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ジャドフタ層

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ジャドフタ層[2][6][7](ジャドフタそう、Djadochta Formation[注 2]、ジャドフタ累層[4])とは、中央アジアゴビ砂漠に位置し、7500万年前から7100万年前にかけての後期白亜紀(上部白亜系)の化石を多く含むである[7]砂海 (sand sea)環境を示す風成層 (eolian deposit)を主体とし、それと同時異相関係を示す湖成層および河川成層から構成される[7]模式地type locality)は「燃える崖 Flaming Cliffs[注 3]」で著名なバインザク (Bayn Dzak)で、恐竜、哺乳類、そして他の化石爬虫類の化石がこの層から発見されている[10]

概要 種別, 所属 ...
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発掘史

要約
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モンゴルの白亜紀の恐竜化石産地(ジャドフタ層は area B)。

ジャドフタ層が初めて記載されたのは中央アジア探検隊[8] (Central Asiatic Expeditions)の一環として行われた、1922年から1925年にかけてのアメリカ自然史博物館の古生物学的発掘調査の際である[10][11]。調査隊はロイ・チャップマン・アンドリュース (Roy Chapman Andrews)を隊長、ウォルター・グレンジャー (Walter Willis Granger)を副隊長(恐竜発掘の実際上の指揮者)とした[1][11]。調査隊はバインザク地域で広範な調査を行い、Shabarakh Usuに日没のころに特徴的な赤色に染まることから「燃える崖 Flaming Cliffs」という愛称をつけた。特筆される発見としてはオヴィラプトル Oviraptorプロトケラトプス Protoceratopsサウロルニトイデス Saurornithoides、そしてヴェロキラプトル Velociraptor などの恐竜化石や哺乳類化石が挙げられる。特に、ジャドフタ層にオヴィラプトルの巣の化石の発見は初めての恐竜の卵と確かめられた発見である[10]。これらの発見のうちいくつかは、Henry Fairfield Osbornによって調査中に記録されたものである。1927年、BerkeyとMorrisがこの地層を正式に記載し、バインザクを模式地としてジャドフタ層を設立した[12][13]

1963年、モンゴル人の古生物学者ダシュゼベーグ[1] Demberelyin Dashzeveg は新しく化石が多く産出するジャドフタ層の産地ツグリキンシレ (Tugriken Shireh) の発見を報告した[6][14]1960年代から1970年代にかけて、ポーランド-モンゴル調査隊とロシア-モンゴル調査隊による古生物学的発掘調査が行われ、ツグリキンシレから新たな部分的から完全なプロトケラトプスとヴェロキラプトルを発見した[15]。もっとも特筆すべきツグリキンシレの標本は プロトケラトプスとヴェロキラプトルの格闘の化石であり[16][17]、ほかにも多くの連続した、原地性 (in situ)の、そして時には完全な骨格のプロトケラトプスが発掘されている[18][19]

1980年代ソビエトとモンゴルの古生物学合同調査団がモンゴルのゴビ砂漠中生代の化石に富む場所をいくつか発見した。そのうちウディンサイル (Udyn Sayr)は、後期白亜紀のもので、主にアヴィミムスの化石が豊富で、哺乳類や他の恐竜の化石はそれほど多くなかった[15]

1993年、モンゴル科学アカデミーとアメリカ自然史博物館の協力によるモンゴルと北米の合同調査隊はウハトルゴト (Ukhaa Tolgod)と呼ばれるジャドフタ層の新しい化石産地を発見した[1]。上記の化石産地と同様に、哺乳類、恐竜、トカゲ、卵などの化石が豊富に保存されており、その大部分は、ほぼ完全な形で発見されている。他の中生代の化石産地と比較すると、ウハトルゴトの化石の多様性は異常に高い[20][21]

