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VIA C3(ヴィア シースリー)は、台湾VIA Technologies (VIA) が開発したパーソナルコンピュータ用x86アーキテクチャのCPUであり、C3はかつてCyrix III(サイリックス・スリー)という名で販売されていた。C3・CyrixIIIともにVIAがIDTから買収したWinChipシリーズの設計を行っていたセントールテクノロジーのコアをベースとしている。2005年後継製品としてVIA C7(シー・セブン)が発表された。
本項ではVIA C3およびVIA CyrixIIIについて記述する。
Samuel(C5A) CyrixIIIプロセッサ | |
生産時期 | February 2000からEarly 2001まで |
---|---|
生産者 | Cyrix |
CPU周波数 | 350 MHz から 800 MHz |
FSB周波数 | 100 MHz から 133 MHz |
プロセスルール | 0.18 μm から 0.15 μm |
コア数 | 1 |
ソケット | Socket 370 |
前世代プロセッサ | WinChip |
次世代プロセッサ | VIA C3 |
トランジスタ | 11 million (C5A), 15 million (C5B) |
L1キャッシュ | 64 KiB instruction + 64 KiB data |
L2キャッシュ | 64 KiB exclusive (C5B) |
Cyrix III(サイリックス スリー)はVIAが2000年に発表した同社初のCPU製品である。
当初はVIAがナショナル セミコンダクターから買収したCyrixチームの設計によるJoshua搭載製品でのデビューを発表していたが、実際に発売された製品ではアナウンスが無かったにもかかわらずVIAが同じくIDTから買収したCentaurチームによるSamuelコア搭載製品となっていた。 WinChipシリーズをベースとしているにもかかわらずCyrixのブランドを引き続き採用したことに対し、VIAではCPUメーカーとして実績を持つCyrixブランドを活用するためと述べている。
ローエンドPC市場をターゲットとしており、当初はx86CPU市場において10%のシェアの獲得を目指すとしていたが、大手PCメーカーで採用されることは無かった。後述のSamuel2コア搭載製品以降はC3に製品ブランドが変更され、CyrixIIIは終了した。
Samuel(サミュエル)はWinChip 4コアをベースとして開発され、VIAが最初に市場に投入したCPUコアである。後に投入されたSamuel2との区別の為、Samuel1コアと呼称される場合もある。
SamuelはL2キャッシュを搭載せず、浮動小数点数演算装置 (FPU) は動作クロックの半分のクロック周波数で動作していた。また、マルチメディア拡張命令として3DNow!をサポートするが、MMXユニットでMMX命令と3DNow!命令の処理を行っているため、一度にどちらかの命令しか処理できない。そのため、コア全体のパフォーマンスは他の競合製品と比べて劣っていた。
0.18μmプロセスで製造され、少ないトランジスタ数で構成されているためダイサイズが小さく、配線もワイヤーボンディングを採用している。このため、競合製品に対し安価かつ低消費電力を実現できるという点をメリットとしており、省電力技術Long Haulもサポートする。 Samuelコアを搭載したCPUは Cyrix IIIのブランドで販売されたが、後にはSamuelコアを搭載しながらVIA C3のプリントがされた製品も出回った。
Joshua(ヨシュア)はGobiコアをベースとして開発されていたCPUコアである。 ナショナルセミコンダクターの0.18μmプロセスで製造され、2.2Vのコア電圧で動作する。7段のパイプラインに加え、64KBのL1キャッシュと256KBのL2キャッシュを搭載。マルチメディア拡張命令として3DNow!をサポートする。
対応プラットフォームはFSB133MHzのSocket 370互換であるとされ、旧サイリックスの製品同様に性能指標は実クロックで表記ではなくPRレートの採用を予定していた。
JoshuaのキャンセルについてはCyrixチームメンバの大量離職や、実クロックの高い製品を望んだVIAの戦略などの噂が存在するが、正式な発表は一切されておらず不明である。Joshua以降、Cyrixチームによる製品は発表されていない。
Ezra(C5C) C3プロセッサ | |
生産時期 | 2001から |
---|---|
生産者 | VIA |
CPU周波数 | 500 MHz から 1.4 GHz |
FSB周波数 | 100 MHz から 133 MHz |
プロセスルール | 0.15 から 0.13 |
命令セット | x86 |
コア数 | 1 |
ソケット |
EBGA 368 |
コードネーム |
Samuel (C5A)
Nehemiah (C5XL) |
前世代プロセッサ | Cyrix III |
次世代プロセッサ | VIA C7 |
L1キャッシュ | 64 KiB instruction + 64 KiB data |
L2キャッシュ | 64 KiB |
C3はVIAが2001年に発表したCPU製品である。CyrixIIIの後継製品であり、VIA Cシリーズのファーストモデルとなる。CyrixIIIの特徴をほぼ引き継いでいるが、コアの改良に伴う基本性能向上や、低発熱・低消費電力である点やC3を搭載して発売されたMini-ITXプラットフォームが自作PC市場および組込市場で評価されるようになり、x86 CPU市場において一定の地位を築くことに成功した。
