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一定の期間が経過したことを主な法律要件として、現在の事実状態に適合する権利または法律関係が存在すると扱う制度、あるいはそのように権利または法律関係が変動したと扱う制度 ウィキペディアから
時効(じこう)とは、ある出来事から一定の期間が経過したことを主な法律要件として、現在の事実状態が法律上の根拠を有するものか否かを問わず、その事実状態に適合する権利または法律関係が存在すると扱う制度、あるいはそのように権利または法律関係が変動したと扱う制度をいう。
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
一般には、民事法における時効と、刑事法における時効とに大別される。
民法は以下で条数のみ記載する。
民法における時効とは、ある事実状態が一定の期間(時効期間)継続したことを法律要件として、その事実状態に合わせて権利ないし法律関係の得喪変更を生じさせる制度をいう。144条以下に規定があり、取得時効と消滅時効とに分かれる。
取得時効、消滅時効のいずれの場合においても、時効期間の経過により時効に基づく効果を起算日にさかのぼって主張する基礎を有することになるが、それは確定的な権利関係の変動をもたらすものではなく、一定の者(援用権者)により時効の基づく権利関係の主張(「援用」)により効果が発生する。
例えば、AがBの土地に家を建てて10年ないし20年住み続けた場合(占有という事実状態の一定期間の継続)、AはそのことをBに主張すれば(援用)、当該土地の所有権を獲得すること(事実状態に合わせての権利ないし法律関係の得喪変更)ができる。また、AがBに対してお金を貸したような場合、弁済期から10年の経過をもって、Bは貸金債権の時効消滅を主張できる。
時効は、時効成立前の権利関係に基づく債務の履行請求に対する抗弁として主張されることが多いが、確認訴訟などにおいて請求原因として主張されることも稀ではない。
なお、時効(消滅時効)と類似する制度として除斥期間の概念がある。時効と除斥期間については、援用の必要性、中断の可能性などについて効果が異なるものとされている。条文では「時効」と書かれている場合でも、除斥期間と解釈される場合がある。
時効制度の存在理由の問題には、時効は誰を保護する制度かという「目的」とその正当化する「根拠」という2つの視点が含まれる。時効の存在理由として一般に以下の3つが挙げられる[1]。
これらの理由は、どれか一つだけをとっても、それであらゆる時効の存在理由を説明できるものではないとして、時効制度の存在理由(目的・根拠)を多元的に考えるのが多数説である。これらの理由が、種類ごとにその軽重を変えながら複合して、各種の時効の存在を支えている。
両説の対立は、従来、消滅時効の中断や援用の法的性質、裁判外の援用を認めるかといった問題と関連づけて論じられ、実体法説が判例・通説とされてきた。しかしその後、実体法説だからこの問題はこうなるといった演繹的な議論は少なくなりつつある。
時効の援用とは、「時効によって生じる利益を受けます」という明確な意思表示をすること[2]。時効は当事者が援用しなければ裁判所は時効の効果を前提とした裁判をすることができない(145条、除斥期間との相違点)。時効が援用された場合の効力は時効を援用した本人にしか及ばない。これを時効の相対効という。また援用とは逆に、時効が完成した後で時効の利益を受けないという意思表示、つまり時効利益の放棄をすることもみとめられている(146条反対解釈)。放棄も援用と同様、放棄した本人にしかその効力は及ばない。
民法は、時効期間の経過によって「権利の得喪変更」が生じるという体裁を採っている(162条、167条などの文言を参照)。そうすると、実体法上権利は得喪変更を生じているのに手続法上は援用がなされるまでこれが生じていないということになるのか。これが援用の法的性質の問題である。時効の法的構成に関する議論とも絡み合いながら、学説は区々に分かれる。大まかにいえば、1、2の学説は実体法説を、3の学説は訴訟法説を前提とする。
時効は誰でも援用できるわけではなく、時効の援用をすることができる者のことを援用権者という。民法の規定では、時効を援用することができるのは「当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)」だけであると規定している(145条)。
ここにいう「当事者」とは、時効によって直接利益を受ける者、すなわち取得時効によって権利を取得し、消滅時効によって権利の制限または義務を免れる者をいい、間接に利益を受ける者は含まれない(大判明43年1月25日民録16・22)。
