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『ダブルクロス』(略称『DX』)は日本製の現代アクション物テーブルトークRPG。デザイナーは矢野俊策。2001年に出版された。
ゲーム・フィールド(ファーイースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R.)の出版部門子会社)が主催する「ゲーム・フィールド大賞」の第1回準入選作品である(当時の題は『ユニバーサル・ガーディアン』)。同年の入選作『異能使い』よりも先に商品化され、デザイナーの矢野自身も後にF.E.A.R.に入社している。
「レネゲイドと呼ばれる未知のウイルスの影響で超人となった少年少女を中心とするキャラクターが、彼らの平凡な日常を守るために非日常の力を駆使して戦う」というテーマは、G・R・R・マーティンらによるシェアード・ワールドSF小説ワイルドカードシリーズ(en)の影響を強く受けており、ティーンエイジャー向けのライトノベル作品などと相性がよく、現代物のテーブルトークRPGの良作として支持されている。
システム的には、守るべき日常の象徴として他者との絆を表すロイス[1]と、ロイスを喪失することで変化し、昇華された際に強い力の源となるタイタス[2]という2つのコネクション概念によって作品テーマが表現される。 力を使えば使うほど、他者との絆を失えば失うほど、日常には戻り難くなる(=ゲーム的な死=キャラクターロスト)構造になっている。
また、「ステージ」の概念を導入しており(後述)、舞台設定を変化させることによって様々な物語への対応が可能である。
ルール第一版(以下「DX1」と略する)は2001年にゲーム・フィールドからB5判書籍にて出版された。
2003年には『ダブルクロス The 2nd Edition』(以下「DX2」と略する)と題して最初のバージョンアップが行われ、版元が富士見書房に変わり、著者クレジットにF.E.A.R.が追加された。判形は初版と同じくB5判書籍。サプリメントは富士見書房とゲーム・フィールドからB5判書籍として発売されていた。
2009年、『ダブルクロス The 3rd Edition』(以下「DX3」と略する)として2度目のバージョンアップを実施。版元は『DX2』と同じく富士見書房だが、富士見ドラゴンブックからの文庫形態でのリリースとなった[3]。サプリメントは基本的に富士見書房からB5判書籍として発売されているが、ゲーム・フィールド発売のB5判書籍サプリメントや、基本ルールブックと同じく富士見ドラゴンブックからリリースされているものもある。
プレイヤーキャラクター(PC)の創造はクラス制に属する。
『ダブルクロス』では、PCが使用できる超常能力の性質を「シンドローム」と呼ばれるカテゴリで区分けしている。シンドロームはいわゆるキャラクタークラスに相当する。キュマイラシンドロームの持ち主であれば筋力強化の超常能力、エグザイルシンドロームの持ち主であれば肉体変形の超常能力が使えるといった具合である。
全てのキャラクターは、シンドロームを1〜3個任意に選ぶことで作成される。 選んだシンドロームによってキャラクターが習得できる超常能力(エフェクト)が決定される。シンドロームの詳細はシンドローム一覧を参照。 このシンドロームの選択方式を、『ダブルクロス』ではブリードという名称を付けて区別している。
行為判定は上方判定に属する。行為判定は以下の流れによって行われる。
ダイスを振ったときに出目がクリティカル値(通常は10、より小さい値や大きい値(事実上クリティカルが出ない)になることもある)以上のものをクリティカルと呼ぶ。クリティカルしたダイスは10と見なし、それと同じ数だけもう一度ダイスを振ってもっとも高い出目を足す。これをクリティカル値以上の出目が出なくなるまで繰り返し、最終的な合計値をダイスの出目として達成値を出す。行為判定#無限ロールの解説も参照。
