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アルコール飲料に関する迷惑行為 ウィキペディアから
アルコールハラスメント(和製英語:alcohol harassment)とは、主に飲酒を強要すること、飲めない者への配慮を欠くこと。広義には酔って行うさまざまな迷惑行為・犯罪行為を含む。それらをまとめて指すための和製英語。略称はアルハラ。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
アルコールハラスメントは、アルコール飲料に関する嫌がらせを意味する用語・概念として用いられている和製英語である[1]。
この問題に関する日本の代表的な組織である特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、アルハラに当たる行為は以下の5つだと定義している[1][2]。
なお、飲酒の強要・イッキ飲ませ・意図的な酔いつぶしなどは、一般に何らかの立場の優位性(先輩、上長など)を悪用して行われるので、パワーハラスメントの一種でもある。
日本では、アルコールハラスメントが原因での死亡者がでたこともきっかけとして1980年代以降に急速に問題視されはじめた[4]。
軽度の飲酒は楽しい気分になり、人間関係を円滑にする潤滑剤の役目を担う場合もあるが、他方で、過度なアルコール摂取は眩暈・吐き気といった不快な症状をもたらし、しばしば嘔吐に至る。特に、酒類が飲めない体質(内臓でのアルコール代謝・分解ができなかったり、その速度が遅い)にとっては酒は一種の毒物であり、微量でも体調を悪化させ、健康を害する。また、急激・大量の飲酒は急性アルコール中毒の原因となり、端的に言えば死の原因ともなりうる。また酔っ払いは、理性や自制心を失い、さまざまな迷惑行為を行い、しばしば事故や犯罪も起こす。たちの悪い習慣性のアルコール中毒も引き起こす危険がある。
アルコールを受け付けない体質は、多くが遺伝性の要因によるものである[1]。飲酒の回数や訓練などで改善するものでもない。
特に日本人は約35%がアルコールの解毒能力が弱く急性アルコール中毒に陥りやすいALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)ヘテロ欠損型の体質であり遺伝的に酒に弱い、と言われている[3]。
日本では、飲酒の強要が行われる背景として、上下関係、伝統、社会的な習慣、などといった心理的圧力がある[3]。なお、飲酒の強要などの問題は、上下関係や長幼の序を重んじる東アジアに特有のものとの分析がある一方、アメリカでの大学生による飲酒事故もあることをふまえて、そのような背景のみで起きるわけではない、との分析もある[2]。
日本の企業では、上述の5つの問題行為がおこなわれがちである。
たとえば、誰かを歓待しようとする場合に、しばしば酒宴が行われるが、招かれた側は心理的に断りづらく、そもそも酒を飲みたくない・飲めない者が含まれ、結果として歓待する側の意図とは反対に迷惑がられることもある。
歓待のつもりが飲酒の強要になる例は、企業組織内部での場合もまた外部の顧客が相手の場合もある。
特に日本の企業では、上下関係にまつわる心理的な圧力は強く、酒宴では「上司の杯を断ると礼を失する」との観念から部下の側は断りづらい状況が生じる。
アルコールハラスメントの問題は、日本では、1980年代以降に急性アルコール中毒で死亡する20代の若者が続出したことから注目されるようになった。特に1980年代から1990年代にかけて大学生などのイッキ飲みが急性アルコール中毒死の原因として注目され、社会問題として取り沙汰されるようになると、死亡した大学生の遺族らによる呼び掛けによって、社会運動のキーワードとしてこの語は広まった。
韓国など儒教思想の色濃い地域では、ヒエラルキーを重視する関係から目上の者が目下の者に飲酒を勧めた場合、社会通念上でも固辞することをタブーのように捉える、あるいは固辞されると面目が潰されたと感じる傾向がある。この問題は爆弾酒のような飲酒方法にも絡む。
アメリカの大学ではヘイジング(hazing)と呼ばれる「新入りいじめ」の問題があり、この言葉自体は飲酒の強要を指すものではないが、特定のサークルや社交クラブに加わる通過儀礼としてゲーム感覚の飲酒が課され、酒がヘイジングの道具として使用されることで飲酒事故に発展する例がある[2]。このような問題への対策としてアメリカの多くの大学では飲酒関連問題に対応する委員会が設置されアルコールポリシーが定められている[2]。
イッキ飲み(一気飲みとも)は、1980年代頃から大学生や新入社員らの間で流行した、一息に酒を飲み干す行為のことで、当初はビールなどのアルコール度数の低い酒を大ジョッキで飲み干す、一種のお座敷芸だった。しかしこれが次第に、場を盛り上げるために「コール」(英:callと同義)と呼ばれる囃し立てと共に他人に強要されるようになってくると、場の空気をしらけさせているとして下戸までもがイッキ飲みを強要されるようになってきた。
イッキ飲みが一種の度胸試しのようになってくると、次第にアルコール度数の高い酒を飲み干すことを求められるケースも多くなってきた。中には飲んだら強引に吐かせ、さらに飲ませるという行為まで横行し、飲食店や飲み屋側は酒が売れるならと見て見ぬ振りをすることもあったことが、問題を深刻化させた。
