ブルーオリジン
アメリカの航空宇宙企業 ウィキペディアから
ブルーオリジン (Blue Origin, LLC) は、Amazon.comの設立者であるジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙企業である。準軌道飛行用の有人宇宙船のニューシェパードと、大型ロケットのニューグレンを運用する他、他社へのロケットエンジンのBE-4の提供も行っている。またアメリカ航空宇宙局 (NASA) のアルテミス計画のブルームーン月着陸船も手掛けている。同社のモットーはラテン語で"段階的に積極的に"を意味する"Gradatim Ferociter"である。[4]
歴史

設立当初は準軌道飛行に焦点を置いており、ニューシェパードと呼ばれる宇宙船をテキサス州カルバーソンカントリーの施設で開発していた。当初の計画では、ニューシェパードによる商業弾道飛行は2010年にも週に一回行われる予定であったが[5]、その後延期が続き、無人飛行は最終的に2015年に[6]、有人飛行は2021年に達成された。
2009年にはNASAの商業乗員輸送開発 (CCDev) 計画の候補として選出されているが[7][8]、2011年の最終選考には参加せず、一方で独自に開発を続けた。
2011年のインタビューでベゾスは"誰でも宇宙へ行く"事を手伝うために同社を設立してそのために彼は2つの対象に注目した:ブルーオリジンの目的は宇宙への輸送費用を低減し有人宇宙飛行の安全性を高めることにあるとしている。[9]
2014年9月、同社とユナイテッド・ローンチ・アライアンス (ULA) は、ブルーオリジンの大型ロケット用のBE-4エンジンをULAのアトラスV後継ロケット(後のヴァルカン)に使用することに合意したと発表した。発表にはブルーオリジンがエンジンを3年前から開発中で、最初の新型ロケットは早くて2019年になる予定であることも含まれた[10]。BE-4エンジンの大幅な開発遅延があったが、搭載したヴァルカンは2024年1月に打ち上げに成功した[11]。
一方で2016年9月には、同じくBE-4エンジンを搭載する自社の超大型の再使用ロケットのニューグレンの開発が発表された[12]。ニューグレンの初打ち上げも2019年頃とされたが、同じく大幅な開発遅延により、2025年1月に初打ち上げを果たした[13]。
主要製品
要約
視点
ロケット
ニューシェパード
→詳細は「ニューシェパード」を参照


ニューシェパードは、準軌道飛行の宇宙旅行用に開発された再使用可能な打ち上げシステムである。名称は、アメリカ人として初めて宇宙に行ったアラン・シェパード宇宙飛行士に由来する。ニューシェパードは垂直離着陸可能なロケットであり、人間や積み荷を宇宙の入り口まで運ぶことができる。[14]
ニューシェパードは、ブースターロケットと乗員カプセルから構成される。カプセルには、最大6人の乗客や貨物、またはその両方を搭載することができる。ブースターは一基のBE-3PMエンジンを搭載しており、カプセルをカーマン・ラインを超える遠地点100.5kmの弾道飛行に投入する。乗客や貨物は、地球に帰還するまで数分間の無重量状態を体験できる。[15][16]
打ち上げシステムは完全に再使用可能なように設計されており、カプセルは3つのパラシュートと固体燃料ロケットにより地球に帰還する。ブースターは離陸した発射場に垂直着陸する。ニューシェパードは2025年2月現在までに、26回の打ち上げと着陸に成功しており、一方で部分的な失敗が1回、失敗が1回ある。ロケットは全長が19.2 m、直径が3.8 mで、打ち上げ時の重量は68トンである。BE-3PMエンジンは、490 kNの離床推力を生み出す。再使用可能なニューシェパードにより、同社は宇宙旅行のコストを劇的に下げることに成功した。[17][18]
2025年2月25日朝、ブルーオリジンは10回目の宇宙旅行ミッションを実施し、6人の乗客を準軌道飛行で宇宙に届けた。この飛行はニューシェパードの10回目の有人宇宙飛行であり、またニューシェパード全体では30回目の飛行であった。[19]
ニューグレン
→詳細は「ニューグレン」を参照