判例上、以下の者が「当事者」に該当するとされている。
2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で、消滅時効の援用権者として判例法理で認められている保証人、物上保証人、第三取得者については明文化された[8]。
一方、後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権が時効によって消滅しても、それによって受ける利益は抵当権の順位上昇による反射的利益にすぎないことを理由として、援用権者には当たらないとされている(最判平11年10月21日民集53・7・1190)。2017年の民法改正後(2020年4月1日法律施行)も、一般債権者や後順位抵当権者は援用権者には当たらないという判例の立場は維持されると考えられている[8]。
146条は、時効の利益(援用権)はあらかじめ放棄することはできないと規定している。これは債務者の足下を見てあらかじめ時効利益の放棄を約定させておくといった弊害を防ぐためである。この規定の反対解釈として、時効が完成した後で時効利益を放棄することはできるということになる。
時効利益の放棄は時効が完成していることを知りつつもあえて放棄するという意思表示である。ところが、時効完成を知らずに消滅時効の対象となっている債務を承認したり、債務の存在を前提とする行為(自認行為)をしてしまう場合もある。かつての裁判例は、時効完成後の債務の承認は「時効利益の放棄」であると考え、しかも時効が完成したことを知った上で承認したと推定するという立場を取っていた。しかし「時効完成を知っていた」という推定は経験則から逸脱するものだとして学説の批判を浴びた。
その後裁判所は態度を改め、時効が完成した後に債務を承認する場合は時効完成の事実を知らないのが通常であり、以前のような推定は許されないと判示した。しかしながら、時効完成後いったん承認などを行った場合には、信義則上もはや時効を援用することは許されないとして、結論としては従来通り時効援用を認めなかった。これは、一度は債務の存在を認めておきながらたまたま時効が完成していたことを知るや否や一転して時効を援用するという態度は矛盾しており、また相手方ももう時効が援用されることはないという期待を抱くのであってそれを裏切ることは許されない、という考えによる。
2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では、時効期間の経過が最初からやり直しになる時効の更新と時効期間の経過が一定期間止まるだけの時効の完成猶予に整理され再編された[8]。
改正前の時効の中断が時効の更新、時効の停止が時効の完成猶予に変更されたが、時効の完成猶予と時効の更新の関係も再構成され、裁判上の請求や強制執行等の類型では請求等で手続が開始することが時効完成猶予事由、確定判決等によって手続が終了することが時効更新事由となった[9]。
旧法では仮差押え等は時効中断事由だったが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で本訴等までの暫定的な手続であることから時効の完成猶予事由に変更された[9]。
改正前は2週間だったが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で3か月となった[8]。
権利の承認は時効の更新事由であり、時効は、その時から新たにその進行を始める(152条1項)[8]。
この節では、民法について旧法の条数を記載する。
時効の中断とは、時効期間の進行を中途で断ち切って、期間の進行を振り出しに戻すことを中断といい、その原因を中断事由という[10]。「中断」という一般的な意味(例えば雨で試合が中断される)とは異なり時効の進行が「終了」するので、これまで経過した期間は0に戻ることになる。この点、時効の進行が一時的に停止する時効の停止とは異なる。この時効の中断を認識せず、時効の援用を行うと時効が成立していないので時効の援用はできない[11]。
なお、2017年の民法改正前の旧制度では、147条以下に定められている時効中断事由によって時効が中断する場合を法定中断といった。これは取得時効、消滅時効の区別無く適用される。一方、取得時効に特有の164条に定められている占有の中断による取得時効の中断は自然中断と呼ばれる(占有の継続は取得時効の要件であり164条は2017年の民法改正後も変更されていない)。
時効の中断を生じる事由(法定中断事由)として、147条は、請求、差押え・仮差押え・仮処分、承認という3類型を定めていた。これらがなぜ時効を中断させるのかについて、権利行使説と権利確定説とがある[12]。
