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淫行処罰規定の通称 ウィキペディアから
淫行条例(いんこうじょうれい)は、日本の地方自治体の定める青少年保護育成条例の中にある青少年(18歳未満=17歳以下の男女)との「淫行」(いん行)「みだらな性行為」「わいせつな行為」「みだらな性交」また「前項の行為(=「淫行」など)を教え・見せる行為」などを規制する条文(淫行処罰規定)の通称である。
なお、正式な法令上の用語では無いが法律用語としては通用する。本来の淫行とは単に「淫らな性行為」のことだったが、この条例ができたことによって相手が18歳未満である場合に限って使われるようになってきた。
福岡県青少年保護育成条例事件の最高裁判所の判例によると、淫行条例により規制される「淫行」とは以下のことである。
…本条例(福岡県青少年保護育成条例)一〇条一項(当時)の規定にいう『「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為』をいうものと解するのが相当である。
ただし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものを含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目にして単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。… — 1985年(昭和60年)10月23日、最高裁大法廷
ただし当事者双方が「『真摯な交際関係』の上で性行為があった」と考えていても、「淫行」に当たると判断され逮捕されるケースもある。このような場合、青少年の親権者が告発し、それに基づき逮捕されるケースが多い。
2016年3月31日時点の警視庁ホームページでは「淫行」処罰規定に以下の除外条件が記載されている。
「なお、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は除かれます。」 — 警視庁ホームページ(2016年3月31日)
違反行為について親告罪としている淫行条例は2006年現在存在しない。2005年の時点では、兵庫県青少年愛護条例のみがこれを親告罪としていた。
また淫行条例の多くは「淫行の行為者が青少年であった場合には罰則を適用しない」としているが、これは「罰則が適用されない」だけであり、青少年同士の「淫行」でも条例違反(違法)と見なされることに変わりはなく、補導などの対象になりうる。
例えば東京都青少年の健全な育成に関する条例30条では、「この条例に違反した者が青少年であるときは、この条例の罰則は、当該青少年の違反行為については、これを適用しない」と規定されている。
「淫行」の処罰を条例に委任する法令の規定がないため、自主条例の位置づけとなる。また、法令は淫行条例制定の主体を都道府県に限定していないため、市町村が淫行条例を制定することも可能である。
淫行条例と、児童福祉法第34条1項6号「何人も、次に掲げる行為をしてはならない。…児童に淫行をさせる行為」との規定との線引きが曖昧になっており、「児童に淫行をさせる行為」は「児童をして自分自身と淫行させる行為」つまり「児童と淫行する行為」を含むことがある。なお、児童福祉法に言う児童も青少年と同じ18歳未満の男女を意味する。
東京高等裁判所の裁判例によると児童福祉法による「淫行をさせる行為」とは以下のことである。
…「児童に淫行をさせる行為」は、文理上は、淫行をさせる行為をした者(以下「行為者」という。)が児童をして行為者以外の第三者と淫行をさせる行為と行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為の両者を含むと読むことができる。…
淫行をする行為に包摂される程度を超え、児童に対し、事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ、その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要であるものと解される。…」 — 1996年(平成8年)10月30日東京高裁
…児童福祉法34条1項6号にいう淫行を「させる行為」とは、児童に淫行を強制する行為のみならず、児童に対し、直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず、事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をも包含するものと解される。…
つまりその自治体の淫行条例が限定的である場合、その自治体の淫行条例では検挙されない行為もこの規定で検挙されることがある。
この規定は後述する「長野県児童福祉法違反事件」で判例の解釈が大幅に変わって上記のように解されることが多くなった。それ以前は、「自分以外の第三者と児童を淫行をさせる行為」のみが基本的に対象であった。
また、児童福祉法の淫行罪は、少年法第37条の削除により地方裁判所の管轄となったが、加害者が少年(20歳未満)であった場合は家庭裁判所に係属することで定着している[1]。また、条例違反か児童福祉法違反かを問わず、児童淫行の加害少年(20歳未満)に関しては、少年法第61条の規定により実名報道は制限される。
この節の加筆が望まれています。 |
福岡県青少年保護育成条例事件の最高裁判決においては、3名の裁判官(伊藤正己判事・谷口正孝判事・島谷六郎判事)が「福岡県の淫行処罰規定は違憲であり、被告人は無罪である」という趣旨の反対意見(少数意見)を述べている。
たとえば谷口正孝判事(当時)は、「青少年の中でもたとえば16歳以上である年長者(民法で女子は16歳以上で婚姻が認められている)について両者の自由意思に基づく性的行為の一切を罰則を以て禁止することは、公権力を以てこれらの者の性的自由に対し不当な干渉を加えるものであって、とうてい適正な規定とはいえない」としている。また女子の場合、婚姻可能年齢との矛盾も抱えている(ただし、2022年(令和4年)4月1日以降は、男女とも18歳以上で婚姻適齢となる(改正民法)。
学説上は、個人のプライバシーを侵害しかねず恣意的に解釈される、罪刑法定主義に反するなどの批判的な意見や、政府・国会が立法を懈怠して、その責任を地方自治体に丸投げし、条例制定権に委ねた結果、法定刑や構成要件に不均衡が生じていることや、地方自治法第14条第2項の罰則が限定的であり、厳罰化に対応できない点などの制度的欠陥から、国(政府)による法規制を求める意見もある[要出典]。
なお、日本弁護士連合会は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」及び「刑法の一部を改定する法律案に対する意見書」(1998年5月1日)において、「親・教師などによる対償を伴わない性的虐待」を処罰するための法整備をすみやかに行い、淫行処罰規定は全面的に廃止する必要があるとしている[4]。
マサチューセッツ州では16歳未満との性行為を制限するものが存在する。もちろん、性行為に関する年齢制限すなわち性交同意年齢(=性的同意年齢=合意年齢=承諾年齢)は存在する。 この性交同意年齢が、性行為に関する実質的理解が可能か否かを基準の中心にして設定されているのに対し、淫行条例の多くは性行為に関する実質的理解ができても「みだらな」ものは違法であるという基準に基づいて設置されていると考えられる。この条例に違反した者が16歳未満だった場合は対象か、または違反した者が16歳以上だった場合に処罰されているかは定かではない。
