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シジミチョウ科(学名:Lycaenidae; 漢字表記:小灰蝶科[3])はチョウの科のひとつ。
シジミチョウ科 | |||||||||||||||||||||||||||
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ベニシジミ Lycaena phlaeas, 日本 | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Lycaenidae Leach, 1815[1] | |||||||||||||||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||||||||||||||
ベニシジミ属[2] Lycaena Fabricius, 1807[1] | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
シジミチョウ科[2] | |||||||||||||||||||||||||||
亜科 | |||||||||||||||||||||||||||
※ 本文参照 |
形態は多様だが、いっぱんに成虫は小型で、幼虫はワラジムシ型の種が多い。アリと関係の深い分類群としても知られる。本科の分類にかんしては議論があり、シジミタテハ科 Riodinidae を亜科として含む分類体系などがあるが、本項では基本的にシジミタテハ科を含めない(狭義の)シジミチョウ科を扱う。
世界からおよそ 5200種が知られる[4][注釈 1]。南極大陸以外のすべての大陸、ニュージーランド、および小笠原諸島やハワイ諸島、タヒチなどのいくつかの海洋島に分布する[7]。種多様性は熱帯で高い[7][8]。生物地理区別に見ると、種多様性がもっとも高いのは東洋区で、次いでエチオピア区で高い[7]。新熱帯区にも多数の種が分布するが[8]、旧世界と比べ、分類群(ここでは族および属)に大きな偏りが見られる。新熱帯区を多様性の中心とするシジミタテハ科とは対照的な分布パターンを示すことから、両科の起源と分散の過程が異なる可能性が示唆されている[7]。
日本にはヒメシジミ亜科 39種、ミドリシジミ亜科 36種、ベニシジミ亜科、アシナガシジミ亜科、ウラギンシジミ亜科がそれぞれ 1種ずつ分布するとされる[10][注釈 3]。一部の種は環境省によって絶滅危惧種に指定されており、そのうちオガサワラシジミ Celastrina ogasawaraensis は2021年時点で絶滅状態にある可能性が高いとされている[11]。
成虫はいっぱんに小型のチョウであり、前翅開帳が最小で 6-7 mmになる Brephidium exilis や Micropsyche ariana といった、世界最小とされる種も含まれる[12]。後翅には尾状突起を有する種が多く[13]、特にミドリシジミ亜科で多く見られる。この尾状突起は捕食者の攻撃から身を守るために役立っていると考えられており、特に、捕食者からの攻撃をそらせるための「偽の頭部(false head)」として機能しているという仮説がよく知られているが[14][15]、尾状突起の形状は多様であり、また、被食回避効果を実際に検証・評価した研究はすくない[15]。翅の斑紋には性的二型が見られる種が多い[16]。
本科の形態は多様であり、形態的特徴から厳密に定義づけるのはむずかしいとされている[17][18][19]。たとえば、本科においては多数の属で雄成虫の前脚跗節が退化することが知られているが、これは科内で普遍的に見られる特徴ではなく、雄の前脚が退化しない属も多い[20]。シジミタテハ科を含む(広義の)本科の成虫は、触角の基部と密接した複眼が部分的に凹むことによって定義づけることができるとされる[18]。
幼虫は後述する一部の下位分類群を除き、いっぱんにワラジムシのような形態(onisciform)を示し[19][21]、発達した前胸の下に頭部をひっこめて隠すことのできるものが多いが[21][22][23]、幼虫期が未知の種も多い[21]。
本科に属する種のうち生活史が部分的にでも明らかにされているのは全体のおよそ20%にとどまるが、完全な生活史が明らかになっている種のうちおよそ 75%が好蟻性、すなわち生活史のすくなくとも一部においてなんらかのかたちでアリと共生的な関係を形成することが知られており[24]、本科は鱗翅目の中でも特にアリと関係が深い分類群として有名である[23][25][26][27][28][29][30]。アリとの生物間相互作用(英語: biological interaction) は本科の多様化と進化につよい影響を与えてきたと考えられており、さまざまな観点から調査研究の対象になっている。科内での好蟻性(英語: myrmecophily)の程度や様式はさまざまだが、本科のアリとの関係はおおむね以下の三種類に大別できる[31]。