なお、時効期間とは異なり除斥期間の場合は中断が認められないというのが通説の立場である。
「請求」の中心的内容をなすのは「裁判上の請求」である(149条)。訴えの提起がされた時点で中断が生じるが(民事訴訟法147条)、その訴えが却下(棄却を含むとされる)または取下の場合には中断はなかったことになる(棄却の場合、権利の存在が否定されるのだから生じようもない)。ただし、却下・取下の場合でも、訴えの提起は催告の効果を持つ(「裁判上の催告」といわれる)。
「請求」には上記のほか、支払督促、和解および調停の申立て、破産手続参加等がある。これらによって時効中断の効力が生じるためには一定の条件が課されている。
時効の中断に関するいずれの立場からも中断の効力を認めるに十分な行為と考えられていた。
時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在することを知っている旨を表示すること(例えば債務者が、自己の債務の存在を認める行為)である。
黙示でもよいとされ、支払猶予を求めたり、一部を弁済したり、利息を支払った場合のように債務の存在を前提とした行為は「承認」にあたる。この承認には、相手方の権利についての処分につき行為能力または権限があることを要しない(156条)。ただし承認には管理の能力は必要である。これにより、被保佐人・被補助人による承認は有効であるが、同意のない未成年者・成年被後見人の承認は取り消すことができる(大判昭和13年2月4日民集17巻87頁)。
時効の完成を猶予する制度。
一定期間公訴が提起されなかった場合に公訴権が消滅する公訴時効と、確定した刑の執行を消滅させる刑の時効がある。一般に刑事事件で「時効」といわれるのは前者である。国によっては公訴時効を刑事責任追及の時効、刑の時効を判決執行の時効という[13]。
公訴時効とは一定期間公訴が提起されなかった場合に公訴権が消滅すること。
日本では公訴時効完成までの期間は対象となる犯罪の法定刑が基準とされている(刑事訴訟法250条)。公訴時効が認められる根拠としては、事実状態の尊重や犯罪による社会的な影響の減少、事件から長期間が経過したことによる証拠の散逸とその結果冤罪を誘発する可能性などがある。しかし、21世紀初頭の段階で、DNA型鑑定など、「過去(数十年前)の事件における物的証拠から、確度の高い容疑者特定を可能とする技術」が開発されるようになり、DNA型鑑定が確立される以前の迷宮入りとなった事件の血痕などからもDNA型が判明するようになってきている。他方、DNA型鑑定によって、既に有罪になった者の冤罪が証明された事例も複数ある[注 1]。
米国では、連邦法で死刑に当たる罪は、公訴時効にかからない[14]。日本でも殺人事件などの重大犯罪において時効が存在することに対し、その是非を問う世論が起こり、2010年(平成22年)4月27日に公布・施行された改正刑事訴訟法により「人を死亡させた罪であつて死刑に当たる罪」については公訴時効が廃止され、その他の罪についても時効期間が改正された。ただ、DNA型万能主義的な議論には、DNA標本が犯罪と無関係に付着した可能性などからの批判も強い[15]。なお、2010年の刑事訴訟法改正以前において時効完成後に自首した事例として、弘前大学教授夫人殺人事件(1949年発生・1971年自首)、警視庁機動隊庁舎ピース缶爆弾未遂事件(1969年発生・1979年&1982年自首)、足立区女性教諭殺害事件(1978年発生・2004年自首)、生坂ダム殺人事件(1980年発生・2000年自首)などがある。
ベトナム法では刑事責任追及の時効という(刑法27条・28条)[13]。
犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する(刑事訴訟法第255条1項)。2006年、内閣官房長官・安倍晋三(当時)は、北朝鮮による日本人拉致に間接的に関与したとされる国内在住の中華料理店経営者の時効について、「拉致は現在進行中であり、時効は成立しない」との認識を表明している[16]。
刑の時効とは刑事裁判で刑(死刑を除く)の言渡しを受けた者が、その確定した後、一定期間その執行を受けない場合に刑罰権が消滅することをいう(刑法第31条・刑法第32条)。
ベトナム法では判決執行の時効という(刑法60条)[13]。
上述の法律用語の転用として用いられる表現の一つとして、自己に不都合な出来事を、それから長期間が経過したことを理由に正当化ないしは非難を回避する意図や、時間の経過によって影響がなくなった事を示す意図で用いる。例えば、「もう時効だと思うが、お前の元彼女がお前と別れて付き合ったのは俺だ」などと用いられる。
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