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契約の一つ ウィキペディアから
賃貸借(ちんたいしゃく)とは、当事者の一方(賃貸人[注 1]、貸主)がある物の使用及び収益を相手方(賃借人[注 2]、借主)にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することを内容とする契約。日本の民法では典型契約の一種とされる(民法第601条)。
賃貸借は当事者間で有償で物を貸し借りする契約類型である。典型例としては、賃貸住宅やレンタカーなどがある。
賃借人が賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益する権利を賃借権といい、賃貸人がある物を賃貸借契約の目的物とすることを「賃借権を設定する」という。
賃貸借は消費貸借や使用貸借と同じく貸借型契約(使用許与契約)に分類される[1][2]。また、不動産賃借権は地上権や永小作権と同様の経済的機能を果たすものとしても扱われるが、本来的に債権である点で地上権や永小作権とは異なる(ただし、賃借権の物権化により地上権に近い効力が認められるようになっている)[3]。
かつては賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡した場合、賃借人は(後述の対抗要件を有しない限り)新所有者に対して賃借権を対抗できないとされ、新所有者が賃借権を承認しないときは、賃貸借契約は終了するとされていた。これがローマ法以来「売買は賃貸借を破る」の法格言によって表されてきた原則である。
しかし、所有と利用の分離が進む現代社会において、賃貸借の中でも特に土地(宅地や農地)や建物の賃借権については国民の生活基盤となるものであるが、民法の借主の権利保護は十分とはいえず、借主は土地や建物に投下した資本や労力を回収できないままに追い出される立場に置かれるという問題を生じた[10][3][11]。そのため、日本ではヨーロッパと同じく借主保護立法が重ねられ、宅地・建物については建物保護法、借地法、借家法及びそれらを一本化した借地借家法が制定され、また、農地については農地法など特別法による強化が図られ、その結果、賃貸借には物権に類似した効力が与えられるようになった[10][3][11]。これを賃借権の物権化あるいは債権の物権化という[10][3]。具体的には、借地権の存続期間、借地契約の更新、借地権や借家権の対抗力などを中心とする。
従来、賃借人が借地上の不法占拠者などを排除しようとする場合、債権者代位権(423条)を流用して、賃貸人の所有権に基づく物権的妨害排除請求権を、賃借人が代位行使するという法律構成がとられてきた。しかし、判例は、対抗力のある不動産賃借権については、賃借権の物権化を理由として、賃借権に基づく妨害排除請求権も認める方向にあった(最判昭和30年4月5日民集9巻4号431頁)[12]。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)は対抗要件を備えた不動産賃借権に基づく賃借人の妨害排除請求権や返還請求権を明文化した[7]。
日本の民法は、賃貸借を意思表示の合致により成立する諾成契約として規定している。外国では一定の賃貸借契約については書面を要求する要式契約として規定している立法例も多い[13]。
日本の民法では賃貸借の存続期間の最短期間について規定を置いていない[14]。
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日本の民法では賃貸借の存続期間の最長期間を50年としている(604条1項前段)。
民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前は、20年であった。この規定は民法の起草者において20年を超えるときは地上権や永小作権が設定されるものとみており[15]、また、所有権が長期間にわたって賃貸借により拘束されることになれば改良が進まず社会経済上の不利益となる点が理由とされていた[16]。
中華民国民法、中国契約法では20年である[17]。韓国では堅固建築物などの例外をのぞき20年である[18]。
一方、フランス民法典には規定がない。ケベック州民法典では100年である [19]。 イングランドでは存続期間の定めがない場合契約が無効であるとされるが、存続期間に規制がない。
先述のように日本の民法は、賃貸借を意思表示の合致により成立する諾成契約として規定しているが、現実には日本でも特に不動産賃貸借については書面が作成されることが多い[20][3]。また、借地借家法上の定期借地権(借地借家法22条)や定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)の設定については公正証書など一定の方式を要する[6]。
農地及び採草放牧地への賃借権設定については原則として農業委員会あるいは都道府県知事の許可を要し(農地法3条1項)、また、農地及び採草放牧地の賃貸借契約について当事者は書面によりその存続期間、借賃等の額及び支払条件その他その契約並びにこれに付随する契約の内容を明らかにしなければならない(農地法21条)。
なお、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で「引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還すること」も契約内容にすることが明確化された[8]。
処分の権限を有しない者(不在者財産管理人、権限の定めのない代理人など)が賃貸借契約を締結する場合には、以下の期間を超えない範囲でのみ契約をすることができる(602条)。このような短期の賃貸借契約を短期賃貸借という。
契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間となるとされており、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明確化された(602条)[8]。