シナリオの進行にはシーン制が採用されている。PCはシーンに登場するたびに侵食率(後述)が上昇するというルールになっており、物語に深く関われば関わるほど日常の世界に戻れなくなっていくという緊張感が提供されている。
また、1回のセッションはオープニング、ミドル、クライマックス、エンディングの4種類のフェイズに分けられ、1回のセッションで1本のシナリオを確実に消化することを目指す仕組みになっている。シナリオハンドアウトの概念も存在している。
PCはシンドロームごとに分類された「エフェクト」と呼ばれる超常能力を習得することができる。
『ダブルクロス』では、エフェクトの使用にはマジックポイントのようななんらかにポイントを消費する必要はなく、何度でも使うことができる。ただしエフェクトを使うたびに侵蝕率(後述)が上昇する。
エフェクトは複数のものを組み合わせて同時に使うことも可能である。ただし、エフェクトに関連する技能が同じものでないと組み合わせられない(シンドロームは別でもよい)。任意のエフェクトを組み合わせることで自分だけのオリジナル必殺技を作り出すといった演出も可能である。
『ダブルクロス』の世界観において、PCが超常能力を使えるのは「レネゲイドウィルス」と呼ばれるウイルスに感染しているからなのだが、このウイルスは様々な要因(シーンへの登場、エフェクトの使用等)により活性化される。この度合いを表す数値を「侵蝕率」と呼ぶ。
侵蝕率は上昇すればするほどPCの能力を強化する。判定に使われるダイスの個数が追加され、エフェクトのレベルは実際の値よりも高いものとして扱われる。しかし、侵蝕率がゲームのクライマックス終了時に100%を超えていると、PCはレネゲイドウイルスがもたらす邪悪な衝動に飲まれて暴走したとみなされ、それ以降は敵対的NPCとなってしまう(日常からの離別)。 そこで、ウイルスの活性化を押さえる要素として存在するのが「ロイス」である。
ロイスは通常の人間でなくなってしまったキャラクターを日常に引き止める、他者との絆である。ロイスは、自分にとって重要だと思っている相手の「名前」と、自分のPCがその相手に抱いている「感情」の組み合わせで表されるステータスである。ロイスで表現される感情は友情や愛情といった「ポジティブ」な感情と、恐怖や憎悪といった「ネガティブ」な感情の二種類があり、ロイス取得時にはポジティブの感情とネガティブの感情を1つずつセットで選ぶ必要がある。そして、ポジティブとネガティブのどちらが強く表面に出ているかを決定する。他者への正と負の2つの感情をセットで取得することは、他人との人間関係性を表すロールプレイをより奥深くしている。プレイヤーはキャラクターメイキング時に3人までのロイスを取得でき、ゲームが始まってからは、GMの許可を得ることで任意の対象へのロイスを取得することができる。
クライマックスフェイズの終了後に「バックトラック」[5]という判定行為が行われる。 ここでは、その時点で結んでいるロイスの数と同数(もしくは終了後に与えられる経験点の一部もしくは全部を放棄する事によりその2、3倍の数)の10面ダイスを振り、その出目の合計だけ侵蝕率を下げる。その最終的な侵蝕率により暴走化の判定が行われる。
そのためにプレイヤーは積極的に他者との関係を結ぶ事、他者への感情を考える事を求められ、戦闘だけでない多彩な物語を産み出す要素の一つとなっている。
また、ロイス対象者との関係性が劇的に変化する(死亡、離別、対象に裏切られる、または自らその感情を断ち切る等)事により、そのロイスは「タイタス」という要素に変化する。タイタスはいわば「(ロイス対象者との)失われた思い出」を表すものであり、PCはタイタスを使用(「昇華」と呼ぶ)することにより爆発的な攻撃の強化や自らの甦生を行うことが可能となる。タイタスが昇華されることでPCははじめて対象者への執着から完全に解放されたことになる。 『DX2』以降のバージョンではロイスとタイタスは合計7つまでしか所有する事ができず、タイタスを昇華してもそのセッション中は枠を埋め続けるため、タイタスが増えるほど所有できるロイス上限は減少する。 これにより、現在の侵蝕値を確認しながらの緻密な計算が必要となり、安易なパワーゲームへの移行を抑止している事も本作品の評価の高さの一因になっている[6]。
