2010年メキシコ湾原油流出事故
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2010年メキシコ湾原油流出事故(2010ねんメキシコわんげんゆりゅうしゅつじこ)は、2010年4月20日にメキシコ湾沖合80 km、水深1,522 mの海上で海底油田掘削作業中だった、BP社の石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」で、技術的不手際から掘削中の海底油田から逆流してきた天然ガスが引火、爆発し、海底へ伸びる5500 mの掘削パイプが折れて大量の原油がメキシコ湾へ流出した事故。
BPによると7月16日までの原油流出量は約78万キロリットル(490万バレル)である[5][6][7]。1991年の湾岸戦争(推計600万バレルとも)に次ぐ規模で、1989年に4万キロリットルが流出したアラスカ州のエクソンバルディーズ号原油流出事故をはるかに超え、被害規模は数百億USドルとされる。
2010年4月20日夜、世界最大の沖合掘削請負会社トランスオーシャンが管理する、ルイジアナ州ベニス(Venice, Louisiana)沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホライズンで、大規模な爆発があり、11人が行方不明となり、17人が負傷した[8][9]。当時は126人の作業員が働いていた[8]。掘削施設は4月22日に水没した[10]。
アメリカ合衆国沿岸警備隊によると、石油掘削基地から延びる原油の帯は4月30日に200 km、幅120 kmに達した[11][12]、ルイジアナ州の住民からは29日に沿岸に漂着しているという報告がある[13]。そのため、ルイジアナ州、アラバマ州、フロリダ州、ミシシッピ州の4州で、4月30日に非常事態宣言が出された。7月15日の封じ込め作業により油の流出は止まり、9月19日に油井の封鎖作業を完了した。
BPは、6月中旬現在までに65万ガロン(130万ガロン?)のCorexit EC9500AとCorexit EC9527Aという石油分散剤[14]を投入している。この分散剤は、アメリカ合衆国環境保護庁により、この海域で使用することが認められている2製品である。
この油田のプロジェクト名は「マコンド・プロスペクト」といい、メキシコ湾の海底谷ミシシッピ・キャニオンに設定された海域「ミシシッピ・キャニオン252地区」にある。2008年3月に内務省の鉱山資物管理部の入札でBPが採掘権を得て、2010年2月に採掘を開始した(業界分類:API油井60-817-44169)。
事故を起こした「ディープウォーター・ホライズン」は自動船位保持装置を備えた半潜水式(セミサブマーシブル)の石油プラットフォーム(リグ)で、海に浮きながら自動で位置を調節し、大水深の海底から石油を掘削することができる。
R&Bファルコン社の発注で1998年末から韓国の現代重工業が建造し、R&Bファルコンがトランスオーシャンによって買収されたことにより、2001年2月にトランスオーシャン社に引き渡された。以来、イギリスの石油会社BPとの契約の下で、メキシコ湾岸油田の様々な鉱区で石油掘削を行ってきた。
マコンド・プロスペクトでは2009年10月に別のリグで掘削を始めたが、ハリケーンで損傷したため、2010年1月にディープウォーター・ホライズンと交替した。申請工期は78日だが、内部で51日と定められた。その後工期は遅れ予算は超過した(1日100万ドル)。事故は80日目だった。
米政府からBPへの通告による責任組織は次の通り[15]。
「(油田開発作業を実施・管理する)オペレーターと(権益だけを持つ)非オペレーター間の契約で事前に責任範囲を決め、最終的に負担割合が決まる。契約により過失があっても負担をする可能性もある」(新日本石油開発社長 古関信)[16]
7月22日の米上院国土安全保障・政府活動委員会小委員会の公聴会の冒頭声明で、三井石油開発の石井社長は「契約上我が社には何の権限もない。オペレーター(BP)が全責任を持つ」と述べた[17][18]。
メキシコ湾岸はアラスカとは異なり、沿岸には巨大湿地帯が広がり、牡蛎など自然の宝庫であり(メキシコ湾全体の漁獲高はエビが全米の約69 %、牡蠣は70 %[19])、アメリカ合衆国としては人口集中地帯であるので、石油流出による自然環境、社会生活、漁業、観光業(年間1,000億ドル、アラバマ州では50 %減)への影響も懸念される。
そのため5月2日にオバマ大統領は原油が沿岸まで15 kmに迫ってきたルイジアナ州ベニスに入り、ヘリコプターなどで視察した。視察ではナポリターノ国土安全保障省長官から連邦政府の現地対策司令官に任命されたばかりのアレン沿岸警備隊司令官から説明を受けた。大統領は「史上最悪の被害が生じる可能性がある」と述べた[20]。
事故以来、原油回収船とオイルフェンスを使い、1日あたり6億円を投じて流出油の回収を行ったが、流出箇所は深い海中であり、原油の噴き出す圧力もきわめて高く、またミシシッピ川の大河口に近いので潮流も複雑であり、流出から長期間経過していたため、被害の拡大が心配された。沖合には、メキシコ湾内を循環する海流(ループカレント)があるが、到達した場合はメキシコ湾全体のみならず、大西洋にまで被害を与える可能性があった。
生分解が困難である油塊(タールボール)が砂浜の下60 cmから発見され、長期的影響が心配されている[21]。
5月6日に野生動物保護区である、ルイジアナ州のシャンデルア諸島に油が漂着したと、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が発表した[22]。
