MSH2

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MSH2

MSH2(mutS homolog 2)は、ヒトでは2番染色体英語版に位置するMSH2遺伝子にコードされるタンパク質である。MSH2がん抑制遺伝子であり、より具体的にはDNAミスマッチ修復(MMR)タンパク質MSH2をコードするケアテイカー遺伝子英語版である。MSH2はMSH6とヘテロ二量体を形成し、MutSαミスマッチ修復複合体を形成する。MSH2はMSH3英語版とも二量体化し、MutSβ DNA修復複合体を形成する。MSH2は、転写共役修復[5]相同組換え[6]塩基除去修復[7]など、多くの異なる様式のDNA修復機構に関与している。

概要 PDBに登録されている構造, PDB ...
MSH2
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

2O8B, 2O8C, 2O8D, 2O8E, 2O8F, 3THW, 3THX, 3THY, 3THZ

識別子
記号MSH2, mutS homolog 2, COCA1, FCC1, HNPCC, HNPCC1, LCFS2, hMMRCS2, MSH-2
外部IDOMIM: 609309 MGI: 101816 HomoloGene: 210 GeneCards: MSH2
遺伝子の位置 (ヒト)
2番染色体 (ヒト)
染色体2番染色体 (ヒト)[1]
2番染色体 (ヒト)
MSH2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点47,403,067 bp[1]
終点47,663,146 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
17番染色体 (マウス)
染色体17番染色体 (マウス)[2]
17番染色体 (マウス)
MSH2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点87,979,758 bp[2]
終点88,031,141 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 DNA結合
ヌクレオチド結合
protein homodimerization activity
mismatched DNA binding
dinucleotide insertion or deletion binding
ADP binding
centromeric DNA binding
oxidized purine DNA binding
single-stranded DNA binding
damaged DNA binding
ATPアーゼ活性
protein C-terminus binding
血漿タンパク結合
single thymine insertion binding
four-way junction DNA binding
MutLalpha complex binding
酵素結合
二本鎖DNA結合
dinucleotide repeat insertion binding
ATP binding
プロテインキナーゼ結合
magnesium ion binding
single guanine insertion binding
guanine/thymine mispair binding
Y-form DNA binding
heteroduplex DNA loop binding
double-strand/single-strand DNA junction binding
ATP-dependent activity, acting on DNA
クロマチン結合
細胞の構成要素 MutSbeta complex

MutSalpha complex
核質
mismatch repair complex
細胞核
染色体
生物学的プロセス negative regulation of neuron apoptotic process
germ cell development
男性生殖腺発生
複製後修復
determination of adult lifespan
in utero embryonic development
cellular response to DNA damage stimulus
酸化的リン酸化
maintenance of DNA repeat elements
positive regulation of helicase activity
somatic recombination of immunoglobulin gene segments
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to DNA damage
negative regulation of DNA recombination
somatic recombination of immunoglobulin genes involved in immune response
DNAミスマッチ修復
B cell differentiation
B cell mediated immunity
DNA修復
positive regulation of isotype switching to IgA isotypes
positive regulation of isotype switching to IgG isotypes
double-strand break repair
meiotic gene conversion
response to X-ray
response to UV-B
somatic hypermutation of immunoglobulin genes
mitotic intra-S DNA damage checkpoint signaling
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to DNA damage by p53 class mediator
negative regulation of reciprocal meiotic recombination
クラススイッチ
protein localization to chromatin
DNA recombination
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000251
NM_001258281

NM_008628

RefSeq
(タンパク質)

NP_000242
NP_001245210

NP_032654

場所
(UCSC)
Chr 2: 47.4 – 47.66 MbChr 2: 87.98 – 88.03 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
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MSH2遺伝子の変異はマイクロサテライト不安定性英語版、そして一部のがん、特に遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)と関係している。この遺伝子には、疾患の原因となる変異が少なくとも114種類発見されている[8]

臨床的意義

遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)はリンチ症候群とも呼ばれる疾患であり、常染色体優性遺伝、すなわち変異遺伝子を1コピー遺伝することで疾患表現型が引き起こされる疾患である。MSH2遺伝子変異はこの疾患と関係した遺伝的変化の約40%を占め、MLH1遺伝子の変異と共にこの疾患の主要な原因となっている[9]。HNPCCと関係した変異はMSH2の全てのドメインに広く分布しており、MutSαの結晶構造から推定されるこれらの変異の機能は、タンパク質間相互作用、安定性、アロステリック調節、MSH2-MSH6間相互作用、DNA結合への影響など多岐にわたる[10]MSH2や他のミスマッチ修復遺伝子の変異の結果、DNA損傷は未修復のままとなり、変異頻度の上昇が引き起こされる。こうした変異はDNAが適切に修復されていれば生じることがなかったものであり、生涯にわたって蓄積される。

マイクロサテライト不安定性

MSH2を含むMMR遺伝子が適切に機能しているかどうかは、マイクロサテライト不安定性解析によって追跡することができる。マイクロサテライト不安定性検査は、ミスマッチ修復系が機能していない場合には複製が極めて困難な短い反復配列を解析するバイオマーカー検査である。こうした配列は集団内で多様性がみられるため、その実際のコピー数は問題とならず、ただその患者が保有するコピー数が組織間や経時的に一定であることが重要である。DNA複製複合体がこうした配列でエラーを起こしやすいためにマイクロサテライト不安定性は生じ、ミスマッチ修復遺伝子の機能によって修復を行う必要がある。ミスマッチ修復遺伝子が機能していない場合、こうした配列には経時的に重複や欠失が蓄積し、同じ患者内でコピー数の変化が引き起こされる。

