MSH6

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MSH6

MSH6 (mutS homolog 6) は、ヒトではMSH6遺伝子にコードされる、DNAミスマッチ修復に関与するタンパク質である。GTBP(G/T binding protein)、p160とも呼ばれる。MSH6タンパク質はDNA損傷修復に関与するMutS(Mutator S)ファミリーのタンパク質である。

概要 PDBに登録されている構造, PDB ...
MSH6
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

2O8F, 2GFU, 2O8B, 2O8C, 2O8D, 2O8E

識別子
記号MSH6, mutS homolog 6, GTBP, GTMBP, HNPCC5, HSAP, p160, MMRCS3, MSH-6
外部IDOMIM: 600678 MGI: 1343961 HomoloGene: 149 GeneCards: MSH6
遺伝子の位置 (ヒト)
2番染色体 (ヒト)
染色体2番染色体 (ヒト)[1]
2番染色体 (ヒト)
MSH6遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点47,695,530 bp[1]
終点47,810,063 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
17番染色体 (マウス)
染色体17番染色体 (マウス)[2]
17番染色体 (マウス)
MSH6遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点88,282,490 bp[2]
終点88,298,320 bp[2]
RNA発現パターン


さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 ヌクレオチド結合
DNA結合
protein homodimerization activity
mismatched DNA binding
ADP binding
クロマチン結合
oxidized purine DNA binding
methylated histone binding
damaged DNA binding
ATPアーゼ活性
血漿タンパク結合
single thymine insertion binding
four-way junction DNA binding
MutLalpha complex binding
二本鎖DNA結合
ATP binding
magnesium ion binding
single guanine insertion binding
guanine/thymine mispair binding
ATP-dependent activity, acting on DNA
酵素結合
細胞の構成要素 ゴルジ体
細胞内膜で囲まれた細胞小器官
MutSalpha complex
核質
染色体
細胞核
細胞質基質
mismatch repair complex
生物学的プロセス determination of adult lifespan
cellular response to DNA damage stimulus
positive regulation of isotype switching
intrinsic apoptotic signaling pathway
maintenance of DNA repeat elements
positive regulation of helicase activity
somatic recombination of immunoglobulin gene segments
negative regulation of DNA recombination
DNAミスマッチ修復
viral process
DNA修復
meiotic mismatch repair
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to DNA damage
response to UV
somatic hypermutation of immunoglobulin genes
クラススイッチ
pyrimidine dimer repair
mitotic G2 DNA damage checkpoint signaling
negative regulation of DNA endoreduplication
interstrand cross-link repair
replication fork arrest
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000179
NM_001281492
NM_001281493
NM_001281494

NM_010830

RefSeq
(タンパク質)

NP_000170
NP_001268421
NP_001268422
NP_001268423

NP_034960

場所
(UCSC)
Chr 2: 47.7 – 47.81 MbChr 2: 88.28 – 88.3 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス
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MSH6の欠陥は、アムステルダム基準英語版を満たさない非定型遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)と関係している。MSH6の変異は子宮体癌とも関連している。

発見

MSH6はMSH2との相同性に基づいて、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで最初に同定された。ヒトのGTBP遺伝子の同定とその後のアミノ酸配列の決定により、酵母のMSH6とヒトのGTBPは他のどのMutSホモログよりも関連性が高く、アミノ酸の同一性は26.6%であることが示された[5]。そのため、GTBPはMSH6(hMSH6)へと改名された。

構造

ヒトゲノムにおいて、MSH6遺伝子は2番染色体英語版に位置する。MSH6にはWalker-A/Bアデニンヌクレオチド結合モチーフが存在し、このモチーフは全てのMutSホモログに存在する最も保存性の高い配列である[6]。他のMutSホモログと同様、MSH6はATPアーゼ活性を有する。MSH6はMSH2と結合してヘテロ二量体を形成した場合にのみ機能するが、MSH2はホモ二量体、もしくはMSH3英語版とのヘテロ二量体としても機能することができる[7]