正式名称は「ディスクリプトロイス」。『DX2』サプリメント『ブレイクアップ』から追加された要素。『DX3』では『上級ルールブック』で対応している。
他人に対してではなく「自分自身」に対して取得するロイスであり、自身のアイデンティティとして強く意識している何かを表す。それは自分の出自であったり、自分が属する組織であったり、生き方のスタイルであったりする。Dロイスを取得する事により、通常の感染者とは異なる特殊なキャラクター設定と能力を得ることができる。ただし、恒常的にロイスの1つとして扱われるため、Dロイス一つにつき、ロイス/タイタスの所有上限が一つ減ることになる。また、Dロイスはタイタス化することができない。さらに、バックトラックのダイス数にも含められないため、Dロイス取得者は通常の感染者よりも日常への帰還が困難になるという欠点も併せ持つ。
正式名称は「スペリオルロイス」。『DX2』サプリメント『ハートレスメモリー』から追加された要素。『DX3』ではDロイス同様『上級ルールブック』で対応している。
PCが所持しているロイスのうち「最も大切であるロイス」を1つ選択し、特別なロイスとすることができる。Sロイスはロイスとして守り抜けば経験点にボーナスが与えられ、タイタスとして昇華すると通常のタイタスより強力な効果を得られる。
正式名称は「エグゾーストロイス」。『DX3』から追加された要素で、『上級ルールブック』で対応している。
衝動によってねじ曲がったロイスが異常な力を発揮するようになったもの。ジャームになったオーヴァードがかつて持っていた「人間性の残滓」とも言われている。その性質上、PCは使用できず、エネミー専用の要素となっている。Eロイスを保有するキャラクターを倒した場合、バックトラックで侵蝕率が下がりやすくなる。
「レネゲイドウイルス」とは、生物に取り付くことで遺伝子自体を書き換え、超常的な能力を発揮させる未知の因子である。そのふるまいがレトロウイルスによる病気の感染と発症に類似しているため「レネゲイドウイルス」と呼称されているが、医学上のウイルスの定義からは明らかにかけ離れた特質も持つ。
19年前(『DX1』『DX2』では18年前)、中東某国の遺跡で発見された発掘品をアメリカ合衆国に運んでいた輸送機が何者かにより撃墜され、発掘品の中に封じられていたレネゲイドウイルスが成層圏から全世界にばら撒かれた。これにより世界中の人類の8割が感染者となってしまった。
レネゲイドウイルスは感染しただけでは特に何の変化ももたらさない。しかし感染者が(事故や事件に巻き込まれるなどして)激しい肉体的・精神的ショックを受けたとき、レネゲイドウイルスが活性化し、感染者は発症してしまう。発症した者は人間を超えた能力を自在に使う事が出来る為、「オーヴァード」と呼ばれる。
レネゲイドウイルスは人の精神に干渉する性質を持つ。レネゲイドウイルスは活性化するたびに宿主のオーヴァードに対して、特定の「衝動」を引き起こす。湧き上がる衝動を全くコントロールできなくなったオーヴァードを「ジャーム」と呼ぶ。ジャームは破壊衝動や殺戮衝動など、自らの衝動を満たすことに一切の心理的躊躇がなくなり、人間社会への大きな脅威となる可能性を秘めている。ジャームの中には湧き上がる衝動に理性が飲み込まれて獣のようになる者もいる一方、それまでとまったく雰囲気が変わらずに社会生活を送れる者もいる。ただし、どのような者であっても自身の衝動を満たすことを生存目的にすることだけは変わらない。
レネゲイドウイルスは人間以外の動物や植物、果ては無生物にまで感染する特性も持つ。人間以外の生物や無生物がレネゲイドウイルスに感染した場合、それを「EXレネゲイド」と呼称する。動植物や無生物がEXレネゲイドになると知性と特殊能力が芽生え、人間以上の存在となる。しかしEXレネゲイドは元々が人間ではないため、多くの場合は人間的な「理性」をもっていない。衝動を抑えようという気持ちが初めからないため、覚醒した途端にジャームとなることも多い。しかし少数ながらも理性により衝動を抑え込んでいるEXレネゲイドもいる。