C3は2006年3月インテルとのP6バスライセンス契約が完了したことに伴い製造終了しており、後継製品としてVIA独自のV4バスを採用したC7に移行している。
C3をアピールするキャッチコピーとしてCool Processingがアピールされていた。
Samuel2(サミュエル ツー)は、Samuelを0.15μmにシュリンクし64kBのL2キャッシュを追加した製品である。またLongHaulもv2に改良されている。従来のCyrixIIIでは基本的に3.0倍から8.0倍までの動作倍率設定しか持たなかったが、C3では最高12.0倍まで引き上げられた。
追加されたL2キャッシュは小容量であるもののL1キャッシュとの排他式であるためCeleronに比べてL2キャッシュを高効率での使用が可能である。このため、整数演算を多用するオフィス系のアプリケーションなどでは競合製品に対抗できるようになった。しかし、半分のクロック周波数で動作するFPUなどは変わらず、全体のパフォーマンスとしては競合製品に及ばなかった。
VIAはこのSamuel2の製品投入の頃にブランド名をC3に変更した。ただしSamuel2のサンプルが登場した時に従来のSamuelとは異なる新たなマーキングデザインに変更されたにもかかわらず"Cyrix III"と小さくプリントされており、当初はSamuel2のブランド名はCyrix IIIで変わらないと説明されていた[1]。その後このデザインがSamuelにも逆輸入されていることから、コアの変更とマーキングのデザイン変更は特に関係が無かったと考えられている[2]。その一方で、Samuel2の正式出荷前に"C3"という新たなブランド名が発表されており、初期ロットのSamuel2(Cyrix III)はマーキングデザインを"C3"の表記に変更する時間が無かったとも解釈されている[3]。
Ezra(エズラ)はSamuel2の製造プロセスを0.13μmにシュリンクした製品である。微細化に伴いコア電圧が1.35Vに引き下げられ、動作クロックの向上が図られた。ただしダイサイズはSamuel2から変更されていない。特に大きな変更がないためか、名称がSamuel2(C5B)からEzra(C5C)に変更されているにもかかわらずCPUIDはSamuel2が670,Ezraが678で、MODEL IDは7のまま変わらっておらず、STEPPING IDのみ0から8に変更されている。
菓子箱を意匠したリテールパッケージが販売され話題となった。
Ezra-T(エズラ・ティー)はEzraのシステムバスをPentium III(Tualatin)で採用されているAGTLに対応させた製品である。CPGAパッケージの製品では表面にキャパシタが追加される変更が行われた。それ以外の大きな変更は無い。
内部的にはLongHaulもバージョンアップしており、新たに追加されたMSR 0x110Aを使った新機能はPowerSaverと名付けられた。設定可能なBFが4bit (BF0 - BF3) から5bit (BF0 - BF4) に拡張されており、最高で16.0倍まで動作倍率の設定が可能になった。
Nehemiah(ネヘミア、またはニアマイア)はSamuelコアのマイナーチェンジであり続けた従来製品から大幅に改良が行われたC3プロセッサのコアである。単にNehemiahと呼称されるコアは複数のモデルが存在する。
後述のように、2018年になって脆弱性が発見された。ただ、Nehemiahコアは組み込み機器としての利用が主流であり、影響は限定的と見られている[4]。
C5XLはNehamiahコアとして最初に投入された製品であり、変更点として以下が挙げられる。
また、CPGAパッケージの製品ではEzra-Tよりもさらにキャパシタが追加され、マーキングされるロゴデザインも若干の変更がされた。しかしその後、アナウンスが無いままキャパシタがEzra-Tと同じ数に戻された。
C5P はC5XLの改良モデルであり、C5XLから以下の改良が施されている。
nanoBGAパッケージは、サイズゆえに配線の取り回しが難しく、nanoBGA対応マザーボードを小規模なメーカーが設計するのに問題があり製造中止になった。
VIAは当初、Nehemiah世代のC3の上位モデルとしてC5Xの投入も予定していた。 これは、C5XLでの改良に加えて、命令デコード,MMXユニット,SSEユニット,整数演算ユニットの複数命令同時処理を可能とし、L2キャッシュを256kB 16ウェイセットアソシエイティブに増加させる予定であったが、C5Xはキャンセルされ製品が発売されることはなかった。
Eden(エデン)およびC3-E(シースリー・イー)はBGAパッケージを採用した組込み向け製品のブランド名である。コア自体はいずれもC3プロセッサと同等で共通であるが、ファンレスのものを特にEdenプロセッサと称している。
なおEdenのブランド自体は、C3後継のC7コアを用いた組込み向けファンレス製品にも引き続き使用されている。
Cyrix III Mobile(サイリックススリー・モバイル)はSamuelコアのCyrixIIIをベースとして2000年に発表されたモバイルCPU。プラットフォームにはSocket 370を採用し、省電力技術Long HaulによりPerformance ModeとPower Saving Modeの切替が可能であり、CyrixIIIより50%の消費電力削減と小型化を実現したとされたが、採用例は確認されていない。
Mobile C3(モバイル・シースリー)はEzraコアをベースとして2001年に発表されたモバイルCPU。デスクトップ向けと共通のSocket 370対応CPGAパッケージを採用した製品の他にEBGAパッケージおよびMicroPGAパッケージを採用した製品の3種が存在し、コア電圧もデスクトップ版より低く抑えられている。一部の台湾メーカー製ノートPCで採用された。