特に、進学や就職シーズンともなると、毎年のように新入生や新入社員がコンパまたは新人歓迎会、会社主催の会食などでこのイッキ飲みを強要された挙句、急性アルコール中毒で救急病院に担ぎ込まれるケースが続発し、毎年のように死亡者が多数出る[5]。そのため、今日では店側がイッキ飲みを禁止、制止している場合も少なくない。さらに、二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律により、20歳未満の飲酒と購入、20歳未満への販売・提供が禁止されているが、新入生や高卒で就職した新入社員のほとんどは18-19歳で飲酒経験もなく、もし20歳未満の者に上記のような事態が発生した場合は、酒を販売・提供した店側の責任も問われることになる。最近[いつ?]では、来店者に年齢確認が可能な公的書類(≒身分証明書)の提示を求め、持っていない者や確認出来た20歳未満の者の入店自体を拒否する店も増えてきている。
2006年8月に福岡県福岡市で発生した飲酒運転による事故(福岡海の中道大橋飲酒運転事故)をきっかけに飲酒運転の取り締まりと罰則が強化され、自動車、オートバイ、軽車両などを運転する者に飲食店が酒を飲ませたり、提供や販売をした場合は道路交通法の飲酒運転幇助罪で店側も飲ませた場合と同様に処罰対象となった。これを受け、飲食店では、飲酒運転防止策として運転代行やハンドルキーパーの利用を求めるようになり、一部の駐車場付きの飲食店では、アルコール類の販売や提供を終了したところもある。
政治家の塩川正十郎の甥は大学でイッキ飲みを強要されて急性アルコール中毒で急死しており、1991年の朝日新聞への投書でこの風潮に問題提起している。
飲酒に伴う危険に関して、従来は平均飲酒量や一定期間での総飲酒量で評価されることが多かった[3]。しかし、ビンジ・ドリンキング(binge drinking、アルコール飲料の暴飲、無茶飲み)と呼ばれる非日常的な大量飲酒のリスク(事故、虚血性心臓病、アルコール依存症など)も注目されるようになっている[3]。
世界保健機関(WHO)はアルコールの有害使用低減に関する世界戦略(アルコール世界戦略)の指導方針において「子供、十代の若者、酒を飲まないことを選択した成人は、飲まないという行動が支持され、かつ、飲酒を強いられることから守られる権利を有する」と明記している[2]。
日本においては「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(別名:酩酊防止法、よっぱらい防止法)が存在し、酩酊者の行為規制や保護について規定する一方、同法第2条(節度ある飲酒)において、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」としている[1]。
この法律は1961年制定の法律で、第2条の条文の趣旨はアルコールハラスメント防止にもつながる内容となっている[1]。一方で第2条のタイトルが「節度ある飲酒」となっており、ある程度の飲酒が前提になっているような表現になっている点に関しては昔ながらの飲酒文化の影響が垣間見えるとの指摘もある[1]。
泥酔者を放置して致死させた場合などには、保護責任のある関係者(酒宴の責任者など)に遺棄罪が問われることもあり(後述)、アルコールハラスメントでは、飲酒の無理強いと並んで、急性アルコール中毒に陥った者を放置した側の責任も、問題の一端に挙げられている。
酒が飲める者と飲めない者が、双方とも宴席を楽しみたいのであれば、一定のガイドラインを設けるべきだという向きも多い。酒を断ることは一種の人権(幸福追求権など)である。
一般的には、以下の配慮が必要である。
酒はコミュニケーションツールとして人間関係の導入に用いられることも多いため、特に歓迎会の席では酒を断る意思表示が困難なケースが少なくないのが課題であったが、バッジやシールを配布し、それを着用することで意思表示をしようといったキャンペーンを毎年開催し全国の大学620校にポスター・チラシとともに予防対策を促す要望書を送付している。飲まザル及びアルハラ・ヤダピョンも参照。
アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は「イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2006」として、「飲まザル」というキャラクターを使用したポスター、チラシやコースターでアルハラにストップを呼びかけている。「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿がモデルである。
なお、コースターは飲料メーカーなどの協力を得て作られ、グラス置きの他にグラスの蓋になり場をしらけさせずに断ることができるようにと工夫がされている。
飲まザルには4種類あり、状況ごとに使う。
2006年のキャンペーンが好評だった模様で、2007年春からも「飲まザル第2弾」として、デザインを変えたチラシやコースターなどを配布するキャンペーンを行っている。
「イッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2008」からは、カエルをモチーフとしたキャラクター、「アルハラ・ヤダピョン」が「飲まザル」の後を継ぐ形で登場。こちらもチラシやコースターによってアルハラの抑止を訴えている。チラシでは酒を持ったヘビがカエルに絡みついている。
アルハラ・ヤダピョンも飲まザル同様4種類あり、状況ごとに使う。
アメリカの多くの大学では飲酒関連問題に対応するため教職員と学生により組織する飲酒関連問題対策委員会が設置されておりアルコールポリシー(飲酒関連問題についての方針やルール)が定められている[2]。
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