また、進化を続けたレネゲイドウイルスの中には、集合体となり意識を持って行動するようになった者も現れた。これを「レネゲイドビーイング」という。レネゲイドビーイングは人間や動植物、無生物に宿り、その身体を借りて行動する。対象をオーヴァードに覚醒させるのではなく、あくまで肉体を乗っ取って操っているだけであることに注意が必要である。『DX2』のリプレイやシナリオで起きた数々の出来事が切っ掛けとなり、『DX3』の時代では多く見かけるようになった。人間と友好関係とは完全には言えないが少なくとも人間の隣人ではある。
レネゲイドウイルスは19年前のレネゲイド解放事件で世界中に撒布されたが、太古から存在自体はしていた。神話や伝説で語られる英雄や魔法使い、歴史で語られる著名な剣豪や冒険家は実はオーヴァードであり、様々な神話や民話に登場する伝説の武器や聖具はレネゲイドウイルスの力が伝えられたものだとする説もある[7]。しかし、つい最近までは発症者の数はごく少数にすぎないものであり、それゆえにレネゲイドウイルスという存在が認知される事もなかった。
レネゲイドウイルスに関わる者たちは「19年前のレネゲイド解放以前から存在し、かつ現代では再現できない、レネゲイドに関わる物品や技術」を「遺産(レガシー)」と呼んでおり、これらは現在でも古代遺跡などにいくつかが残っているとされている。なお、遺産を作り出したレネゲイドウイルスには19年前に撒布されたレネゲイドとは性質が異なる「古代種」なるものも存在し、より危険なものともされている。
『ダブルクロス』の基本的な舞台となるのは、現代(21世紀)にごく近い近未来の日本である。この時代の日本においては、レネゲイドウイルスとオーヴァードの存在は世間に公表されていない。これは各国が社会の混乱を恐れた為である。しかし、社会の裏側ではいくつもの組織がレネゲイドウイルスとオーヴァードに関わっている。その中でも特に大規模なのが、オーヴァードの社会的支援組織「ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク」(以下「UGN」と略する)と、オーヴァードによる世界的テロ組織「ファルスハーツ」(以下「FH」と略する)の2つである。
UGNやFHはPCも所属する事ができる。UGNに所属するPCは日常を守る為にレネゲイドウイルスの力をあえて振るう決意をした者となり、FHに所属したPCは自分の欲望を叶える事を第一としてその力を使う者となる。
ユニバーサル・ガーディアン・ネットワーク(UGN)は、オーヴァードとなったものを保護し、人間社会で暮らせるように支援すること、最終的にはオーヴァードが世界に受け入れられるようにすることを目的に設立された組織である。
UGNの設立者はアルフレッド・J・コードウェルという人物である。彼はレネゲイドウイルスが世界に拡散してしばらく後、世界中の政府機関にレネゲイドウイルスとオーヴァードの存在、理性を失ったジャームやテロ組織であるFHの危険性を知らせた。そして、自らを含めた理性を保ったオーヴァードがジャームやFHから世界を守るとして、そのための組織、UGNを設立した。
UGNの理念は「オーヴァードと非オーヴァードとの共存」としているが、レネゲイドの情報を一般社会に公開するにはまだ早いという判断を下している。現状では実際に共存のために活動する段階になく、レネゲイド関連事件の解決が中心となっている。その他、オーヴァードの保護育成、レネゲイドウイルスの情報を秘匿するための情報操作、ウイルスに関する研究開発を行っている。
