右の画像のうち、コルトM1911A1とSIG SAUER P220は自動拳銃(オートマチック・ピストル)、トーラス669はリボルバー式拳銃である。自動拳銃は装弾数が多いが、部品数も多く機構が複雑で作動不良となることも少なくない。リボルバーは少数(概ね5〜6発)しか装填できないが、構造がシンプルであるために動作は確実である。
写真(例A)は、1911年にアメリカ軍により制式化された自動拳銃、M1911(日本では「コルト・ガバメント」の名で知られる)のA1モデル。陸上自衛隊などでも使用された。写真のものは一度装填動作(コッキング)がなされ、撃鉄(ハンマー)が撃発可能状態にあり、安全装置がかかっている状態。ただし弾丸が装填されているかは確認できない。
写真(例B)は、SIG社により開発され、陸上自衛隊がM1911A1の代わりに9mm拳銃として採用されたSIG P220。ハンマーは倒れた状態だが、ダブルアクション方式のため(弾丸が装填されていれば)トリガーを引くだけで発射が可能な状態。
写真(例C)は、ブラジル・Tauras社のリボルバー、Tauras 669。弾倉の隙間に薬莢が見えないので弾丸が装填されていない安全な状態。
- (1) 「銃口(マズル)」
- ここから機関部までがバレル(銃身)であり、自動拳銃ではスライド内部に隠れているものが多い。銃身の後部はチャンバー(薬室)になっている。
- フラッシュハイダーを取り付ける例はないが、コンペンセイターやマズルブレーキを取り付ける例はある。特殊用途の拳銃では、減音器(サイレンサー)を取り付けるためのねじが切ってある。
- (2) 「照星(フロントサイト)」
- 単純な板状のものが多い。近年の拳銃では、夜間や薄暮の射撃のために、背面に蓄光材が埋め込まれていたり、白や赤の塗装が施されているものがある。
- (3) 「排莢口(エジェクションポート)」
- 写真とは反対の面に有り、発射後の空薬莢が弾き出される。射撃後の安全確認の際はスライドを引き、薬室に残弾がないかどうかをここから覗き込みさらに指を入れて確かめる。
- (4) 「遊底(スライド)」
- 自動小銃や機関銃のボルトと違い、自動拳銃では単独の部品になっているものは少なく、発射時の反動(リコイル)や燃焼ガスの圧力でこの部分全体が後退する。その後退力がチャンバーから空薬莢を引き抜いて弾き出し、ハンマーを起こし、内部にあるリコイルスプリングの力でスライドが前進する動きで弾倉から次弾が引き抜かれてチャンバー(薬室)に装填される。初弾装填(コッキング)は手でスライドを引く事で行う。
- (5) 「照門(リアサイト)」
- 凹形の単純な構造をしているものが多い。着弾位置を微調整できるよう上下左右に可動する構造を持ったものもある。照星同様、背面に蓄光材を埋め込んだり塗料を塗っているものがある。
- (6) 「撃鉄(ハンマー)」
- 自動拳銃では撃針を介して、リボルバーでは直接弾丸の雷管を叩くための部品。ハンマーを左手親指で押さえながら右手で引き金を引き、ゆっくりと撃鉄を倒すことでも安全となる。
- 自動拳銃の場合、撃鉄が完全に倒されている状態と、撃鉄が撃発可能な状態の中間として、「ハーフ・コック」モードを持った銃もある。これはあくまで、撃鉄を起こしている途中で指が滑って暴発しないようにするための安全策であり、安全装置の代わりと考えることは難しい。ちなみに、リボルバーの場合、輪胴を回転させるためにハーフ・コックの状態にすることもあるが、こちらは指の力だけで固定しなければならないため注意が必要である。
- シングルアクション式のリボルバーでは、撃鉄を起こすことで輪胴が回り、次弾の発射位置にすることができる。ダブルアクション式では、強めの力で引き金を引くことで、その力により輪胴が回りつつ撃鉄が起き、次弾を続けざまに発射することができる。ただし、引き金を引くためにより強い力が必要となるために、照準がぶれやすい欠点がある。
- (7) 「安全装置(セイフティー)」
- 大まかに3通りがある。
- (7-1)「マニュアル・セイフティー(手動安全装置)」