本科の好蟻性はアリの行動を操作することで成立しており、アリの操作はすくなくとも三つの方法、すなわちアリの攻撃性の抑制、アリを引き付けて近くにとどめること、アリに自らを守らせること、で行われる。アリの行動を操作する基盤となるのが音響的・化学的、あるいは視覚的信号であり、それらの信号を生成・伝達するための特殊化した器官を好蟻性器官(myrmecophilous organs, ant-associated organs)と呼ぶ[23][28][34]。化学的信号の伝達にかかわる好蟻性器官のうち、もっとも基本的な三つ[23][29]を以下に概説する。これら三種の好蟻性器官はいずれも外分泌性であり、アリに対する栄養源の提供や化学擬態(英語: chemical mimicry)のために機能すると考えられるが、分泌物の正確な性質などにかんしてはわかっていないことも多い。また、PCOs を除き、科内で好蟻性器官が普遍的に見られるわけではなく、たとえばアシナガシジミ亜科は基本的に伸縮突起および蜜腺を欠く[23][29][34]。
これらの基本的な好蟻性器官にくわえ、樹状突起[23](dendritic setae)などの付加的な好蟻性器官や音響信号を発生させる機構などが見られる場合もあり、通常は複数の器官・機構が複合的に機能することで好蟻性が維持される[35]。
好蟻性は蛹期においても見られる例がすくなくない。蛹化の際に幼虫の好蟻性器官の多くは失われると考えられるが、体表炭化水素(cuticular hydrocarbons)の模倣による化学擬態によってアリからの攻撃の抑制したり[30]、摩擦による発音(英語: stridulation) によってアリを誘引したりする例[36]が知られている。
アリは多くの場合、本科の成虫を獲物として扱う。アリの巣中で蛹化する種では、羽化直後の成虫は脱落しやすい鱗粉に覆われており、巣を出るまでアリの攻撃から身を守ることができるようになっている。一部の種では成虫期においてもアリの行動を操作する手段を有している可能性が報告されており、たとえば Ogyris genoveva は寄主植物の根元にアリが形成するシェルター内で幼虫期を過ごし、羽化直後の成虫はアリに攻撃されることなくシェルターの近くで翅を伸ばすことができるという。また、成虫がアリを交尾や産卵のきっかけとして利用する例も知られている。たとえば、Jalmenus evagoras の雌成虫はアリを目印にして産卵を行い、雄成虫はアリを目印にして同種の雌成虫を探すとされる[37]。
他の鱗翅類と同様、本科においても、幼虫期に生きた植物組織のみを摂食して生育する植物食は一般的な食性である。一方で本科においては、幼虫期の一部または全期間において昆虫由来の栄養源を利用する種がすくなからず知られている[38]。科内では植物しか食べない種からアリのみを摂食する種、成長段階で利用する餌資源を切り替える種までがひろく見られるが、次節でも概説するとおり、食性は下位分類群ごとにある程度異なる傾向がある[39][40]。
生きた植物組織を摂食する種において、著しい広食性を示す種はすくなく、本科においては 21科46属の植物を摂食した記録のある Strymon melinus がもっとも食草範囲の広い種とされている[41]。本科は窒素を多く含む植物を食草とする種が多く、マメ科のほか、窒素固定を行うことが知られている既知の植物の多くで本科の幼虫による摂食が記録されている[27]。中には、ソテツ類食(Eumaeus 属、および Luthrodes 属と Theclinesthes 属の一部)[42]などの、チョウの中でもめずらしい食性を示すものも知られており[43]、地衣類食者(コケシジミ亜科)、落葉やその他の枯れた植物組織を食べるもの(Calycopidina亜族の一部)、キノコの子実体を摂食するもの(Electrostrymon denarius)も報告されている[44]。多くの場合、植物組織は外側から摂食され、摂食部位は蕾や花、果実、葉や芽など多岐にわたるが、植物部位の内部に食い入る穿孔性・潜葉性(英語: leaf mining) を示す種も知られる[43]。
本科に属する種のうち、およそ 300種が、生活史の一部またはすべてにおいて昆虫由来の栄養源に依存することが記録、または疑われている。昆虫由来の栄養源への依存とは、具体的には次のようなもの、すなわちアリの卵、幼虫、蛹の捕食(myrmecophagy)、アリから口移しで給餌を受ける(trophallaxis)、同翅類昆虫の捕食(homopterophagy)、同翅類昆虫の排泄する甘露(honeydew)の摂取、他のシジミチョウ科幼虫の捕食(faculative cannivalism, pradation)などが該当する。このような食性を示す種の大半がアシナガシジミ亜科と Lepidochrysops 属(ヒメシジミ亜科)に属しており、他の系統に属するのは 40種程度とされる。昆虫由来の栄養源に依存する鱗翅類のうち半数以上を本科が占めるため、アシナガシジミ亜科の多くはアリと積極的関係をもたないものの、本科における食性の進化はアリと深く関係していると考えられている[45]。