UGNの構成員は、当初オーヴァードと非オーヴァードが半々であったが、徐々にオーヴァードが増えてきている。UGNに所属する職員の中でも、戦闘訓練を受けレネゲイド関連事件に直接対処する者を「UGNエージェント」、生まれながらのオーヴァードであり、小さい頃からUGNで育てられてきた者を「UGNチルドレン」と呼ぶ。また、UGNに所属してはいないが、要請を受けるなどしたときのみレネゲイド関連事件の解決に協力する「イリーガル」も存在する。
UGNはオーヴァードがジャームにならないようにするための様々な方策を行っているが、ジャーム化した者を元に戻す方法は見つかっていない。現在のUGNはジャームを排除すべき敵性存在としてとらえており、ジャームを見つけだし抹殺するのもUGNの重要な使命である。UGNの活躍はオーヴァードによる人間社会の混乱を未然に防ぐ事に大いに寄与しており、各国家や大企業もUGNに対して秘密裏に協力している。UGNに協力している著名な外国機関としてはイギリス情報局秘密情報部(SIS/MI6)がある(『ダブルクロス・リプレイ・トワイライト』「「ティーパーティへようこそ」参照)。
UGN設立者であるコードウェル博士は、UGN設立から5年後に発生したニュージーランドの研究施設での爆発事故で行方不明となったため、現在のUGNの意思決定機関は12人の評議員から構成される「中枢評議会(通称アクシズ)」が担っている。中立性を保つために評議員構成はオーヴァード・非オーヴァード各6人としているが、サプリメント『ユニバーサルガーディアン』の時点ではオーヴァード評議員が優勢となっている。コードウェル博士の再登場や、それと前後して顕在化した組織の腐敗から、中枢評議会はFHに対してより積極的に行動すべきだとする強硬派(「改革派」とも)と、従来通り行動を表に出すべきではないとする穏健派に分かれており、権力抗争が続いている。もっとも強硬派・穏健派ともに、オーヴァードが非オーヴァードに取って代わるべきとする勢力、非オーヴァードがオーヴァードを支配すべきとする勢力、従来通り「オーヴァードと非オーヴァードの共存」の理念を支持する勢力にさらに分かれており、事態はより複雑化している[8]。
UGNは縦型の権力構造を持つピラミッド型の組織であり、アメリカ・メリーランド州ベセスダの本部を頂点にしてその下に各国の支部があり、さらにその下に各市町村の地方支部がある、という形になっている。UGNの大半の構成員はこの地方支部に所属している。地方支部の規模はその場所によってまちまちで、大きなビルを構えている町もあれば、ろくな活動拠点も与えられず支部長の自宅を支部代わりにしているような町もある。
レネゲイドの力を用いてテロ活動を行っている世界的な非合法組織がファルスハーツ(FH)である。世界各地で様々な破壊活動、犯罪行為などを行っており、人間社会の脅威になっている。FHの活動が目立つようになったのはレネゲイドウイルスの拡散以後であるが、それ以前から存在していたらしく、その歴史には謎も多い。
UGNとはその創設時から不倶戴天の敵同士であるが、過去にはレネゲイド・ウイルスとジャーム化抑制のための共同研究「プロジェクト・アダムカドモン」[9](『ダブルクロス・リプレイ・オリジン』『ユニバーサル・ガーディアン』『レネゲイズアージ』参照)を極秘裏に行なっていた時期もあった。しかしプロジェクト・アダムカドモンは失敗に終わっている。
最近になって、UGN創設者で行方不明だったアルフレッド・J・コードウェル博士がFHの幹部として現れUGN壊滅を宣言。これに呼応して多くのUGN構成員がFHに転じるという大事件が発生し、UGNとFHの対立はさらに根深いものとなりつつある。
FHは「オーヴァードはレネゲイドの力を抑制する必要はない」というスタンスを持っており、FHの構成員の多くがレネゲイドの力を使って自らの「欲望」を叶えたいというオーヴァードたちである。FHはそのオーヴァードがいかなる「欲望」を持っていたとしても排除せずに仲間として受け入れる。レネゲイドの力を振るう、他者を殺害するといった危険な考えを持つ者もいれば、今の生活を守る、自分の研究を進めるという者もあり、欲望は個人によって様々である。そして、FHに参加するようなオーヴァードは欲望を叶えるためならば手段を選ばないほどの覚悟を誰もが持つ。一般人を巻き込んだり他者を危険にさらすことを厭わず、時にはオーヴァード・ジャームを大量に生み出しレネゲイドの存在を世間に知らしめることも行おうとする。