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地質記載

要約
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現代のジャドフタ層は、ゴビ砂漠オアシスアロヨ (arroyo)を除けば淡水がほとんど分布しない砂丘の乾燥した生息環境に位置している。ジャドフタ層の主な岩相は、非海成で、赤みがかった橙色、淡い橙色から明るい灰色の中粒から細粒の砂と砂岩で構成されており、炭酸塩コンクリーションと橙褐色のシルト質粘土がわずかに堆積している。少量の堆積物としては、礫岩、シルト岩、河川成砂岩、泥岩が存在する。ウランノール盆地 (Ulan Nur Basin)の全体の層厚は、少なくとも80 mメートルある。 幾度かの風成作用(風食)により、地層全体に大きな直立した砂丘のような構造や、小さなバルハン砂丘や放物線砂丘の存在が示される[22][23][21]。赤みがかった砂岩は多くの地域でみられる[23][21]

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「燃える崖」の露頭
バインザク [2][10][24] Bayn Dzak[注 4](別名:Shabarakh Usu
Bayn Dzakモンゴル語で「Dzak(砂漠の低木)が豊富な」の意[10]。赤みがかった橙色の砂岩と、よく淘汰された非堆積性の中粒の砂が優占する。「燃える崖」での層厚は、少なくとも30 m以上。充填が十分または不十分なシルト岩泥岩、灰色の礫岩などの岩相が稀にみられる。後者は「燃える崖」の西側の崖でよく露出している[25][23]。バインザク全体の層厚は約90 mで、2つのセクションに分けることができる。最下部は水平方向に堆積した砂岩泥岩互層で、上部または主要部では砂岩優勢の層序となる[26]
ツグリキンシレ[6][2][24] Tugriken Shireh[注 5]
Tugriken Shirehモンゴル語で「金がある台地」の意[6]。ピンクから黄味がかった白色に変化する色を持つ、充填が不十分な細粒の砂岩が特徴的である。鉱物石英が優勢で、それ以外の鉱物は長石および石質岩片 (lithic fragments)である。斜交層理を形成する砂岩と地質構造を形成しない砂岩がともにツグリキンシレ全体に散在する[27][23]
ウディンサイル[2][24] Udyn Sayr[注 6]
この場所の堆積物は、60 km2平方キロメートル以上の範囲で露出しており、下部層(厚さ10 m以上)と上部層(厚さ50 m以上)に分かれている。下部層は河川成層で、砂岩や泥岩が多く含まれる。上部層は風成作用を受けたものと考えられ、赤みを帯びた地質構造のない砂岩で構成される[29]
ウハトルゴト[1][2] Ukhaa Tolgod[注 7]
Ukhaa Tolgod は「茶色い丘」の意。ウハトルゴトに露出する地層は赤みを帯びた砂岩が中心で、砂岩の中には少量のレンズ状の礫岩 (conglomeratic lenses)や大礫 (cobbles)、中礫 (pebbles)を含むものもある。礫岩自体も存在するが、泥岩やシルト岩はより少ないレベルで、薄くて横方向に限定される。ウハトルゴトでは斜交層理で微細な構造を持つ砂岩が特に多く見られる[30][21]
ザミンホンド[2][24] Zamyn Khondt[注 8]
この地域は、炭酸塩コンクリーションを含む、赤みを帯びた、よく淘汰された、細粒の砂岩で特徴付けられる。いくつかの風成の単層が存在し、細かく層状になったものから約20 mにまで厚くなったものもある[29]
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層序と年代

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バインザクにおける堆積物
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ツグリキンシレにおける堆積物

ジャドフタ層は後期白亜紀カンパニアン階の地層である。古地磁気層序では、約7,500万年前から7,100万年前の地磁気逆転が急激に変化した時期に堆積したことが示唆されている[23]

ジャドフタ層は下部のバインザク部層 (Bayn Dzak Member)と上部のツグリキン部層 (Turgrugyin Member)に分かれており、これらは非常に類似した堆積環境を示している[23]。バインザク部層の地層にはウハトルゴトのものも含まれており、その全体的な年代もカンパニアン階に含まれると考えられている[21]