成虫は基本的に花から吸蜜する種が多いが、コケシジミ亜科やアシナガシジミ亜科、ミドリシジミ亜科の一部の種は訪花せず、花外蜜腺 や同翅類の甘露に依存する。アリノスシジミは口吻が退化し、成虫は餌を取ることがないと考えられる[16]。
本科の系統樹の一例 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ELIOT (1973) によるもの[48][注釈 7]。この系統樹はおおむねひろく受け入れられたものの、提唱された後にいくつかの修正を経ており[31][49]、近年の分子系統学的研究もさらなる修正の必要があることを示唆している[50][51]。 |
本科の分類にかんしては議論が多く、流動的である[19][49][50]。特にシジミタテハ科 Riodinidae との系統的関係にかんしては、本科に亜科として含めるものから、本科よりもむしろタテハチョウ科 Nymphalidaeと近縁である可能性を指摘するものまでさまざまな見解がある[49][52]。近年の分子系統学的観点にもとづく分類では、シジミタテハ科は本科の姉妹群として、本科とは独立した科として扱われることが多い[51][52][9]。
ここでは、John Nevill Eliot の提唱した本科の暫定的な高次分類体系 (ELIOT 1973) にもとづいた亜科の概説と、本科の下位分類の変遷を紹介する。ELIOT (1973) は、多少の変更を加えながらもシジミチョウ科の分類体系として長らくよく参照されてきたが[24][49][53]、近年の分子系統学的研究は、Eliot の提唱した複数の下位分類群が多系統群である可能性を示しており、今後も分類の見直しが続く可能性は高い[50][51]。
文献 | CLENCH (1955); Shirôzu & Yamamoto (1957) |
ELIOT (1973) | ELIOT (1990); Pierce et al. (2002) |
Brower (2007-2008) |
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科 | 狭義のシジミチョウ科 Lycaenidae sensu stricto | シジミチョウ科 Lycaenidae | シジミチョウ科 Lycaenidae | シジミチョウ科 Lycaenidae |
下位分類群 | ※ 複数の群(group) |
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科 | コケシジミ科 Liptenidae | |||
下位分類群 |
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科 | アリノスシジミ科 Liphyridae | |||
下位分類群 |
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科 | ウラギンシジミ科 Curetidae | |||
※ ウラギンシジミ属 Curetis 単型 | ||||
科 | シジミタテハ科 Riodinidae | シジミタテハ科 Riodinidae | シジミタテハ科 Riodinidae | |
下位分類群 |
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※ ELIOT (1973) はシジミタテハ科の下位分類には触れていない |
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科 | 科 Stygidae | |||
※ 属 Styx 単型 |
他のチョウの科と比べて小型種が多く、生活史の複雑さから飼育が困難な種も多いため、(コレクターによるものを除き)商業目的での採集や昆虫施設での生体展示はあまり行われない傾向がある[73]。
アリと義務的関係を持ち、昆虫由来の栄養源に依存する種は生態系の攪乱(英語: ecological disturbance)や生息地の喪失(英語: habitat loss)に対して脆弱である傾向が特につよく[74]、人間活動の影響による絶滅が危惧されている種も多い[74][75]。
一方で、いくつかの種は害虫と見なされる場合がある。たとえば、アフリカ南部が原産の Cacyreus marshalli は20世紀末にヨーロッパに侵入したのち南部で急速に分布を拡大し、ベゴニアやペラルゴニウムの栽培の脅威になっている[76]。また、アフリカから中東にかけて分布する Deudorix livia はザクロやナツメヤシなどさまざまな果物を食害する害虫として重視されている[77]。日本でもウラナミシジミ Lampides boeticus によるマメ科作物への被害[78]やクロマダラソテツシジミ Chilades pandava(syn. Luthrodes pandava[42])によるソテツへの被害[79]がときに問題となる。
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