「日常的な生活ではレネゲイドの力を使わないこと」「オーヴァードと人類の共存」を理想とするUGNとは、理念上で完全に対立している。FHがジャームをも構成員として受け入れているという部分もUGNとの大きな差異である。不幸にもジャーム化してしまった者はUGNに抹殺されることを恐れてFHに逃げ込む者も多い。
FHの組織形態は、ヒエラルキー型組織であるUGNとは異なり、網目のような構造である。FHには「セル」(細胞)と呼ばれるグループがいくつも存在している。力の強いFHエージェントが「セルリーダー」となって部下のFHエージェントと共にセルを構成するが、その活動指針はセルリーダーの欲望や目的によって様々である。上層部からの命令には従わなければならないが、それ以外の行動は制限されない。また、セル同士の上下関係や協力関係が存在することもあるが、それはFHエージェント同士の関係が反映されているためであることが多く、組織としての繋がりはそれほど強くない。
このようにそれぞれのセルの独立性が高いため、UGNがセルを壊滅しても他のセルへの影響が少なく、FH勢力の根絶を困難にしている。
FHエージェントに命令を下す実質的な最高意思決定機関を、UGNでは「セントラルドグマ」(中核)と仮称しているが、その内実はよく分かっていない。セントラルドグマが何を最終目的としてFHを運営しているのかは個々のFHエージェントさえも理解の及ぶところではない。ひとつ確かなのは、セントラルドグマから下される命令の多くはUGNの理想の対極に位置するものばかりということである。すなわち「非オーヴァードの社会を混乱させるテロ」「オーヴァードの存在を一般社会に暴露させる計画」「ジャームを意図的に作り出す」などである。
セントラルドグマはFHエージェントに命令を下すが、その達成手段は問われない。このためFHエージェントは自らの考えに基づいて自由に活動することができる。これは、命令さえ達成できるのならば、そのために与えられる組織の力を自らの「欲望」を叶えるために私物化しても良いことを意味している。FHがセルごとに活動指針が全く異なるのはこのような構造ゆえであり、個々の構成員たちは参加セルのことは熟知していてもセントラルドグマの真意を気にかけることは少ない。
セントラルドグマとセル、あるいはセルとセルの間を繋ぐのが「リエゾンエージェント」である。独立性の高いセルをまとめて動かし連携を指揮する、重要な存在となっている。特に、セントラルドグマに直接接触できる12人のリエゾンエージェントは「リエゾンロード」と言われ、極めて大きな力を持ち、「クラン」という配下を率いている。
リエゾンロードの中でも最大の実力者とされていたのが“プランナー”都築京香である。彼女もFHエージェントらしく最終的には自らの利益にとなるようにFHの組織を利用していたのだが、それと同時にFHエージェントやセルの数多くの活動を指揮し成功させていた。彼女の手腕によって日本のFHセル群は一つの組織のような統制がとられており、FHの日本支部長とも呼ばれていた。しかしコードウェル博士の表舞台への再登場と前後して発生した「面影島事件」[10]を契機に都築京香はFHと決別、レネゲイドビーイングを結束させた集団「ゼノス」を立ち上げた。現在においては、強力なカリスマリーダーを欠く日本のFHセル群は統制を失い、FHの本来のあり方である「個々のセルが好き勝手な活動をする」という動きが活発化した。UGN日本支部はこれをFHの弱体化ではなくむしろ危険な兆候であるとみている。とりわけ、有力イリーガルとしてUGNに貢献してきた黒須左京のFHへの流出はUGN日本支部に衝撃を与えた。ただしこの事件は、上述した組織構造ゆえ、FHの不安定性を加増させる結果をも招いている(「Rabid Dog Crying」参照)。