7月には沿岸約1,500 km(ミシシッピ州ティンボーラー湾からフロリダ州パナマシティ)に漂着した。ループカレントと呼ばれる湾内の海流に乗ったものや、フロリダ半島本体や大西洋に流れ出したものは、流出量に比べれば遙かに少ないが、ハリケーンシーズンにループカレントを経て拡散することが懸念されている[23]。
恒久的な対策として、特殊深海潜水艇を使い、海中パイプをレンチのようなものではさみ流出を防ぐ案があった。5月5日に1箇所塞ぐことに成功したが、流出量は変わらなかった。更に鉄とコンクリートの箱(高さ12 m、100トン)を海底の流出箇所にかぶせて、パイプで海上の回収タンカーに送る方法(「トップハット作戦」)が準備された[24]が、6,900万パスカル(600気圧)という高圧で噴き出す原油の力により浮き上がってしまい、蓋をすることに失敗した[25]。その後も、油田を泥で埋める「トップキル作戦」も原油の噴出圧のために失敗したが、7月15日には油田に蓋をする新たな箱の設置に成功するなど、一部の作戦は功を奏しつつあった[25]。
周辺は油田地帯であり、ミシシッピ河口のニューオーリンズは、世界中に小麦など穀物を積み出すカントリーエレベーターの集積地点であるため、影響は大きい。さらに2010年に入って原油価格は高騰を続け(2010年4月WTI 1バレル 80 - 86ドル、12月は70ドル前後)、将来的に採掘がたやすい油田の新規開発が減ることも見込まれ、大深度海底油田の開発が、メキシコ湾をはじめとする世界各地で積極化していた時期でもあり、長期的な影響が懸念された。
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BP社は検索エンジンに対してキーワード対策を行っており、GoogleなどでOil Spillを検索すると、BP社の公式サイトが上位にくるが、公式サイト上で事故に対して誠意を持った対応をしているとアピールすることで、批判をかわす目的があるのではないかとの意見もある[47]。
石油・天然ガス生産量国内2位の新日本石油開発(現在のJX石油開発)は、メキシコ湾でアナダルコ開発の水深1,500 mの油田権益を11%持つ。場合によっては資産売却し、ベトナム、マレーシア、英領北海を優先開発する[16]。
オバマ大統領は3月31日に原油開発の解禁を演説したばかりであった。これにより、1981年から規制の続いているアラスカ沖などの原油開発は解禁されることになる。これは医療改革や環境法案というリベラル寄り法案の通過に対するバランスとして出されたもので、原子力発電拡充に続く政策である。オバマ大統領は、米国は(高騰する)輸入原油に頼り、回復しつつある経済情勢はまだ脆弱であるとし、環境保護派に現実を直視するように求めていたが、それらの政策に対する大きな打撃となると見られた[60][61][62]。
一方、原油開発に伴うアメリカ合衆国当局の安全規制の強化案に対し、2009年9月に、BPのメキシコ湾生産部門責任者モリソン副社長は内務省鉱山資物管理部 (MMS) に対し書簡を送り、現行の自主的な安全対策は適切だとし、安全規則の厳格化に反対していた[63][64][65]。
ホワイトハウスのアクセルロッド大統領上級顧問はABCの番組で「国内の新たな地域での掘削は、今回の事故や他の場所での計画に関する適切な調査が実施されるまで進めない」と述べた[66]。
BPは「アトランティス」という推定埋蔵量メキシコ湾5位の油田(鉱区4つにまたがる)を沖合200 kmで開発中である。しかし、社内で安全性に対しての疑問が上がっているとの内部告発があり、議論になっていた。この事故の影響が懸念されている。
この件に関して複数の原告が個人または集団で賠償訴訟を起こしている。その原告のうち最も大きな団体は漁業関係者、地元住民、原油除去を行った清掃関係者で作られた原告グループで、事故による経済的損失や健康被害に対して訴えを起こしており、関係する原告人数は10万人に上る。
2012年3月3日、この最大原告団体とBP社の間で和解が成立した。和解金は約78億ドル(約6,400億円)。[67]BP社の発表によれば、同社はこれまで賠償基金として自社で蓄えておいた約200億ドル(約1兆6,300億円)があるため、和解金はこの基金から支払われる[68]。
2012年3月4日、アメリカ政府は和解しない事を発表した。米政府として、78億ドルの和解にBP社の誠意は認めるが同社は赤字計上しているわけではなくまだ経済的余力があり、痛い出費だとは言いがたい。メキシコ湾や周辺の環境に及ぼした影響は大きいため、和解せず訴訟を続行して責任追及すると声明を出した[69]。
2012年11月15日、BPは米政府当局と45億ドル(3,650億円)の支払いで和解した。この中には罰金12.56億ドルと、SEC、NASとの和解金が含まれるが、メキシコ湾岸4州や民間との訴訟は含まれない[7]。
2015年5月現在、BPによる沿岸清掃費用は140億ドル、訴訟和解金支払いは131億ドルである。その費用を賄うために12年度に380億ドルの資産売却をし、さらに100億ドルを売却中で、北海の天然ガスパイプラインの売却を決定している[70]。
2015年7月、米連邦政府、5州、400地方自治体との和解が成立し、BPは総額最大187億ドルを18年間にわたり年平均11億ドルを支払う(訴訟費用131億ドル、清掃費用141億ドルは別に支払い済み)。結局BPの支払い総額は約460億ドルになる(民間への支払いは含まれない)[71]。
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