また、ツグリキン部層はバインザク部層の上に重なっているため、バインザクの古生物はツグリキンシレの古生物よりも早い時代に生息していたと考えられている。しかし、その正確な年代の違いはまだ理解されていない[23]。ジャドフタ層の各地域は、段階的に新しい堆積物のシーケンスとその古生物相を表していると考えられている。 ウハトルゴトは、バインザクおよびツグリキンシレよりも新しい可能性がある[31]。化石記録と地層に基づけば、ウディンサイルとザミンホンドはその他のジャドフタ層の地域と対比され、ウディンサイルの化石は、この地域がバインザクとツグリキンシレよりも新しいことを示唆する[32]

かつてはジャドフタ層の一部と考えられていたアラグテグ[28] (Alag Teg[注 9])産地の地層を調査した結果、この地層は上にあるジャドフタ層よりもわずかに古い別の累層に属していることが示唆され、アラグテグ層 (Alagteeg Formation)と呼ばれる。堆積物と層序の関係から、バインザクの下部層はアラグテグと対比され、ともにアラグテグ層のセクションをなす。バインザクの上部層または主要部は、ツグリキンシレと岩相や層序関係が類似していることから、ジャドフタ層自体の一部であると考えられる[26]。アラグテグの河川成層の露頭ではカレントリップル葉理やトラフ型斜交層理が認められる[7]

堆積環境

ジャドフタ層の堆積物は、ジャドフタ層自体や同時代のバヤンマンダフ[7] 層 (Bayan Mandahu)の地層や砂岩やカリーチ (caliche)[注 10]などの岩相から、温暖な半乾燥気候の砂丘からなる乾燥した古環境で、風成作用によって堆積したと考えられている[33][23][26]。ウハトルゴトの河川成堆積物は、形成された時代に短い期間水域が存在したことを示しており、それが堆積にも寄与している[21]。ジャドフタ層の風成層中のフォーセット面の傾斜方向は北東方向から東方向が卓越するため、古風向 (paleo-wind-direction)は北東から東だったと推定される[7]。また、このことはバヤンマンダフ層の風成層からも同様のことが知られているため、ジャドフタ層が堆積した時代にゴビ砂漠周辺の広範な地域で北東から東の大気の流れが存在していたことが示唆されている[7]

タフォノミー

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ジャドフタ層の保存状態の良い交連骨格標本の例。上:キチパチ Citipati
下:プロトケラトプス Protoceratops

ジャドフタ層の交連骨格標本(関節状態の標本)の大部分は地質構造を持たない砂岩に含まれているが、これは高エネルギーの砂に覆われたイベントによって埋没し、原地性(in situ)であることを示している。埋没したプロトケラトプスの中には、胴体と頭部が上に反り返った特徴的な姿勢で保存されているものがあり、これは砂の塊から脱出しようとして死亡し、最終的に化石化したことを示唆している。埋没から逃れることができなかったため、砂の塊によって腐肉食の脊椎動物に食べられずに済んだ。これらの埋没標本の多くは、骨の関節部分などに噛み跡や大きな穿孔たトンネル状の穴)が見られ、死後、カツオブシムシのような無脊椎動物に食い荒らされたことがわかる[34][35][36]。肢の関節部にこのような食痕が繰り返し見られるのは、乾燥したジャドフタ層の環境では非常に少ない窒素源として、乾燥した恐竜の死骸の関節軟骨のコラーゲン腐肉食動物が利用していたことを表していると考えられる[37]

ウハトルゴトの化石保存状態や堆積物を調べると、保存されていた動物は砂丘の崩壊によって生き埋めになったことがわかる。砂丘が水で過飽和状態になり、突然崩壊したと考えられている[20][38][21]。ウハトルゴトの保存例には、キチパチ Citipati(巣や卵の上に埋まっている子育て中の成体)[39][40]カーン Khaan(一緒にいた番が同時に死んだ可能性が高い)[41]Saichangurvel(泥丘で生き埋めになった可能性が高い)がある[42]