Antaur(アンター)はC5XL Nehemiahをベースとして2003年に発表されたモバイルCPU。高さを1.5mmに抑えたEBGAパッケージでの1GHz版のみ提供された。デスクトップ版よりコア電圧を抑えるとともに省電力技術としてPowerSave 2.0を搭載しており、TDPは11wとなっている。一部の台湾メーカー製ノートPCで採用された。
Antaurは2005年にVIAのブランド再編に伴いC3-M(シースリー・エム)に改称された。
CoreFusion(コアフュージョン)は、C3プロセッサとノースブリッジを統合したワンチップ化した製品である。パフォーマンスメリットは無いが、サイズや重量、消費電力を重視する市場向けの製品である。 CLE266を統合したMark(マーク)と、CN400を統合したLuke(ルーク)がラインナップされている。
1Giga Pro(ワンギガ・プロ)は2002年にPC Chipsから発売されたマザーボードに搭載されていたEBGA版Samuel2コアC3のOEM版CPUである。[6]1Gigaとネーミングされているが、実際には733MHzで駆動している。
Processor | Code Named by | クロック(MHz) | キャッシュ(kB) | FPU 動作周波数 |
パイプライン ステージ数 |
最大
TDP |
コア電圧 (V) |
製造プロセス (nm) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
VIA | Centaur | CPU | FSB | L1 | L2 | ||||||
CyrixIII | Joshua | ― | (PR)433-533 | 66/100/133 | 64 | 256 | 100% | 7 | 不明 | 2.2 | 180 |
Samuel | C5A | 500-667 | 100/133 | 128 | 0 | 50% | 12 | 8.5 | 1.9-2.0 | 180 アルミニウム | |
C3 | Samuel2 | C5B | 700-800 | 64 | 12 | 1.6-1.65 | 150 アルミニウム | ||||
Ezra | C5C | 800-950 | 15 | 1.35 | 150/130 アルミニウム | ||||||
Ezra-T | C5M | 150/130 銅 | |||||||||
C5N | 800-1000 | 130 銅 | |||||||||
(C3) | Nehemiah | C5X | 1-1.4 GHz | 133 | 256 | 100% | 16 | 20 | 1.4-1.45 | ||
C3 | C5XL | 64 | |||||||||
C5P | 133/200 |
CyrixIIIおよびC3は、競合製品よりも絶対的な性能やクロックでは劣るが、それよりもはるかに小さく、安価に製造でき、かつ省電力であることを特徴としている。このことによって組み込みシステム市場にアピールする製品となった。
CyrixIIIは小規模PCメーカーの低価格機種で採用したモデルも発表されている[9]ものの、大規模な採用例はVIA自身も発表しておらず、プロセッサ市場における存在感は極めて希薄であった。
ブランド名がC3に変更されて以降も大手メーカーのPC製品に採用された例は無かったが、ウォルマート[10]やイーヤマ[11]といった量販系企業の超低価格PCに採用されるなどし、メーカー製PC市場でもある程度の存在感は示した。
また組込市場では、ソニーのブロードバンドルーター[12]や富士通のシンクライアント[13]、日立製作所のHDDビデオレコーダ[14]などに採用された。
C3によってVIAは大手メーカーとの採用実績を作り、CPUビジネスを軌道に乗せることに成功した。
x86 CPU市場では新規参入となるVIAでは他社製品ではあまり見かけないユニークな動きが見られることがしばしばある。以下に例を挙げる。
2018年8月、C3のNehemiahコアにおいてバックドアの脆弱性が発見されたことが報告された[15][4]。
CyrixIII/C3にはもともとx86コアとは別に、非x86の独自コプロセッサが内蔵されている。そちらを操作する隠し命令セット「Alternative Instruction Set (AIS)」を利用することで、本来は高度な権限処理を伴うはずの命令を一般的な命令として実行することが可能になり、権限レベルの昇格などが行えてしまうと言われている。こうした機能は本来デバッグやテスト目的で用意されているものだが、その詳細は秘守義務契約を結んだ特定のユーザーだけに公開されていたもので[16]、一般ユーザーには公開されていなかった。バックドアの発見はその機能を利用したものと考えられている[15]。
C3においてMSR 0x1107[注 1]として用意されているFEATURE CONTROL REGISTER (FCR)のビット0がトリガとなってAISが利用可能になる(実際に利用するためには、さらに起動命令を送る必要がある[15])。詳細は伏せられているものの、データシートにはFCRのbit0がAIS関連機能である旨の記載はあり、この機能そのものはC5系コアであればもともと存在していたものである。ただし、このとき報告された脆弱性はNehemiahコアだけであるとされており、その他のコアで同様の問題は発生しないのか、単に見つかっていないだけなのかは不明である。なおAISの存在が公表されたのはNehemiahのときではあるが、このときの発表ではAISが組み込まれているのは「C5系CPU」とだけ報道されている[16]。
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