これらは全て国家法(政府による法規制)であり、条例という形で地方自治体に立法責任を押し付けていない点で、日本と異なる。
各条例の名称や制定年月日は青少年保護育成条例参照。
都道府県 | 児童淫行に対する罰則 | 児童に淫行を教示し、 またはそれを見せることに対する罰則 |
---|---|---|
北海道 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
青森県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
岩手県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
宮城県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
秋田県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 20万円以下の罰金 |
山形県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
福島県 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
茨城県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金または科料 |
栃木県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 同左 |
群馬県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 同左 |
埼玉県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
千葉県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 規定なし |
東京都 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 規定なし |
神奈川県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
新潟県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
富山県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
石川県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
福井県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
山梨県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
長野県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 規定あり・罰則なし |
岐阜県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 同左 |
静岡県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
愛知県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
三重県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 10万円以下の罰金または科料 |
滋賀県 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 同左 |
京都府 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 同左 |
大阪府 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 規定なし |
兵庫県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金または科料 |
奈良県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
和歌山県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
鳥取県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 20万円以下の罰金 |
島根県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
岡山県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
広島県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
山口県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 規定あり・罰則なし |
徳島県 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
香川県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 同左 |
愛媛県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 同左 |
高知県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
福岡県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
佐賀県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
長崎県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 同左 |
熊本県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
大分県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
宮崎県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
鹿児島県 | 2年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
沖縄県 | 2年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 同左 |
大阪府における青少年健全育成条例によると、相手(被害者となり得る青少年)を「威迫し、欺き、または困惑させて」(脅したり、だましたりしていた状況)という条件が付いていなければ、処罰対象外であった。立証への高いハードルが足かせとなり、淫行処罰規定による検挙数は極端に少なかったのである[9]。府は2019年(令和元年)12月に「大阪府青少年健全育成審議会の提言について」と題した発表を行い[10]、府民からの意見を募り[11]検討の上で、条例改正に至る事となった[9]。
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