機能

一般的に、DNAのミスマッチはDNA複製のエラー、遺伝的組換えやその他の化学的・物理的因子によって生じる[8]。こうしたミスマッチの認識と修復は細胞にとって極めて重要であり、適切に行われない場合にはマイクロサテライト不安定性英語版、変異率の上昇(mutator phenotype)、HNPCCに対する感受性が生じる[6][9]。MSH6はMSH2と共にMutSαと呼ばれるタンパク質複合体を形成する。この複合体によるミスマッチの認識はADP結合型からATP結合型への変換によって調節されており、MutSα複合体が分子的スイッチとして機能していることの証拠となっている[10]。正常なDNAでは、アデニン(A)はチミン(T)と結合し、シトシン(C)はグアニン(G)と結合している。しかし時としてミスマッチが生じることがあり、TがGと結合している場合にはG/Tミスマッチと呼ばれる。G/Tミスマッチが認識されるとMutSα複合体が結合し、ADPがATPへ交換される[9]。ADPからATPへの交換はコンフォメーション変化を引き起こし、MutSαはDNA骨格に沿って移動するスライディングクランプへと変化する[9]。ATPは複合体のミスマッチDNA部位からの解放を誘導し、スライディングクランプのようなDNAに沿った移動を可能にする。この変換は損傷DNA修復のための下流のイベントの開始を補助する[9]

がん

MSH2の変異は強力なmutator phenotypeを引き起こすのに対し、MSH6の変異は弱いmutator phenotypeを引き起こすだけである[5]。MSH6の変異は主に一塩基置換変異を引き起こすことが知られており、このことはMSH6の役割が主に一塩基置換変異の修正であり、そしてより小規模で一塩基挿入/欠失変異を修正していることを示唆している[5]

MSH6遺伝子の変異は機能を喪失した、もしくは部分的にしか活性を持たないタンパク質の産生をもたらし、DNAのエラーを修正する能力を低下させる。MSH6の機能喪失は1ヌクレオチドリピートの不安定性をもたらす[5]。HNPCCはMSH2やMLH1の変異によって引き起こされるのが最も一般的であるが、MSH6の変異も非定型HNPCCと関連している[11]。MSH6の変異の場合には大腸癌の浸透率英語版は低いようであり、このことはMSH6変異の保因者の中で症状が生じる割合が低いことを意味している。一方で、女性の変異保因者にとっては子宮体癌がより重要な臨床症状であるようである。MSH6に変異を有する家系における子宮体癌や大腸癌の発症年齢は約50歳であり、MSH2関連腫瘍の発症年齢が44歳であることと比較すると遅い[11]

がんにおけるMSH6のエピジェネティックな制御

2つのmiRNAmiR-21miR-155英語版はDNAミスマッチ修復遺伝子MSH6MSH2を標的とし、これらのタンパク質発現の低下を引き起こす[12][13]。これら2つのmiRNAのどちらか一方でも過剰発現した場合には、MSH2、MSH6タンパク質が過少発現状態となり、DNAミスマッチ修復の減少とマイクロサテライト不安定性の増大が引き起こされる。

miR-21の発現は、2つのプロモーター領域のCpGアイランドエピジェネティックメチル化状態によって調節されている[14]。プロモーター領域の低メチル化は、miRNAの発現の上昇と関係している[15]。miRNAの高発現はその標的遺伝子の抑制を引き起こす。結腸癌の66%から90%ではmiR-21が過剰発現しており[12]、一般的にMSH2レベルが低下している(そしてMSH6はMSH2が存在しない場合には不安定である[13])。

miR-155はプロモーター領域のCpGアイランドのエピジェネティックなメチル化[16]と、プロモーター領域のヒストンH2AH3のエピジェネティックなアセチル化の双方によって調節されている(このアセチル化は転写を増加させる)[17]。2つの異なる手法での測定により、散発性大腸癌の22%もしくは50%でmiR-155が過剰発現していることが示されており[13]、miR-155の発現はMSH2の発現と逆相関を示す[13]

相互作用

MSH6は、MSH2[18][19][20][21][22]PCNA[23][24][25]BRCA1[18][26]と相互作用することが示されている。

出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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