ニューグレンは、2025年1月に初めて打ち上げられた大型ロケットである[20]。当初初打ち上げは2019年頃が予定されていたが、何度も遅延を繰り返した。名称は、NASAの宇宙飛行士ジョン・ハーシェル・グレンに由来しており、ロケットの設計は2012年初頭に開始された。ニューグレンの外観や仕様は、2016年9月に初めて公開された。ロケットの完全な姿が初めて公開されたのは、発射台に設置された2024年2月21日のことである。[21] ニューグレンは、直径が7 mで、1段目には7基のBE-4エンジンを搭載する。フェアリングは世界最大の大きさで、既存の商業ロケットの2倍の容積を持つとされている。[22]
ニューシェパードと同様に、ニューグレンの1段目も再使用できるように設計されている。2021年、ブルーオリジンは将来的な2段目の再使用の可能性に向けた設計を「プロジェクト・ジャービス」として開始した。[23]
NASAは2023年2月、2機のESCAPADE探査機の打ち上げにニューグレンを選定したことを発表した。ESCAPADEは2025年の第2四半期に打ち上げ予定で、打ち上げ後約1年をかけて火星軌道に到達する。[24][25]
2024年、ブルーオリジンはアメリカ宇宙軍 (USSF) から国家安全保障輸送のための打ち上げ能力を評価するための資金を得た[26]。2025年1月16日、ブルーオリジンはケープカナベラル宇宙軍施設の第36発射台からニューグレンの初打ち上げに成功した[27]。この打ち上げではブルーリング・パスファインダーと呼ばれる試験機が搭載され、軌道への投入に成功した[28]。
ロケットエンジン
BE-3

→詳細は「BE-3」を参照
BE-3は、ブルーオリジンが開発したロケットエンジンであり、BE-3UとBE-3PMの2種類のバージョンが存在する。BE-3は液体水素/液体酸素 (LH2/LOX) を燃料とするエンジンであり、それぞれ490 kNと710 kNの推力を持つ。初期の燃焼室の試験は2013年にNASAのステニス試験センターで行われた[29][30]。2013年後半までに、BE-3は一連の試験の中で「出力を下げた状態、最大出力、長期間、再着火」の全てと慣性飛行を含む、準軌道飛行の全工程を模した燃焼試験に成功した[31]。2013年12月時点で、BE-3はテキサス州バンホーン近郊のブルーオリジンの試験施設でさらに160回以上の着火と9,100秒の動作を実証した[31][32]。
- BE-3U
BE-3Uは、BE-3のオープンエキスパンダーサイクルのバージョンである。BE-3Uはニューグレンの2段目で用いられている。推力は710 kNで、ニューグレンには2基が搭載される。[33]
- BE-3PM
BE-3PMはポンプ供給式エンジンで、タップオフサイクルにより主燃焼室から少量の燃焼ガスを取り出し、エンジンのターボポンプに動力を供給する。BE-3PMはニューシェパードの推進モジュール (PM) に用いられている。推力は490 kNで、ニューシェパードには1基が搭載される。[33] 垂直着陸のために、BE-3PMは推力を110 kNまで絞ることができる。
BE-4
→詳細は「BE-4」を参照
ブルーオリジンはより大型のロケットエンジンの開発を2011年に開始した。そのエンジンはBlue Engine 4またはBE-4で推進剤は液化メタンと液体酸素の組み合わせに変更された。推力は2,400 kN (550,000 lbf) に設計され当初の予定ではブルーオリジンの打ち上げ機に使用される予定だった。ブルーオリジンは2014年9月まで新型エンジンを公表しなかった[34]。
2014年末、ブルーオリジンはユナイテッド・ローンチ・アライアンスとBE-4エンジンをアトラスVロケットの既存のロシア製のRD-180を換装するために共同開発に合意した。新型ロケットは2基のそれぞれ推力2,400 kN (550,000 lbf) のBE-4 エンジンを1段目に使用する予定である。エンジンの開発計画の開始は3年前に遡る[10][34]。
ULA は新型ロケット、ヴァルカンの最初の打ち上げは2024年1月8日に成功した[11]。
BE-7
BE-7はブルーオリジンが2019年現在開発中のロケットエンジン。同社の月着陸船ブルームーンでの使用が想定されており、月の氷から燃料を補充できるよう、液体水素/液体酸素 (LH2/LOX) を燃料とする。
宇宙機
ブルームーン
→詳細は「ブルームーン (宇宙機)」を参照
ブルームーンは、ブルーオリジンが開発中の月着陸船。月面へ3.6tの輸送力を持ち、さらに将来的には輸送力を増強して、月面への有人輸送を想定したバージョンも計画されている。ロケットエンジンには自社製のBE-7を採用する。2019年5月にモックアップとともに計画の詳細が発表された[35]。NASAのアルテミス計画の月着陸船として採用されることを目指したが、2021年の契約では選定されなかった。
オービタル・リーフ
→詳細は「オービタル・リーフ」を参照
オービタル・リーフは、ブルーオリジンがシエラ・ネヴァダ・コーポレーション社などと共同で計画する民間宇宙ステーション。膨張式モジュールにより国際宇宙ステーション (ISS) と同規模の広さを持つ。2020年代後半の運用開始を目指しており、ISS終了後の民間移管先となることを企図している。[36] しかし、2023年10月には人員の大半が他のプロジェクトに異動となったことが報じられている[37]。
脚注
外部リンク
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