判を受けている[43]。
2011年、下院議員のトム・マクリントックと他のグループは会計検査院 (GAO) に対して、議会がNASAにSLSにスペースシャトルのコンポーネントを使うことを強制する命令を出したのは、既存のシャトルのサプライヤーに契約を保証する、事実上非競争的な要件であると主張、契約競争法 (CICA) 違反の可能性で調査するよう要請した[44][45][46]。同年9月、宇宙競争専門委員会 (Competitive Space Task Force) も、新ロケットに対する議会の命令はNASAの憲章や宇宙法を直接侵犯するものであるとし、また1998年の商業宇宙法はNASAに「民間企業の可能な限り最大限の関与」と「宇宙の完全な商業利用の、現存する最も大きな可能性を追求し、促進すること」を追求するよう要求していると述べた[47][46]。SLSの反対派は、SLSは実際には「議会・ローンチ・システム」(Senate launch system) だと批判しており[48][46][49]、この表現は2021年にNASAの監察官が「ロケットの総コストは2025年までに270億ドルに達する」とSLS計画を批判した際にも使用されている[50]。
NASA副長官のロリ・ガーバーは退任後の2014年、SLSとマーズ2020のローバーは中止すべき2大プロジェクトだと語った[51]。天文学者のフィル・プレートも、進行中の商業乗員輸送開発 (CCDev) とSLSの予算のトレードオフから批判を行った際に、ガーバーの指摘に言及している[52]。2019年、GAOはコストの超過とスケジュールの遅延にもかかわらず、NASAが開発元のボーイングに対して「good」や「excellent」といった評価を行い2億ドル以上を与えていたことを明らかにした。2019年時点ではSLSの初打ち上げは2021年が予定されていた。[53][54]
2020年3月の監察官レポートでは、NASAがSLSの予算を更新しないまま、SLSのブースターに関する8億8900万ドルのコストを付け替えたことを報告している。これにより2019年度のSLSの予算超過は15%に抑えられていた[55]:22。予算超過が30%を超える場合、NASAは議会にその旨を通知し、議会が再承認して追加資金を提供しない限り、予算を停止させなければならなかった[55]:21–23。監察官レポートでは、このコストの「隠蔽」が無かった場合、2019年度の予算超過は33%に上ったと報告している[55]:iv,23。GAOは「NASAのコスト増に対するこうしたやり方は、計画のコストパフォーマンスの分析を誤らせる」と述べている[56]:19–20。
2020年5月1日、NASAはエンジンを開発するエアロジェット・ロケットダインに対して、追加のRS-25エンジン18基と関連サービスを17億9000万ドルで契約、RS-25の契約総額は約35億ドルとなった[57][58]。Ars Technicaのジャーナリストのエリック・バーガーは、この結果RS-25の1基辺りの平均コストは1億4600万ドルとなり、SLSは4基のRS-25を使用するため、打ち上げ1回ごとにエンジンだけで5億8000万ドルが掛かると指摘した。バーガーは、RS-25エンジン1基分のコストで、RS-25より強力なRD-180エンジンを6基購入可能であると、またそもそもSLSの3分2の性能を持つファルコンヘビーロケット自体でさえ購入可能であるともコメントしている[57][59]。
SLSの初期設計と開発を監督したNASA長官のチャールズ・ボールデンもまた、退任後の2020年9月のポリティコのインタビューで、SLS計画の批判を行っている。ボールデンは「SLSは中止されるだろう…ある時点で民間企業が追い付くからである」「彼らは実際に、NASAのSLSよりも遥かに安い価格で飛行できるSLSのような大型ロケットを作ろうとしている」と述べた[60]。
2009年、オーガスティン委員会は、より運用コストの低い75t級の商用ロケットを使用することを提案し、また月探査を支援するのには最低限40-60tの打ち上げ能力が必要であると述べた[61]。2011年から2012年にかけて、スペース・アクセス・ソサエティ、宇宙フロンティア財団、惑星協会といった団体が、SLSはNASAの予算から他のプロジェクトの資金を使い果たしてしまうとして、プロジェクトの中止を訴えた[47][44][62]。下院議員のダナ・ローラバッカーらは、SLSに代えて軌道上燃料補給の開発と商業乗員輸送開発 (CCDev) を加速すべきだと提案した[47][63][64][65][66]。
NASAの内部研究[67][68]とジョージア工科大学の研究では、このオプションが安くなるだろうことが示されている[69][70]。2012年、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス (ULA) も既存のロケットを使用して、必要に応じて軌道上で組み立てや燃料補給を行う案を提案した。こうした提案は、SLSの設計に競争が欠如していたことを浮き彫りにした[71][72][73][49][74]。 後の2019年、ULAの元職員は、当時SLSの主開発元であるボーイングが軌道上燃料補給技術をSLS計画への脅威とみなし、技術開発への投資を妨害したと主張した[75]。2011年、火星協会とマーズ・ダイレクトの創案者のロバート・ズブリンは、このような大型ロケットは固定価格の提案依頼書で50億ドルで開発されるべきだと述べた[76]。2010年、スペースXのCEOイーロン・マスクは、彼の会社は打ち上げ能力140-150tのロケットを25億ドルで開発し、1回あたり3億ドルで打ち上げることができると主張し[77]、実際にスターシップ HLSはNASAに選定され、2020年にアルテミス計画向けで1号機の開発費用28.9億ドル、2022年2号機は11.5億ドルでNASAと契約された[78][79][80]。
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