短期賃貸借も更新することができるが、その期間満了前、土地については1年以内、建物については3ヶ月以内、動産については1ヶ月以内に、その更新をしなければならない(603条)。
なお、以前は、短期賃貸借は、その期間の範囲で先に登記された抵当権にも対抗(優先)することができた(旧395条)。しかし、執行妨害で悪用されるなど弊害が目立ったため、2003年の民法改正で対抗できるとしたのを改め、6ヶ月の明け渡しの猶予期間を認めている(395条)。また、2017年改正前の民法には制限行為能力者に関する「処分につき行為能力の制限を受けた者」の文言があったが、制限行為能力者の行為能力は別に定められており、短期賃貸借であれば制限行為能力者も行うことができるとの誤解を生じることから削除された[8]。
民法上の賃貸借の存続期間の規定は借地借家法など特別法による修正を受けている。
旧借地法・旧借家法は借地借家法の施行により廃止されたが(借地借家法附則第2条)、その廃止前に両法によって生じた借地権・借家権の存続期間については原則として借地借家法ではなく旧借地法・旧借家法の適用を受ける(借地借家法附則第4条)。
旧借地法では、借地権の存続期間について堅固な建物の所有を目的とするものについては原則として60年、その他の建物の所有を目的とするものについては原則として30年とされていた(旧借地法2条1項)。
旧借家法では、1年未満の期間を定めた賃貸借は原則として期間の定めのないものとみなされた(旧借家法3条の2)。また、建物の賃貸人は自ら使用する必要がある場合その他正当の事由がある場合でなければ、賃貸借の更新の拒絶や解約の申入れは許されないとしていた(旧借家法1条の2)。
借地借家法上の借地権には通常更新される普通借地権と更新のない定期借地権とがある。
借地借家法上の借家権には更新の拒絶や解約について制限のある普通借家権と更新のない定期借家権とがある。
農地又は採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合において、その当事者が契約期間満了前の一定期間内において、相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、原則として従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなされる(農地法17条)。また、農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならないとされている(農地法18条)[注 3]。
目的物が不動産である場合には、賃借権設定登記をしたときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる(605条)。
ただし、民法上は特約のない限り、賃借人は賃貸人に対して登記請求権を有しない(通説・判例。判例として大判大10・7・11民録27輯1378頁)[33]。そこで、建物保護に関する法律や借地法、借家法が制定され、もっと容易に賃借権を新所有者に対抗できるような制度が整備された。その後、これらの規定は借地借家法第10条(借地権の対抗力等)、第31条(建物賃貸借の対抗力等)に吸収されている。なお、2017年改正前の605条は「その不動産について物権を取得した者」とされていたが、一般的な理解では二重賃借人等も含むと解されるため、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で「その他の第三者」が追加された[8]。
対抗要件を備えた不動産賃借権の場合、賃借人は、その不動産の占有を第三者が妨害しているときはその妨害の停止の請求、その不動産を第三者が占有しているときは不動産の返還の請求をすることができる(605条の4)。対抗要件を備えた不動産賃借権に基づく賃借人の妨害排除請求権・返還請求権は2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化された[7]。
罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時から、引き続き、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和21年7月1日から5年以内において対抗力を有する(罹災都市借地借家臨時処理法10条)。
農地又は採草放牧地の賃貸借は、その登記がなくても、農地又は採草放牧地の引渡しにより対抗力を認める(農地法16条。旧農地法18条)。
動産を目的物とする賃借権は、どのような場合に新所有者に対しても主張できるのか、民法上は明文を欠いている。その動産の引渡しを受けていれば、換言すればその動産を占有していれば、目的物の所有者が代わったとしても、新たな所有者に対して主張することができる。すなわち、引渡し(占有)を解釈上対抗要件とするのが多数説である。
賃貸人Aから賃借人Bが賃借している目的物に関する権利義務を第三者Cにすべて移転させてBが賃貸借関係から離脱することを賃借権の譲渡といい、また、賃貸人Aから賃借人Bが賃借している目的物を第三者Cにさらに賃貸して元の賃貸借関係(AB間の賃貸借契約)は存続する場合を転貸(又貸し)という[34][35]。
日本の民法においては、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸や賃借権の譲渡は、賃貸人に対抗できない上、賃貸借契約の解除原因となっている(第612条)。この点は物権である地上権や永小作権などと異なる点である。
もっとも、賃借権の譲渡を認めるイギリスのような国もあるし、日本でもギュスターヴ・エミール・ボアソナードが起草した旧民法では認められていた(旧民法は法典論争の結果、施行されなかった)[36]。
日本の民法が無断の譲渡・転貸を認めない理由としては、勤勉でない小作人への譲渡や資力のない借家人へ譲渡された場合などには賃料の支払いに不安を生じ、また、使用方法の悪い借家人などへの譲渡などにより賃貸人が思わぬ不利益をこうむることが懸念されたためであるとされる[36][35]。