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ジャドフタ層の古生物相

要約
視点
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ツグリキンシレの関節したプロトケラトプス。ジャドフタ層で最も普通に見られる恐竜の一種。

化石の中でも、プロトケラトプス Protoceratops はジャドフタ層の地域で非常によく見られる。バインザクはプロトケラトプスが最も集中する地域の一つとされ、"Protoceratops fauna"(プロトケラトプス古生物相)として特筆される[43]。バインザクに隣接するツグリキンシレも、プロトケラトプスが多量に産出する[27]。古生物相の構成要素としてよく見られる他の恐竜類にはピナコサウルス Pinacosaurusヴェロキラプトル Velociraptor が挙げられる[22]。また、トカゲや哺乳類などの小型脊椎動物も豊富で多様性に富み、アダミサウルス Adamisaurusクリプトバアタル Kryptobaatar がその代表種である[42][44][43]。ジャドフタ層の古生物相は内蒙古バヤンマンダフ層と、その構成要素が非常に類似しており、同だが、が異なる生物を含む。例えば、ジャドフタ層の哺乳類の普通種 Kryptobaatar dashzevegiはバヤンマンダフ層では同じクリプトバアタル属K. mandahuensisとなる。同様にジャドフタ層の恐竜相にはプロトケラトプス属の Protoceratops andrewsi およびヴェロキラプトル属の Velociraptor mongoliensis を含むが、バヤンマンダフ層では P. hellenikorhinus および V. osmolskae となる[33][45]

また、ジャドフタ層の植物化石は非常にまれであるが、乾燥堆積したツグリキンシレでは大量の植物食性のプロトケラトプスが生息していたことから、灌木やその他の成長の遅い植物が適度に生育していたことがわかる[27]

ジャドフタ層の比較的低い古生物多様性と気候条件は、これらの条件が非生物的ストレスの多い古環境に寄与したことを示唆している。 この地層の化石のほとんどはプロトケラトプス、小型から中型のアンキロサウルスオヴィラプトル科ドロマエオサウルス科が全体の古生物相の多くを占めている。大型の動物は存在しないか、極めて稀である。ネメグト層[46][注 11]と比較すると、よりストレスの多い古環境であることがわかる。ジャドフタ層と違い、ネメグト層では、デイノケイルス Deinocheirusネメグトサウルス Nemegtosaurusサウロロフス Saurolophusタルボサウルス Tarbosaurusテリジノサウルス Therizinosaurus などの大型恐竜の分類群が見られる。これらの分類群の多くは草食性であり、水が豊富な環境と相まって、ネメグト層では巨大な草食動物が発達したと考えられ、ジャドフタ層とは対照的である。ストレスの多い古環境を示すもう一つの指標は完全な水生動物がほとんど存在しないことである。水生カメはほとんど発見されず、ほとんどが Zangerlia のようなリクガメであった[43]

色分けの凡例
タクソン 再分類されたタクソン 誤って存在すると報告されたタクソン 疑わしい分類名またはシノニム 生痕化石タクソン 卵化石タクソン (Ootaxon) 形態タクソン (Morphotaxon)
不確かな、あるいは暫定的なタクソンは小さい文字で表示される。

植物相

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両生類

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ワニ形類

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トカゲ

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哺乳類

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翼竜類

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カメ類

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恐竜

アルヴァレスサウルス類

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曲竜類

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鳥類

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角竜類

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ドロマエオサウルス類

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ハドロサウルス類

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ハルシュカラプトル類

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オルニトミモサウルス類

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オヴィラプトロサウルス類

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パキケファロサウルス類

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トロオドン類

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ティラノサウルス類

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ギャラリー

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ジャドフタ層の模式地である「燃える崖」のパノラマ

脚注

参考文献

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