HNPCC患者の71%はマイクロサテライト不安定性を示す[11]。マイクロサテライト不安定性を検出する手法にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や免疫組織化学(IHC)的手法があり、PCRはDNA配列を検査し、IHCはミスマッチ修復タンパク質レベルを検査するものである。現在のところ、IHCまたはPCRによるマイクロサテライト不安定性検査は、費用対効果、感度、特異性が高く、一般的に広く受け入れられている[12]

ミスマッチ修復における役割

酵母からヒトまでの真核生物ではMSH2はMSH6と二量体化してMutSα複合体を形成し[13]、この複合体は塩基のミスマッチや短い挿入/欠失ループの修復に関与している[14]。MSH6はN末端のディスオーダードメインのために不安定であり、MSH2とのヘテロ二量体化によって安定化される。MSH2は核局在配列を持たないため、MSH2とMSH6は細胞質で二量体化し、その後ともにへ移行すると考えられている[15]。MutSα二量体においては、MSH6がミスマッチの認識のためにDNAと相互作用し、一方MSH2はMSH6が必要とする安定性をもたらしている。MSH2はMSH6と二量体化せずとも核へ移行することがあり、この場合にはおそらくMSH3と二量体化してMutSβ複合体を形成している[16]。MSH2にはMutSαヘテロ二量体内でMSH6と相互作用する2つのドメインが存在し、1つはDNA相互作用ドメイン、もう1つはATPaseドメインである[17]

MutSα二量体は核内で二本鎖DNAをスキャンし、ミスマッチ塩基を探索する。ミスマッチ塩基が見つかった場合には、変異はATP依存的に修復される。MutSα内でMSH2はATPよりもADPを選択的に結合し、MSH6はその逆である。MutSαはMSH2がADPを結合しているときにのみDNAをスキャンし、一方MSH6にはADPとATPのいずれかが結合していることが研究から示唆されている[18]。その後、MutSαは損傷DNAを修復するためにMLH1と結合する。

MutSβは、MSH2とMSH3との複合体である。この二量体はMutSαよりも長い挿入/欠失ループを修復する[19]。DNAの大きな挿入や欠失によってDNA二重らせんには屈曲が生じ、MSH2/MSH3二量体はこのトポロジーを認識して修復を開始する。変異を認識する機構も異なり、MutSβはDNAの二本鎖を分離するが、MutSαは分離しない[20]

相互作用

MSH2は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。

がんにおけるMSH2のエピジェネティックな欠乏

DNA損傷はがんの主要な根本原因の1つとなっているようであり[33]、多くの種類のがんの根底にはDNA修復遺伝子の発現の欠乏があるようである[34][35]。DNA修復が不十分となると、DNA損傷は蓄積する傾向がある。こうした過剰なDNA損傷は、エラーが起こりやすい過程である損傷乗り越え合成(translesion synthesis)やマイクロホモロジー媒介末端結合英語版による変異を増加させる可能性がある。また、DNA損傷の増加はDNA修復のエラーによるエピジェネティックな変化も増加させる可能性がある[36][37]。こうした変異やエピジェネティックな変化はがんの発生につながる可能性がある。

非小細胞肺癌英語版(NSCLC)におけるMSH2遺伝子に関する研究では、MSH2遺伝子の変異は見られない一方、NSCLCの29%ではMSH2の発現のエピジェネティックな減少が見られている[38]急性リンパ性白血病(ALL)では、MSH2遺伝子に変異は見られない一方で他の4つの遺伝子に変異がみられ、これらはMSH2タンパク質を不安定化する。これらの遺伝子は小児ALL患者の11%、成人患者の16%に欠陥が生じている[39]。また、ALL患者の43%ではMSH2プロモーターメチル化が生じており、再発ALLの患者では86%にまで高まる[40]

食道癌[41]、非小細胞肺癌[38][42]大腸癌[43]において、MSH2遺伝子のプロモーター領域のメチル化はMSH2タンパク質の発現の欠如と相関している。これらの相関は、MSH2遺伝子のプロモーター領域のメチル化がMSH2タンパク質の発現を低下させていることを示唆している。こうしたプロモーターのメチル化はMSH2が関与する4つのDNA修復経路、すなわちDNAミスマッチ修復、転写共役修復[5]、相同組換え[6][44][45]、塩基除去修復[7]を低下させると考えられる。こうした修復の低下は過剰なDNA損傷の蓄積をもたらし、発がんに寄与している可能性が高い。

いくつかのがんにおけるMSH2プロモーターのメチル化の頻度を下の表に示す。

さらに見る がん, プロモーターのメチル化の頻度 ...
散発性がんにおけるMSH2プロモーターのメチル化の頻度
がんMSH2プロモーターのメチル化の頻度出典
急性リンパ性白血病43%[40]
再発急性リンパ性白血病86%[40]
腎細胞癌51–55%[46][47]
食道扁平上皮癌29–48%[41][48]
頭頸部扁平上皮癌27–36%[49][50][51]
非小細胞肺癌英語版29–34%[38][42]
肝細胞癌10–29%[52]
大腸癌3–24%[43][53][54][55]
軟部肉腫英語版8%[56]
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出典

関連文献

関連項目

外部リンク

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