FHエージェントの中でも特に有力な者は、コードネームに「マスター」を冠している。マスターは多くのセルを指揮するリエゾンエージェントである場合が多いが、強力なセルリーダーや個人であることもある。特に「マスターレイス」と呼ばれる者は、多くのエージェントを配下に置き、セントラルドグマの指示によらず自由に行動できる権限を持つ特殊なエージェントである。これまで何名かのマスターレイスがいたが、現在は性質が変化し、FHについたコードウェル博士の子を名乗る者を中心とした複数のマスターレイスが存在している(「マスターレイス04(デルタ)」など番号(読みはギリシャ文字アルファベットの名称)がつけられている。前述の黒須左京は「マスターレイス14(グザイ)」)。
全てNPCである。
『ダブルクロス』では、ゲームの舞台となる時代や場所のセッティングを「ステージ」という言葉で呼んでいる。本作では基本的には上記で紹介した社会の状況を背景にすることになるが、これを「基本ステージ」と呼んでいる[12]。しかし、舞台とする地域によっては全く異なる社会状況が背景になることもある。そのため、そのような特殊な環境を舞台にするための特別なセッティングが幾つか用意されている。各ステージ専用の特殊なデータもあり、ステージの特色を反映したキャラクターを作ることができる。
基本ステージ以外のステージはサプリメントで提供されている[13]。サプリメントで提供しているステージには以下のようなものがある。ステージの中には、基本ステージとは別の時代、別の異世界を舞台にしたものまである。
シンドロームは現在下記の 13種類が確認されており、感染者はその内1〜3種類を有する。
東京23区を舞台としたリプレイ。いずれもGMは丹藤武敏、PLは伊藤和幸、大畑顕、鈴吹太郎、緑谷明澄。追加されるデータは、一般から投稿募集されたNPC。
作者はデザイナーでもある矢野俊策。3で新しく出ていたウロボロスシンドロームとウロボロスに関係している輪廻の獣(アルマ・レグナム)についてを中心に話が進む。
すべて富士見ドラゴンブックレーベルより刊行されている。
全2巻。『DX2』ルールブックの発売と連動して発表された『ダブルクロス』初の公刊リプレイ。GM(リプレイ著者を兼ねる。以下各リプレイにおいて同じ)は菊池たけし。後に刊行された他のシリーズと区別して「無印」「菊池リプレイ」[24]とも呼ばれる。比較的短いストーリーの中で、急速に世界の危機が勃発するという「きくたけ節」が発揮されている。
全4巻。ルールバージョンは『DX2』。デザイナー矢野俊策が自らGMを務めた、システムのテーマに対するより深い考察を魅力とするシリーズ。主要プレイヤー2名のみを固定し、毎巻ゲストプレイヤーが入れ替わるという構成も特徴。3巻「破滅の剣」では、サプリメント『コントラストサイド』の発売に伴い、これまで敵役であったFH所属のキャラクターがPCとして登場する。
レギュラープレイヤーは大畑顕と、『ダブルクロス』のメインイラストレーターを務めるしのとうこ。
ステージ「ウィアードエイジ」を使用したリプレイ。『DX2』準拠の正伝3巻と『DX3』準拠の外伝『帰ってきた快男児』からなる。1930年代後半を舞台に、痛快な活劇に特化したストーリー展開と、川島芳子、トーマス・エドワード・ロレンス、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ、マレーネ・ディートリヒなど当時の有名人がフレーバーとして登場する。
『帰ってきた快男児』には、『DX3』向けにリファインされた「ウィアードエイジ」のステージデータと、これを用いた短編リプレイ「快男児紐育に行く」[25]が収録されている。
全4巻。ルールバージョンは『DX2』。「ゲーム開始時点では一般人で、プレイ中にオーヴァードとして覚醒する」という、ありそうでなかった展開から始まるシリーズ。主人公が超人としての自己認識を確立していく過程が描写される。