なお、賃借権の譲渡や転貸に必要とされる賃貸人の承諾は、賃借人のほか譲受人や転借人に対してなされてもよい[37]。
賃借権が賃借人Bから譲受人Cへ譲渡された場合、それまでの賃借人Bが契約関係から離脱して、従来からの賃貸人Aと新たな賃借人Cの間に契約関係が移転する。ただし、敷金についての法律関係は新たな賃借人(賃借権の譲受人)には移転しない(最判昭53・12・22民集32巻9号1768頁)[38]。Aが一旦賃借権の譲渡を承諾したときは、Bから第三者たるCとの間で賃借権の譲渡契約を締結する前であっても、これを撤回することができない(最判昭30・5・13民集9巻6号698頁)。
賃借人Bが賃貸人Aの承諾を得て行った転借人Cへの転貸は当然有効であり解除原因とならない(612条1項参照)。適法な転貸借がある場合、Bの有する賃借権が対抗要件を具備する限り、Cが自己の転借権について対抗要件を備えていなくても、Cは第三者に対してBの賃借権を援用して自己の転借権を主張することができる(最判昭39・11・20民集18巻9号1914頁)。
借地借家法が適用される場合、転貸や賃借権の譲渡が比較的容易に認められる場合もある。すなわち、借地契約については、一定の場合、賃貸人の承諾がなくても、裁判所の許可を得れば、転貸や譲渡をすることができる(借地借家法19条、20条)。
この規定(特に20条)では、借地上の建物に抵当権が設定されている場合などが想定されている。つまり、抵当権が実行されて借地上の建物が競売にかけられ、買い受けられた場合、建物の所有権とともに土地の賃借権も「従たる権利」(従物の項目を参照)として買受人に移転する(最判昭40・5・4民集19巻4号811頁)。しかし、それは賃借権(借地権)の無断譲渡にほかならず、借地契約の解除原因になってしまうのが原則である。これでは抵当権を設定することが事実上不可能となるため、このような規定が必要になる。
借地契約・借家契約が期間満了又は解約申入れによって終了するときは、賃貸人は転借人に対しそのことを通知しないと契約の終了を転借人に対抗できない(借地借家法34条)。賃貸人が終了の通知をしたときは、転貸借はその通知後6ヶ月を経過すると終了する。
期間の定めのある賃貸借においては契約期間が満了すれば終了する(616条・597条)。この場合に当事者はその期間内に解約をする権利を留保することも可能である(618条)。ただし、特別法(借地借家法及び農地法)により修正を受けている。
期間の定めのない賃貸借または619条により黙示の更新がなされた賃貸借においては解約の申入れにより、申入れの日から所定の期間を経過することにより終了する(617条)[46][47]。解約の申入れ後直ちに賃借人が目的物を返還したとしても、特約がない限り賃借人は所定の期間分の賃料支払い義務を引き続き負う。
ただし、特別法(借地借家法及び農地法)によりこの規定は修正を受けている。
賃貸借も契約である以上、賃借人に賃料不払や契約上の用法義務違反があれば債務不履行となり賃貸人からの解除が認められるが、これを安易に認めると特に不動産賃貸借においては賃借人は居住や営業といった生活の基盤を失うことになるため、判例は当事者間の信頼関係が破壊されたと認められるか否かを基準とする信頼関係破壊の法理によっている(最判昭39・7・28民集18巻6号1220頁)[48][49]。なお、債務不履行が悪質なものである場合について無催告解除も認めている(最判昭27・4・25民集6巻4号451頁)[50][51]。ただし、解約告知については農地法により修正を受けている。
また、民法は以下の場合につき賃借人に解除権を認める。
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する(616条の2)。616条の2は2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で明文化されたもので[8]、それまでも賃貸借の目的物が火災等で滅失しあるいは老朽化により使用困難となった場合には履行不能となり賃貸借は終了するとされていた[52][53][51]。
この場合、(1)双方に帰責事由がないときは危険負担の問題となり、(2)賃貸人に帰責事由があるときは賃貸人に債務不履行責任が発生し(賃貸借の性質上、全部滅失した場合には賃料債務は発生しないと解されている)、(3)賃借人に帰責事由があるときは理論的には賃料債務は残るが賃貸人は債務を免れた利益(賃料相当額)の償還義務(536条2項後段)を負うため実質的に賃料債務は消滅する(端的に賃貸借契約の性質から使用収益がない以上は賃料債務は発生しないと構成する学説もある)[54][51]。
なお、借地借家法第38条第1項の規定による定期借家権のうち、居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は建物の賃貸借の解約の申入れをすることができることとされている(借地借家法第38条第5項前段)。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する(借地借家法第38条第5項後段)。
農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、農地法第18条第1項但書の各号のいずれかに該当する場合を除いて、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならないとされている(農地法第18条第1項)。
賃貸借の解除をした場合には、その解除は将来に向かってのみ効力を生ずる(620条前段)。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない(620条後段)。
この場合に損害賠償請求権及び費用償還請求権についての期間の制限は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない(621条・600条)。
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