- (A)の銃が該当する。この銃の場合は、レバーを押し上げると安全、下げると発射可となる。上げた状態では引き金を引くことができず、遊底を動かすこともできない。レバーに下記のデコッキング機能を兼用させたものも存在する(ワルサーPP拳銃が祖、発展型のワルサーP38やベレッタM92、S&WM39など)。安全装置が実際に固定する箇所が撃針(または撃鉄、ストライカー)、逆鈎、引金のどこであるかにより、コッキング状態で銃本体に過度の衝撃が与えられる事に起因する暴発の危険性の多寡が左右される点は、前述のアサルトライフルにおける安全装置と同様である。
- レバーが配置される位置は、一般的に右利きの射手が銃を握った際に親指で安全を解除して即座に射撃を開始できるように、銃の左側面かつ銃把の後方に配置される構造(サム・セイフティー)が採られる場合が多いが、簡易な操作で安全が解除できる事は他物にレバーが押された際に不意に安全が解除されるリスクが高まる要因にもなる為、かつては十四年式拳銃のように片手では操作しづらい位置でレバーを180度回転させるなど、銃を握った片手のみで操作する事を必ずしも意図しない構造が採られる場合もあった。
- (7-2) 「デコッキング式」
- (B)の銃が該当する。写真のレバーを押し下げると、撃針を固定したまま撃鉄を元の状態に戻すことができる。
- (7-3)「安全装置なし」
- 自動拳銃トカレフTT-33と、その中国・北朝鮮製コピー品。自動拳銃の場合、射撃の直前まで薬室に弾薬を装填しないことで安全を確保する。自動拳銃で安全装置がないというのは大変危険であり、取り扱いも厄介である。
- 2000年以前に生産されたリボルバー。ただし、内部機構に暴発対策としての安全装置をつけているものもあり、「安全装置なし」というのは語弊があるとも言える。一風変わった安全対策としては、日本の警察で多く採用されたシングル・ダブルアクション兼用方式のニューナンブM60において、引き金と用心金の間に填め込む事で引き金の不意な後退を阻止できる安全ゴムが銃の付属品という扱いで配布され、現場の制服警察官に用いられていた例がある。
- (7-4)「錠前式(キー・ロック)」
- 21世紀になってから登場した。主としてリボルバーで採用されている。ラッチレバーの下に鍵穴が隠されており、これを操作する事で引き金がロックされる。
- (7-5)「マガジン・セイフティー(弾倉安全装置)」
- 弾倉を取り外すと薬室に実包が残っていても発射が行えなくなる構造。九四式拳銃で採用された引金を固定する構造の物が著名で、類似した構造を持つ拳銃も多い。
- (8) 「グリップ・セイフティー(握り安全装置)」
- 特にガバメント系の特徴で、銃把を握る形でここを押し込まなければ、引き金を引くことができない。特に酷使した拳銃など、落とした弾みで暴発することがあるので、それを防ぐための安全装置の一つ。この機構を持たない拳銃も多い。日本製の拳銃では日野式自動拳銃が引き金の下部(銃把の前方)にグリップ・セイフティーのみを装備して安全性を担保する構造であったが、銃把の前方にグリップ・セイフティーが配置された構造の場合、銃が他物に当たった際に引き金とグリップ・セイフティーの両方が同時に押し込まれて暴発に至る危険性がある為、現在ではガバメント系のように銃把の後方に配置するか、ニューナンブM66短機関銃などのようにフォアグリップ側にグリップ・セイフティーを配置する事で、グリップ・セイフティーが引き金と同時に他物に押し込まれる危険性を回避する構造が採られる場合が多い。
- (9) 「銃把(グリップ)」
- 自動拳銃では弾倉が入る位置となるため、設計上の意匠はあまり凝らすことができない。リボルバーにはそういった制約がないため、形状を大幅に変えたり、部品をまるごと交換して握りやすい形状に変更したりすることができる。
- (10) 「ランヤードリング(吊り紐取り付け金具)」
- 日本の制服警察官は、紛失及び、犯人・被疑者に銃を奪われないために必ずランヤード(吊り紐)を取り付ける。特殊部隊では、なんらかのアクシデントで拳銃を落としてしまった際でもすぐに回収できるように、カールコード式のランヤードを付けているところが多い。