全3巻。ルールバージョンは『DX2』。それぞれ異なるステージのキャラクターたちが競演する、クロスオーバー作品を意識したリプレイ。主人公格のキャラクターがハーレムアニメの主人公的な立ち位置にいることを意図的に強調したメタフィクションとしてのストーリー構成も特徴である。
GMは小太刀右京。プレイヤーは田中天、加納正顕(2巻より参加)、三輪清宗(2巻を除く)、矢野俊策、小説家の三田誠(小説家のプレイヤー参加はダブルクロスリプレイ史上初)。
全3巻。ルールバージョンは『DX2』。絶海の孤島「X島」に閉じこめられFHの人体実験を強要されるPCたちが、敵の支配から逃れるために戦う。「日常を守る」のではなく「日常を取り戻す」ことがテーマとなっている点が特徴。
GMは伊藤和幸。プレイヤーは矢野俊策、藤澤さなえ(グループSNE)、しのとうこ、鈴吹太郎。F.E.A.R.のリプレイにグループSNEの現役メンバーがPC参加した初めての作品でもある[26]。
『DX2』最後のリプレイシリーズ。全2巻。戦国時代を舞台に、現代から召還された少女が、第六天魔王・織田信長とその配下『魔界十字軍』に狙われ、その時代に生きる妖怪や陰陽師、忍者と共に苦難を乗り越え、現代に帰ろうと立ち向かう。
上杉謙信や武田信玄など実在の武将が、荒唐無稽な姿になって登場するのも特徴の一つ。 GMは田中天。プレイヤーは水野暁子、細野君郎、矢野俊策、中村知博(現・中村やにお)。細野は本シリーズの後富士見書房に入社し、担当編集者として『アリアンロッドRPG 2E』の製作に関わっている。
全4巻。『DX3』初のリプレイ。『DX2』との違いも分かりやすく記載されている。
GMは伊藤和幸。プレイヤーは矢野俊策、鈴吹太郎、藤井忍、小説家の師走トオル。
全5巻。ルールバージョンは『DX3』。『ダブルクロス』リプレイ史上初の「PC全員がFH所属」であるシリーズ。PC達は自らの欲望(ねがい)をかなえるため、FHエージェントとして任務を遂行する。京都を舞台にしており、他の基本ステージリプレイにはない独特の風情もフレーバーとなっている。
GMは加納正顕。プレイヤーは矢野俊策、声優の若林直美(声優のプレイヤー参加はダブルクロスリプレイ史上初。若林自身はTRPGのプレイ経験がある)、漫画家の合鴨ひろゆき、三田誠。
『ダブルクロス』誕生10周年記念作品のうちの一作。ルールバージョンは『DX3』。『ダブルクロス』を知らない者にも読みやすいように、入門書のようにもなっている。PCは全員、一般人からオーヴァードに覚醒した者であり、誰も最初からオーヴァードだった者が居ないと言う初めての構成となっている。また基本ステージリプレイでは初めてPC全員が「UGNにもFHにも加入しない」という道を選んだ作品でもある(中盤からは直接加入こそしないがUGNと関係を持っている)。
『ナイツ』シリーズと一対になっており、共通のNPCが存在する他、3巻では『ナイツ』PCとのPVPが行われた。
『ダブルクロス』誕生10周年記念作品のうちの一作。ルールバージョンは『DX3』。前出の『デイズ』シリーズが「日常を守る」をテーマに据えているのに対し、本シリーズは世界中を転戦するUGNの特殊部隊に配属された新入隊員の少女の葛藤を中心に描かれている。
GMは矢野俊策。プレイヤーは若林直美、稲葉義明、田中天、加納正顕[28]。
『ダブルクロス』誕生10周年記念作品のうちの一作。ルールバージョンは『DX3』。『ディスカラードレルム』に収録されたステージ「オーヴァードアカデミア」を使用したリプレイシリーズ。転校早々生徒会の特務組織のリーダーに指名された少年が、2人の女子生徒の恋の鞘当てに巻き込まれるというラブコメタッチの作品となっている。
GMは中村やにお。プレイヤーは佐藤有世、片岡あづさ、田中天、矢野俊策。
リバースハンドアウト・トリガーハンドアウトを採用、PCに与えられた「秘密」を中心とした物語となっている。
GMは加納正顕。プレイヤーは駒尾真子、大畑顕、矢野俊策、鈴吹太郎。
『DX3』の新たなスタンダードリプレイを目指して企画された。
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