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日本の漫画 ウィキペディアから
『アポロの歌』(あぽろのうた)は、1970年4月から11月に『週刊少年キング』(少年画報社)において連載された手塚治虫の漫画作品。
性愛をテーマにした物語で、それ故この作品は、1970年に神奈川県で有害図書に指定されている。作者自身が語っているように、本作は学園紛争時代の暗く殺伐とした世相を反映した、暗い作品になっている[1]。
この作品では、母親から虐待を受けた主人公が精神病院で治療を受ける合間に見た夢がオムニバス形式で描かれるが、それと同時に主人公自身の物語も次第に進行していく。冒頭付近に予告されているように、いずれの夢も「女性(ヒロイン)を愛するが、結ばれる前に自分か相手が死んでしまう」という、悲劇色がきわめて強いものである。オムニバス形式を取りつつ、個々のエピソードの積み重ねにより、ひとつの大きな物語の流れが形作られながら進行していくという手法は、後に『鳥人大系』でも用いられた。
タイトルの由来は第5章で説明されるように、ギリシア神話におけるアポロとダフネの悲愛に由来する。アポロ神はニンフのダフネに恋するが、アポロを嫌がったダフネは彼から逃れる為、月桂樹へと姿を代えてしまう。後悔したアポロは彼女を忘れない為、月桂樹から月桂冠を作り、永久に身に着ける事にした。
同じく性を扱った手塚作品として『ふしぎなメルモ』や『やけっぱちのマリア』があるが、『メルモ』がどちらかというと低年齢層の少女をターゲットとし、本作と同時期に執筆・発表された『やけっぱちのマリア』が学園恋愛コメディであるのに対し、本作で手塚は「はっきりと劇画ふうにタッチかえ」[1]絶望的な物語を描く。 初出時期のCOM誌上の作者コラムによれば、本作のアニメ化企画があったようで、これが転じて「ふしぎなメルモ」のアニメ化に繋がったようである。
昭吾の母親はふしだらな女で、幾度となく男を代えて複数の男と関係しており、誰が昭吾の父親かすらも分からない有り様であった。母親にとって昭吾は、新しい男を作る上で障害となる「いらない子」であった。
ある日、昭吾が衝動的にテレビを壊した直後、母親が「パパ」の一人と肉体関係を結んでいるのを見てしまう。激昂した母親は昭吾に虐待を加える。「なぜ自分を生んだのか」と泣きながら尋ねる昭吾に、母親は「男と女が交わると勝手に生まれてしまうから仕方が無かった」と答える。この体験が深いトラウマとなった昭吾は「愛」というものを憎むようになる。人間や動物が互いに愛し合い、あるいは交尾するのを見て、昭吾は憎悪を掻き立てられる。
ある日、鳥のオスが愛するメスを命懸けで蛇から守る所を見た昭吾は、愛に対する憎しみを掻き立てられて鳥達を殺してしまう。それ以後、昭吾の悪行は次第にエスカレートし、愛し合う動物を見ては殺してまわる。そしてある日、その悪行を咎められて警察に逮捕させる。
物語は警察に捕まった昭吾が、精神病院へと護送される。医師によって催眠術や電気ショック治療が開始され、昭吾は治療の合間にまどろむうちに夢を見る。夢の中で昭吾は女神像に話しかけられる。女神像は昭吾に「愛を呪った罰を受けなければならない」と告げる。その罰とは「女性を愛するが、結ばれる前に自分か相手が死んでしまう」という悲劇的な運命を永遠に体験し続けるというものだった。その罰は、夢の中で現れる。
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最初の夢を描く。昭吾は大戦中のナチスの兵士であり、ユダヤ人の少女エリーゼを愛してしまうが、それ故悲劇的な結末をむかえる。
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第二の夢を描く。昭吾はセスナのパイロットであり、「(昭吾の)いちばん嫌いなタイプの、芸術家ぶって一流校をはなにかけた女カメラマン」[2]のナオミとともに無人島に不時着する。そこは動物達が争いもなく幸せにくらすユートピアだったが、昭吾達だけは心の底では愛し合いながらもいがみあい、そして破滅をむかえる。
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ある日精神病院の中庭を散歩していた昭吾は、色情狂の女に迫られる。拒絶して揉み合ううちに昭吾は誤って相手を気絶させてしまう。女を殺してしまったと誤解した昭吾は精神病院から逃走する。
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第三の夢を描く。合成人が世を支配する未来の世界が舞台で、昭吾は合成人の女王シグマの暗殺を企むレジスタンス運動の一員であった。女王は暗殺者であるはずの昭吾を愛するようになるが、クローン技術の発達した未来社会で昭吾は、「死」すらも超越した絶望的な愛を経験し、そしてやはり破滅する。
昭吾は第3章からの逃走の途中で、渡ひろみという女性と出会う。ひろみの話によれば、彼女は引退した陸上選手で、逃走する昭吾の姿に陸上の才能を見出したのだった。彼女は昭吾をかくまう代わりに、陸上の練習をさせる事を約束させる。それから山奥で二人きりの生活が始まる事となった。
そうした生活の中、昭吾はひろみに淡い恋心を抱くようになるが、ある日昭吾が練習を終え、二人の暮らすロッジに入ろうとすると、中からひろみが誰かと話す声が聞こえていた。相手は、昭吾が入院していた精神病院の医師だった。精神病院の医師に「昭吾を愛していないのか」と問われたひろみは一瞬はっとしたが「愛していない」と答えた。そのことをかげで聞いてしまった昭吾は、絶望し飛び出して行った。
医師のアポロに追われ、月桂樹になったダフネになぞられ、「月桂樹になれ」との言葉に一度は起つひろみであったが、途中彼女もまた、昭吾を愛していることに気付き引き返した。崖から身を投げようとする昭吾を突き飛ばし、ひろみは逆に命を落とす。心中した男女との関係から警察に追われた昭吾はガソリン置場に立てこもったが、警察隊はガソリンタンクに発砲し、昭吾はひろみの遺体と自分の命を共にした。
気が付くと昭吾は愛の女神の前にいた。女神は無情にも彼を許さなかった。昭吾は女神に「せめてひろみともうひと目だけ会わせてもらえませんか?」とだけ伝え、再び永久に繰り返される愛の試練に向かうのであった。
自然は………、男と女をつくりわけ………、———男と女は自らの子孫のために結ばれ、生みつづける………。胎児——それは、男と女のオスとメスとの、誠実な愛のしるしである。誠実な愛がなければ、人類の歴史は続かなかっただろう。男と女と、生まれるものは、世界のつづくかぎり、無限のドラマを繰り返すだろう。今日も、また、明日も………。
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