- (11) 「弾倉(マガジン)」
- 自動拳銃では、装填した際はグリップ内部に完全に隠れる(ただし多装弾弾倉はグリップ下部より突き出す)。リボルバーはレンコン状のシリンダー(回転式弾倉、輪胴)になっている。自動拳銃の弾倉は小銃や突撃銃などと同様に実包が一列に真っ直ぐ装填される「シングルカラム式」と二列に並ぶ様に装填される「ダブルカラム式」があり、後者を採用する自動拳銃はFN ブローニング・ハイパワーなどの様に装弾数が多い銃が殆どであるが、その反面銃把全体が太くなりやすい短所もある。国によってはダブルカラム式ではその国の主要民族における平均的な体格の兵士の手に収まりきらない等の不具合も生じる為、このような場合敢えてシングルカラム式を選択する場合もある。実際に日本では十四年式拳銃の試作段階にてダブルカラム式16発のものが試作された事もあったが、最終的にはシングルカラム式8発の細身の銃把のものが制式採用され、戦後の自衛隊でも永らく同様の理由により9mm拳銃などシングルカラム式の採用が続いていた。
- (12) 「マガジンキャッチ」
- 自動拳銃では弾倉を外すための部品。(A)ではボタン式、(B)ではレバー式になっている。ワルサーP38やPM、二式拳銃などのように銃把下端にラッチ式のマガジンキャッチが用いられる場合もある。リボルバーではシリンダーラッチと呼び、このレバーを右親指で押し込みながら、シリンダーを左手で横に倒す(スイングアウト)方式が多い。この場合、シリンダーの先に付いている棒状の部品(エジェクターロッド)を押し込むと、空薬莢が出てくる。シリンダーの前方下部にヒンジが付いている中折れ式拳銃もあり、この場合は中折れ動作をした時にばねの力で自動的に空薬莢をはね上げて排出するものがある。
- (13) 「引き金(トリガー)」
- この部品を引くことで、起こした状態のハンマーを留めている部品(逆鈎、シアー)が外れ、ハンマーが(自動拳銃では撃針を介して)弾丸の雷管を叩き、弾丸が発射される。ダブルアクション式では、ハンマーが倒れていても、トリガーを引くだけでハンマーが途中まで起きてから倒れる。「引金、引き鉄、引鉄、弾き鉄、弾鉄、弾き金、弾金、銃爪」などと表記されることがある。
- (14) 「トリガーガード(用心金)」
- 落とした際など、引き金が不用意に引かれないようにするための部品。たいていの場合、フレーム(枠)と一体になっている。撃たない場合、あるいは撃つ意志がないことを明確に示すためには、右手人差し指を引き金ではなくトリガーガードにかける。極寒の地域で運用される拳銃の場合、分厚い防寒手袋をはめていても引き金が操作できるように、トリガーガードも大きな物が装備される事が多い。かつては日野式自動拳銃のように用心金を持たない銃も存在したが、日野式は用心金の不備に加えて、前述のグリップ・セイフティーの配置の不味さから、ホルスターに銃をしまうだけでも引き金とグリップ・セイフティーが同時に押されて暴発する危険性が存在するなど、用心金の存在しない銃の危険性を如実に示す失敗事例として記憶される事になってしまった。
- (15) 「スライドストップ(ストッパー)」
- 自動拳銃で、全弾撃ち尽くすと弾倉の送り板(フォロワープレート)に押し上げられる形でこの部品が跳ね上がり、スライドを後退した位置で止める(ホールドオープン)。スライドストップが無い銃でも、多くは弾倉の送り板に遊底の前進が遮られる事により、残弾ゼロの際のホールドオープンを実現しているが、このような銃の場合弾倉を外すと遊底が前進してしまう為、弾倉を入れ替えた後にコッキングを行わなければ初弾の発射が行えない。一方、スライドストップを持つ銃では、弾倉を入れ換えた際にこのレバーを押し下げるとスライドの前進と同時に初弾が自動的に薬室に装填されるため、より素早い初弾の発射が可能となる。
- (16) 「テイクダウンレバー(分解用レバー)」
- (B)の拳銃に特徴的なレバー。清掃などスライドを取り外す時に使用する。(A)の拳銃ではスライドストップを引き抜くことで分解できる。